涼宮ハルヒの遭遇Ⅲ



 翌日、土曜日。
 と言う前振りをかますともうこの日に何があるのかは言わずもがなだ。
 そう、SOS団恒例町内不思議探索パトロールである。 
 と言っても今日は最初から、何を探すかだけは決まっていた。
 当然だよな。
 昨日の放課後の団活最初のミーティングでハルヒが言い出したんだ。
 その時の状況を少し語ろう。

 

 

 …… …… ……
 …… ……
 ……


 放課後――
 俺とハルヒと長門は5時間目と6時間目の自習をいいことに文芸部室でポニーハルヒと過ごしていた。
 もちろん、話の中心にいたのはこっちのハルヒで、向こうの世界とこっちの世界を事細かに聞き続けていたんだ。
 特に違いがあったときのハルヒの爛々とした瞳は、会心の悪巧みを思い付いた時の300ワット増しの輝きよりもはるかに凄まじい光沢を放っていたぜ。
 そりゃそうだよな。ハルヒにとっては待ち望んでいた未確認生物との遭遇だ。おそらく、古泉Presentsの推理ゲームよりもはるかに楽しんでいることは確かだな。ハルヒの言葉ではないが、これでハルヒが興奮しないと言ったら嘘になる。それくらい今のハルヒは今までのハルヒが、俺にとっては迷惑なことが多かったが、楽しんできたことと比べても比べモノにならないくらい生き生きとしているんだぜ。
 つってもまあ、俺は一度だけこういうハルヒの表情を見たことがあるがな。
 ハルヒはさっき、自分に訪れた四年ぶりの不思議と言っていたが、正確には違うんだ。
 もうお分かりだよな?
 そうさ。俺は覚えているし、ハルヒもおそらくは覚えているだろうがあれを夢だと認識してしまっている向こうの世界でのことだ。
 あの時も、古泉言うところの《神人》を見たときはこんな顔をしていた。
 分かりやすい例えはサンタクロースに会った子供のような顔だ。
「きゃっ」
 突然、可愛らしいびっくりした声を拝聴させていただきました。
 考えるまでもない。朝比奈さんが来たんだ。
 しかも朝比奈さんはまったく何も知らずにここに来たんだろうぜ。
 いやまあ、俺も驚かせようと思ったわけじゃなく、連絡を入れておくべきだったと思っているんだが完全に失念していたんだ。
 本当に申し訳ございません。
「あ、みくるちゃん。御苦労さん。どう? 驚いた?」
 話しかけると同時にハルヒは席を立って、即座にドアを閉める。
 へぇ、ハルヒにしちゃなかなかの心遣いだな。まあ、確かにポニーハルヒを他の誰にも見せるわけにはいかんからな。
 見せてしまえば混乱間違いなしだ。
「あ、はい……で、でも何なんですかー? 涼宮さんがどうしてふ、二人いるんですか? いったい何が……」
 いつぞやのようにおどおどしながらのびっくりおっかな声が届きました。
「ふっふうん。そっちのあたしはパラレルワールドから来たあたし! 待ち望んでいた異世界人よ!」
 満面の笑顔で紹介するハルヒの声を聞いて、朝比奈さんがポニーハルヒへと視線を移す。
