涼宮ハルヒの遭遇Ⅴ

 


 俺たちは為す術なくただ巨人たちの破壊活動を見つめるしかできなかった。
 あの巨人の破壊活動は、この世界を拡張している――
 古泉はそう言っていた。
 拡張していき、やがてはポニーハルヒの世界と入れ替わる。
 で、その後はどうなるってんだ?
 俺と長門はその世界で生きていくのか? いや、もしかしたらその新世界では俺と長門は今の俺たちじゃなくなってポニーハルヒの望む俺と長門になるのかもしれん。
 新世界には当然、ハルヒ、俺、長門、古泉、朝比奈さんはもちろん、谷口や国木田、鶴屋さんに阪中、消えちまった朝倉だっているだろう。
 しかしそれは俺たちの知るそいつらじゃないんだ。
 ましてや俺と長門は記憶を書き換えられてしまう可能性がある。
「どうする?」
「……」
 問いかけてきたのは俺の隣に佇む長門だ。もっとも俺は三点リーダ沈黙しかできないがな。
 ちなみにポニーハルヒはというと俺たちのやや前で、肩越しに覗く表情はどこか羨望の眼差しで青白い巨人たちに視線を向けているんだ。
 どうやら何となくポニーハルヒには分かっているようだ。
 あの巨人たちの破壊活動の先に何が待っているのかを。
 そう言えばハルヒも以前言っていたな。

