第十五章



 朝比奈さん(大)と長門を見送ってから、俺は燭台を片手に小走りでハルヒたちのところまで戻った。それでも俺の肝試しの巡回時間は朝比奈さんの二倍近くかかっていたようで、待ち受けていたハルヒから罵詈雑言を浴びせられた。
「もう、あんたって本当にダメね。たかだか肝試しぐらいでみんなに迷惑かけるんじゃないわよ。遅すぎて、もう少しで見回りに行くところだったわ」
「すまん」
 俺はそのくらいしか言えなかった。疲れていたのだ。身体的にも、精神的にも。
 無論、疲れていたのは俺だけではなかった。いつもならしつこく説教を始めるだろうハルヒも今日はそれ以上の言及をしてこない。たぶん、こいつにしても夜中に俺につっかかる気にはならなかったのだろう。
 最初は肝試しだなんだと熱の入っていたハルヒも、時間の経過にともなって眠くなってきたようだった。
 俺の後に古泉がスタートしてからは、場の雰囲気は完全にだるかった。一応みんなで花火をやっていたものの、長門はもとより低テンションであり、朝比奈さんは花火片手にこっくりこっくりやりだす始末で、ハルヒにしても線香花火のほのかな明かりに照らされた横顔は少しうつろだった。
 そんなわけで花火にはろくに会話もなく、火花が散るパチパチという音や、夜風が林を切るヒュウという音だけが響いていた。
  俺も俺で話題提供する気にもならず、ただじっと黙考にふけっていた。考える内容は言うまでもない。さっき、あの二人と話してきたことについてだ。
 あの選択をしたのは正しかったのだろうか、と俺は考えていた。
 たとえば、ふと顔を上げてみる。すると朝比奈さんと長門の姿が目につく。この二人はまるで元の世界の連中と同じように見えるが、やはり元の世界の連中とは違うのだ。この二人は普通の人間であって、俺はこの二人とはどんな記憶も共有していない。ループする夏休みも映画撮影もハルヒの消失事件も、この二人は知らないことだろう。
 墓場の奥で、朝比奈さん(大)は言った。この世界と元の世界と、どちらがいいか選べ。
 そして俺はこの世界を選んだのだ。数々の事件を共に苦労してくぐり抜けてきた、元の世界の連中を見捨てて。それは本当に正しいことだったのかと。
 元の世界に戻るべきだったのだ、俺は。
 ふとした瞬間に、突然そんなことを思う。この一年を共にしてきた離れがたい仲間たちを裏切ったという罪悪感が、ものすごいスピードで俺の頭を駆け抜ける。そして俺は、長門に念を押されたにもかかわらず早くも後悔しているロクでもなしなのである。ハルヒの願いを真摯に受け止めてやることもできず、あれだけ俺に尽くしてくれた元の世界の連中を裏切り、そのくせ決断した後でどうしようもない後悔をしている。
 いっそのことハルヒが元の世界を選んでくれたらよかったのに、そうすれば何も悩むことはなかったと意味もなく思った。それが当てつけであるとは解っていても、俺はどうしようもなくて、自己嫌悪に陥った。
 そもそも俺が悪かったのだ。デパートの帰り際、ハルヒと話したときの、あの時の俺が。
 俺は顔を上げて正面でつまらなそうな顔をするハルヒを盗み見た。眉が寄って、伏し目で、唇が歪んでいる。雨の日にデパートへ行ったときのハルヒも、確かこんな顔をしていた。


 ――ねえキョン、正直言うとね……あたし最近、なんにもやる気が起こらないのよ。からっぽ、って言うかさ。今まで、こんなに気力がなくなったことなんて一度もなかった。


 あの時、デパートの帰りのハルヒのセリフが脳裏をよぎる。
 なんにもやる気が起こらないのよ。
 今思うと、なるほどあれは、ハルヒなりのSOSだったのかもしれない。ハルヒが自分のことを、茶化しもせずにうち明けるなんて滅多にないことだ。俺はその異常性を、ハルヒのSOSを見過ごしてしまった。その結果がこれだ。ハルヒは力を失い、元の世界は閉ざされて、しかもせっかく元の世界に戻るチャンスを俺は自ら進んで失った。自業自得にも程がある。
