【このSSは「疑惑のファーストキス」の続編です】

 

「はっきり言いましょう。
 いい加減にして下さい。
 我々『機関』だって、貴方と涼宮さんのプライベートに踏み込みたくはありません。
 ですが、貴方の特殊な性的嗜好のために世界が崩壊することは避けていただきたいのです」
「あのぉ」
朝比奈さんがおずおずと手を挙げた。
「『とくしゅなせーてきしこー』って何ですか?」
朝比奈さん! けがれ無きあなたが、変態・古泉の話など聞いてはいけませんよ!
俺の血を吐くような叫びはまるっきり無視され、古泉はマイエンジェルの耳元でゴニョゴニョと話し始めた。
まるで、硫酸にひたしたリトマス試験紙のように、朝比奈さんの顔が見る見るうちに真っ赤に染まっていった。
「キョ、キョン君って、ヘ、ヘンタイさんだったんですね」
朝比奈さん、言い方は大変可愛らしいのですが……
おいこら、古泉、てめえ、俺の朝比奈さんに何を吹き込みやがった。
「『機関』メンバーによる推測をお伝えしただけです」
この野郎……


兄貴のゴタゴタに巻き込まれ、なぜかハルヒと俺の婚約が決まり(「朝比奈さんの妊娠」参照)、その後小さな誤解(「疑惑のファーストキス」参照)はあったりもしたが、ハルヒと俺、そしてSOS団のみんなは仲良く高校生活を楽しんでいた。
平日、ハルヒは毎日俺の家に来て俺と妹の家庭教師をし、飯を食った後、俺が自転車で送っていっていた。
ただ、雨が降ってくると俺は夜道を歩いて往復しなければならず、結構大変だ。
そこで双方の親が相談し、平日はハルヒが俺の家に泊まり週末は俺がハルヒの家に行くことになった。
ハルヒの両親は仕事で毎晩遅いので年頃の娘が夜一人で留守番しているというのは気がかりだったらしく、俺の家に泊まることは、むしろ渡りに船だったようだ。


もちろん、ハルヒは妹の部屋で寝泊まりするのだが、仮にも婚約者と一つ屋根の下で暮らすのは……
しかも、ハルヒの奴がわけのわからんことをしやがるし……


朝比奈さんから「ヘンタイさん」と呼ばれる直前のことだ。
部室で、
「あ、あのぉ……キョン」
な、なんだ、ハルヒ。
今日のハルヒは全く元気がない。
「今日はウチのお母さんから頼まれた用事があるから、一度ウチに立ち寄ってから帰るわね。
 お義母さんにそう伝えといて」
あ、ああ、わかった。
ハルヒがウチのオフクロをお義母さんと呼ぶようになって久しい。
ちょっと気恥ずかしいがな。
「みんな、悪いけど、先に帰るわね、さよなら」
「さようなら」「さようならぁ」「……」
さて、古泉、オセロでもやるか。
「いえ、その前に白黒つけておきたいことがあります」
なんだ、思い詰めた顔をして。


