「校長先生、お話とはなんですか?」
「ああ、岡部先生。鈴宮を停学にしなくちゃならなくなりましたので、よろしくお願いします。」
「停学ですか? まあ、問題児には違いありませんが、そこまでのことはなかったと思いますが。」
「実は、ある三年生の男子が鈴宮の前であいつのことを……。」
「この場合のあいつというのが誰を指すのか、というツッコミは無意味ですね。」
「無意味です。とにかくその男子があいつのことを鈴宮の前で…。」
「はあ。」
「バカキョンと呼んだそうです。」
「それで鈴宮は……。まあ、だいたい想像はできますが。」
「その場でそいつを半殺しにしました。その男子生徒は病院で治療を受けています。」
「自分がいちばんそう呼んでるじゃないか、というツッコミは無意味ですね。」
「無意味です。いつもはあいつが止めればなんとかおさまるんですが、今回はそうじゃなかったようです。」
「わかりました。」
「それで、反省文を書かせたんですが、なんだか言い訳がましいんですよ。」
「鈴宮が言い訳ねえ……。なんかあいつらしくないですが。」
「とにかく読み上げますよ。」
 
 
……今回私がなぜこのような事件を起こしてしまったのか、私なりに考えてみました。
私は団長であり、キョンは雑用でいちばん下っ端であるとはいえSOS団の一員なのだから、それを守らなくてはならないと思っただけです。
それ以上でもそれ以下でもありません。
あんたのことを馬鹿にされて自分のことのように頭にきた。
あたし以外であんたのことを「バカキョン」と呼ぶ奴がいたら、どこの誰であれ生まれてきたことを後悔させてやる。
あんたの心にかすり傷でもつけるようなことは、あたしがさせない。
あんたのモノはあたしのモノ、あんたのすべてがあたしのモノ、だからあんたの敵は、それがどこの誰であろうとあたしの敵!
などとは考えていません。
ましてや、
自分の思い人を馬鹿にされてついカッとなってしまった。後悔も反省もしていない。
などということは絶対にありません。
つまり、「あんたのためにやったことではない。だから勘違いしないように」とキョンに伝えて下さい。
 
それで今の心境ですが、やるべきことをやったというすがすがしい達成感でいっぱいです。
だけど停学になったら学校に行くことができずキョンに会えなくなる、それだけがつらい、などとは考えていません。
あいつの顔を見ることができない。
あいつの声を聞くことができない。
あいつの背中にシャープペンを突き刺すことができない。
朝早く登校してぼんやりとあいつを待っている時間が楽しいのにそれを味わえない。
あいつが楽しみにしている弁当を奪って半分食べてしまうという楽しみを味わえない。
部活中パソコンのディスプレーを見るフリをしながら、あいつの間抜け面を盗み見る楽しみを味わえない。
帰りに「コンビニで何かおごりなさい!」とか言ってわざと遠回りさせ、「ついでだからここまで来なさい!」と、家まで送らせることができない。
それらが何よりもつらいなどということは一切ありません。
コンビニといえば、あいつの飲みかけの缶コーヒーを奪って、間接キスを狙うなどというイヤラシイことをしたことは一度もありません。
あれは純粋にコーヒーが飲みたかったのです。
だから、
どうせなら直接しろ!
この意気地なし!
根性なし!
ヘタレ野郎!
などと考えたことは一切ありません。
だからこのままでは欲求不満がつのって、私の方があいつを襲ってしまうかもしれないなどという恐れは一切ないので安心してください。
 