「あ、古泉くん帰ってきた」
 鬱々とした思考を断ち切ったのは、意外に明るいハルヒの一声だった。顔を上げると、墓場の向こうから燭台をぶら下げた古泉が歩いてくるところだった。
 古泉は俺たちのところまで戻ってくると、おフダをハルヒに手渡しながら苦笑した。
「残念ながら、幽霊とは出会えませんでした。くまなく探して回ったつもりなんですけどね。不出来な団員で申し訳ありません」
「そう……。まあ仕方ないわね。あたしだってそう簡単に幽霊と出会えるなんて思ってないわよ」
 俺は幽霊姿の古泉に近寄って耳打ちした。
「おい古泉、途中で変な連中と会ったりしなかったか? 怪しい人影を見たとか」
「怪しい人影……ですか? いえ、思い当たりがありませんね」
「何か変なことが起こったとかは?」
「いえ、ありません」
「ほう。ならいい」  
 古泉はわずかに怪訝そうな顔をしたが、すぐにハルヒの方に向き直った。ハルヒはバケツを持った長門、眠たげな目をした朝比奈さんを見回しながら、
「じゃあ最後に、みんなでここを一周して終わりにしましょうか。最終チェックよ」
 と言った。それから付け加えるようにして、
「あたしはいいにしとくわ。もうなんか眠くなってきちゃったし、本格的な調査なら後日に改めてやるしね」
 これについては誰も反論を飛ばさなかった。俺はむしろ歓迎したいくらいだ。何もしないでいる時間がこれ以上続くと、俺の自己嫌悪が取り返しのつかないレベルに達してしまいそうだった。
 俺はとっくに消えていた花火をバケツに投げ捨てて、ハルヒに続いた。



 結果的に、この夜、幽霊が出ることはなかった。
  全員で墓場を一周してみたが収穫はなし。ハルヒも大方予想していた通りの結果だったようで、それほど落胆したり憤慨したりする様子はなかった。疲れ切っていたのだろうと思う。
 現地解散にすればいいのに、ハルヒはわざわざ一同を引き連れていつもの駅前まで戻った。
 夜だったためか駅前の見慣れた景色はやけに新鮮に思われた。ところどころに立つ街灯は緑色の光を発していて、ある種幻想的な光景でもあった。夜にここに来るのは去年の夏ぶりであろう。
 ハルヒは駅前時計台の下、いつもの集合場所まで戻って全員を見回した。携帯を開けて時刻を確認すればなんともう二時半。実に一時間半も肝試しごっこにうつつを抜かしていたということになる。さすがに皆一様に疲れた顔をしており、平然とした顔をしているのは長門だけだった。
「じゃあ今日はここで解散にしましょう。また何かやることが決まったら電話するからね」
 まだ遊び足りんのかお前は、という合いの手を入れてやろうかと思ったのだが、口を開けたら声の代わりにアクビが出た。
 お疲れさま、と一同に会釈して、まず古泉が帰っていった。それに続いて朝比奈さんも小さく会釈をして背を向け、長門も静かに歩み去る。俺にしたって今日はとっとと帰りたい気分だったのだが、背後でハルヒがとすん、と腰を下ろす気配を察して、まさに「じゃあな」とでも言って歩きだそうとしていた足を止めた。
 いや、というか止まった。
 このままこの場を去ったら本当に最後だ、という危機感を本能的に抱いていたのかもしれない。とにかくこのハルヒをそのまま一人にしておいてはいけないと思った。
「どうかしたか」
 俺は振り返り、石段に腰掛けたハルヒを見下ろした。その眉は、やはりわずかに寄っている。
「ううん、別に。……ただ、ちょっと疲れただけ」
「ほう」
 俺はハルヒの隣に座ろうかと少し考えてから、やっぱりやめて、そこらへんの柱にもたれかかるという姿勢を選択した。こういう時、隣に座って真摯に相手の話を聞ければ、と俺は少し思う。でもそういうマネはどうもできんのだ。俺には。
 ハルヒはつまらなそうな顔をして自分の足もとを眺めながら呟いた。
「なんかさあ、また、終わったなあって感じ」
「終わった? 何が」
「肝試しに決まってるじゃないの。今日も終わってさ、ほら、太陽が昇ってきてるわよ」