 しかしまあどうやら朝比奈さんも古泉と長門同様、ポニーハルヒがこっちのハルヒと同一人物であることを見抜いたようだ。
 捜査員ってのはよほど目が肥えていらっしゃるようで。
 対するポニーハルヒは、またどこかおどおどした視線を俺に向けてくるし、よく見れば隣に座っている長門の制服の裾を掴んでいる。
 いや待てよ? そう言えばさっきの古泉の時もそうだったよな。
 てことは、ポニーハルヒの世界には朝比奈さんと古泉はいないのか? 聞いた限りだと向こうの世界でも谷口、国木田、阪中は同じクラスだったし、担当も岡部だと言った。
 まあ俺にはどうしても想像できんのだが、谷口がクールな優等生だったり、国木田がお調子者だったり、阪中の身長が低かったり、岡部教諭がジャージ姿ではなくスーツにネクタイ姿だったりしているという違いはあるがな。
 ついでに朝倉涼子もいるらしい。もっともその朝倉はどうもこっちのハルヒっぽい性格だそうだ。んで、もっと分からないことにその朝倉と谷口が付き合っているらしい。
 何をどうやったらそんな風になるのかを聞いてもみたが、ポニーハルヒの返答は正直言って理解不能だった。
 つーわけでポニーハルヒが何と言ったかは割愛させてもらうぜ。俺自身が理解できていないんだ。うまく説明する自信がない。
「大丈夫だ。こっちの人もキミに危害を加えるような真似は絶対にしないさ」
 俺が優しく諭してやると、ポニーハルヒはちょっと上気した顔で一度こくりと頷き、朝比奈さんに会釈する。
「ん? ねえそっちのあたし。向こうの世界には古泉くんとみくるちゃんはいないの?」
 まあハルヒも同じことを感じるわな。ついでに俺も聞こうと思っていたことだ。手間が省けたぞ。
「いえ……それはその……あたし、他のクラスと上級生に知り合いいませんし……」
 なるほど。そういうことか。だったら分からなくても不思議はないわな。
「へえキョンにも想像付いたんだ?」
「どういう意味だ? と言うより、お前は俺がそんなに鈍い人間だとでも思っているのか?」
「違うわよ。ただ、あんたは普段、あたしがどんなに言って聞かせてあげても不思議からは目を背けることが多いのに、パラレルワールドの理屈が分かっていたってのが疑問だったからよ。何? ひょっとしてキョンも本心は不思議を望んでいるの?」
 おいおい、なんだ? その好奇心いっぱいの色を携えた悪だくみ全開の光を放つ瞳は?
 べ、別にいいじゃないか。俺だって不思議なことが起こることを否定はしないぜ。むしろあってもいいと思っている。ただ単にお前ほど渇望していないだけだ。
「ふうん。自分に素直になることは悪くないと思うけど、あたしから気まずくて目を逸らすのはどういう意味があるのかなぁ?」
「うぐ」
 正直に言葉に詰まる俺だった。
 そしてしばし沈黙の後、古泉も部室に戻ってきた。
 全員揃ったところでハルヒが、いつも通り、団長席の椅子に仁王立ちして宣言したんだ。集合はいつも通り光陽園駅北口午前9時だが大事なのはその後の言葉だ。