そして、古泉が言ったのが冒頭の発言だったわけだ。


古泉の爆弾発言とその後の耳打ちは、朝比奈さんの持つ俺への好感度をマリアナ海溝よりも深く沈めてしまったようだ。
朝比奈さんは、俺と視線を合わせようともしない。
コラ、古泉、お前は何を言い出すんだ!
「ここ最近、2回にわたり超巨大な閉鎖空間が発生しました。
 昨夜が3回目です」
アッ……
朝比奈さんも小さくうなずき、読書中だった長門もこちらを向いた。
隠し立てはできないよな。
「どうやら心当たりはありそうですね」
い、いや、その……
「いずれも休前日を除く平日の夜23時から1時にかけてです。
 涼宮さんは貴方の家に泊まっていた晩ですね。
 こんな時間帯に涼宮さんが閉鎖空間を生み出すということはどういうことでしょうか?」
ハルヒが悪い夢でも見たんじゃないか。
「ほー、シラを切るおつもりですか」
あー、朝比奈さんと長門の視線が痛い。
古泉はどうでもいいが。
「涼宮さんが貴方の家に泊まるようになって大分たちました。
 強い愛情で結ばれているあなた方のことです。
 当然、既に肉体的にも結ばれていることでしょう」
朝比奈さんが再度小さくうなずいた。
世間様でもそう思っているだろうな。
「別に恥ずかしがることはありません。
 健康な男女なら当然のことです。
 むしろ、もしそうでないとすると、あなたは、ゲイかホモか同性愛者ということになります」
……その3つはどう違うんだ。
「あの魅力的な涼宮さんと愛し合う。
 それは我々も望んだことであり、問題はありません。
 しかしです!
 その時に閉鎖空間が生まれたとすると話は一変します!
 貴方は涼宮さんに極度のストレスを与える行為を行った。
 そう推測せざるを得ないのです。
 現に今日の涼宮さんは全く元気が無い。
 以前の2回の時もそうでした。 
 さてその『極度のストレスを与える行為』は何か?」
な、なんだよ……
「今の涼宮さんはあなたに夢中です」
そ、そうかな?
「ニタニタしないで下さい。
 その貴方が特殊な性的嗜好を涼宮さんに押しつけても、涼宮さんは受け入れてしまうでしょう。
 しかし涼宮さんは内心では著しいストレスを感じた、それが真相でしょう」
朝比奈さんがポツリと、
「……涼宮さんがかわいそう……」
だから、朝比奈さん、古泉が言っているのは妄想ですから。
「いいえ、『機関』メンバーによる推測をお伝えしただけです。
 あなたも往生際の悪い人ですね。
 このままだと、僕は気が進みませんが、『機関』にお連れして、森さんの厳しい尋問を受けていただくことになりますが……
 僕が言うのもなんですが、森さんの尋問は限りなく拷問に近いレベルですよ」
ほー、森さんの拷問か、ちょっと興味あるな。
「……貴方はそちらの趣味でしたか、いやはや」
い、いかん、この間見たマニアックなアダルトDVDの影響が出てしまったか……
朝比奈さん、ジリジリと後ずさりしないで下さい、お願いですから。
古泉、断じて俺はノーマルだぞ。
ハルヒに『特殊な性的嗜好』を押し付けたことなど一度もないぞ。
「そこまで言うなら、『機関』まで御足労下さい。
 それほど時間はかからないと思いますよ、貴方が全てを白状するまでに」
空気が冷たい。
どうやら、朝比奈さんの俺への好感度は海溝の底を突き抜けマントル対流に飲み込まれたようだ。
長門の視線も軽蔑の念が感じられるのは俺の気のせいか。
しかし、長門、お前は『特殊な性的嗜好』を理解しているのか。
よい子はそんな本を読んじゃダメだぞ。
何はともあれ、古泉はともかく、朝比奈さんと長門の誤解は解いておきたい。
俺は渋々話し始めた。


ハルヒが平日俺の家に泊まることになった時は、俺は期待でそりゃもうドキドキしたものさ。
何と言っても、正式な婚約者だから、その……まあ、なんだ、なるようになっても誰も文句はあるまい。
兄貴の教訓を生かし避妊だけは注意しようと思っていたがな。
しかし、実際にハルヒが泊まるようになると、ハルヒと……ひ、一つになるのは、意外と難しいことがわかった。
なにしろ、俺の部屋の隣は妹の部屋で、廊下を隔てた向かいの部屋が両親の部屋だ。
安普請で大きな音をたてれば筒抜けのこの環境でこっそりコトをいたすのは、なかなか抵抗感がある。
ましてや、よその家に泊まっているハルヒはなおさらのことだろう。
俺の部屋に、昼夜を問わずノックもせずに入り込んでくるハルヒだったが、さすがに俺のところに夜這いをかけてくることは無い。
周囲では、毎朝俺の家から一緒に登校してくるハルヒと俺を見て『半同棲している』とか言っているようだが、ハルヒと俺はまだ一度も……していない。


「エッ、じゃあ、涼宮さんもキョンくんもまだきれいな体なんですか!」
そうですよ、朝比奈さん、あなたと同じですよ。
「そんな話は信じられませんね。
 現実に閉鎖空間が発生しているのですから」
ここで、ずっと黙っていた長門が、
「…今、サーチした。 涼宮ハルヒは処女。 処女膜が存在している」
長門、俺をかばってくれたのはありがたいが、ハルヒの処女膜について語るのはこれが最後にしてくれよ。
「…了解」
「そうですか。
 長門さんがおっしゃるのなら確かでしょう。
 ですが、性行為を行わなくても、いろいろとできますからね」
おいおい。
朝比奈さんが涙目で、
「……キョンくん、やっぱり、涼宮さんのことを縛ったりしたんですか……」
古泉、後で体育館の裏に来い。
全く、お前は俺の可愛い朝比奈さんに何を吹き込んでいるんだよ。
「『機関』メンバーによる推測をお伝えしただけです」
朝比奈さん、俺は神に誓って怪しいことはしていませんからね。
「キョンくんはヘンタイさんじゃないですよね」
はい。
「では、なぜ閉鎖空間が生まれたのか、そこのところを我々に説明していただけませんか」
うーん、仕方ないな。
実は俺もわけがわからないんだが……