 ――この世界だっていつまでも闇に包まれているわけじゃない。明日になったら太陽だって昇るわよ。あたしには解るの――

 今更ながらそれを思い出す。
 ふっ、そうかそうかこれが三つ目の選択肢じゃないか。
 俺と長門は本人なんだけど別人になって新しい世界で生きる――
「って、そんなこと認められるわけがないだろう!」
「キョ、キョンくん……!?」
 いきなり声を荒げた俺に、仰天して振り返るポニーハルヒ。
「あー悪い。ちょっと考え事してたら思わず」
「そ、そう?」
 取り繕った苦笑を浮かべる俺だが、ポニーハルヒの戸惑いにも似たびっくり眼はまだ崩れていない。
 つっても俺が何を考えていたかを言うわけにはいかんがな。
「ねえキョンくん、部長」
「ん?」
 しばしの沈黙の後、今度はポニーハルヒがどこか楽しげな笑顔を浮かべて少しターンしながら俺たちに問いかけてきた。
「ここって不思議な世界だね」
 まあな。
「こんな世界、マンガとか小説とかテレビの中だけだと思ってたんだけど」
 それを言ったらパラレルワールドもそうなんじゃないかと思えないこともないぞ。
「そうなんだけどさ。でもね、あたしの住む世界と、キョンくんや部長の住む世界にはそこまで変ったところはなかったじゃない。何て言うのかな? 物理法則を揺るがすところもファンタジックなところもなくて単なる間違い探し程度の差しか」
 言われてみればそうかもな。確かに性格的な違い以外はそこまで変わったことはなかった。
「楽しい?」
「ちょっと」
 長門の無感動の問いに、なんだか感慨深げに答えるポニーハルヒ。
「だって、あたしは物語を創るのが好きだから。だからこういうファンタジーには憧れちゃう」
 ポニーハルヒはなんとなくちょっと自嘲した照れている表情を浮かべている。その背後ではあの巨人どもが破壊活動に勤しんでいるわけだからなんだか俺の目にはポニーハルヒと巨人たちで別世界にいるような錯覚を受けるぞ。
 しかしなんたってポニーハルヒはこんな話を?
 ……って、解りきったことじゃないか……俺と長門の『ポニーハルヒの知っている俺と長門化』の一環だ。
 自分のことを俺たちに植え付けておいて記憶を書き換えようってことだ。
 もっともポニーハルヒにそんな自覚はないだろうけどな。単なるこの世界の自分の感想を言っているに過ぎないつもりでしかない。自分のことを話すのもその延長線上のものだ。
 だから無碍に打ち切るわけにもいかんぜ。なんたってこのハルヒの機嫌を損ねる――じゃないな、言い方を変えて精神状態を不安にさせるような真似を仕出かせばそれこそ俺たちはどうなるか分かったもんじゃない。
 まだ自我が失われていない以上、そうならないような最善策を取らなきゃならん。
「てことは何だ? UFOやファンタジーの世界、悪の組織と戦う超能力者や辛く苦しい今を変えるために未来から来訪者が現れるとかそういった話も作るのか?」
 俺はどこか苦笑を浮かべて聞いてみた。
「うん。あたしは、端的にたとえるけど、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいるといいなって思っているから。でも現実はそうじゃない。だから物語の中にあたしの気持ちを込めて創るの。でも最近はちょっと日常的な話が増えてきたかも。
 ただ、それはキョンくんのおかげ。あ、ちょっとごめんだけど、あたしの住む世界のキョンくんよ」
 気にしなくていいぜ。別に俺は何もしちゃいない。
「でも向こうの世界で、今作っていたお話は久しぶりにファンタジックなものだったの。その途中でいきなり……」
 ん? ちょっと待て。ひょっとして君は俺たちの世界に来てしまう前にそういう話を作っていたのか?
「あ……うん、今作っているお話ってパラレルワールドもので違う世界同士の主人公とヒロインの恋愛ものっぽいものを……」
 ポニーハルヒはちょっと照れて恥ずかしそうな笑顔を見せているのだが……そう言えば、以前、俺だけしか知らない世界の内気な文芸部員も俺にパソコンの中身を見せるのを躊躇ったし、逐一、後ろから監視していたな。自分の作った小説を見られるのが恥ずかしくて。
 あれと同じってわけか。
 あっそうか。
 どうりでこのハルヒが俺たちの世界に来ることはできても帰ることができなかったはずだ。
 ったく、一生懸命なのは悪いことではないが、あんまりのめり込み過ぎるなよ。
 つまり、ポニーハルヒは自分の作る物語の主人公だかヒロインだかに成りきって書いていたんだ。そりゃハルヒの能力を考えたら空想の世界であったとしても本気で『在る』と想像してしまったら別世界に飛ばされちまうだろうぜ。しかもパラレルワールドなわけだからたまたま俺たちの世界に来てしまったんだ。
 もし、向こうのその場に俺と長門がいたならさぞかし驚いたことだろうよ。なんたって、目の前でいきなりポニーハルヒが消えたはずだからな。
 んで、途中ってことはまだ主人公かヒロインを元の世界に戻す方法を考えていないってことだ。ほどほどにしとかないと大変だぞ。
「涼宮ハルヒに聞きたいことがある」
 長門?
「何ですか?」
「あなたはこの世界をどう思う? また元の世界に戻りたいと思わないのか?」
 どういうことだ? なぜ長門がこんな質問を?