「明日の不思議探索パトロールの課題はたった一つよ。今までは『何か不思議なこと』で良かったけど、今回はテーマを持って各自回るように。いいわね?
 んで、もちろんそれはパラレルワールドの入口捜しよ。絶対に他のことに目を奪われないこと。例えそれがミステリーサークルだろうと、タイムマシンだろうと一切無視でいいわ。そして手抜きはなしだからね! 必ず見つけるように!」

 

 

 ……
 …… ……
 …… …… ……



 と言う訳で、今日が昨日から見て翌日の土曜日だ。
 ちなみに珍しく、本当に珍しく俺は集合場所に一番遅れることはなかったのである。
 何故かって?
 いや、まさか俺も朝の7時半に自宅に来訪者があるなんて想像もしていなかったからな。おかげで相当早く家を出ることになったんだ。
 んで誰が来たかと言うと長門とポニーハルヒだ。
 ポニーハルヒは昨夜、長門の部屋に泊めた。理由はいたって単純な消去法だ。
 まず古泉と朝比奈さんは論外だ。別に二人が信用ならないわけじゃないぜ。ただ、この二人の背後にある機関が信用ならんし、そうでなくてもポニーハルヒは向こうの世界で古泉と朝比奈さんに会っていない。
 となれば知らない人間と一緒に居ることによって、あの情緒不安定なくらい内気なポニーハルヒがホームシックにかかって泣き出さないとも限らない。
 こっちのハルヒももちろん無理だ。ハルヒには妙な背後関係はないが一人暮らしじゃない。そっくりさんだと偽ろうが、ハルヒの家にいるのは、ハルヒと血の繋がった両親なんだ。ポニーハルヒが自分たちと無関係ではないことを悟ることができるだろうし、んなことになればややこしくなること間違いなしだ。
 俺についてはこっちのハルヒが提案前に却下したのである。
 その時、少し悲しげな表情をポニーハルヒは見せたが、それでもあっさり自己完結して納得した。まあ理由は分からんでもない。
 ハルヒが却下した理由はともかく、ポニーハルヒが俺のところでの宿泊を断念したのは、彼女にとっては、トートロジーで申し訳ないが、俺は俺なのだが俺ではないからだ。
 ポニーハルヒが恋心を抱いているのはあくまで向こうの世界の俺であり、この俺じゃない。同じ顔で本人であることは確かなんで頼ったり縋ったりはできても男と女のシチュエーションを連想させることには抵抗があるんだろうぜ。
 となると残るは向こうの世界でも頼りにしていて面識があり、かつ何の雰囲気を起こりえない長門有希だけとなる。
 んで、その長門とポニーハルヒが俺を迎えに来たのである。
 にしたって7時半は早くないか? 約束の時間までまだ1時間半はある。自転車でも集合場所に着いてからまだ1時間は待ちぼうけだ。
 しかしどうしてもポニーハルヒが強請ったそうで、俺と長門と一緒に集合場所に行きたかったらしい。
 理由は長門が話してくれた。
「この涼宮ハルヒは自分の稼働視界内に私とあなたを捉えていないと精神状態が不安定になる。これがわたしがここにいる理由。あなたがここにいる理由」
 てことは昨夜も結構大変だったのか?
「その認識は正しい。昨夜、わたしは別々の部屋で就寝するよう提案したが彼女は拒否した。寝床を供にし、今日を迎えた」
「ぶ、部長……」
 淡々と冷静沈着に告げる長門にポニーハルヒの頬が赤く染まる。
 つってもまあ、別段、この二人に何か人に言えないようなことがあったとは思えんがな。ポニーハルヒは単に一人で寝るのが怖い子供のような自分を俺に告げられて恥ずかしい思いを抱いただけだろうから。
 もっとも俺はそんなポニーハルヒがいじらしくて可愛く思えて仕方がないってもんだ。まったく、このポニーハルヒの性格をこっちのハルヒに少しは分けてもらいたいもんだぜ。
 ちなみにこの会話は俺たちが駅前でハルヒと朝比奈さんと古泉を待っているときに交わされたものだ。
 そして今回、俺以外で初めて全員に奢る羽目になったのは古泉一樹である。
 まあ、こうなったのははっきり言って規定事項だ。意外でも何でもないことを俺は知っている。
 まず朝比奈さんは未来人だから、今日、この場所にどの時間に来れば一番遅くならないかを知っていても不思議はないし、古泉はハルヒのご機嫌どりが半分目的みたいなものだからハルヒより遅く来るなんて真似はできないだろう。
 となれば古泉が一番最後に到着するしかない。
 俺には一番最後に現れた古泉の表情はわざとらしく苦笑を作っているようにさえ見えたほどだ。


 が、この想像は完全に的外れだったたらしい。古泉は振りではなく本当に苦笑だったんだ。そして一番最後になった理由もハルヒのご機嫌どりが目的ではなかったそうだ。それは不思議探索パトロールの時に古泉本人から聞かされた。


