家に帰ると、久しぶりにナツキが俺の部屋でテレビを見ていた。おい、何やってんだ。さっさと帰れ。ナツキは、テレビから俺の方に顔を向けたわけだが、

「あんた大丈夫?」

めずらしく心配そうな顔をしてきた。心配されるようなことは何もないはずだ。

 

 今では、涼宮は俺に興味を無くしたようで、イライラ顔をした後、無視を決め込むようになった。命の危険を感じて、鬼ごっこをすることはもうない。こんな風に、時間の流れに比例して平穏になっていくんだろうよ。くそっ。

「あっ、わかった。長門さんに振られたのね。そういえば最近そっけないもんねー」

 断じて違うが、なぜうれしそうな顔をする。お前が勘違いしているだけで、元々長門とはそんな関係ではない。だいたい、本当に振られていたらどうするんだ?傷を負っているところに、塩をすり込むようなもんだぞ。相変わらず無神経な奴。
 

「じゃあ何で、イライラしてるのよ。おまけに、うじうじして情けないわねー。言いたいことがあるのなら、はっきり言えば?」

 うるせえ。もういいんだ、納得してるさ。古泉の言うことは、いちいちもっともだからな。でもさ、突然あるべき日常が変えられたんだ。朝比奈さんの入れたお茶を飲みながら、キョンと一緒にゲームをして、涼宮の言動に溜息をついていた。その流れが出来上がってたんだ。突然、急に環境が変わったりしたら戸惑うのは当然だろ?

 

 あー、もう!結局、全然納得してねえじゃねえか。こんなこと考えているから、ナツキにうじうじしてるって言われるんだ。もう、忘れちまえ。

 

 ふと、ナツキを見ると、顔を背けて少し身体を震わせている。心配になって顔を見ると、妙に優しそうな顔をして笑ってやがった。

 

「なんだよ?」

 

「近所のおばさんが、あんたは年の割に大人びている、あたしは子どもっぽい、ってよく言ってたよね。本当は逆なのに」

 

「逆でもなんでもない。そのまんまじゃねえか」

 

「わかってないわね。あんた、なんでもそつなくこなす癖に、いつも肝心なところで迷って、そのせいで一歩先に踏み出せないことがよくあるの。おばさんから一人でなんでもこなすように言われていたせいか、人に相談するってことを知らないせいよ」


 あーあ、ナツキにこんなことを言われるなんて重傷だ。一体どうしてしまったんだろう。今まで、こんな風に考えたことなかった。

 

 ああ、そうさ認めるよ。古泉と喫茶店でやり取りをした後、自分でもわかっていたじゃないか。俺は、迷ってるんだ。でもさ、何を迷っているのか、肝心なことがわかってないんだよ。俺自身のことがよくわからん。相談ねえ……。

 

「なあ、ナツキ聞いていいか?いつもの日常が全く変わってしまって……、例えば別の世界に飛ばされてしまったとか、そんな状況に陥ってしまったとする。その時、助けてくれた人がいるわけだが、結局離れてしまった。そんな時、お前ならどうする?」

 

「わかんない」

 

 人が相談してるってのに、間髪入れず、わからんとはなんだ。こいつに相談しようとした俺がアホだった。

 

「そんな状況になったことがないから、答えようがないってこと。でもね、こう思うの」

 

「んっ?」

 

「あたしの知っている奴がいるんだけど、そいつはちょっと前は楽しそうに笑っていたの。でも、最近笑わなくなったのよね。それって、現状に不満があるってことなんじゃないかな?ここから先は、自分で考えることね」

 

 そう言うと、ナツキは俺を見て微笑んだ。それって……、俺のことなのか?そういえば、最近の俺はぼーとするか、胸の奥底が常に殴られているような感覚ばかりで、笑った覚えがない。

 

 ナツキは以前の俺は楽しそうに笑っていたけど、今は全然笑っていないと言った。なぜこんなに変わってしまったんだろう。以前あって、今ないもの。それは……
 

「そうか……」

 馬鹿野郎。ナツキの言った通りじゃないか。俺は、一歩踏み出すのが怖くて、答えを出さないようにしていただけだ。やりたいことにブレーキをかけて、気づかないようにしていただけ。そのくせ不平不満を感じて、イライラするなんて格好悪すぎるぞ。

「ありがとうな、ナツキ」

「急にどうしたのよ?」

 なんとなく礼を言いたくなったんだ。たまには……、礼ぐらい言わせろ。

「ふふ、変な奴。でもあんたはそうやって笑っている方が似合ってる。ちゃんと長門さんと仲直りしなさいよ」

 おいおい、何を勘違いしてるんだよ?まあいいさ、マジでありがとうな。

 

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最終更新:2011年01月24日 09:50