「実はさ、幼なじみの彼が怒ったのは、理由があるんだ」


「理由?」
 

「正直に話してほしかったんだよ。ずっと一緒にいたのに、水くさいだろ?」

 

「そ、それはそうだけど……、あんなに怒ることないじゃない……」

 

「たしかに大人げないと思う。でもさ、もし幼なじみの彼が転校してしまうとして、そのことを黙っていたらどうする?」
 

「そりゃもう、ボコボコにして引き止めます!あっ!?じょ、冗談ですよ!」
 

 いやいや、今、冗談じゃなかったろ。とんでもない殺気で寒気がしたぞ、おい。

 

「と、とにかく、正直に言って欲しかったんだよ。そして、引き止めたかった。なぜなら、ナツキちゃんに、どこにも行ってほしくないから。それにさナツキちゃん、本心では転校したくないんじゃないのかな?」
 

「あたしは、お母さんがつらそうにしているのが嫌で……」
 

「それはナツキちゃんがお母さんを思いやる優しさであって、君の気持ちじゃないだろ?俺には、本当の気持ちを教えて欲しいな」
 

 問いかけると、ナツキは下を向きしばらく考えた後、
 

「うん……、転校なんかしたくない。あいつと離れたくないよ……」
 

ポロポロと大粒の涙を流し、泣き始めた。俺は、いてもたってもいられなくなり、思わず頭をなでていた。
 

「帰ったら、きちんと自分の気持ちをお母さんに言ってごらん。きっと、ナツキのことを第一に考えてくれるはずだから。俺としても、ナツキちゃんには、どこにも行ってほしくない」
 

「うん……」
 

「もう一度、よく考えてみるといい。ナツキちゃんが、一生後悔しない選択をすること。だけど、一人で決めなくてもいい。君には相談できる、人が近くにいるだろ?」
 

「それって……。でも……、あいつ怒ってたし……」
 

 少し元気がない。まあ喧嘩中だし、不安にもなるか。たしか、経緯は忘れたけど、すぐに仲直りしたはずだ。少しフォローしておこう。
 

「あいつは細かいことを気にしない性格だから大丈夫。すぐに仲直りできるよ」
 

「まあ、確かにそうですね。でも不思議。さっきから、あいつのことをよく知っているような話し方してますね。まるで、自分自信のことみたい」
 

 げっ、まずい。ついつい余計に言いすぎてしまった。ごまかしておこう。
 

「いや、前に会ったことがあるだろ?俺は顔を見れば、性格がなんとなくわかる特殊能力があるんだ」
 

「へー、すごい」
 

ナツキが感心したような尊敬のまなざしで俺を見た。素直なナツキってのはどうも変な感じだ。
 

「ナツキちゃんに元気がないと、あいつも落ち込んでしまう。だから、さっさと仲直りして、笑ってくれ」
 

 ナツキは少し考えて「そうよね」とつぶやき納得した様子だった。さて、長居して正体がばれたらやばいので、帰ろうか。
 

「そういえば、前の時から思ってたんですけど、あたし名前を言いましたか?」
 

 まずい、そういや自己紹介もしてないのに、名前を呼んでしまった。どうやってごまかそう……。
 

「ううん、それはいいんです。その……、あなたの名前を教えてください」
 

 よかった……。って、俺の名前!?えっと、本名はまずい。えっと、えーと、名前、名前は……
 

「キョ、キョン……」
 

うわ、やっちまった。適当に思いついたあいつのあだ名を言ってしまった。こんなふざけた名前信じるもんか。終わった、俺、終わったよ……。

 

「お名前は一生忘れません。あたしは、中学1年宇都宮ナツキです!また……、会えますよね?」
 

 予想とは違い、ナツキは俺の言ったまぬけな名前を真顔で聞いていた。どうやら、信じてしまったようだ。
 

「あ、ああ……」

 

「約束……です。それでは、また!」

 

深々と頭を下げ、ナツキは雨が降る中、走っていった。なんだか、非常に疲れた。そんなに時間は経っていないはずだが。いろいろありすぎて、頭が追いつかず、ショートしようだ。朝比奈さんも見つからないし、最悪だよ。もし、見つからなかったら、ずっと、この過去の世界で生きて行かなきゃならないのか?お先真っ暗……


「うっ、また、かよ……」

 

突然、身体の力が抜けていく。ベンチから動くことすら、ままならず、目の前が闇に染まっていく。どう……、なってんだこりゃ……。

 

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