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  ・ご注意
 この最終章アナザーはある作品を心の底から本気でリスペクトして書かれてます。
そこそこ暗い作品ですので、暗いのが苦手な人は控えてください。
 なお、個人的に正史はあくまでも本編のエピローグで、こちらは
「ミヨキチの独り勝ちみたいじゃないか」
という意見を元に書いたifのエピローグでございます。
 あくまでもこんな可能性もあるかな、っていう。
 
===============
 
 ここは学校。放課後の学校。今日も妹ちゃんが笑っている。平穏がここにはある。
 ちょっと前までの物騒な時代は過ぎて、それはまるで凪のように。
「おはよう、ミヨちゃん。もう帰りの会終わったよ」
「あ、ごめんね。いつの間にか寝てたみたい」
 私は妹ちゃんの手を取って今日も遊ぶ。誰も居ない教室で響く、楽しそうな笑い声。
 私達は、一杯いろんな人を殺したけど、でも大丈夫。何だかんだで上手くいった。
 そして念願のお兄さんを手に入れた。度々、お兄さんは学校に来るようになった。
 理由はわからないけど最近起こった事件、私達が起こした事件で心配になっているのかもしれない。
 最近は職員室で先生と会話することが多くなった。そうしていると、制服姿のお兄さんが来る。
「先生、ミヨキチと…あぁ、あと妹の迎えに」
 私と妹ちゃんの間に立って手を握ると、軽く先生に会釈をしてお兄さんは手を引いて立ち去る。
 このまま私達は家に帰るんだ。だけど今は何かの都合で学校のすぐそこにある一軒家に住んでいる。
 よく分からないけど私のお母さんとお父さんがそこへ預けている状況だった。
 何でも、用事があるって言っていた。けど、妹ちゃんとお兄さんも居るから寂しくは無かった。
 むしろこのみんなで居られてすごく嬉しいぐらいだった。学校からも近いし、とても便利だと思う。
 ただ近いからたまに先生が来る事がある。それだけが困った事だった。
「さて、今日も美味しいご飯作っちゃうから妹ちゃんとお兄さんは部屋で待っててね」
「うん、楽しみだな。ミヨちゃんのご飯」
「今日も美味しい飯を期待しているぞ」
 そう言うとお兄さんと妹ちゃんは笑顔を浮かべて、部屋へと立ち去っていった。
 さーて、ご飯用意しないとね。
 
 
 My little Yandere Sister
 Another Epilogue
 「もしものエンディング~How to Tell You Farewell~」
 
 
 ご飯を三人で食べる。美味しくて素敵な時間。とても有意義な時間。
 殺した人達には悪いけど、私はとても幸せだ。死んでくれてありがとう。殺されてくれてありがとう。
 ありがとう。
 赤い色になった。
 赤黒い色になった。
 飛び散った。その度に消えていった命。ありがとう。消えてくれてありがとう。
 死んでくれてありがとう。
 ありがとう。
 全部ありがとう。
 失礼かもしれないけどやっぱり要らない存在だったんだよ。生まれるだけ無駄だったんだよ。
 要らない存在だった。みんな、不必要お兄さんに邪魔だった。だから、いい。これでいい。
「ご馳走様」
「ご馳走様でした」
「お粗末様です」
 みんなが食べ終わって、私はいつも通り皿を流しへと運ぶ。洗う為だ。
「ミヨちゃん、手伝おうか?」
 妹ちゃんがヒョコッと顔を出してくる。優しいのはすごく嬉しい。だけど私は別に良かった。
 お兄さんと妹ちゃんが二人きりになればいいと思う。私は今でも十分幸せだから。
 最愛の二人が居て、それ以上望んだらきっと我侭になってしまう。
「え? 良いよ。私一人で出来るから。妹ちゃんはお兄さんと待ってて?」
 そう言うと妹ちゃんはパタパタと走って去った。微笑ましくて、思わず笑みが零れた。
 ふと、お兄さんがまだ席に着いて、こっちを見ていました。
「お兄さん、妹ちゃんのところに行ってあげた方がいいですよ?」
「え?」
「私は大丈夫ですから。たかが皿洗いぐらいすぐ済ませますから」
 お兄さんは何故かキョトンとしていましたが、軽く返事をして立ち上がると台所を出て行きました。
 最近、お兄さんはボーッとしている事が多い気がする。その代わりに私がしっかりしないとね。
 でも、まるでこの状況は夫婦みたい。妹ちゃんが娘で、私がお母さんで、お兄さんが…お父さん。
「フフッ」
 自分の想像したイメージに自分で照れてしまって、思わず照れ笑いがもれた。
「さてと、皿洗いも終わったし、お兄さんと妹ちゃんが待ってる部屋にいかないとね」
 
