【時のパズル~迷いこんだ少女~】-Last Piece-
-Last Piece- 『時のパズル』



-Last Piece- 涼宮ハルヒの場合


どだだだだだっ……あたしは階段を転げ落ちていった。お尻を何度も打ち付けて、ようやくクッションの上で止まった。
「……いったいわねぇー」
「ど、どうしたの?」
物音に驚いたのだろう妹ちゃんが、クッションの中に埋まっているあたしをみてぽかんと口を開けている。
なにをしているのか、わからないんだろう。

「ねえ、ハルにゃん? なにしてるの?」
……さて、どう答えたらいいのかしらね。あたしが首を捻っていると、
「ハルヒが最近凝ってる遊びだよ」
キョンが現れた。部屋から降りてきたのだろう。
「遊び?」
「そう、『階段落ちゲーム』って言ってな。階段の一番上から落ちて、どこまで転がれるか試すゲームだよ。危ないから止めろって、いつも言ってるんだけどな」
「そうなの? ハルにゃん?」
「……え、ええ」
キョンの考えた言い訳に、多少顔をひくひくさせ、あたしは答えた。
「危ないから止めた方がいいよ?」
「う、うん。そうするわ」
恥ずかしい……後で覚えてなさいよキョン!

キョンがあたしの横に立つ。
「怪我はないみたいだな」
足元のクッションを見て、少し笑いながら言った。

「おかえりハルヒ」
キョンは手を差し伸べ
「ただいまキョン」
あたしはその手を掴んで立ち上がる。

そして、今度こそ『帰ってきた』あたしは、あたしに出来る最高の笑顔をキョンに見せてあげた。
これで、タイムリープ現象は終わった。あたしの時間は元通りになったんだ。
もしかしたら、また、あたしの時間は狂ってしまうかもしれない。
でも、大丈夫……

今度は、最初から『キョン』がいてくれるから……

あたしはどんな時間だって乗り越えられる―――――





-Last Piece- キョンの場合


俺はハルヒに一つ嘘を付いた。鶴屋さんの事だ。あの時の古泉からの電話は実は、ハルヒをごまかしてくれという内容が含まれていた。
幸いネタは古泉が提供してくれた。『二重人格』この事件でハルヒが最初に恐れていた事だ。だから、記憶にも新しかったのだろう。
比較的疑いもせず信じてくれた。
もちろん鶴屋さんにそんな症状はない。あの人は『ハルヒに秘密を守る』、それだけのために犠牲になってしまったんだ……。

警察での証言と言うのも、機関によるハルヒに怪しまれないための『カモフラージュ』らしい。

ハルヒはこれからいくつの試練を迎える事になるのだろうか? 十四人、これがハルヒのせいで死んだ人の数らしい。
身内どころか、学校のやつの『死』さえ、俺は体験した事がない。だから、その恨みは正直、想像がつかない。
でも、もし俺はハルヒを『殺されたら』どうにかなってしまうだろう。
その結果、気持ちの矛先が復讐に向かうのかは分からないけれど―――――。
とにかく、あいつは誰かに恨みを買う存在なんだ。しかし、それはあいつが望んだわけじゃない。

だったら、俺たちぐらいは『ハルヒの味方』でいてあげよう。
俺たちSOS団は結局誰も裏切らなかった。今回の事件では強い絆を確認できた。
俺たちは大丈夫だ。

それよりも……。

「俺はいつまでこの嘘を付き続けなくちゃいけないんだろうかねぇ?」

 

 

 

 

 

-Last Piece- 長門有希の場合


「力が戻った」

自宅に向かう道を歩いていた長門有希が呟く。
この一週間出来なかった情報統合思念体との交信が復活した。
タイムリープ現象が終わったのだろう。
彼はやってくれた。いや、『二人』はやってくれた。日常を取り戻してくれたのだ。

これで心配する事はもうない。後は、わたしの家から彼の鞄を取ってきて、また、彼の家に行く事だけだ。
力が戻った今なら、彼の怪我も一瞬で治してあげられるし、彼女……鶴屋さんも助けてあげる事もできる。

「……でも」

長門有希は、少し歩くペースを落とした。長門有希は考える。
彼は今頃、涼宮ハルヒといちゃついている筈だ。ちょっと、むかつく。 エラー
『エラー発生』、でも構わない。これは嫉妬が起こした、ちょっとしたお茶目な悪戯なのだから。
だから、彼にはもう少しだけお灸をそえてやらないといけない。

「いい気味」

気付かないうちに微笑を浮かべていた。理由はわからない、だけどそれでいいのだろう。
普通の人間になる。それも悪くない。長門有希は、また少しだけ成長した。
それは、もうクリスマスを数日後に控えた寒い冬の夜のことだった。


【時のパズル~迷い込んだ少女~】

FIN