「う、うん……できるなら元の世界に戻りたい……でも、この世界も悪くないんじゃないかと思えないこともなくて……」
「この世界にあなたの知る私と彼はいない。本当にそれでもいい?」
「長門お前!」
 さすがに俺が非難めいた声を上げるのは当然ってもんだ。
 なぜなら長門だってポニーハルヒの精神状態を不安定にさせる真似なんざできるわけがない。
 にも関わらず今の言い方は何だ?
「そ、それは……」
 ポニーハルヒがとたんに表情を曇らせる。
 まずい……絶対にやばい……
「ん?」
 が、俺はこの世界の別の変化に気がついた。
 何と言うか……音が消えたんだ。
 ふと辺りを見回せば青白い巨人たちが動きを止めている。破壊活動を休止しているんだ。
 それがなんだか俺の目にはなんとなく巨人たちが破壊活動を躊躇っているように見える。
 まさか――! 長門が狙ったのはこれか!
 確かに巨人どもが破壊活動を停止すれば世界の拡大を止められる。新世界創造を引き延ばすことができる。もっとも文字通り時間稼ぎでしかないがな。
「で、でも元の世界に戻れそうにないし……キョンくんや部長に会えないくらいなら別世界に行ってしまったって……」
「それは嘘。あなたの本心ではない」
「ぶ、部長……?」
「なぜなら、もしあなたの言っていることが正しいとするなら私と彼もここにはいない」
 あ――!
「あなたが望むのは我々ではないはず。だからあなたは元の世界に戻りたいと思っている」
 そうか――長門が何を言いたいのかが解ったぞ――
「それは我々も同じ。我々も我々の住む世界に帰還したいと望んでいる」
 長門の本音を聞いたのは久しぶりな気がするな。あの『また図書館に』を彷彿とさせる言い回しだ。
 そして俺は俺のすべきことを今、理解できた。
 そうさ。長門はポニーハルヒに本心を自覚させて、そして俺たちの気持ちを言ってくれたんだ。
 だったらここからは俺の出番だ。
 そしてそれは俺でなければならないんだ。なぜなら、去年の五月、この世界から帰還を果たしたのは俺だ。俺でなければハルヒに教えられないことがあるんだ。
 三つあった選択肢。
 結局のところ、答えは去年と同じだ。もっとも能力を自覚させる必要はないがな。
 俺は静かにポニーハルヒへと近寄り、その肩に優しく手を乗せる。
「キョンくん……?」
 俺を見上げるポニーハルヒの瞳は不安でいっぱいだ。
 ううん……こんな瞳を見せられてはキスはおろか、こうやって肩に手を乗せることですら悪いことをしている気分になってくる。
「なあハルヒ」
 それでも俺は毅然と切り出した。
「長門の言う通りで、君は本当にこの世界に行ってしまっていいのか?」
「え……?」
「確かにこの世界だって朝が来れば日は昇る。いつもの日常が始まることだろう。しかしだな。それは君の知る世界ではないし、俺たちだって君の知る俺たちじゃない」
 ポニーハルヒは黙って聞いてる。というより、なんとなく怯えが声を発せられなくしているように見えなくもない。
「本心から望むんだよ!」
 俺は声を大にして言った。一瞬、ポニーハルヒがびくっとなったがその罪悪感を抑え込んで続ける。
「君が本当に望む俺を! 俺たちがここにいるのは君が望んだからなんだ! 元の世界に戻れないかもしれないと考えた君がせめて別人だけど本人でもある俺たちを連れて行こうと考えたから俺たちはここにいるんだ!」
「そんな……そんな夢物語があるわけないじゃない! だからあたしは……!」
「だったら試してみてくれよ。それで本当に『俺』が現れないなら、俺と長門は喜んで君についていく。この世界で暮らしたって構わない。記憶を書き換えられたっていいさ。だから試してみてくれ」
「キョ、キョンくん……」
 俺は真摯な瞳でポニーハルヒを見つめる。しかしまだポニーハルヒの表情は半信半疑だ。
「考えてもみろよ。こいつは夢の中と同じなんだ。さっき、自分で言ったじゃないか。『宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいるといいなって思っているけど現実はそうじゃない』ってよ。
 てことは今、現在、俺たちが直面していることだって現実じゃない夢の中ってことになるじゃないか。現に俺も長門も君の知っている俺たちじゃなかったんだから。夢の中なら何でも叶うんだぜ。本気で願えばな」
「う、うん……」
 ポニーハルヒがどこか泣きそうな表情のまま俯くのを見てとれて、俺はようやく彼女の肩を離した。
 ひょっとしたら結構力が入っていたかもしれないな。
 痛かったらすまん。
「ううん。いいの……この痛さはキョンくんの本気の証……だからあたしも信じる……これが夢なんかじゃなくて現実だとしても……」
 再び見上げてくれたポニーハルヒの表情には笑顔が戻っていた。
 そして即座に俺たちに踵を返して校舎の方を眺める。
 もしかしたら目を伏せて祈祷しているのかもしれんが俺に確かめる術はない。
 なぜなら、もう俺と長門はポニーハルヒの傍に行ってはならなくなったからだ。俺と長門はポニーハルヒも俺たちも元の世界に戻れるように願った。それは言いかえればポニーハルヒとの決別を伝えたことでもあるんだ。
 だから近寄る資格はない。そして彼女ももう振り返ることはないだろう。
 というわけで彼女の傍に行くことを、彼女の表情を見ることを許されるのは――