 …。
 
 …。
 …。
 ………。
 
 夢を見た。お兄さんが私達を見ている。
 夢を見た。妹ちゃんが泣いている。
 
 ………。
 …。
 …。
 
「あ…」
 目が覚めると教室で、また赤くて、赤い夕日が教室を照らしている。
 妹ちゃんがヒョイッと覗き込んでいる。笑顔を浮かべている。
「おはよう、ミヨちゃん」
「あ…帰りの会終わってる」
 私は眠い目をこすって妹ちゃんに笑ってみせた。妹ちゃんも笑顔を返してくる。
 私達は手を繋いで職員室に向かった。いつも、それが日課。私達の学校生活。
「失礼します」
「失礼しまーす! 先生…あれ?」
「どうしたの、妹ちゃん」
 妹ちゃんがキョトンとしている方を見ると、先生と、お兄さんとそのお友達の古泉さんが立っていた。
 一時期は殺し損ねた相手だったけど、今ではたまにお兄さんとたまに来て、たまに会話をしている。
 もちろん、それは私達がしようとした事を知らないからこそなんだろうけど。
「………」
 でも、いつも微笑みを浮かべてる印象だった彼の顔は呆然としていた。
 その横でお兄さんが苦々しい顔を浮かべて、耳に顔を近づけている。
「な…った通り…ろ?」
「これ……人…を………だと?」
「あぁ…」
 何を言っているかは聞き取れない。内緒話だから当たり前なんだろうけど、ちょっと気になる。
「あの…?」
 私が声を掛けると、二人してハッとしたようにこちらに向き直る。何なんだろう、本当に。
 まぁ、でも何か内緒の話ぐらいはあるんだと思う。それぐらいあって当然だと思う。
 私と妹ちゃんだって、人殺しした事は秘密なんだから。
 …本当に秘密なのかな。
 今だってこそこそという声が聞こえてきた。私達の事、ほんの一部でも漏れてないだろうか。
 大丈夫。そんな事はないはず。大丈夫だよ、ね…。
「こんにちは、吉村さん、妹さん」
 古泉くんは気付けばいつもの笑顔を浮かべている。
「はい、こんにちは」
「こんにちは古泉くん!」
 私達はしばらくそこで言葉を交わした。
 楽しい談笑タイムだった。何か不思議な感じがするけど、でも普通の会話だった。
 何もおかしいところは、何もない。
「おっと、こんな時間ですか。僕はここまでで。では、失礼します」
 腕時計を見た古泉くんが立ち上がると、慌てた様子で苦笑いを浮かべながら職員室を出た。
 一瞬の沈黙が漂い、その後、お兄さんが立ち上がる。
「俺達も、帰ろうか」
「うん」
「そうですね」
 私達はいつものようにお兄さんに手を引かれて家へと帰る。
 私たちは帰る。
 幸せだよ。私は幸せなんだ。
 
 …。
 
 ”俺たちも帰ろうか”
 お兄さんが言っていた。私たちはいつだって帰っている。
 私たちは、帰る。離れることなく戻っている。
 
 …。
 ……。
 ………。
 
 夢を見ている。
 歪んでいる。夢は歪んでいる。自覚はある。
 そういえば、この夢は見たことがある。ううん、見たことがあるのか解らない。でも見たことある。
 お兄さんが泣いている。妹ちゃんが泣いている。
 お兄さんが叫んでいる。妹ちゃんが笑っている。
 あれ、悲しそう。どっちも悲しそう。楽しそうな気分の私が、それを見下している。
 違う。
 私は楽しそうだった。楽しそうだったのに、今は違う。
 喜んでいる。怒っている。哀しんでいる。楽しんでいる。
 あれ? 楽しんでいるのかな。
 解らない。何も。どうせ夢だから、忘れてもいい。思い出さなくてもいい。何もなくていい。
 
