「そっか……、悲しいね」


 どうやら、最近お父さんが亡くなったらしい。あの時期のナツキなのか……。ナツキのお父さんが亡くなったのは、俺達が小学5年生のころのことだ。飲酒運転した車が、猛スピードで突っ込んできて、歩いていたナツキのお父さんをはねたことが原因で亡くなった。あの時期の事は今も思い出せる。ナツキは見ていて痛々しいくらい塞ぎ込んでいたからな。
 

 ナツキが泣きながら、俺に言った。
 

「お父さん、なんで死んじゃったの?」
 

俺は言葉が出なかった。世の中こんな理不尽な事がありふれている。自分勝手な奴のせいで、泣いている人がたくさんいるんだ。だけど、よりによってどうしてナツキがこんな目に遭わないといけないんだ?俺は世の中の理不尽さに腹が立った。
 

 とにかく、俺の目の前でナツキが悲しんで泣いているんだ。いつも近くにいたから、こいつの気持ちは痛いくらいわかる。だから……、俺にも少しは出来ることがあるはずだ。
 

「ナツキちゃん、よく聞くんだ」
 

 ナツキは涙で濡れた瞳を俺にじっと向けた。
 

「お父さんは不慮の出来事で亡くなってしまった。それは本当に悲しいことだと思う。けどナツキちゃんが、いつまでも悲しんで泣いていたら、お父さんは安心して天国に行けないんだ」
 

「あたし……、泣いちゃだめなの?」
 

「そうじゃない、つらいときは泣いてもいいんだ。でもわかってほしいのは、いつまでも泣いていたらダメってことなんだ。ナツキちゃんが悲しい顔をしてずっと泣いていると、お父さんだけじゃなく、周りにいる人も悲しい気持ちになってしまうんだよ」
 

 ナツキは、よくわからないって顔をしている。そうだな……
 

「たとえば、幼なじみの男の子がいるとする。その子がずっと泣いているとナツキちゃんは心配だろ?でも逆に笑ってたら、きっと安心するはずだ」
 

「うん……」
 

 俺は、ナツキが落ちつくように静かに言った。
 

「ナツキちゃん、これから先もっと悲しい出来事や、困難があるかもしれない。でも絶対に負けちゃいけない。もし、負けそうになった時は周りを見てみるんだ」
 

「どうして?」
 

「なぜなら、ナツキちゃんがつらい時、支えてくれる人が必ず近くにいるからだ。今だって、たくさんの人が君の心配をしている。君を助けている人、心配してくれる人、支えてくれる人がいると思うと、つらいことなんかに負けないはずだ。うまく伝えれているか不安なんだけど、わかるかな?」
 

「うん、わかる……」
 

小さい頃から理解力は高かったからな。ナツキはいつの間にか泣きやんでいて、キラキラ光る目を俺に向けていた。

 

「そっか、よかった。でも、一つ約束してほしい。いろんな人達に支えてもらっていることを忘れないでほしい。だから、恩返しってわけじゃないけど、ナツキちゃんも誰かがつらい思いをしている時に支えてあげてほしい」
 

「どうしたらいいのかな?」
 

「特別なことは、しなくてもいいんだ。つらい思いをしている人の近くにいて、笑顔で励ましてあげるんだ。それが、その人を支える力になるはずだから」
 

 ナツキ、俺はそうやってずっとお前に支えてもらってきた。わがままで、無遠慮女。そんなところも、実は救われたことがあったんだ。面と向かっては言えないけど、本当に感謝している。
 

 ナツキは考えて、


「うん……、わかった」
 

静かにうなづいた。
 

「じゃあ約束。ナツキちゃんは、笑った顔が一番かわいいから、笑顔を見せてくれないかな?」
 

 俺がそう言うと、顔を赤くしながら、ニコッとかわいらしい笑顔を俺に向けてくれた。話をして気が楽になったんだろう。ナツキに少し元気がでてきたような気がする。思わず、頭を撫でると、うれしそうな顔を向けてくれた。
 

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