「閉鎖空間と《神人》だと?」
「ええ……一週間毎日一回なら結構ありましたし……たまに同じ夜に二度も出動することもあったのですが……今回発生した二回の《神人》の傍若無人ぶりは常軌を逸しておりました……それも二回ともですよ……なんとか粛清することはできたのですが……あまりの疲労に集合時間に間に合うギリギリまで僕は就寝していたんです……」
 何故か不思議探索パトロールの時は俺と誰が組もうとも定番コースとなっている気がする河川敷で、肩を並べてぶらつきながら、まるで月曜朝の通勤ラッシュの満員電車に乗り込もうとするサラリーマンのように肩を落としながらため息をつきつつ古泉は説明を始めて俺は思わず声をあげていた。
 よく見ればどこか自嘲と言うよりも自虐的な笑みを浮かべている。しかも俺に視線を向けることさえない。
 おっと、説明が遅くれたが、今回の午前の部は俺と古泉、SOS団三人娘とポニーハルヒで班分けされている。
 本来六人いるんだから三人ずつが妥当じゃないかと思ったならちょっとそれは甘いな。
 ポニーハルヒは俺か長門が傍にいないと気が狂ってしまいかねないくらい不安に支配されて泣き出しそうになるんだ。んな女の子を放っておける奴がいるなら俺はそいつを市中引き回しの刑に処したところで残虐非道と非難される言われはないだろう。
 と言う訳で、こっちのハルヒが長門とポニーハルヒをワンセットで見ることを提案したんだ。
 むろん、なぜ俺ではないけないか、という質問は呑み込んださ。
 いやまあ……というかその質問をすること自体に俺は身の危険を感じてしまったからなのだが……
 まあとりあえず今は古泉の話を聞いてやろうぜ。
「原因はもちろんお分かりですよね?」
 知らん。
 ……などとは言えんよな。と言うか古泉のこの触らぬ神に祟りなしっぽい雰囲気を前に誤魔化すことなんざできん。
「……ポニーハルヒか?」
「ご名答……あなたと彼女の仲良さげなことに涼宮さんが嫉妬している……と考えるのが一番妥当ですからね……なんたって佐々木さんの時と違って今回の《神人》は暴走に近いくらい暴れまくっていましたから……《神人》の暴走機関車状態なんて初めて見ましたよ……ああ……彼らも走ることができるんだ……とどこか的外れな感想を抱くほどでした……」
 そ、それはすまなかった。マジで悪い。
 俺にもこれは想像できるな。あの青白い巨人が周りの建物を殴って壊すんじゃなくて走りまわって蹴散らすんだ。さぞかし壮絶な光景なことだろう。
 しかしだな。ポニーハルヒが仲いいのは俺じゃなくて向こうの俺だ。向こうの俺を恨むならともかく、何で俺が悪者にならなきゃならんのだ? あと、お前だってポニーハルヒに冷たく当たるなんてできないだろ? あんな捨てられた子猫のような瞳で見つめられた日にゃ、おかしな趣味がない限り、絶対に庇護欲をそそられるってもんだぜ。
「確かにそうです……そしてそれは涼宮さんもそう思っています……ですからあんな凶暴な《神人》が生まれたんですよ……現実世界であなたやもう一人の涼宮さんに当たる訳にはいきませんからね……苛立ちまぎれを通り越して完全に怒り狂っいました……」
 古泉の自虐的な笑みはまったく崩れる気配を見せない。
「古泉、そこのベンチで寝てろ。俺は一人でしばらくぶらついてくる。集合時間ぎりぎりに着くくらいになったら迎えに来る」
「いいのですか?」
 俺の心ばかしの提案に、ここで初めて古泉は俺に視線を向けた。珍しく笑みが消え、虚をつかれた表情を見せている。
「仕方ないだろ。なんだかんだ言っても原因は俺だ。それにお前には何度か世話になっているし、ハルヒのご機嫌どりでも結構疲れているだろう。たまにはゆっくり休め。集合正午まででも二時間は楽に休めるし、今この季節はそんなに寒くない。むしろぽかぽか陽気が眠気をより一層誘うってもんだ。俺がお前の分もパラレルワールド入口探しをしといてやるぜ」
「それではお言葉に甘えまして――」
 呟くと同時に古泉はベンチに横になって、途端、すでに眠りに落ちていた。
 たまには一人でぶらつくのも気兼ねしなくていいってもんだ。
 俺は古泉を置いて、河川敷を北上し始めた。