 ………。
 ……。
 …。
 
「妹ちゃん、宿題できた?」
「ううん、まだ。ミヨちゃんは?」
「私は出来たよ。じゃあ、写してあげるからノート貸して」
「良いの? ありがとう、ミヨちゃん!」
 その日の学校も終わって、私と妹ちゃんが学校の宿題をしていた。
 ちょっと難しい宿題だからか、妹ちゃんは全然進んでなかった。
 妹ちゃんはこういうちょっと頭が弱いところが可愛いなって思う。だから気分は悪くならない。
 この大好きで大切な友達を、私は助けないといけない。甘やかす事はよくないかもしれないけど、困る姿を見たくない。
 だから私が妹ちゃんの宿題ノートに、私の宿題を写してあげるの。
 と、私は横に気配を感じて、そちらを見た。すると、妹ちゃんの顔がすぐそこにあった。
「え、あ…んっ…ふぁ…あ…」
 いきなりキスをしてきた。舌を押し込んできて、妹ちゃんは私の口内を陵辱する。
 何でいきなりしてきたかは解らない。でも構わない。
 私はそれに応える。愛しい友達のキス。
 いつだって、唐突だから。私もそろそろ慣れてきたのかもしれない。まだ恥ずかしいけど。
 心臓がドキドキする。キスをし続けていると更にドキドキする。
 最初は恥ずかしさのドキドキ。その後は、妹ちゃんを欲するドキドキ。
 続ければ続けるほど鼓動が早くなる。
「んっ、くぁ…んちゅ…ふぁ…」
「ぅ…む…んぁ…」
 息が乱れる。舌のせいで呼吸がし難い。
 妹ちゃんの舌が、私の口の中の唾液を吸い尽くす感触がする。
 しばらくして、私と妹ちゃんは離れた。
「いきなり何するの!?」
 お互いに息が上がっている。妹ちゃんの顔もちょっと、赤くなっている。
 それはどことなく少し、艶やかな気がした。きっと私も同じようになっているのだろう。
「感謝のき・も・ち。嫌だった?」
「…嫌じゃ、ないよ」
「じゃあ、どうだったの?」
「そ、それは…」
「ねぇ、どうだったの?」
 妹ちゃんはわかっているのに、意地悪な笑顔を浮かべて聞いてくる。私が喜ばないわけないってわかってるのに。
 ちょっとズルい。私ばかりいつも責められて。でもそれに私は喜んでいる。
「…嬉しかったよ。妹ちゃん」
「どう嬉しいの?」
「そ、その…妹ちゃんとキスしていると、気持ちよくて、愛しくて、ふわふわして…」
「ふふっ、可愛い」
 そんなやり取りをしていると、
「おーい、入るぞ。いいか?」
 お兄さんがノックしながらドアの向こうから聞いてきた。
 私は慌てて深呼吸をする。妹ちゃんはけろっとしている。やっぱりずるい。
「はーい、どうぞー」
 応えるとガチャという音と共にお兄さんが入ってきました。
「お、宿題中か。えらいな」
「普通ですよー」
「ミヨキチ、ちょっといいか」
「あ、はい」
 お兄さんは私に用事があるみたいですね。
 立ち上がってお兄さんのもとにいく。部屋を振り返ると妹ちゃんがこっちを見ている。
「いっておいで、待ってるから」
「うん」
 お兄さんの後をついて私は部屋を出た。
「妹は、どんな様子だ?」
「え? んー、宿題が出来なくて困っているみたいでした」
「あの様子だと、それで写していたってところか?」
「はい、そうです」
「すまんな、出来の悪い妹で」
 苦笑いしながらお兄さんが仰る。私は首を横に振る。
「そんなことないですよ。私にとっては大事な、大好きな、愛しい友達なんですから」
「妬けるな」
 ぼそりとお兄さんが呟きました。正直、意外な言葉だった。
 妬ける、なんて。そんな風に思うなんて。私たちは家族のように一緒にいるのに。
 それと同時に可愛く見えた。お兄さんは私と妹ちゃんの仲の良さに嫉妬しているんだと思うと。
「お兄さん」
「ん、なん…ん!?」
 背伸びをして、腕を回してお兄さんを引き寄せて、唇を重ねる。
「お兄さん、愛してますよ?」
「…あ、ありがとな。俺も、ミヨキチを、愛している、ぞ?」
 顔を赤くして、ちょっとたどたどしくなっているお兄さんの様子は見ているだけで可愛かった。
 
