ふう、少し落ち着こう。どうやら、子どもの俺は、ナツキがいなくなって、必死になって探していたらしい。そういえば、そんなこともあった気がする。


「じゃあ、君がナツキちゃんを家まで送ってくれ。そして、ついでに頼みがある」
 

 小さい俺は、まだ警戒しているようで、挑戦的な目つきのままナツキを背中に隠し、後退った。
 

「ふん、悪人の頼みなんて、聞かな……」

 

「お兄ちゃん、なに?遠慮なく言ってね」
 

 だが、あっさりナツキが押しのけて前に出てくる。
 

「生意気そうな顔をした君。君は男の子だから、ナツキちゃんが困っている時は、男は女の子を守るって世界の決まり事に従って、守ってあげるんだ」
 

「言われなくても、わかってるよ」
 

 ははっ、ここまで生意気だと笑うしかないな。あー恥ずかしい。
 

「ナツキちゃんは、この子が何か迷っている時は、背中を押してあげてくれ。あと、もう少し、この子を労ってあげるといいと思うぞ」
 

 ナツキは不思議な顔をした後、頷いた。俺は思わず、ナツキの頭を優しく、小さい俺の頭をぐちゃぐちゃにしてなでていた。


 さて、そろそろここから離れよう。2人から背を向けて歩き始めたところ、ナツキが走ってきて俺の腕をつかんだ。
 

「あの……、お兄ちゃん、また会えるかな?」
 

 俺自身という存在には、もう2度と会うことはできない。正直に言おうと思ったが、言葉が出なかった。そんな不安そうな顔しないでくれよ。もう会えないなんて言えるはずないだろ?
 

「少し待たせるかもしれないけど、必ず会える。約束するよ」
 

「じゃあお兄ちゃん、約束!」
 

 ナツキは、うれしそうな顔をして、小指を差し出した。仕方ないな。
 

「はい、指切った。じゃあ、俺は行くから。2人とも気をつけて帰りなよ」
 

 ナツキ、もう俺という存在には会えないだろうが、小さい俺が成長すれば姿は同じになる。だから、それで約束を果たしたってことで勘弁してくれ。また、必ず会えるから。

 

 そうさ、いつだって俺達は会える。ぶっ飛んだ話、たとえナツキが嫁に行ったとしても、一緒に育ってきた絆ってもんは切れないもんさ。良好な関係でいられる自信があるね。少なくとも俺はそう確信してる。だから、もう一度元の世界に、ナツキがいる世界に戻るからな。それで、約束を果たしたってことでいいだろ?

 

 そんな決意を抱き、朝比奈さんがいる場所まで戻ったわけだが……。
 

「あの……、朝比奈さん。どこですか~!」
 

 おいおい、朝比奈さんはどこに行ったんだ?結構、いや、かなりうっかり者だからな。お菓子をあげるなんて言われたら、着いていきそうなくらい危機感なさそうだし。いや、さすがにそれは言い過ぎか。まさか、道に迷った?公園の裏側は、木が生い茂っている森になっているから、それは充分にありえ……
 

「うっ、なんだ……」
 

急に体の力が抜けたかと思うと、目に映る世界が反転している。まさか、立ちくらみか?健康優良児ってのが、俺の唯一の自慢だったのに。身体は自由に動かず、木に背中を預けて座り込むのがやっとだ。やべっ、意識が……。

 

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