イライラする。
いつからだろう?あいつの態度が気に入らなくなったのは……
イライラする。あいつとなら退屈な毎日から抜け出せると思ったのに……
「おはよう」
「いってきます」
「ただいま」
「おやすみ」
何の変哲も面白未もない返事を、これまた何の変哲も面白未もない顔で言うだけの夫‐キョン‐北校を卒業したあと私たちは同じ大学に進学して結婚をした。いわゆる「学生結婚」ってやつ。
他のみんなはどうしたって?知らないわ、みくるちゃんと有希は私たちが結婚したあと音信不通。古泉くんはつい最近死んだばっかり。
死因は事故。遺体の原型を留めないほどの事故だったらしいわ。つまりもうSOS団が勢揃いすることはないってこと。
高校時代の友達なんて薄情なものよね。あぁイライラする!

これは古泉くんの通夜に行ってきた帰りのお話し…
「ハルヒ、昼飯作ってくれ」
家に着くなりキョンがふざけたことを言う。
「疲れてるのよ、あんたがやりなさいよ」
「………おう」
何よ今の間は、言いたいことがあるなら言えばいいじゃない!あんたいつもそう!付き合い始めてからずっと私の言うことには絶対に逆らわない。
例え私が浪費をしても子供達と勝手に旅行に行っても文句の一つも言わない。一時期は浮気してんのかなって思ったこともあるけどそれも無い。まるで張り合いの無い夫、それがキョンって男のすべてだ。
私のことが好きだから結婚したはずなのに、なんで私に無関心みたいな態度とるの?
それとも子供ができるなんて思わなかった?
「なんとか言いなさいよ!」

炒飯を作っていたキョンが驚いた顔をしている。感情が高ぶってつい叫んでしまった、適当にフォローしなくちゃ……でも、一度火が付いたら止まらないのが私だ。
「なんであんたはいつも私の言いなりなのよ!」
「そんなのお前を愛してるからに決まってるだろ」
「嘘っ!私のことを愛してるならそんな冷たい目で私を見ないわ!あんたどんなときだって目が笑ってないのよ!」
私の言葉にキョンが「しまった」という顔をする。なによ……否定しなさいよバカ…
「あんたは私のことを愛してなんかいない!子供が出来ちゃったから結婚しただけ!」
「ち、違う、俺は…」
「あんた有希のことが好きだったんでしょ?
高校の時からあんたらおかしかったもんね、どこか心が通じてるみたいなとこあ」


パンッ


乾いた音が室内に響く、キョンの平手打ちが私のセリフを遮った。
キョンのくせに…キョンのくせに!!
「あ、あんたなんか死んじゃえ!」
言うだけ言って私は部屋にひきこもった。これ以上あいつと同じ空気を吸っていたくなかったから……


客観的に見ればどう見ても悪いのは私だ。誰だって長年連れ添ってた伴侶にあんなこと言われれば怒るわ。
でも「死んじゃえ」って言った時キョンの顔、あんな顔初めてみた。氷で固めた能面のような顔。
あんな顔されるくらいなら冷め目で見られるほうが幾分かマシよ…
明日謝ろう………

~翌日~

「刃物に旦那さんの指紋が逆手に付いてるし、まず自殺と見て間違いないんでしょうが……刃物が貫通していますからね、一応他殺の線でも調べてみます」
「そうですか…」
警官の事務的な対応に気の抜けた返事しかできなかった。
キョンは自殺した。
朝、私が台所に行くと胸に包丁をふかぶかと刺したキョンがいたの。
キョンの死体を見た時私は、心臓を刺した割には出血量が少ないとか、これならお掃除が楽だなとか、そんなことを考えてたと思う。
「なんで自殺なんかしたのよ……」
私が「死んじゃえ」って言ったから?あんなのその場の勢いで言っちゃっただけよ。それくらいわかりなさいよバカ……
確かにキョンが定年退職してからキョンが邪魔だったり邪険にしたりしたけど私が本当にそんなこと望むわけないでしょ?

いつからだろう。キョンがあの冷たい、脅えた目で私を見るようになったのは。生理がこなくなった時?それとも結婚してから?
それとも初デートで「あんたは黙ってあたしの言うことに従ってればいいのよ!」って言った時?
いつなのキョン?
教えてよ………
もう一度声を聞かせてよ……
私がバカなことしたらちゃんと叱ってよ…

帰ってきてよ……キョン…

終わり

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