止められない……
 私が私自身に撃ち込んだ……
 それなのに……

 DISC Error ……
 DISC Error …… ……
 DISC Error …… …… ……

 浸食を止められない……

 DISC Error ……
 DISC Error …… ……
 DISC Error …… …… ……

 許可しない……

 DISC Error ……
 DISC Error …… ……
 DISC Error …… …… ……

 それなのに……私の意志じゃない……でも……

 Ready……?

 申請コード却下……

 Ready……?

 抹消不能……自律行動に齟齬……私の意志と違う行動を取る……
 なら……

 Ready……?

 起動させないならそれでもいい……たぶん皆にとってそれは幸福なこと……

 Yes Enter――

 なのに信じてる……
 あのプログラムを起動させてくれることを……
 なぜ……これは私の異常動作……バグ……?
 信じて……
 彼を……
 そして……涼宮ハルヒを……

 

 

YUKI burst error Ⅰ


 何かがおかしい。
 あたしがそう気づいたのは昼下がりの昼食のとき。
 何がおかしいかと言えば、正直分からない。
 昨日までもこうしていたはずなのに。
「どうしました涼宮さん? 箸が止まっていますよ。何か考え事でも?」
「あ……うん……」
 あたしは目の前にいる爽やかハンサムくんに曖昧な返事を返していた。
 変ね……あたしの目の前に居るのは古泉一樹くん……
 確か、去年の春先に転校してきて興味がわいて、いつの間にかなし崩しに付き合うようになった――
「ねえ古泉くん。ちょっといい?」
「何でしょうか?」
 彼のハンサムスマイルは崩れない。
 たぶん、あたし以外の普通の女の子なら虜になってもおかしくないほどの笑顔。
「あたしたち、この光陽園学院の生徒よね?」
「いったいどうされたんですか? まさか白昼夢でも見られたとか?」
 彼の笑みが苦笑に変わる。
 当然よね。あたし自身もそう思う。なんかとてつもなく変な質問をした。
 あたしが今いるのは二階にある教室で衣替えもまだの為、五月のこの陽気にこの黒いブレザー服はやっぱり暑さを感じてしまう。
 いっそうのこと、この髪形も変えてしまおうかと思うほど。お気に入りの山吹色のカチューシャとリボンで飾った腰まで伸ばした長い髪。
 ……?
 やっぱり違和感を感じる。
 昨日までこの学院にいたという記憶があるのに、昨日のあたしは全然違うところにいた気がする。
 というか、ついさっきまで違う場所にいた気がする。
 どういうこと?
 分らない。モヤモヤする。
「どうされました?」
「なんでもない!」
 気遣って声をかけてくれた古泉くんに少し悪い気もしたけど、なんだか苛立ち紛れに返事をしちゃった。
 あ、古泉くんの苦笑が困った笑いに変わっちゃったね。
 でもまあいいか。
 どうせ古泉くんとはもうすぐ終わりが近いんだし。たぶん、彼も気づいている。
 最近のあたしたちは前ほど一緒に居る時間も話す時間も少なくなってしまったんだから。
 しょせん恋愛感情なんて一時の気の迷い、精神病の一種でしかないのよ。だから今のあたしは面白くないんだと思う。
 でも、どういう訳か、あたしからも古泉くんからも言い出すきっかけがなかなかつかめなくてだらだらと続いている感は否めない。
 ……?
 どういうこと? そんなのあたしらしくない。
 あたしは我道を行く女よ。一人の男に気を使うなんて時間の無駄みたいなことはしたくないはず。
 それなのに――
 そう言えばあたしは?


 あたしは光陽園学院二年生・涼宮ハルヒ――


 ……?
 やっぱり変。凄く違和感がある。あたしの記憶はその通りなのにあたしの心の奥底に妙なわだかまりを感じちゃう。
 なぜ……?