 

 

 


 ふと気が付けば、
 そこには見慣れた古ぼけた自室の天井が見えた――

 

 

 

~エピローグ~~~

「ねえキョン、あの子、帰っちゃったのかな?」
「かもな」
 ハルヒが窓の外を眺めながら物憂げにつぶやき、俺は団長席に座ってパソコンをいじくりながらやや曖昧に相槌をうっていた。
 場所は月曜、放課後の文芸部室。
 もちろん、長門はいつも通り窓際でハードカバーを読みふけているし、朝比奈さんも古泉もいる。
 ただ今日は珍しく古泉のボードゲームの相手を務めているのは俺じゃなくて朝比奈さんだ。
 もっとも、三人とも俺たちの会話に耳を立てているけどな。
「仕方ないだろ。パラレルワールドの出入口なんてそうそう見つかるものじゃない。仮に見つけたとしても開きっ放しとは限らん。だったら見つけてすぐ向こうの世界に行ってしまうのは自明の理だ。俺たちに挨拶なしだからって彼女のことを悪く思うのは良くないぜ」
「分かってるわよ。そもそもあの子はあたしなんだから、あの子の考えていることくらい、あんたよりも解るんだから」
「そうかい」
 俺は苦笑を浮かべて返しつつ、不意に勝手に無意識に指が左クリック。
 別にそこにmikuruフォルダがあったわけじゃないんだがな。かと言って画面に何かが表示されるわけでもない。右クリックなら意味のないボックスが表示されるが。

 それにしても、こう元気のないハルヒでは、なんとなくこっちも調子が出ない。

 てことで、俺はハルヒに元気を取り戻そうと話を変えるためのネタふりをやったわけだが、なんとも学習能力のない自分が嫌になる。

 映画撮影のときに死ぬほど後悔したじゃないか、おい。

 もうちょっと言い方ってものがあんだろ? このときの俺。

 などと、後から自分に突っ込みを入れまくったことをやってしまったのだ。
「そう言えばハルヒ。さっき古泉に聞いたんだが、機関誌を作るんだってな」
 その言葉を聞いた途端、物憂げだったハルヒの瞳に輝きが戻ってくる。
 マズった……こいつ、忘れてやがったんだ……
「そうよ! キョン! あの子のことがあったんで完全に後回しにしてしまってたんだけど、先週の金曜に決めたんだったわ! んじゃあちょっとどいて!」
 とと。
 言うや否や、ハルヒは団長席に座っていた俺を押しのけて机の上に何やらノートの切れ端を四枚準備する。
「こらキョン! こっち覗いちゃダメだからね! 今、各自、書いてもらうテーマのクジを作るんだから!」
 ハルヒの爛々とした好戦的な笑顔に撃退されてすごすご引き下がる俺。
 って、あ。
 無意識にいつもの場所に座ろうとしたところ、そこには先約がいたんだったな。
「んあ!」
「あーすみません! 朝比奈さん!」
 意図せず朝比奈さんのお膝の上に腰かけてしまった俺の重みを感じた朝比奈さんが何やら甘い悲鳴をあげておられます。
 むろん、ハルヒがそれを見咎めないはずがない。
「何やってんのキョン! セクハラは重罪なのよ! とびっきりの罰を――!」
 一足飛びに一瞬で俺に突っかかってきたハルヒなのだが越えてしまった場所がまずかった。
 がしゃん
 しーん。
 何かの絶望的な軽い破壊音に文芸部室が沈黙に支配される。
 もうお分かりだよな。
 団長席にあったパソコンのモニターが机から落ちたんだ。
「あ~~~~~! キョン! なんてことを!」
 って、それは俺の所為じゃねえだろ!? お前が横から回ればいいものを机を飛び越そうとするからそうなったんじゃないか!
「うるさい! あんたがみくるちゃんにセクハラかまさなきゃこんなことにならなかったのよ! 責任とってあんたはこの小説を書くこと! 決定だからね! それとあんたのノートパソコンはしばらくあたしが使うから! あんたはそっちのワープロ使いないなさい!」
 思いっきり怒りの表情で俺に一枚のくじを突き付けるハルヒ。
 つか、ちょっと待て。ひょっとしてお前、俺にこのテーマの小説を書かせるためにわざとモニターを壊したんじゃないだろうな?
 などとツッコミを入れたくなるテーマがそこには書かれていた。
 ん? 何が書かれていたかだと?
 んなもん禁則事項だ! 人に言えるわけがない!
 かと言って一度、これと決めたらハルヒが覆すわけもなく、俺の拒否権は発動されないまま、しぶしぶ俺は古ぼけたワープロを開いてスイッチオン。
 できればこのワープロが壊れていることを願いつつ作動するかどうか確かめたわけなのだが――
「ん?」
 そこに映し出された画面には文章が既に浮かんでいた。
 まあ確かにワープロはパソコンと違って電源を付ければ前の画面が残っているものなのだが……
「どうしたの?」
「いやな、前の文芸部員のものだと思うんだが小説っぽいものが浮かんできてな……」
 いぶかしく声をかけて来て俺の隣から画面を覗き込むハルヒに、やはりいぶかしげに答える俺。
 ふと気がつけば俺の後ろから古泉、長門、朝比奈さんがワープロの画面を覗き込んでいる。
「随分長いお話ですね」
「でもどこかで見たような……」
「既視感」
 古泉と朝比奈さんと長門もまたいぶかしげな声をあげていた。
 まあ確かに長い。あと、いったい誰が書いたものかは分からんが……
「って、ちょっと待て!」「何これ!?」
 クライマックスのところで俺とハルヒの驚嘆の声が重なり、
「これはこれは」「ふわぁ」「ユニーク」
 なんとなく面白がっている俺たち以外のSOS団の声が届く。
 んで、エピローグ後、その末文にはこう書かれていた。