………
……


俺も健康な男子だからな、毎晩、壁一つ隔てた妹の部屋でハルヒが寝ていると思っただけで悶々としていたさ。


二週間ほど前のことだった。
部室でハルヒがテレビ番組の真似をして効き缶コーヒーをしただろう。
それぞれ一口づつだったとはいえ、結構な数の銘柄の缶コーヒーだったから、飲んだコーヒーの量も相当なものだった。
あれを全部買って来させられたんだからな、しかも俺の財布で。
ああ、いいんですよ、朝比奈さんは気にしなくても。
結局は誰もろくにあてられずに終わったな。
あの晩、普段からコーヒーをあまり飲まない俺はなかなか寝付けなくて、ちょうど12時前後に、水を飲もうと思い一階の台所に降りていった。
すると、そこにパジャマ姿のハルヒがいた。
「どうしたのよ、キョン」
「お前こそどうした、ハルヒ」
「コーヒーを飲み過ぎたらしくて目が冴えちゃって」
「俺もだ。だから反対しただろう」
「でも、あんたは夜眠れなくなる、とは言わなかったじゃない」
「口を尖らせて言うなよ」
といった具合で話をしていたのだが……
「な、なあ、ハルヒ」
「なに?」
「ここで立ち話もなんだから、お、俺の、へ、部屋に来ないか」
「エッ……う、うん……」
ハルヒは真っ赤になっていた。たぶん、俺もそうだったろう。
二人とも無言のまま階段を上がり、俺の部屋に入り、ベッドに並んで座った。
そして、俺はハルヒを抱き締めてキスをした。
それまでに何十回もキスはしていたが、あの時はガチガチに緊張していたな。
そのまま、ゆっくりとハルヒの体をベッドに横たえた。
俺が声を震わせながら、
「ハルヒ、いいか?」
と聞くと、
「うん……電気は消して、恥ずかしいから」
と、あのハルヒが蚊のなくような声で言った。
多少残念ではあったが、俺は部屋の電気を消した。
そして、改めてくちづけをした後、パジャマのボタンを外していった。
驚いたことにハルヒはノーブラだった。
(ここで真っ赤になって話を聞いていた朝比奈さんが小声で「女の子の半分以上はブラを外して寝るんです」と言った。
 俺は「では朝比奈さんは?」と聞いてみたかったが、それを聞くと好感度がさらに急速に低下し地球の反対側まで突き抜けそうだったので自重した。)
ハルヒの胸を……そのなんだ……あ、愛撫し、パジャマの下の方と、パ、パンツを脱がした。
改めて断っておくが、ハルヒは一切嫌がる素振りは見せていなかったぞ。
むしろ腰を軽く上げ、俺がもたついていたのを助けてくれたぐらいだ。
部屋の中は真っ暗なんだが、多少は目も慣れてきてハルヒの白い裸体がきれいだったな。
ここで俺は避妊のことを思い出した。
あわてて机の引き出しを開け、コンドームの箱を取り出したその時だ。
俺は脇腹に強い衝撃を受け、そのまま水平方向に移動した。
確実に1mは吹っ飛んだんじゃないか。
言うまでもない、ハルヒが俺を蹴り飛ばしたんだ。
ハルヒは小さな声で「キョン、ごめん」と言うと、パジャマと下着をつかんで、妹の部屋に行ってしまった。
俺か? 俺は痛む脇腹を押さえながら寝たさ。