 …。
 
 "愛している、ぞ?"
 お兄さんが言ってくれる。求めている。私は言葉を求めている。
 求めていた言葉を得ることで私は幸せを感じる。
 代償は払った。本当に? 私は払ったのか? まだ差し出していない代償があるのではないか?
 
 …。
 ……。
 ………。
 
 夢を見ている。夢は歪んでいく。
 現実が介入してこようとしている。それで歪んでいる。そう思えてくる。
 そうなると、これは夢なのか現実なのか。私には解らなくなってくる。
「ごめんね」
 妹ちゃんが泣いている。
「すまん…」
 お兄さんが泣いている。
 何かあったっけ。何もない。
 でも、何かあった。そう、何があった?
 私の心が冷えていく。壊れるような音がする。
 何があったのか知っている。でも解らない。
 私は解らない。何も解らない。知っているのに。
 どうしてこうなっているのか知っている。解らないだけで知っている。
 妹ちゃんの姿が崩れていく。
 お兄さんはその場に蹲る。
 
 ………。
 ……。
 …。
 
 私は目を覚ました。
 今日も学校に行かないと。
 なんで。
 学校は行かないといけないところだから。
 行かないといけない。
 行くために準備する。
 準備しないといけない。
 準備しないと行けない。
 妹ちゃんと準備する。
 歩いて出る。
 すぐ学校に着く。
 教室は六年生だから六階。
 教室で授業を受ける。
 時間が過ぎる。
 学生生活の一日が終わる。
 そんな日々続いている日常を、今日も私は着々とこなしている。
 もうどれぐらい続けているかもわからない日常。それをずっと私は続けている。
 でもどれぐらい続けているかもわからない日常。これをずっと私は続けている。
 
 本当に、どれぐらい?
 
 今日はもう何日目なんだろう。
 何月何日何曜日かは解る。だけど、何日目なんだろう。
 そもそも本当に六年生だったっけ。
「妹ちゃん、私は六年生だっけ?」
「うん、そうだよ? 何を言っているの、ミヨちゃん」
「そっか。なら良いの」
 疑問は解けた。うん、普通に通っているだけ。
 だいたい何日間通っているかなんて誰も数えてなんていないと思うから。
 数えろっていわれても難しいと思う。365日ではないし、休日や祝日もあるし、中には振り替え休日もあるかもしれない。
 学校を体調不良で休んだ日も。
 そんな事は気にする必要もないんだから。
 今日も授業を受けた。その事実があるだけでいいんだから。
 
 本当に?
 
 私は何の授業を受けたんだっけ?
 あれ? 私はここで授業を受けたんだよね。
 他のクラスメイトと一緒に受けたんだ。受けている筈なんだ。
 あれ? 何の科目が今日はあった?
「妹ちゃん、今日私は授業を受けた?」
「うん。一緒に受けたよ」
 受けたんだ。私は授業を受けたんだ。何の授業かはわからないけど。
 そうか。私はその授業を受けたんだから、いいんだ。受けているならいいんだ。
 答えてくれる。安心する。それだけで充分。
 不安に思う必要なんてそもそもないんだから。だって、受けていないとこんな時間にはならない。
 私はいつものように職員室にいる先生に顔を出す。
「失礼します」
「失礼しま~す」
 先生がいつものように私達を見る。お兄さんがいつものように先生の横に立っている。
「さて、今日も帰るか」
「うん! キョンくんの右側~」
「じゃあ、私はお兄さんの左側」
 手を繋いで帰る。真ん中にお兄さんが居て、三人で並ぶ影はどことなく暖かい陰だった。
 私が居て手を介してお兄さんが居て、私の反対側にお兄さんの片手に持たれている妹ちゃんがいる。
 妹ちゃんは楽しそうにお兄さんの手につかまれてぶら下がっている。歩く度にゆらゆら揺れる。
「あははは」
 笑っている。笑っている。お兄さんの手に掴まれて、その手の中で。
 楽しそうに笑っている。
 妹ちゃんは笑顔を崩さない。縫い付けられた笑顔を浮かべている。
 
