突然だが、まずは俺のことを話そうと思う。あまり聞きたくないだろうが、少しの間、我慢して聞いてくれ。

 俺は県立北高校2年4組、身長175センチメートル、体重63キロ、帰宅部、一人っ子。至って普通の高校生で、現在2階建ての一軒家に一人暮らし中だ。

 

 なぜ16歳で、一人暮らしなのか。それは、1年ほど前に父親が海外出張することになったことが発端だった。息子よりも夫が大切な薄情母親は、俺を放置して海外に飛んでいきやがったのだ。

 

 小さい頃からずっとそうだった。とにかく干渉せず、自分の事は自分でやらせる。放任主義を突き通した結果、不覚にも炊事、洗濯掃除、とりあえず一通りはできるようになってしまった。まあ他にも、安心できる環境が整っているってのも、俺を1人にした理由としてあるのだろう。俺にとっては、逆に面倒な環境なんだけどね。

 

 俺が住んでいる街は、人口5万人ほどの小さな街だ。若者が遊ぶ所なんかまるでなく、コンビニすらまともにない田舎町。高校に行くにはバスで20分ほどかかるだけでなく、本数が少ないため、バスを乗り過ごすと遅刻するかどうかの瀬戸際に立たされてしまう。そんなわけで、バスに乗り遅れないよう、学校に行こうと思うのだが……

「おまたせー、さっさと行くわよ!」

近所迷惑な大声を出す女が、リビングのドアを豪快に開け、ずかずかと入って来やがった。

 

 この騒がしい女は、宇都宮ナツキ。家が隣という典型的な幼なじみで、高校のクラスも一緒である。実は、こいつが隣に住んでいるせいで、母親は俺を放置して海外に行ったわけだ。

 ナツキは、肩より少し長いセミロングの黒髪で、大きな目に、薄いピンクの唇、引き締まりつつ出るところは出ていて、初めてこいつを見た男は、かわいいだの、芸能人みたいだの、好き勝手なことを言うだろう。

 だが、見た目に騙されてはいけない。長年付き合った俺は知っているのだが、実は性格がひん曲がったあばずれ女なのだ。思い出すだけで寒気がするほど、俺はひどい目にあっている。

 まあそれはおいおい話すことになるだろし、こいつとのやりとりを見ればわかってもらえるだろうから、今は話さないでおこう。知らぬが仏というやつだ。

 

「何ぶつぶつ言っているのよ」

ナツキが怪訝な目で俺を見ている。別になんでもねえよ、さっさと行くぞ。

「変な奴」

 お前にだけは言われたくない。自慢じゃないが、俺は一般常識を誰よりもわきまえていると自負してるんだよ。

 言い返しても時間の無駄であることは間違いないので、さっさと家を出ることにした。1日に数本というローカルバスは、俺とナツキ以外ほとんど乗客はいない。採算がとれているのか?という疑問が頭をよぎるが、なるべく考えないようにしている。廃線になったら学校に行くのにとんでもなく苦労することになるんだ、嫌なことは考えないに限るって。

 

 それでも、初詣の願掛けの時にバス会社の経営状態が心配になり、「俺が卒業するまで保ってくれ」と願掛けをしておいた。一年の初めに、バス会社の経営状態を心配する自分自身を褒めたくなったね。

 さて、どうてもいいことを考えている内に、学校に到着したぞ。俺達が通う北高は県立で、俺程度の頭でも入学できる学校の癖に、校長の方針なのか進学校ぶって課外やら宿題が多い。悔しいことに、真面目に宿題をやっているせいか、俺の成績は上の下といったところだ。


 ちなみにナツキは顔がいいだけでなく、頭も良く常に10位以内の成績を取っている。文武両道、腹が立つほど出来の良い奴だ。

 さて、ここまで話した中で、もしかしたら勘違いしている人がいるかもしれないが、念のために言っておく。俺とナツキは付き合っているわけではない。中学、高校と勘違いをする奴は多く、何度も誤解を解いてきた。面倒だが、言わせてくれ。

 

それはない!

 

と断言しておこう。約16年、こいつと一緒にいて、毎日顔を合わせているんだ。そこらへんにいる夫婦よりもつきあいが長いわけで、そんな感覚もなくなるさ。
 

 腹が立つことに、俺は女の子から告白されたりだとか、告白して彼女を作ったことはない。しかし、ナツキは外見がいいせいか、コロッとだまされる男が多いらしく、よく告白されていた。だが、なぜか全部ナツキは断っているのだ。

 

 以前断る理由を聞いたところ、

「憧れてる人がいるのよ」

と答えたのだった。こいつにそんな人がいるなんて驚いたもんさ。だって、男っ気が全くないんだぜ。興味本位で詳しく聞いてみると、どうやら小学生の時から憧れているらしく、俺の何百倍もかっこいいらしい。意外と純粋な奴。

 さて、長々と話したが、実はここまではどうでもいい話なのだ。そろそろ本題に入ろうか。

 今の立場になって思うことがある。たいてい、学校というのはつまらないもので、あっという間に過ぎていくものだ。授業中に、さっさと時間よ過ぎろ!と祈ってばかりいて、何も考えず、感じることなく当たり前の日常を送っているせいだろう。

 

 しかし、だ。今思えば、何気ない日常が本当は楽しいものだったんじゃないのか?少なくとも、あそこにはいろんな輝く物が散りばめられていたんだと思う。ただ、それに気がつかなかっただけなのだ。

 

「失って気づくものがある」

 

誰かがそう言っていた。

 俺はだらだらと、毎日どうでもいい1日を過ごし、いつの間にか高校2年の6月も終わりを迎えようとしていた。今まで気づくことができなかった大切なもの。それはいつだって、近くにあったのだ。

 そのきっかけ。俺は一生この夏の出来事を忘れないだろう。世界が覆るとんでもない事が起こり、なぜかその中心に俺は立っていたのだ。
 
 俺の、というか全人類の想像の遥か上空をかっ飛んでいく

 

涼宮ハルヒ

 

という、とんでも女によって、俺の日常は一変した!

 

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