……
………


これがその日の晩に起きた全てだ。
「確かに最初に超巨大な閉鎖空間ができた日時と一致しますね。
 ですが、涼宮さんの行動は少々おかしいですね」
「涼宮さんも初めてだから怖くなってしまったのでしょうか?
 気持ちはわかります……」
「ですが、涼宮さんも結ばれることを望んでいたはずですし……貴方の官能小説もどきの話ですが」
失礼な奴だな、せめて青春小説ぐらいのことを言えよ。
「その小説もどきの話ですが、何か隠してはいませんか」
いや、これが真実だ。
「キョンくん……涼宮さんの……お、お尻に、興味があったとか……」
朝比奈さんが手で顔を覆いながら、俺に尋ねた。
古泉、このガチホモ!
「『機関』メンバーによる推測をお伝えしただけです」
どうやら今日がお前の命日になりそうだな。
もし覚えていたら毎年線香の二、三本は手向けてやるから成仏しろよ。
間違っても紅い玉になって飛び回るんじゃないぞ。
朝比奈さん、繰り返して言いますが、俺は至ってノーマルです。
古泉が言うような、そ、そんなこと絶対していません。
「…彼が回想していた間、脈拍や発汗状態に大きな乱れがあったのは、朝比奈みくるによる女性の就寝時のブラジャー着用の有無についての発言に反応した時のみ」
朝比奈さん、べ、別に他意はないんです……ゴメンナサイ……
「…その他はほぼ平静を保っており嘘をついているとは思われない」
長門が嘘発見機になってくれると思わなかった。
助かったぜ。
「そうですか……
 しかし、そうすると、涼宮さんの行動の理由がいよいよわかりませんね」
そうだろう。
「うーん、そうですね」
朝比奈さんも首を捻っている。
「…あと二回閉鎖空間が発生した時のことを詳しく話して欲しい」
ウン? 長門が聞きたがるとは思わなかったが。
何か気づいたのか。
「…私の推測は後で話す。 まだデータ不足で仮説の一つに過ぎない」
俺はその後の二回の時のことを話した。
似たような話なので割愛するが、ハルヒを俺の部屋に入れて、いざコトに及ぼうとした時に殴られたり、突き飛ばされたりして、ハルヒが妹の部屋に戻ってしまった。
その時か翌朝にハルヒがすまなそうな顔で「ごめんね」と言ったのも同じだ。
長門はいつも通りの無表情のまま聞いていた。
朝比奈さんには刺激が強すぎたのか、途中で何度も両手で耳をふさいでいた。
「…涼宮ハルヒがあなたとの性交渉を拒んだ理由の推測がついた」
「「「エッ?」」」
思わず三人の声がハーモニーを奏でた。
この件だけは長門の力も及ばないと思っていたのだが……
長門はハルヒのパソコンを立ち上げると例の調子でキーボードを叩き、一つのフォルダを表示した。
隠しフォルダにしてはいたようだが、長門の前ではその程度のプロテクトは薄紙一枚ほどの防御にもならない。
古泉は画面を見て、
「動画のようですね、こんなに大量に」
長門は無言で、ファイルの一つを起動した。
「キャッ」
朝比奈さんは可愛い悲鳴をあげた。
「エッ」「なんだ、これは」
古泉と俺も思わず声を出した。
動画の中身は、無修正の洋モノのエロ動画だった。それだけなら、正直俺も見たことがないわけではない。
しかし、この動画に出てくるアレは、とにかくデカいのだ……
「…このファイルだけでなく、全ての動画の男性器が巨大」
「や、やだ、こんなの、壊れちゃう」
朝比奈さんに、何をどうすると何が壊れてしまうのか、じっくりお聞きしたいところではあるが、ここはスルーするのが紳士というものだろう。
なんだって、アイツはこんなものを……
「…涼宮ハルヒはあなたを理想化している。
 野球大会の時がそうであるように、あなたが特別な存在であることを願っている。
 この星の住人は、思春期と呼ばれる時期に、主として同性の友人から性的な知識を得る」
まあ、そうだな。男子中高生のエロ話というのは……
「…しかし、涼宮ハルヒの場合、中学生の時には孤立した存在。
 現在も、私と朝比奈みくるでは、性的な知識を得る相手としては著しく不適当」
それはそうだ。
朝比奈さんと長門とハルヒがエロトークをしている姿は想像がつかん。
「…よって性的知識に乏しい。
 そこで涼宮ハルヒはインターネットを通じて情報収集をしようと考えた。
 しかし、涼宮ハルヒの幼く偏った性的知識とあなたを理想化する気持から、あなたの男性器も巨大なもののはず、という『非常に誤った』無意識の願望が情報収集に歪みを与えた」
おいおい、俺のだって、あんなに大きくはないが、それなりに……
す、すみません、朝比奈さん、そんな目で見ないで下さい。
「…その結果がこれ。
 これらの動画を見るうちに、涼宮ハルヒの心の中に男性器に対する恐怖の念が生まれた。
 あなたと性交渉を行いたいという気持ちと、男性器への恐怖感が矛盾した行動を生じさせた」
……ハルヒ……お前バカか……
「そうでしたか」
おい、古泉、これで俺が無実だとわかったろう。
朝比奈さんに滅茶苦茶なことを吹き込みやがって。
お前の罪は万死に値するぞ。
「……それはそれとして、涼宮さんの誤解を解かないと同じことの繰り返しですね」
「…対策は簡単。あなたの男性器をぼっk「長門、ありがとうよ」」
朝比奈さんの前でのこれ以上のエロトークは俺が許さん。
ここまでわかれば俺でも解決できる。
「では、後はあなたのお任せするとして、今日は解散しましょうか」
古泉、この一件が片付いたら処刑を行うから、辞世の句を考えておけ。
「……はぁ」