 …。
 
 "さて、今日も帰るか"
 繰り返される日常。私はちゃんとそれを通り過ぎているのだろうか。
 通り過ぎていると思い込んでいるんじゃないだろうか。私は、本当にこの時間にいるの?
 みんな一緒にいるの?
 今日も。今日も。今日も。
 
 …。
 ……。
 ………。
 
 最近ずっとこんな調子な気がする。そんな夢はまた夢が進む。真実を見る。
 夢を見た。お兄さんが私達を見ている。歪む。元に戻る。
 夢を見ている。しているのは、私。遠くで妹ちゃんが泣いている。歪む。元に戻る。謝っている。
「ごめんなさい…」
 妹ちゃんの声が聞こえている。それは夢だけどでも何処かで聞いたことあるような声。
 そんな筈がない。だって私と妹ちゃんが謝るようなことなんて何もないんだから。
 謝る事なんて何もない。私達が上手くいったのは事実なんだから。
 だって幸せな日々が続いている。あれからずっと幸せじゃないか。
「すまない…」
 お兄さんが私達に謝っている。泣きそうな顔をしている。泣いた。
 もしかしたらこの夢は私の罪悪感なのかもしれない。今まで殺した人達への、謝罪。
 だからと言ってお兄さんを蹂躙する事はないんだけど。
 
 ………。
 ……。
 …。
 
 今日も目が覚めた。学校へ行こう。
 
 妹ちゃんと歩く。教室に入る。何故? 当たり前だから。
 中に入ると、みんなが居た。
「おはよう、吉村美代子」
「おはよう、吉村」
「おはよう、美代子ちゃん」
 なんで居るのかわからない人もいる。わからない人もいる。誰? でもきっと、わかる。
 私は会っている。でもいる筈のない人。だけど、居る人。だけど会える筈のない人。だけど
「おはよう―――有希ちゃん、谷口くん、みくるちゃん」
 妹ちゃんが普通に言うから、きっと普通なんだと思う。
 普通なんだから、みんな教室にいるクラスメイト。だから、話してもいいんだよね。
 しばらく話していると、女の人が入ってきて谷口くんが付いていって外に出る。
「谷口くん、用事?」
「あぁ、これからデートなんだ。さよなら」
 妹ちゃんの話に聞いた通り、女の子に軽い人だなーって思った。けど、クラスメイトだから笑顔で手を振った。
 谷口くんは手を振りながら女の人が持っていたゴミ袋に押し込まれていった。
 もう会う事はないんだろうなーって思いながら、もぞもぞ動くゴミ袋を見ていた。
 更にしばらくして、今度は有希ちゃんが立ち上がった。
「わたしも、そろそろさよなら」
「何か用事があるの?」
「うん」
 ボソボソと喋ると、ヒラヒラと舞い上がって開いている窓から去っていった。
 捕まれば抵抗出来なさそうな儚さと共に。
 私は、みくるちゃんを見た。
「みくるちゃんも?」
「うん、わたしもいかないと」
 やさしい口調で呟くと、みくるちゃんは徐々に傾く太陽に合わせるように溶けていった。
「さよなら」
「はい、さよなら」
 そうして、三人とも居なくなった。
「妹ちゃん」
「何、ミヨちゃん?」
「これが普通なのかな」
「そうだよ? みんな居るわけがない人なんだから」
 妹ちゃんがそういうなら、きっとそうなんだと思う。
 