「なんだと?」
 一瞬、あたりをキョロキョロしてしまった俺にハルヒはバカ、と呟いた。
「ねえキョン、こないだ一学期が終わったなあって思ったじゃない? ほんとに、ついこの間よ。そしたらみんなで合宿行って、合宿も終わっちゃったと思ったら今度はプールに行って、今度は勉強会。それからみんなで出かけたりして花火も見たし、今日は肝試しもやったわ。でも結局、ああ全部終わっちゃったなあって感じ。うまく言えないけど」
「…………」
 俺はどう答えたものか解らなかったが、ハルヒの気持ちはよくわかった。日めくりカレンダーを破るときの、あのなんとも言えない焦り。夏休みが減っていくのが確実に解る瞬間。あの感覚だ。 
 ふふ、とハルヒは息をもらすような笑い声を立てた。何がおかしいのかと思ったら、ハルヒはまた話し出した。
「それでさキョン、そんくらいならまだいいのよ。夏休みぐらいなら。けどあたしね、きっとこれから何があっても、『終わっちゃった』で済ましそうな気がするのよ。別に後悔とか未練とかそんなんじゃなくて、でも何か物足りないっていうかさ。わかる? キョン」
「ああ」
「あたしさ、たぶん高校二年生が終わっても、部活を引退しても、高校を卒業しても、いつも、ああ、終わっちゃったで済ましそうなのよね。やる前はすごく期待してたのに、終わってから振り返ってみたら案外たいしたことなかった、みたいな。ねえキョン、なんかそれって、すごく不毛な話じゃない?」
「まあ、もうちょっと感想があってもいいかもな」 
「うーん。ていうかね、しっくりこないのよ。現実で物事がせわしなく動いて流れていくのを、あたしは淡々と眺めているだけ、みたいな。何やってても、本当に参加してるって実感がないのよ」
 俺は何も言えずに黙っていた。街灯の緑色に照らされたハルヒの表情は、不思議に穏やかだった。
「それでさ、ずっとこのままだったら、みんなと一緒に遊んだことも、ああ終わっちゃったなあで済ましそうに思えてきてね、でもなんかそんなのって嫌じゃん。時間が淡々と過ぎていくのに任せて部活も高校も終えるなんて。それだからねキョン、今年の夏休みはあたし、後で絶対に後悔しないように、遊びまくってやるって思ったわよ」
「ほう」
 俺は短い相づちを打った。そして、古泉の言っていた「涼宮さんが生き急いでるように見える」ということが一瞬、解ったような気がした。
「でもね。そうやっていくらみんなで遊んでも、全然だめだった。夏休みはどんどん減ってくし、何やってもいまいち満足できないし、まだ遊び足りないし、それでいて遊べば遊ぶほど焦るのよ。そんなことしてるうちに夏休みはなくなってくし、みくるちゃんなんか夏休みが終われば部活に来れなくなっちゃうしね。だから今のうちに何かやっとこう、夏休みが終わる前に何かやろうと思って考えるんだけど、何にも思いつかないわけ。それでまたあたしは焦るのよ」
「わかる」
 意識外に、俺はポツリと呟いていた。 
  ハルヒの感じている焦りが、俺の感じている焦りとまったく同じ種類のものだったからだ。俺だって、このままこんなくだらないことをやっている間に、高校時代なんてのはすぐに終わってしまうものだ、と最近よく考えていた。そして、追い立てられるような焦りを感じる。今のうちに何かをやっておくべきだ、何かをやっておくべきなのに、今さらやることなんて特別に思い浮かばなくて、俺はまたげんなりとするのだ。そしてまた、一人で焦っている。
 その焦りを、ハルヒも感じていた。 
「不安なのかしらね、あたし、未来が」
 独り言のようにハルヒが言った。そのセリフとハルヒのイメージがあまりに不釣り合いで、俺は少しひるんだ。
「なんかさ、今やっと不安って意味が解った気がするのよ、キョン」
 すごく嫌な気分、とハルヒが呟いた。そして俺は、確信した。 
 今度の事件の根本的な原因は、このハルヒの不安にあったのだ。