 もっとも、やっぱりそう簡単に見つけることはできなかったがな。


 正午駅前集合時、やっぱり向こうも見つけることはできなかったらしい。
 無表情の長門の横に寄り添うように佇んでいるポニーハルヒは落胆の色を隠せていないし、こっちのハルヒは思いっきり苛立っていた。朝比奈さんに至ってはポニーハルヒに頭を下げっぱなしなのである。
 別に朝比奈さんが悪いわけではないのだが、ポニーハルヒの今にも泣き出しそうな表情を見てしまえば、朝比奈さんじゃなくても申し訳ない気持ちでいっぱいになるよな。
 つーわけで、こっちのハルヒのイライラ顔は自分自身に対してのものだ。
 現に「首尾は?」という質問に対する俺の「何も」という回答を耳にして何の文句も言ってこなかったんだからな。


 昼食も兼ねた喫茶店でこっちのハルヒは珍しく、俺と長門をポニーハルヒの両隣りに置いて、自分自身はポニーハルヒの正面に座り必死にポニーハルヒを元気づけていた。
 んでポニーハルヒも涼宮ハルヒ本人だ。自分のことだから今、目の前の相手がどれだけ懸命に自分を励ましてくれていることを察してやれるのもたやすいってもんだ。
 こっちのハルヒのおかげで、どうやらポニーハルヒに少し笑顔が戻ってきたときは俺も妙に嬉しかったぜ。
 もっとも、そんな俺の表情を目にしたこっちのハルヒからは殺気の視線を向けられたがな。
 さて、今度は午後の部だ。
 もちろんクジ分けする訳で長門とポニーハルヒはセットな訳だが――
 俺は心底、古泉に良かったな、と言ってやりたくなった。
 なんたって午後は俺と朝比奈さんと古泉になったんだ。
 これで午後も古泉は就寝決定だ。俺と朝比奈さんの二人で探索してくるからお前は安心して眠っていろ。
 もしハルヒが一緒にいようものなら古泉は絶対に無理をする。それで体を壊しちゃ元も子もないもんな。もしかたしたら今晩も、古泉言うところの暴走機関車《神人》を相手にしなきゃらんかもしれんし、それなら今はゆっくり休むといい。暴走機関車《神人》を発生させてしまったのは俺が原因なんだ。ハルヒは自分の力を知らない訳だから一緒に背負ってもらうことはできん。だったら俺がハルヒの分も古泉を気遣ってやればいい。
 俺はそのためにいる。ハルヒの無茶の尻拭いするために俺はSOS団にいるんだ。長門、朝比奈さん、古泉が自分たちの役割を果たしつつSOS団の活動に付き合っているんだ。俺だって自分の役割くらい果たさないとな。
「あの……キョンくん……ごめんなさい……あたしあんまり役に立てなくて……」
「いやぁ全然」
 二人で歩き出してしばらくしてから朝比奈さんがとっても沈痛な面持ちでいきなり謝罪されました。
 もちろん、俺にも何故朝比奈さんが悪びれたのかの理由が分かっている。
「大丈夫ですよ。ポニーハルヒだって朝比奈さんの笑顔に癒されているはずです。それで充分ですよ」
「でも……」
「心配いりませんって。それに今回の出来事は実質誰も何の役にも立っていません。ですから朝比奈さんだけが罪悪感を背負う必要なんてないですよ。と言うよりもみんな、朝比奈さんと同じ気持ちでしょうし、たぶん、ポニーハルヒも同じく俺たちに申し訳ないと思っていることでしょう」
 俺は気遣う笑顔を浮かべて言った。
 そうなんだよな。
 こと異世界となると宇宙的、未来的、あるいは超能力的ギミックはほとんど何も役に立たない訳で、実はハルヒの力もあまり意味を為さない。
 なぜならハルヒが変革できるのはこの世界か自らが創造した世界であって、パラレルワールドまでその力を及ぼすとは思えない。
 そんなことができるなら、ハルヒはこの世界に居やしない。とっくの昔に好き勝手に異世界を放浪していることだろうぜ。もちろん、俺やSOS団を巻き込んでな。
 これは古泉が言っていたことなんだが、どんなに不思議な力を持っていようともハルヒだってこの世界の一部だからなんだ。
 この理屈なら自身が存在する世界に干渉することはできても、異世界に対しては何もできない、ってことと同義語だ。
 もちろん宇宙人、未来人、超能力者についても同じことが言える。
 こいつらが存在するのはこっちの世界であり、こっちの世界以外の干渉力を持たない。
 事実、もし長門が異世界の扉を開けるならとっくに開いているだろうし、古泉にしたってハルヒが創り出す閉鎖空間以外の異空間に侵入できるならポニーハルヒを送ってやることだって可能だ。朝比奈さんが越えてくるのは時間であって空間じゃない。
 んで、もちろん俺には何の力もない。
 つまり、SOS団全員がポニーハルヒに対しては何の力にもなってやれないってことなんだ。
 それこそ、ハルヒの言った通りでパラレルワールドの入り口を見つけてやるくらいしかできないんだ。
 だから朝比奈さんだけが悪びれる必要はないってことだ。


