家に帰ると、俺の部屋には誰もいなかった。それが普通なんだろうが、最近ナツキがいない方がめずらしい。
「なんか気になるな……」
最後に見たナツキの顔が、どうしても頭から離れない。放っておこうとも考えたのだが、そこまで薄情ではないくらい、あいつとは付き合いが長いのだ。というわけで、電話をかけることにした。何度かコールした後、電話がつながる。
「よう」
「うん……。電話なんてめずらしいじゃない。どうしたの?」
やっぱり声に元気がなかった。らしくねえな。
「どうした元気ないな。デート、うまくいかなかったのか?」
「そういうわけじゃない。楽しかったよ。けど……」
「けど?」
「キョン君が……、あたしの探していた憧れの人かと思ったんだけど違うみたい。あたしと会ったことないんだって」
なるほど、元気がない原因はそれか。しょうがねえな。
「まあ、そう落ち込むなって。いつかきっと見つかるさ。俺がお前の想い人を探すのに、協力してやるから。ああ、もしキョンのことが気に入ったってんなら、協力は惜しまないぞ」
「バカ!大きなお世話よ」
ナツキは少し笑いながら言った。少しだけ、元気が出たようだ。元気がないナツキってのは、涼宮同様しっくりこない。
「ありがとう」
聞こえるか、聞こえないか微妙な音量で言ったかと思うと、電話が切れた。まあ……、大丈夫だろう。さて、寝るか。
俺としては疲れただけで、このまま何事もなく終わったと思っていたんだが……、この日のことは、後に起こる2つの事件、俺とその他大勢を巻き込む、とんでもない事件の序章に過ぎなかったのだ。
第5章に続く