 …。
 ……。
 ………。
 
 最近ずっとこんな調子な気がする。そんな夢はまた夢が進む。真実を見る。
 夢を見た。お兄さんが私達を見ている。歪む。元に戻る。
 夢を見ている。しているのは、私。遠くで妹ちゃんが泣いている。歪む。元に戻る。謝っている。
「ごめんなさい…」
 妹ちゃんの声が聞こえている。それは夢だけどでも何処かで聞いたことあるような声。
 そんな筈がない。だって私と妹ちゃんが謝るようなことなんて何もないんだから。
 謝る事なんて何もない。私達が上手くいったのは事実なんだから。
 だって幸せな日々が続いている。あれからずっと幸せじゃないか。
「すまない…」
 お兄さんが私達に謝っている。泣きそうな顔をしている。泣いた。
 もしかしたらこの夢は私の罪悪感なのかもしれない。今まで殺した人達への、謝罪。
 だからと言ってお兄さんを蹂躙する事はないんだけど。
 
 轟音。
 
 私は夢を見て、今日も起きて一日が始まる。
 どうせ夢の記憶はすぐに霧散する。何事もなく一日が始まるんだと思う。
 
 ―――夕日が照らす。真っ赤な世界。どこまでも真っ赤な世界。
 
 血と同じ。血と同じ。
 血と同じ。血と同じ。
 血と同じ色―――見慣れた。
 赤は嫌い。赤は好き。
 見たくない。見ていたい。
 血と同じ炎の色。
 炎…。
 炎?
 
 炎ってなんだろう。
 炎は知っている。炎を知っている。私は知っている。
 熱くて、熱くて、どれだけ叫んでも届かなくて。
 妹ちゃんが、燃える。
 燃える? 燃える?
 痛い。
 足が痛くて妹ちゃんを追いかけられない。
 なんで?
 夢の中なのに。
 それは現実。
 あぁ、現実だった。そういえば。
 
 ………。
 ……。
 …。
 
 目を覚ましても変わらない。
 夕日が差し込む。
 赤い赤い教室。
 広がっている赤い空間に机と椅子が並んでいる。
 血が浸っているような部屋に。
 血が、浸っているような、教室に。
 血が、浸っているような。
 血が、浸っている。
 
 あ、血だ。
 
 誰の? この空間は血に塗れている。
 誰のでもいい。空間は血が空気で溢れている。
「赤いねー」
「赤いねー」
 匂いがする。血の匂いがする。
 でもそんなものがあるわけない。だって誰の血でもない。
 赤いのは血ではないんだから。これはただ夕日が照らしているだけなんだから。 
 私は帰らないといけない。帰るためには準備をしないといけない。
 机に座る。
 机に座っていたら帰れない。
 机をどかす。机をどかす。座ると駄目だから椅子はいらない。
 投げ飛ばして窓ガラスが割れて、外へ飛んでいく。
 これで私は帰れる。準備は出来たんだから帰ればいい。
 帰るためには先生に会わないといけない。
 赤い赤い空を雲が泳いでいる。
 赤い空? 赤い血の溜まりかな。
 うん、赤い血の溜まり。
 死体が流れている?
 肉が流れている?
 どろどろとしている?
 あれは腐っている?
 だから千切れてその隙間から赤が見えるのかな。
 それは血? 肉?
 いいえ、あれは空です。違います。私は間違えました。
 教室を出るためにドアを開ける。
 ドアは開いたら閉じないといけない。
 私は閉める。
 目の前のドアが閉まっている。外に出られない。
 開ける。開けたら閉める。邪魔で通れない。
「ねぇ、妹ちゃん、どうしたらいいのかな」
「邪魔なら殺せばいいんだよ」
「ドアは生き物じゃないから殺せないよ」
「なら壊せばいいんだよ」
 そうだった。壊せばいいんだ。
 蹴る。
 蹴る。
 蹴る。
 蹴る。
 殴る。
 痛い。
 机をぶつける。
 体当たりをする。
 痛い。
 蹴る。
 スライド式のドアが抜けて倒れる。これで邪魔はもうない。廊下に出られる。
 職員室に向かう。
 職員室に入る。
「先生」
「ど、どうしたんだ、その血は」
 血?
 血は世界中に満ちている。
 ううん、あれは夕日の色。
 血は何? 血が何? 血?
 手を見ると血が出ていた。私が持っている妹ちゃんに血がついている。
「なんで血が染み込むの? 人は血を吸い込むの?」
「ううん、普通じゃないよ」
 妹ちゃんがそう答えてくれた。じゃあ、妹ちゃんは普通じゃないんだ。
 妹ちゃんはそれでも笑っている。縫い付けられた笑顔を浮かべている。
 縫い付けられた笑顔だからずっと笑っている。人間は縫い付けられないでも縫い付けられている。縫い付けられているのは何で。
「それはね、ミヨちゃん」
 縫い付けられるのは人形ぐらいで妹ちゃんは人形だから笑っている形でぬいつけられているんだから当たり前なんだから。
「わたしが、人形だからだよ」
 何も疑問に思う事はなかったけど妹ちゃんは人形だから生きていなくてしゃべれなくて私はここにいて妹ちゃんはいなくて
 でも手の中にいるから妹ちゃんはいるけどいなくているけどいなくてなんでいないんだっけって思い出そうとしても思い出せなくて
 夕日が赤くて夕日は燃えている太陽だけど燃えているのは記憶の中で炎が上がっていて爆発していて妹ちゃんは私を動けないようにして
 炎の中で燃えていて死んで葬式して私は参列してそこに妹ちゃんがいたから手に掴んで持ってきて妹ちゃんと一緒に居て
 死んでいるからそんなことはありえないから私が持っているのは人形人形人形人形人形人形人形。
 