だから、「しばらくは写真でしか会えない」などと考えてはいません。
ましてそれがつらいなどと考えてはいません。
わたしはあいつの写真など一枚も持っていません。
孤島に行った時の寝顔写真は、あいつがわたしに逆らったら全校生徒に間抜け面をさらすことができるようにとの保険にすぎません。
みくるちゃんにデジカメを渡してあいつの寝顔を撮ってほしいと頼んだとき、「わかってますよ」的な顔をされて、なんだか弱みを握られたような気がしたという事実はありません。
なぜならみくるちゃんに「わたしもその写真ほしいですう」と後で言われたからです。
それを断ったのは、決して独占欲からではありません。
しかし有希がいつのまにかデータを流出させてしまいました。
三人ともこの写真を持っているのがなんだかくやしいなどと思ってはいません。
その写真を何枚もプリントアウトして、一枚は写真立てに入れ、一枚はアルバムに入れ、一枚は定期入れに入れているなどということはありません。
ご存じの通り私は電車通学ではありません。
そのためにわざわざ定期入れを買うなどという馬鹿なことはしません。
あいつが寝ている時に隠し撮りをしたことは一度しかありません。
どうせなら目をあけている写真がほしいなどと考えたこともありません。
なぜならあいつは起きていても寝ていても変わらない間抜け面だからです。
写真でしか会えなくなるのなら(この言い方はなんだか死んじゃったみたいでいやですね)、
不意打ちで抱きつき、あいつがあわてふためいた顔をして、わたしはカメラ目線であいつのいう100Wの笑顔でカメラに収まる、
そんなツーショット写真があればどんなに慰められるだろう、などと考えてはいません。
だいいち協力してくれる人がいません。
みくるちゃんは……、あの子は機械音痴だからきっと失敗するでしょうね。
有希は……、そんなことを頼んだら一言、「スケベ」とか言うに決まっています。
あるいは、「わたしも同じシチューションで写真に映ることを希望する」などと言い出しかねません。
もちろんそんなことは絶対に許しません。
古泉君が撮ったら、キョンがいやな顔をするに決まっています。そんなのはいりません。
そうだ、阪中さんに頼めばいいんだ、と今気がつきました。
学校に行くことが出来るようになったら早速試してみます。
だけどその写真はまだ私の手元にはありません。
それが寂しい、なんて考えたりはしていません。
 
とにかく誤解があるようなのですが、私はあいつのそばにいないと死んでしまう生物などではありません。
現に、あいつが田舎に帰省していた時も寂しくなどありませんでした。
だから、「どうせならあたしも連れて行ってくれればいいのに」とか、「親戚にあたしのことを紹介してくれれば一石二鳥じゃないの」などと考えたりはしませんでした。
あいつに一時間に一回メールをしたのも、寂しかったからではありません。
あいつからなかなかメールが返って来なくて、電話して「バカァ!」と怒鳴ったのは、雑用のくせに団長に対しての敬意が足りないと思ったからであり、決して寂しかったからではありません。
絶対にあの時わたしは泣いてなどいませんでした。勘違いしないようにキョンに伝えて下さい。
あいつが三日間昏睡していた時に片時も離れず病室に寝泊まりしていたのは、団員の心配をするのは団長のつとめだと思ったからにすぎません。
あいつがこのまま起きなかったらと思うと怖くて怖くて、この呼吸が止まってしまったらと思うと怖くて怖くて、その呼吸音が聞こえるところから一歩も離れられなかったからではありません。
なぜならトイレとシャワーだけはどうしようもなかったからです。
あの時わたしが恐怖のあまり病院のトイレでゲロを吐いたなどというのは、フィクションです。実在の人物、団体、事件等とは関係ありません。うそっぱちです。
だからあいつに、「あたしはあんたなんかいなくても平気なんだから、停学が解除されて学校に行くようになっても、あんまりあたしに構わないでね」と言っていたと伝えてください。
ただし、「本気にしたら殺す」とも言い添えて下さい。
 