「キョン、何よ、これは!」
「谷口が貸してくれたDVDだが」
「あたしというものがありながら、こんなエロDVDを借りてくるとは何事よ!
 ……そりゃあ多少は欲求不満なのかもしれないけど……
 ……は、裸が見たいのなら、み、見せてあげるわよ……
 ……だから……」
最初は威勢が良かったのだが、徐々に小声になってきた。
さすがのハルヒも、自分が俺の求めに応じていないことが一因ではないかと思いトーンダウンしたようだ。
「谷口から押し付けられただけさ。
 ハルヒ、興味はないか。 一緒に見るのならいいだろう」
「一緒にって、エロDVDを?……エロキョン!」
「カップルで見るというのはごく普通のことのようだぜ。
 だから、谷口が気をきかせて貸してくれたんじゃないか」
「そ、そうなの?」
「妹が寝たら俺の部屋に来いよ」
「……う、うん」
よし、第一段階はクリア。


夜になった。
「キョン、起きてる?」
「ハルヒ、お前もノックをしてから部屋に入る習慣を身につけろよ」
「お前『も』って、他にもキョンの部屋に入った子がいるの?」
心配そうに言うなよ。
「妹だよ。頼むからアイツにもノックすることを教えてやってくれ」
「あんたが部屋で変なことをしてなければ別に困らないでしょう」
「変なことって何だよ」
「……さあ、DVDを見ましょう」
誤魔化しやがった。
「ほら、イヤフォン」
「こんなので聞くの?」
「あえぎ声というのは結構でかいからな」
「……エロキョン」
「さあ、始めるぞ」
というわけで、夜のDVD鑑賞会が始まった。
このDVDを入手するのは、それなりに大変だったんだぜ……


………
……


「なあ、谷口、頼みがあるんだが」
「うん、なんだ?」
「お前のDVDコレクションを貸して欲しいんだが」
「…………」
なんだ、その不思議な生き物を見るような目は。
「キョン、お前、毎日涼宮の裸をナマで見て、毎日涼宮とエッチしているんだろう。
 なんで、哀しい独り者のためのDVDを必要とするんだよ」
まあ、そう思われていても不思議は無いよな。
「あの涼宮の体に発情しないとしたら、そいつはEDかインポか勃起不全だ」
だから、その3つはどう違うんだ……って言うか、その言い方は、はやっているのか。
まあ、いいや、ここで真実を告げても信じてもらえそうもないしな。
「いや、ハルヒとはうまくいっているさ。
 ただなあ……」
「?」
「二人とも初めてだったから体位のバリエーションがそのぉ……」
俺が必死で考えた口実だ。
「ああ、そういうことか」
谷口、破顔一笑。
「まったく初心者はこれだから困る」
何を偉そうにしていやがるんだ、コイツは。
「同じ体位でやりまくって、飽きてきたんだろう……チクショー」
「いや、まあ、そんなところだ」
「この野郎……まあいい、友人のよしみだ、どんなDVDが欲しいんだ?」
俺は谷口に耳打ちした。
「それはまた……涼宮の趣味か?」
「あまり深く考えないでくれ」
「よし、学食5回で手を打とう」
「いいだろう」
やれやれ。