 人形。
 
 人形。
 
 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。 人形。
 
 人形? 人形? 人形? 人形? 人形? 人形? 人形? 人形? 人形? 人形? 人形? 人形? 人形?
 
 人形! 人形! 人形! 人形! 人形! 人形! 人形! 人形! 人形! 人形! 人形っ! 人形ぉ! 人形ぉ!!
 
 人形。 人形? 人形!? 人形? 人形!! 人形!? 人ギョウ! ニン形? 人形!? 人形ッ。 人形ァ
 人形? 人ギョウ!? 人形! ニン形! 人形!! 人形?? ニンギョウ! ニン形? 人形? にんぎょう。
 にんぎょうにんぎょうニンギョウ人形にんぎょウにんぎょうにんぎょうニンギョウ人形にんぎょウニンぎょう
 ニンギョウ人形にんぎょウニンぎょウ人形人形ニン形人ぎょうにんぎょうにんぎょうニンギョウ人形にんぎょウニンぎょウ
 人形にんぎょウニンぎょウ人形人形ニン形にんぎょうにんぎょうニンギョウ人形にんぎょウニンぎょウ人形
 にんぎょうにんぎょうにんぎょうにんぎょうニンギョウ人形にんぎょウニンぎょウ人形人形ニン人形ニン形人ぎょう
 
 人形は人間じゃないなら妹ちゃんじゃない!!!
 妹ちゃんじゃない! 違う! これは違う違う違う!!!
 
 今まで一緒にいたのは、誰?
 
「あ、れ? あ、あ、あれ? あれ? あれ? ああああああああ」
「吉村さん!?」
 手の中にあるのは違う。違う。それは違う。私が持っているのは妹ちゃん。違う。人形。
「死んだから違うのです妹ちゃんは人形じゃないから私は妹ちゃんとは居ないのです」
「!?」
「失礼しま…ど、どうしたんだ、ミヨキチ!?」
 あ、あ、あ、あ、あ、お兄さんがいる。お兄さんがいる。お兄さんがいる。
 妹ちゃん死んだ。お兄さんのために。私のために。死んだから手の中の人形は妹ちゃんじゃない。
「お兄さん、私殺しました、私は殺しました」
「な、何を言っているんだ?」
「殺しました。妹ちゃんは私を庇って死んだから私が殺したのに同じで」
 同じ。そう同じ。何も同じ。私のために死んだら殺した。そう殺した。
「みんな一緒に殺したのに、みんな私は妹ちゃんと殺したのに。殺したのに」
「え!?」
「お兄さんが手に入ったのに、消えた。死んだ。妹ちゃん死んだ。死にました、死にました」
 夕日が赤い。
 