 未来に対する漠然とした不安。ハルヒはそれをもみ消そうと、この夏、必死になっていたのだ。プールに行ったりデパートに行ったり、バーベキューをやったり花火を見たり。ところが未来に対する不安はなくなるどころか一層強まって、焦り、それをもみ消すためにまた必死にはしゃぐ。古泉がハルヒを見て生き急いでいると言ったのは、きっとこのことだろう。
 そして、世界の封鎖。
 きっとこれが、不安から逃れるための最終手段だったのだ。まだ足りない、まだやっておくべき何かがあると思うなら、満足できるまで一緒にいればいい。そうすれば未来は確かなものとなって、不安や焦りは軽くなる。
 そして、願望を思い通りにする力を、ハルヒは持っていた。 
 ハルヒが望んだのは、役割が終わればいなくなってしまう宇宙人なんかじゃなかった。いずれ未来に帰ってしまう未来人でもなかった。ハルヒが望んだのは、一緒にいることで不安や焦りを消し去ってくれるような、ずっと一緒にいられる友達だった――。                

 そういうことなのだ。


 俺は天を仰いで深く息を吐き、しばらく夜風に吹かれていた。そして、夏休みが始まってからのありとあらゆる出来事を、頭の中で思い返した。
 合宿に始まり、プール、デパート、勉強会、ハイキング、映画鑑賞、バーベキュー……。
 走馬燈のように次々と繰り広げられる光景の中で、ハルヒはやはり一点の曇りもない笑顔だった。ハルヒはきっと楽しいことこの上なかっただろうし、俺だって楽しかった。そして、こんな日々がずっと続けばいいと思っている。ハルヒにしても同じだろう。
 でもなあ、と俺は頭の中でハルヒにツッコミを入れる。
 ずっと変わらずにSOS団の五人で固まって、それって本当にいいことなのだろうか。 
 楽しいだろうとは思う。どこに行っても何をやっても、たぶんこのメンバーなら楽しめる気がする。
 でも、未来に対する不安や焦りから逃げながら生きるのは、どうなんだろう。誰もが向き合うはずの嫌な感情から目を背け続けるのは。俺には、いいこととは言い切れない。そんなんじゃ将来、いつか行き詰まってしまいそうで。
 そう、俺は思うんだけどな。じゃあ、お前はどうなんだ?
 ハルヒはずっと俯いていた。ふてくされたような表情だった。
「おいハルヒ」
 俺がその背中に呼びかけると、ハルヒは何よ、と答えた。前を向いたままで。
「ちょっと尋ねるけどな、お前の夢はなんだ? お前さ、将来、何をやりたいんだ?」
「……はあ?」
 俺の質問に拍子抜けしたのか、ハルヒは後ろを振り返って「バカじゃないの」というような顔で俺を見た。バカじゃねえよ。本気だよ。もう少しマシな話の振り方があったかもしれないが、これしか思い浮かばなかったんだ。 
 俺が真面目な顔をしていると、ハルヒは本気で訊いているらしいと悟ったのか、憮然とした顔で前を向いた。そして、
「…………」
 黙り込んでいた。                                                               
 やっぱりな、とか俺は思う。
 ある程度は予想していたことだ。ハルヒはこの質問には答えられない。
 ハルヒの夢はなんだ? 宇宙人を探し出して、一緒に遊ぶことか。違う。そんなのがあいつの夢じゃないんだ。確かに以前はそうだったかもしれない。お前の夢は何だと訊かれて、宇宙人や未来人や超能力者と遊ぶことと真面目な顔をして答えられただろう。
 でも今のハルヒには、そんなことを恥ずかしげもなく言い張ることは、たぶんできない。この一年ちょっとの間に、ハルヒはハルヒなりに、現実を諦めて受け入れるということを覚えたのだろう、と俺は思う。宇宙人はいくら探しても見つからないし、自分の力でどうにもならないことは多い。ハルヒはそのことを悟ってしまったのだ。その悟りは、今回の事件の原因にも深く関係しているだろう。
 それは寂しいことだ。現実に対して徹底的に背を向け続けてきた奴が、今まさに、その現実の前に屈しているからかもしれない。 