 結局、午後も何も見つけることができなかった。
 俺とこっちのハルヒで見送った長門の横にいたポニーハルヒの背中はなんだか今にも泣き出しそうでいじらしく、できるなら抱きしめてやりたいという気持ちにさえ駆られたさ。もちろん俺だけじゃなくてこっちのハルヒもだ。
「なあハルヒ」
「なに?」
「明日は必ず見つけ出してやろうぜ」
「言われなくても分かってるわよ!」
 俺とハルヒはそんな会話を交わして今日は解散した。
 明日ももちろん、SOS団町内不思議探索パトロールの予定が入っている。
 しかしだな。
 このときばかりは、俺には前の記憶が残ってもいいから、去年の夏休み、15498回繰り返したあの二週間を昨日と今日だけでいいからもう一度無限ループしてくれないか、と見送るこっちのハルヒの背中を見つめながら心の中で懇願していたんだ。
 だってそうだろ?
 ポニーハルヒのあんな憔悴しきった背中を見てしまえば、二日間の記憶をリセットしてやりたい、って思うのも当然だろ?
 それに無限ループ日常で前の記憶が残るなら何をやって駄目だったかが分かるんだ。延々と二日間だけを繰り返したところで今度は前の二日間が無駄になる訳じゃないからな。
 などと普段はハルヒの力を億劫にしか感じてなかったてのに、都合のいい時だけ発動してくれなんて自分勝手なことを願いながら俺はベッドで横になっていた。
 今日も古泉は大変な思いをしているのだろうか、とも考えた。
 ところがだ。
 実は古泉は一つ、完全に間違っていた。
 ハルヒはハルヒであってハルヒでしかない。
 以前、頭の中で呟いたトートロジー。
 それを再び思い出す事態が俺に降りかかったのである。いや今回は俺だけではなかったがな。
 そうなのだ。ポニーハルヒも存在する世界が違うとは言え、涼宮ハルヒであってそれ以外の何者でもないのである。

 


 内気だろうが、インドア派だろうが、ポニーテールだろうが、紛うことなく涼宮ハルヒその人だったんだ。 

 

 

涼宮ハルヒの遭遇Ⅳ


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