……
………


という経緯を経て谷口から借り出したDVDを再生し始めた。
ハルヒは、照れ隠しか、
「あの男優、もうちょっとイケメンを使えばいいのに」
とか、
「画像が粗いわね」
とか、
「カメラワークがイマイチね。 あたしが監督なら許さないわ」
とかほざいていたのだが、徐々に佳境に近づくにつれ口数が少なくなっていった。
そしていよいよセックスシーン。
男優と女優の絡みが始まった。先に女優が裸になった。
谷口には無修正モノを頼んだので、モザイクはかかっていない。
そうでないと意味が無いからな。
そして、いよいよ男優が裸に……
「エッ……」
ハルヒが画面を見てきょとんとしている。
男優のイチモツはまあエロDVDで見る標準サイズだ。
(日本人男性の平均サイズがどの程度か俺も正確なところは知らないが)
「あ、あれ……」
俺はハルヒの困惑に気づかない振りをして、
「サイズは並だな……」
と、ハルヒに聞こえるようにつぶやいた。
「な、並、あれが……」
「ハルヒは男のモノをナマで見たことがあるのか?」
「な、な、無いわよ、そんなもの!」
そんなものとはご挨拶だな。
「俺のも、あのぐらいだ」
「そ、そう……」
普通なら俺もこんな会話をハルヒとは間違っても交わせないが、ここをクリアしないと、先に進めない。
「キョン、ゴメンね、蹴ったり、殴ったりして……あたし、ちょっと怖かったから。
 でも、もう大丈夫よ」
大丈夫になった理由は聞くまい。
俺はハルヒの体を優しく抱き締めた。


「キョンく~ん、ハルにゃんがいないんだけど」
そう言いながら妹が俺の部屋に入ってきた。
い、いかん。
妹にノックの習慣をつけさせなかったのは失敗だった。
初体験を済ませた俺とハルヒは、甘い会話を明け方まで続け、そのまま寝てしまっていた。
決して朝までやりまくっていたわけではないぞ。
俺もハルヒも初めてだったしな。
妹はベッドの中のハルヒと俺の姿を目にすると、
「ご、ごめんなさい」
と言って階段を駆け降りていった。
「おかあさーん、あのねー、キョンくんとハルにゃんが裸で抱き合って寝ていたよー」
二階まで聞こえるような声を出すな、妹よ。
「ちょ、ちょっと、妹ちゃん」
ハルヒはあわてふためきベッドを飛び出した。
「キョ、キョン、ど、どうしよう?」
そんなに慌てなくても大丈夫さ。
ここは俺のウチ、文字通りのホームグラウンドだ。
オフクロの出方もだいたい見当がつく。
もっとも、もしここがハルヒの家なら、俺の方があわてふためいていただろうな。
「ハルヒ、落ち着け、まずは……」
「まずは、何よ?」
「まずはパンツを穿け」
裸のハルヒを初めて明るいところで見たが、さすがに目のやり場に困る。
「こ、こ、このエロキョーン!」
バチーン


身支度を整えたハルヒと俺は、茶の間でオフクロの前に神妙な顔をして並んで正座した。
なぜか俺の隣で妹も正座しているのだが……
「ハルヒちゃん」
「ハ、ハイ」
さすがのハルヒもバツが悪いらしい。
「キョンは優しくしてくれた?」
「えっ……ええ、とっても優しくしてくれました」
そう言ってチラッと俺を見た時のハルヒのはにかんだ笑顔、一生忘れられないね。
「そう、良かったわね、ハルヒちゃん」
「ハイ!」
元気一杯のハルヒ。
「キョン!」
「ハイ!」
「ちゃんと避妊しているでしょうね、大丈夫でしょうね?」
「ああ、ちゃんと避妊しているよ」
これは、この後ずっとオフクロと交わされ続けることになるやり取りなのだが、これがまた大騒動を引き起こすことになる。
まあ、それは先の話だ。
「じゃあ、三人とも朝ご飯を食べなさい。
 準備できているわよ」
「「「はい!」」」


その週の週末、いつもの喫茶店。
「どうやらうまくいったようですね」
なぜ、わかる。
「お二人の表情を見ていれば、丸わかりです。
 おめでとうございます」
ありがとう……今回は特別に恩赦だ、お前の罪は許してやる。
「これは助かりました」
二度と朝比奈さんにつまらないことを吹き込むなよ。
「それは……あなた次第です」
この野郎……
「キョン、古泉くんと何を密談しているのよ!
 じゃあ、くじ引きよ。
 今日も不思議探索開始よ!」
ハルヒは少しも変わらない。
変わってもらっても困るがな。
やれやれ。


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