神人が消滅すると、自然と閉鎖空間は消滅し、自動的に元の世界に戻った後、再びタクシーに揺られ、戻ってきた。俺としてはショックの方が大きく、そのまま家に帰って記憶の片隅から消したかったわけだが、そうもいかなかった。古泉はまだ用があるらしく、駅近くの喫茶店で話がしたいそうだ。勘弁してくれよ。これ以上、何かあるってのか?頭がパンクしそうだぜ。
「先ほどの閉鎖空間は、ごく小規模のものです。もし閉鎖空間が拡大し続ければ、世界は崩壊してしまいます。そうさせないためにも、僕の力、そして組織は力の限りを尽くしているのですよ」
「何であんなもんができるんだ?」
「閉鎖空間は、涼宮さんのストレスによって、発生します。しばらく落ち着いていたのですが、あなたが生徒会に寝返ったことが原因で、今回の閉鎖空間が発生したのでしょう」
「寝返ったと言うが、お前のせいじゃないか」
古泉は、クスっと含み笑いをした。その中に、黒いものがあるのはすぐに読み取れた。たいした役者だよ、こいつは。
「あなたはこのままずっと生徒会の役員として会長のサポートをしてもらいます。すでにSOS団にあなたの居場所はありません」
「なんだと、どういうことだ?」
「今言ったとおりです。入団を勧めたのは僕ですが、あなたは、涼宮さんの近くにいるにはふさわしくないと判断しました。わずかな付き合いなのに、これほど涼宮さんの信頼を得ることができるとは思いませんでしたよ」
古泉はこれまでのにやけ顔をやめ、真顔になった。
「涼宮さんにとって、異世界人というあなたの存在は必要なのでしょう。なにしろ、彼女の夢なのですから」
そんなこと俺の知ったことか。前から思っていたんだが、改めて言わせてもらう。お前は前置きが長いんだよ。さっさと結論から言え。もう我慢の限界にきてるんだ。
「不快にさせたのなら謝ります。ですが、このまま続けさせてください。あなたは、いずれ元の世界に帰ることになる。その時、涼宮さんがどんな気持ちになるかわかりますか?」
大手を振って喜んでくれるんじゃないか?雑用係がいなくなった、そんな程度さ。あいつにとって俺は、雑魚キャラに等しい扱いなんだからな。
「それは違います。さっきの閉鎖空間がその証拠です。最近は、ほぼ発生はなかったのですからね。涼宮さんのストレス等が閉鎖空間発生の原因なのですが、そのストレスの原因は、あなたがいなくなったことです。あなたは、涼宮さんに必要とされているのですよ」
「だったら、SOS団から俺を離そうとする理由はなんなんだよ。お前、言ってることが矛盾してるぞ」
「あなたのためです。このままあなたがSOS団にいると、涼宮さんはこう思うはずです。帰らないで欲しい、いつまでもいて欲しいと……。その結果、あなたは元の世界に帰れなくなってしまう」
涼宮の近くにいるのは、俺にとってプラスではなくマイナスってことか。古泉が言いたいことは理解した。けど、何か納得できないところがある。それは何だ?
「まあ安心して下さい、長門さんと協力して、あなたが元の世界に帰れるように努力しますから。準備ができ次第連絡します。会長は僕の協力者なので、あなたの面倒をよく見てくれるでしょう。それまで、生徒会でのんびりとした毎日を送って下さい」
これで、会話は終了。来たときと同じようにタクシーに乗せられ、家まで送ってもらい、古泉と別れた。
「なんだってんだ、くそ!」
頭の中がごちゃごちゃして、わけがわかんねえ。俺は、ゴミ箱を蹴り飛ばして八つ当たりをすることしかできなかった。
それから数日が経ったのだが、俺はあいかわらず、意味もなく生徒会室にいる。一体俺は何をやっているんだろう?
この世界に来た始めの頃は、たいして悩んでいなかったはずだ。それが、生徒会に入ったってだけで、なんとも憂鬱な気分で毎日を送っている。俺は日々平穏な毎日を願っているのだが、退屈ってのはこんなにも精神にダメージを与えるのだろうか。ということはなんだ。SOS団での毎日は、少なくとも精神ダメージはなかったということか。
涼宮が無駄に騒いだり、朝比奈さんがメイド服でおいしいお茶を入れてくれたり、長門の無表情顔の中にある感情を読んでみたり、何気ない毎日がそれとなく楽しかったってことか?
ああ、そうか。俺は知らない内にあいつらの仲間になっていて、SOS団での毎日を楽しんでいたってわけだ。だが、それも今じゃ遠い昔のことだ。俺はこのまま生徒会で、元の世界に帰るまで退屈な日々を過ごしていくんだ。
でも、それでいいのか?
なんで俺はこんなにやりきれない気分になっているんだろう?一体、俺は何を迷っているんだ?