<Introduction>
秋の風が吹き始めたある日の黄昏。
一人の女性が町に来た。
――いや、帰って来たと言うべきだろう。
女性はこの町にすんでいたのだから。
女性は考える。
『彼』は、『彼女』は元気だろうか?

<涼宮ハルヒの誤解>

第一章<目撃>
今日は土曜日。市内探索パトロールの日。普段なら楽しいはずの出来事。
しかし、あたしの顔は不機嫌の極みだった。
「遅い!あー、なにしてんのよあいつは!」
それもそのはず、キョンがまだ来ていないからだった。
「もう集合時間を十分も過ぎてるってのに!」
さっきから電話を何度もかけているがつながらない。嫌な予感がする。
「おかしいですね。いつも最後に来るといっても、集合時間には間に合っているのに」
補足のようなこのセリフはSOS団副団長・古泉君のもの。
「……」
無言を貫く無表情の有希。
「何か、あったんでしょうか?」
オドオドと言ったのはSOS団のマスコットキャラみくるちゃん。

みくるちゃんの一言で、さっきの嫌な予感が具体的な形をとる。
『何か』――事故。

あたしは思いっきり息を吸って
「そんなわけないでしょっ!」
怒鳴っていた。通行人がこっちを見ているけど気にしない。
ただみくるちゃんを睨んでいる。
「ごごご、ごめんなさい」
涙目でみくるちゃんが謝っている。古泉君が珍しく迷惑そうな顔をして
みくるちゃんを見ている。
そんな顔するなんて意外。
「大丈夫ですよ。寝坊でもしたのでしょう」
さっきまでの顔を跡形もなく消して、古泉君が苦笑まじりに言う。
「そう……。そうよね!来たらバツゲームを敢行するわ!
一人につき一個とっておきのを考えときなさい!」
強がりにもほどがある。
こうやって何か用意しておけばキョンがくるような気がしたの。
苦笑しながら。いつもみたいに。

あたしの携帯が鳴る。
発信元は『キョン』。
早まる心臓の鼓動を感じる。
深呼吸して、携帯に、でる。
『ああ、すまん。ハルヒか?』
キョンの声が聞けた。ものすごい安心感。次に怒り。
「何やってんの!今何時だと思ってるわけ?言ってみなさいバカキョン!?
十秒以内に来なさい!いいわね?バツゲームを用意してあるから、覚悟しなさい!」
電話の向こうで重いものが混じった苦笑が聞こえる。
『バツゲーム用意してるなんて言われたら行きたくなくなるな。
ところで、今日行けなくなった』
……は?
「どういうことよ?」
『急用が入っちまったんだよ。家族の方の用事でな。ほんとすまん』
家族の用事ねえ?
なんだか言いにくそうだったから聞かないでいてあげようかしら?
「いいわ。月曜日にバツゲームで許してあげる」
『……』
電話の向こうで大きなため息。
「どうしたの?」
『何でもない』
「次はないからね」
『わかってるよ。本当にすまんな』
「いいわ」
電話を切ってみんなに予定の変更を伝える。
「今日はキョンは休みだって。だから今日の最後は古泉君ね?おごりよろしく」
古泉君がきょとんとした後、苦笑する。
「そう言えばそんな決まりがありましたね。いつも彼が払うもので忘れてました」

喫茶店で班分けをし、あたしはみくるちゃんとだった。
みくるちゃんを引っ張り回して、そろそろ集合時間というとき、あたしは見た。

キョンを。
あたしの知らない女の人と一緒にいるキョンを。
楽しそうに、親しそうに話している二人を。

なんで?
家族の用事じゃなかったの?
嘘つき。バカ、バカ、バカ。

あたしはその場から全速力で逃げ出した。
昔のあたしだったら、殴って、拉致ってたんだろうけど、そんな気力もない。
後ろからみくるちゃんの声が聞こえるけどそんなことは、どうでもよかった。

気づくと集合場所にいた。そこには有希と古泉君がいて、
古泉君は携帯を見て渋い顔をしている。
「待ってくださあい」
後ろからみくるちゃんが来て、やっと二人はあたしがいることに気づいたらしい。
「どうしたんですか?」
古泉君が聞く。
でもあたしは見たものを話したくなかった。
見間違い、人違いと思いたかった。
そんなあたしの希望をみくるちゃんがあっさりと、粉々にする。
「キョン君が、なんか女の人と楽しそうに歩いてたんですけど……。
それを見た涼宮さんが急に走り出して……」

やっぱり見間違いじゃなかったんだ。
あたしはもう口に何かを出す気も起きず、うなずいて肯定する。
古泉君の顔にはまぎれもない、怒りが浮かんでいた。
有希も表情は変わっていないけれど、雰囲気が重い。
「……すいません。用事が入りましたので午後は帰ります」
怒りを押し殺して古泉君が言う。

あたしは言う。
「もう今日は解散でいいわ」


<幕間>

遅いですねえ。あんまり涼宮さんを待たせないでもらいたいのですが。
今はイライラしてるだけですけど、事故とかそう言うものを連想されたら困るんですよ。
下手したら閉鎖空間が……
「何かあったんでしょうか?」
……朝比奈さん?
なんでそんな絶妙なタイミングで空気読まない発言をするのですか?
怒りますよ?
……冗談です。女性相手に拳を振り回す気はありません。
おっと、涼宮さんの携帯に電話ですか。
どうやら一安心のようです。

午前中長門さんを図書館に連れて行き、集合時間の三十分前に駅前で待機。
突然機関からの連絡。閉鎖空間ですか。
朝比奈さん今度は何をしでかしたのでしょうか?
いっそのこと駐在員を交代してもらいましょうか?
考えていると朝比奈さんの声がします。
顔を上げて初めて涼宮さんがいたことに気づきました。
その顔を見てただ事ではないと思いましたよ。

案の定、話の中身は今まで聞いてきた中で最低最悪。
さすがにこれは怒りますよ?僕でも。
彼が涼宮さん以外を好きになったとしても止めません。仕方ないことですから。
でも、こんな露骨にばらしていいことでありません。
ゆっくりゆっくり知らせていくべきこと……。
僕は出来る限り怒りを殺して『アルバイト』に向かいました。



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