さっきも書きましたが、わたしは今、やるべきことをやったとしか考えていません。
キョンが止めていたのだから言うことを聞くべきだったとか考えてはいません。
これも誤解があるようですが、わたしは、あいつが本気になったらなんでも言うことを聞くわけではありません。
あいつの言うことならなんでも聞くのは有希の方です。
たしかにわたしはあいつの言うことしか聞きませんが、あいつの言うことならなんでも聞くわけではありません。
例えば、あいつが「ハルヒ、古泉とキスしてみろ」と言っても絶対にやらないでしょう。
つまりわたしは、「あいつが本気になって忠告したことに従って、後悔したことなど一度もない」などと考えてはいないのです。
私は団長です。あいつは雑用です。下っ端のぺーぺーです。
あいつが私に忠告するなど100万年早いのです。
だからわたしは、「あいつは底抜けのお人好しのように見えながら、実はものすごく頑固で、ある一線を越えることは絶対に許さない」などということを知りません。
なぜならあいつをずっと見続けてきたわけではないからです。
ましてわたしは、その一線を越えることだけはないように常に気をつけているわけではありません。
その一線を越えてしまったことが一度だけあり、キョンに見捨てられてしまったらどうしようかとしょんぼりしたことなどありません。
だから、あいつに怒られて、悲しくて悲しくて、どうしようもなく自分が嫌いになったなどという経験をしたことはありません。
だからわたしは、実は自分が一番あいつに優しくされている、などということを感じたことは一度もありません。
「みくるちゃんにはデレデレして、有希には気遣ってあげて、あたしにはなんにもないんだから」などとあの二人に言ってみたことはあるけれど、実はそうではない。
あたしはあいつにあんな態度で接しているけれど、あいつはあたし以外の人間が、それが男であれ女であれ、似たような態度で接することは絶対に許さないだろう。
あたしが一番甘やかされている。
あいつがみくるちゃんに優しくするのは、みくるちゃんがあいつに優しいせいだ。
あいつが有希を気遣ってあげるのは、有希があいつに素直なせいだ。
あたしはあいつに優しくできないし、素直にもなれない。
それでもあいつはあたしがそばにいることを許してくれる。
あたしがやきもちを焼くのは、自分が大事にされていると思えないからじゃない。
たとえいちばん優しくされていても、特別に優しくされていても、
自分だけが優しくされていないと不満に思うのは女の本能。
などということを考えたことは一度もありません。
わたしはどこの甘ったれ女ですか。
ただ、あいつがわたし以外の人間に、わたしみたいな態度を取ることは許さない、というのは事実のようです。
というより、わたしが許しません。
わたしが、させない。
自分を大切にしてくれる人を守るのは当然のこと。
そのためにはその人の言葉に逆らうことも辞さない。
それが女の守るべき一線。
だから決して、あいつを「バカキョン」と呼ぶことができる特別な地位を守ろうとしたのではありません。
わたしはそんなに小さい人間ではありません。
わたしはそんなにせこい人間ではありません。
本当です。
たとえばあいつはわたしのことを「ハルヒ」と呼びますが、仮にわたしの前であいつがあの二人を「みくる」「有希」と呼び捨てにしても、決してわたしはへそを曲げたりしないでしょう。
この部分は絶対にあいつには伝えないで下さい。
本当にあいつがそのように呼びだしたら、あの二人が迷惑するからです。
わたしがやっと学校に行けるようになって、あの二人の呼び名が変わっていたなどということがあったら、わたしがショックを受けるからではありません。
 
さて、どうしたら今後このようなことを繰り返さないかということなのですが、校内でSOS団を敵にしてただですむと思っている人間がいるとは驚きです。
映画上映、軽音楽部の代理出演、機関誌の発行などでSOS団の名が満天下に轟いていると思っていたのに、まだまだ足りなかったようです。
だからわたしがするべきことは、一日も早く学校に復帰してSOS団の活動を再開し、今度こそ最強の集団にすることです。
そうすれば決して今回のような事件は起きないでしょう。
だから決められた課題を毎日きちんとこなし、きちんと謹慎します。
決してキョンに一日も早く会いたいからではありません。
最後に岡部先生、キョンに、
「あたしは自業自得だから仕方がないけど、あたしの軽率な行動によってあんたに迷惑をかけた。それが何よりいちばんつらい。」
などとは決して考えていないので、勘違いしないように伝えて下さい。
よろしくお願いします……。
 
 
「以上です。」
「言い訳がましいというより、言い訳が暴走して、書かなくてもいいようなことまで書いてありますね。」
「たしかに。ただしいちばん最後の部分から、鈴宮なりに反省しているということははっきり読み取れます。ただ……。」
「ただ…、何ですか。」
「反省文の中ぐらい、あいつを本名で書いてやれと鈴宮に伝えて下さい。」

  


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