「何か考え事でも?」
「いやまあ……そんなところだ……」
「ふふっ。なら僕が相談に乗ろうか? いいアドバイスはできないかもしれないが参考くらいにはなると思うよ」
「そうかい」
 隣にいる奴の屈託ない笑顔に俺は苦笑を浮かべる。
 それにしても不思議な気分だ。
 中二時代の俺の成績を思えば、今こうしてこいつと肩を並べてこの有名な私立の進学校に通うなんざ思いもよらなかったからな。
 ちなみに今は下校時間だ。
 今日は午後から中学生の全国模試があったんで半日授業と相成った。
 と言ってもまあ夕方には塾があるわけだから、まったく勉強のために勉強をしてるって気分だぜ。やれやれ。
 おっと紹介が遅れたが、俺の隣にいるのは中三の時にクラスと塾が一緒になり、いつの間にかよくつるむようになった友人だ。
 肩まで髪がかかるかかからないかといったところの柔かなセミロングヘアに穏やかな知性あふれる瞳がトレードマークの魅力的な才女である。
 僕という一人称を好んで使う佐々木という俺の親友と言っても差し支えない奴だろう。
 何? 男と女だから親友じゃなくて恋人同士じゃないのかって?
 んな訳ないだろ。俺にもこいつにもそんな感情はまったくない。中三時代のクラスメイト達も、今の学校のクラスの連中も変な勘違いしているように見受けられるが、俺は確信を持って言える。
 俺にもこいつにもそういう甘酸っぱい青春の一ページなどという感情は一片もない。
 まあ確かに、二年以上もほぼ毎日顔を付き合わせている上に誰よりも仲がいいんだからそういう風に見られるのも仕方がないし、そういった感情が芽生えていないと言うのは変と言えば変かもしれないが……
 何? 俺が誰かだと?
 ああそう言えば自己紹介がまだだったな。
 俺の名前は――
「キョン、バスに遅れるぞ。早く来なよ」
 って、おい! んな間抜けなニックネームで呼ばんでくれ! せっかく本名を名乗れると思っていたのにっ!
 ん? 何だって? もうキョンでいい?
 う゛……し、しかしだな! やっぱ本名じゃないと分かりにくいだろ? だからさ――
「なあキョン。いったい壁に向かって何をぶつぶつ言っているんだい? もしかして本当に何か考え事をしていたのかい?」
 ――!!
 いや待ておかしい。俺はついさっきまでここにいたのか? どこか別の場所にいなかったか?
「何しているんだい? ほら早く。バスには待っててもらったから」
「お、おわ!?」
 俺は佐々木に手を取られ引きずられるように強制連行させれたのだった。


「どうしたんだい?」
「いやちょっとな……」
 肩越しに問いかける佐々木に俺は曖昧な返事を返していた。
 場所は俺たちの地元の私鉄ローカル駅・光陽園駅北口。
 どういう訳か、ここに立った時からさっき感じた違和感がより大きくなった気がする。
 なんなんだ、これは?
「なあ、ちょっと先に行っててくれ。俺は少し寄りたいところがあるんだ」
「寄りたいところ?」
 佐々木が少し驚いた表情を見せている。
 そりゃそうだろう。
 はっきり言って、俺は俺がどこに寄りたいのかすら分からんのだからな。
 なんたってまたこんなことを口走ったんだ? 俺は。
「じゃあ僕はいったん家に戻ることにする。次のバスでね。また夕方ここで落ち合おう」
「分かったよ。三時の電車だったな。それまでに戻ってくるさ」
「ふふっ遅れるなよ。その電車に遅れると完全に遅刻なんだからな」
 いつもの冷静な笑顔に戻って佐々木はバス停へと進み出した。
 さて、俺はと言うと――
 ……とりあえずぶらついてみるか。適当に自転車で流せば何かまた思い当たるようなことが起こるだろうよ。
 自分の胸の内に広がる妙な違和感の正体が分からないまま、俺は駐輪場に止めてあった自転車を発進させた。

 

 

YUKI burst error Ⅱ


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