裏側に回っていたときのことだ。そろそろキョンと合流するころだと思っていたのだが、どういうわけか向こう側からやって来たのは、女の子だった。

 髪が長いので、涼宮かと思ったがどうも違う。目の前で見ると、年は俺と同じくらい、髪が腰くらいまでの長さで、目がぱっちりとし、整った顔をした、見るからにお嬢様っていう美少女だった。

 誰だろうと不思議に思っていると、その女の子は俺に

「こんにちは」

と元気よく、清楚な笑顔を俺に向けた。やばい、もしかしてこの洋館の持ち主か?

「えっと、君は?」

「あたしは、詩織って言います。この屋敷に以前住んでいて、たまに屋敷の様子を見に来ているんですよ」

 やっぱりこの洋館の関係者か。勝手に入って怒られてしまうな。ああ、そういうことか。すべての謎は解けた。この女の子がこの屋敷にいるところを見た人が、幽霊だと勘違いしたんだろう。

 みんなに説明してくるか。涼宮はがっかりするだろうが、本当に幽霊じゃなくてよかった。
もし幽霊がいたなら、涼宮が捕まえろとか無茶を言うに決まっている。魔封場は一度使ったら死んでしまう危険な技である。涼宮のわがままのために、死んでたまるか。すまん、どうしても説明したかったんだ。
 

「すみません、すぐに出て行きますから」

 俺が、みんなのところに戻ろうとしたところ、突然、後ろから腕をつかまれた。振り向いてみると、女の子は「いかにも困っていますよー」っていう顔を俺に向ける。

「あなたにお願いがあるんです。実は、不良が屋敷をたまり場にしているみたいなんです。追い払ってくれませんか?」

「そうなんですか?でもそういうのは警察に言ったほうがいいんじゃ……」

「警察はちょっと……。いろいろと都合が悪くて……」

 何か理由があるみたいだ。どうしたもんかな。

「だめでしょうか?」

 捨て猫が助けを求めるような、うるうるした瞳を俺に向けた。こんな顔をされて、断れる男はいないだろう。

「……わかりました、どうしたらいいですか?」

「ありがとうございます!できれば、あなただけに来て欲しいんです。屋敷の中に人を入れるのは、本当は禁止されているので……」

 俺は喧嘩などしたことがなく1人でどうにかできる自信はなかった。でもやるしかないよな。美人の頼みはどうも断れない体質らしい。
 

 俺は詩織さんと別れ、涼宮達が待っている正面出入口前に戻ったのだが、キョンが俺の顔を見るなり

「どこ行ってたんだ?」

不思議な顔をして聞いてきた。俺の方こそキョンに、どこに行ってたんだと聞きたい。一周したにもかかわらず、すれ違わなかったんだから。そうか、キョンは適当に回ってきたんだな。そりゃそうだ、涼宮に迷惑をかけられている分、手を抜きたくもなるよな。

「涼宮、開いているところなんてなかったぞ」

 俺が涼宮に言うと、キョンから聞いたんだろう

「わかってるわよ!」

明らかに不機嫌そうな顔をした。ここはひとつ諦めてくれ。

「しょうがないわね。見た感じ普通の洋館みたいだし、ぱっと見で幽霊なんていなさそうだからもういいわ。残念だけど帰りましょう」

 俺達は駅まで戻り、その場で解散となった。

 

次へ


|