 赤い―――。血――炎――――。
 ――嗚咽――――。――爆発―。
 ――――――妹ちゃん。―――死ぬ―――――。
 消える――――違う――。――私。
 お兄さん――――――――。恐怖――。
 ――孤独―。―――――怖い。
 
 ―――――――――――。
 
 …………。
 ………。
 ……。
 …。
 
「…なんでこうなったんだ」
 心電図の音が鳴り響く。この音を何回聞いただろうか。
 俺はハルヒと古泉と一緒に居た。
 目の前には目を閉じて、動かないミヨキチ。もう数日も動かないし、目を開けない。
 ハルヒは、俺の妹が長門や朝比奈さん、谷口を殺した事等は知らない。
 この場にいるのは、俺が極限まで落ち込んだ事を心配しての事だ。
 俺たち三人は黙り込んでいた。
「きっと、あんたの妹ちゃんの友達は…気付いていたんだと思う。だからキョンに喋る事はなかったのよ」
 ふと、ハルヒが口を開いた。
「どういうことだ?」
「妹ちゃんが死んでいたって、知っていたのよ。理解していなかっただけで」
「え?」
「今までの話を纏めると、キョンはミヨキチちゃんだっけ? 彼女にしか見えていない妹ちゃんが居ても困ったことはないのよね?」
「あぁ、そういえば…」
「彼女の中の妹ちゃんが、キョンに話しかける事はなかったのは無意識にそれは自分にしか見えてないって知っていたから」
「きっと現実を見ることはできなかったのです。そして彼女は葬式の会場で死を知っても理解せず人形を妹さんと見てしまった」
「そして始まったのが、幻想か…」
 ミヨキチにとって、俺の妹はそれだけ大きな存在だったんだな。それだけ依存していたんだ。
 そう思うと全てが申し訳なかった。妹の心情を察してやれず、谷口達を殺した原因を作り、挙句ミヨキチまで壊した自分が。
 何のためにここに生きているのか。
「なんで、今になって理解したんだろうな…」
「きっと、偽るのも疲れたんですよ」
「…それで、今までせき止めていた現実に押し潰されたのね。理解したことで」
「悲しいな…」
「今、彼女は眠ってなにを思うのでしょうね」
 俺はミヨキチを見る。
 穏やかなようで、笑っているようで、苦しんでいるようで、苦笑いしているようで、悲しんでいるようで。
 何を思っているのだろう。何を見ているのだろう。何を聞いているのだろう。
 この小さい少女は。
 もしかしたら、もう何も見ていないのかもしれない。何かを見ることに疲れたのかもしれない。
 それでも…。
 それでも、俺は妹との約束を果たさないといけない。
 ミヨキチの持っていた人形を見る。ボロボロになった病室から、控え室まで血は続いていたという。
 病室を、彼女は教室に見ていたという。
 そこにいた、心も壊れて何もみない何も感じない重度の患者に囲まれて何を学んでいたのだろうか。
 もしかしたら自由を学んでいたのだろうか。
 
 しばらくして、古泉とハルヒは去った。
 俺は病室に残って、ミヨキチの手を握っていた。
「ミヨキチ…」
 この声は届いているのだろうか。それは分からない。
「…あ」
「!?」
 俺は声が聞こえてハッとした。
「ミヨキチ!?」
「あ、お兄さん…」
 俺はホッとした。俺が誰かは分かっているみたいだ。
「よかった…」
「ねぇ、お兄さん…妹ちゃん、死んじゃったんですよね」
「!? 分かるのか!?」
「何を言ってるんですか? 当たり前じゃないですか。一緒に葬式だって出たでしょう?」
 驚きだった。ミヨキチは、元に戻っている。俺は泣きそうなぐらい嬉しかった。
「ねぇ、お兄さん」
 そんな俺にミヨキチが声をかけてきた。
「ん? なんだ?」
 
 
 
「明日から一緒に高校行くの楽しみですね」
「…え?」
 
 
 
 終わり。
 
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