「お前、たぶん、何にでもなれるぜ」
 俺は言った。
「作家だろうが弁護士だろうが、パティシエだろうがメイドだろうが、お前なら、何にでもなれる」
「何であんたにそんなことが解るのよ」
「そんな気がするんだ」
 バカみたい、とハルヒは呟いた。
 でもハルヒ、バカな話じゃねえんだよ。こいつならできる、と俺はけっこう真剣に思う。もともと器用な奴だし、こいつがその気になれば宇宙人を呼び寄せるくらいのことはするのだ。
 ただ、今のハルヒは「その気」になっていない。
 たぶん今のハルヒは、宇宙人や未来なんかより、とにかく現在の不安をどうにかしてほしいという思いなのだろう。その気持ちはよくわかる。
 でも、以前のハルヒはそんなんじゃなかった。不安や焦りなんか後ろに置き去りにしていくくらいのエネルギーがあった。 
 あの時くらいの力強さでいて欲しい。
 誰にメイワクをかけようがこの際かまやしないから、夢を見続けていてくれ。不安や焦りなんぞで縮こもってるハルヒなんて、絶対的に嘘だ。他人に迷惑ばっかかけて、叶いっこない夢を本気で夢見て、それでも絶対に下を向かず、ひたすら夢を追いかけてすさまじいエネルギーを発している。そのエネルギーこそがハルヒそのものなのである。それがなかったらハルヒは、もはやハルヒではない。 
 しかし、と俺は予感した。
 たぶん、そのエネルギー――夢を追いかけ続ける強烈なエネルギー――はこの世界では生まれてこないだろう。ハルヒが仲間内の狭い世界だけで満足している、この世界では。ハルヒのエネルギーが内側へしか向いていない、この世界では。
 この世界では、ハルヒは夢を見ることがないだろう。
「夢だけ見てろ」
 俺は言った。なに、とハルヒが小さな声で呟いた。
「なあハルヒ、これは俺が勝手に思ってることだけどな、お前なら、願ってればどんな夢でも叶っちまう気がするんだ。誰でも持ってる能力じゃない。でも、オリンピック金メダルだろうがノーベル賞受賞だろうが、お前ならきっとできる。それこそ、いつかは宇宙人たちと出くわす日が来るだろう。だから、夢を見ろ、ハルヒ。夢のないお前なんか、死んだ太陽とおんなじだからな。消化試合のカスみたいな毎日だ」
「なにその意味わかんないたとえ。だいたいあんたさっきから何が、」
「あと、それとな」
 俺はハルヒの言葉を遮って言った。
「何度も言うようだが、俺は絶対にこの部活やめねえからな。引退するまでは生徒会に何を言われようとお前の側に立ってやる。もちろん長門や朝比奈さんや古泉にしても同じだ。あいつらだってこの部活に愛着があるし、なんだったら卒業してからでもちょくちょく五人で集まればいい。誰もお前を裏切ったりしねえよ。だから、お前はいつも超傲慢な自信満々野郎でいればいい。ちっとぐらい誰かに迷惑かけても全然かまわないからさ。そうすりゃ、お前のところには自然に人が集まってくる」
「…………」
 ハルヒは何も言わなかった。
 ちょっと下を向けばハルヒがどんな表情をしているか見えるのだが、なんとなく躊躇われてやめた。
 そして結局、俺もハルヒに憧れている連中の一人なのだ、ということを強く思った。
 ハルヒの発するエネルギー。夢を追いかけ続ける力。俺はいつの間にか、その力にすっかり魅せられていたのだろう。口から言葉が勝手に出てくるのに任せていたら、そう気づいた。
 ハルヒという名の巨大恒星の引力に巻き込まれて嫌々ながら公転を始めた俺という惑星は、その恒星をまさに失わんとする今、駆けずり回ってそいつを復活させようと必死になっている。なんとも因果な話だ。
 俺は石段を下りて、振り返らずに言った。
「そういうことだよ、ハルヒ」
 しかしたぶん、こいつに憧れてる奴は、こいつや俺が想像している以上に多い。もちろん、あの三人だってそうだ。
 ハルヒは黙っていた。
 俺はじっと座り込むハルヒを尻目に、自転車の方へと歩いていった。



第十六章   TOP


|