『キョンくん、そっちのあたし、長門部長、そして古泉さん、朝比奈さん、今回は本当にお世話になりました。
 これはほんのささやかなお礼です。SOS団の皆さんとそっちの世界のキョンくんとあたしを見ていて思いつきましたのでみなさんを元にしたキャラクターを登場させてお話を作りました。突貫工事なので誤字脱字、ストーリー構成には目を瞑ってください。
 あ、でもこれじゃお礼になっているかどうか分かんないですね。
 ただ、なにやらそっちのあたしが機関誌を作るって言ってたのでこのお話を、できればあたしかキョンくんが作ったことにしてもらえませんか?
 だって、あたしのことを夢にしてほしくありませんし、あたしも皆さんとの出会いを夢にしたくありませんから。
 またいつか、皆さんと再会できる日が来ることを。
 今度はこっちの世界のキョンくん、長門部長、古泉さん、朝比奈さんも一緒に連れていけたらな、と思ってます。

涼宮ハルヒ』



 俺は即座に長門に視線を向ける。
 ポニーハルヒは土曜と日曜の境に帰ったと思っていたんだが、これが書けるとすれば昨日しかないわけで、元の世界と向こうの世界の出入口を繋げたままにできる奴がいるとすればそれは長門しかいない。それも二人がかりなわけだからどうとでもなるのは自明の理だ。
 もっとも閉じてしまえば扉も消えていかに長門と言えどどうにもできないだろうが、留めておくなら話は別なのだろう。
 んで、その長門は俺が視線を向けた途端、珍しく俺から視線を逸らしてやがった。
「どうされたんです? 目を逸らしたということは何かこのお話に思い当たることでも?」
 黙れ古泉。俺が長門に視線を移したことをハルヒに悟られないようフォローしてくれたことには感謝するが、思いっきりニヤニヤしながらではその感謝の意も地平線の彼方に吹っ飛ぶってもんだ。
「でも本当によく出来てますね。あたしたちもよく表現されてますし、この主人公さんとヒロインさんもキョンくんと涼宮さんそっくりです」
「み、みくるちゃん! 何言ってんのよ! あたしとキョンがこんなこと! というかこれが現実的にあるわけないじゃない!」
 そんなハルヒの狼狽風言い繕いを聞きながら、俺は古泉から視線を逸らし続けていた。
 何? どんな話が書かれていたかだと?
 知ってどうする? んなもん、特筆すべきことじゃない!

 

 

「彼女は世界が違う故、知らなかったと思われる。しかし、あの涼宮ハルヒが残していったSSは、『涼宮ハルヒの憂鬱』そのものだったのである」

 

 

 って、ながとぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!
 

 

 涼宮ハルヒの遭遇(完)


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