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……


「良い時間帯ですね。今から駅に向かえば、ちょうど集合の5時頃には着く算段ですよ。」

古泉の言うとおり、俺たちは駅に向かって歩くことにした。

……

「それにしても…私たちがこうやって今楽しくいられるのも、涼宮さんあってこそのものですよね。」
「…そうですね。奴がいなけりゃ宇宙人・未来人・異世界人・超能力者として、
俺たちはこうやって集うこともなかったわけですし…ハルヒ様様ですよ。」
「それと、特に今回は【涼宮さんを守る】という名目のもと、我々は一心不乱に強くまとまってました。
それも、機関・未来・情報統合思念体の枠を超えた…そう、SOS団としてね。
そのような涼宮さんを中心とした絆が…より我々を強固なものにしたのだと見受けられます。」

…確かに、今の古泉の発言は正しい。

長門・古泉・朝比奈さん…それぞれが今回【SOS団のメンバー】として活躍していたように見える。
特に、顕著だったのが朝比奈さんだ…自らの独断で時間跳躍を行ったと彼女は言っていたが、
本来あのような時間移動というのは上、即ち未来からの許可が必要である。その取得にあたって、
彼女は未来へと申請したか?いや、してはいないだろう。未来へと行き、何も確固とした情報が
得られなかったのがその証拠だ…。意味もなく、彼女に許可を下す理由などないからな。
他にも、長門といい古泉といい…、本当にみんな、よく頑張ってくれたと思う。

「ところで…その涼宮さんなんですがね。」
「ハルヒがどうかしたか?」
「…彼女の能力は、一体どうなってしまったんでしょう?」

……

なにげない古泉の一言に、俺はハッとする。

「古泉…その前にまず、教えてくれないか…?神がどうなったかを…。」
「…確かなところはまだわかっていません。なんせ、いくら機関と言えど我々は人間の集まり。
神の消息をつかむなど…普通に考えれば不可能というものですからね。もちろん、調査には努めましたが…。」
「…そうか。」
「長門さんの力をもってすれば…把握も容易かったのでしょうけどね。
残念ながら、未だ彼女の力は回復していません。」
「…すまねえな古泉。俺があのとき死んだりさえしなけりゃ…、」
「何を言うんですか…?あなたの生死は…何物にも代え難い代物のはず。
機関のことなど…この際どうでもいいですよ。それに、長門さんはあなたに施したことを…
決して後悔はしていないはずです。なら、それでいいじゃありませんか?」
「そう言ってくれると、助かるぜ。」
「…まあ、そうは言ってもですね、機関の大部分は神が消えたものだと見なしてます。
神が今もなお存在し力を行使してるとするならば…何やら不自然な点が多すぎるんですよ。」
「だから神はいないってことか?」
「そうです。消去法ってやつですね。…そう考えた際に、ふと思い出したのですよ。
第三世界終焉のあの地で…あなたが涼宮さんから聞いた話をね。」

……

『これから来たる第四世界の創造…とりあえず、それまでは神の意志には従おうと思うけど、
それ以降はあたしは自分の意志で生きようと思う。一人の人間として…ね。』
『それでね…そのときは、これまで自分が神の代行者だったって記憶を、消したいと思ってる。
だって、そんな記憶があったら一人間として楽しく生きられないもんね。』
『転生はできそうなの。でも完全には…いかないみたい、残念だけどね。
今あたしがもってる人間らしからぬ能力も…おそらく一部は受け継がれることになると思う。
それどころか神の操作で、今以上により強大になっている恐れだってある。』

一連のハルヒの言葉が何を指すのか、俺にはわかっていた。
神の消滅…それは同時に、ハルヒの能力消滅をも意味する。

……

ハルヒは普通の人間として生きるべく、自らを第三から第四の世界へと…転生させた。
記憶こそ消せたが、結果として…願望実現という名の能力を持ち合わせるに至った。…神の介入により、
転生が不完全なものとなってしまったせいだ。だが、今回は違う。もし…神がいなくなったとしたら?

『ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う…
普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。』

ハルヒの言葉通り、ヤツは神に纏わる一切の記憶を無くし…今日俺たちの前に姿を現した。
いつも通りの元気な姿で。団長、涼宮ハルヒとして。

……

神は消え、記憶も絶たれた。一人間として生きるハルヒに…これ以上能力を引き継がせる理由はない。

「ハルヒの能力は…消えちまったのかもしれねえな。」
「…僕もそう考えています。閉鎖空間が一切見られなくなったのも、その証拠と言えましょうか。
僕の超能力者としての力がなくなっただけ、とも言えるかもしれませんが…そうだとしても、僕たち機関が
涼宮さんの影響下に置かれていないということは即ち、神人退治の必要がなくなったとも言えます。
いずれにせよ、結論は変わらないわけですね。」
「え…えぇー!?涼宮さん、能力無くなっちゃったんですかぁ!?」
「あ、いえ…まだ決まったわけではないですよ。」
「でも…可能性は高いんですよね?」
「…そうですね。」

何やら焦っているように見えるが…どうしたんだ彼女は?

「涼宮さんが普通の人間になった。もし、そういうことがわかった場合
朝比奈さん…あなたはやはり、未来へと帰ってしまわれるのですか?」
「!!」

この言葉に、俺は酷く動揺した。

……

俺たちSOS団は、確かに涼宮ハルヒを核としてまとまっていた。ハルヒが望んだから…!
俺たちは出会うことができた。宇宙人・未来人・異世界人・超能力者を望んだから…!
俺たちは彼女の元に集まることができた。彼女の特異的能力により、俺たちは集まることができた。
そんな能力をもつハルヒを…彼らは、各々の立場から【監視】をする必要があった。
長門は情報統合思念体、古泉は機関の人間、朝比奈さんは…未来の人間として。

…そのハルヒの能力が消えつつある。普通の人間になりつつある。
長門・古泉・朝比奈さんの立場から言わせれば、3人は存在意義をなくしつつある。

そうなった場合、彼らはどうするのか。

古泉は…?転校する前の学校へと戻ってしまうのか??
長門は…?上からの命令で宇宙へと帰ってしまうのか??
朝比奈さんは…?元々の故郷である未来へと帰還してしまうのか??

みんな…離れ離れになっちまうのか…!?

「私は…」

…固唾を飲み、俺は彼女の返答を見守った。

「私は…」





……





「私は…!涼宮さんに能力が無くなったとしても、みんなとお別れする気はありません!!」
「朝比奈さん…っ」

俺は…彼女の言葉に救われた。

「確かに…、未来人である以上、延々とこの時代に居続けることはできないでしょう…
でも、少なくとも高校を卒業するまでは!私は…SOS団の一人であり続けるつもりですっ!」
「…朝比奈さん、俺、嬉しいです…。」

バカだよな俺って…別に自分が褒められたわけでもないのに。

「…朝比奈さんは、涼宮さんに誘われてこのSOS団に入った当初から…そういうお考えだったのですか…?」

古泉が尋ねる。

「…正直言うと、あのときの私ならば…用事が済みしだい未来へと帰っていたかもしれません。
やはり、生きてる時代が違うっていうのは辛かったですし…暮らしにくくもありましたから。
でも、沢山の時間をみんなと接していくうちに私は…この時代のことが好きになっていったんです。
涼宮さん、キョン君、古泉君、長門さん、それに鶴屋さん…今の私には、そんなみんなと離れることが、
むしろ信じられないって思えるくらい…私はみんなと一緒にいたいんです…!」
「…そうでしたか。話してくれてありがとうございます。…自分もね、同じだったんですよ。
…いや、朝比奈さんのそれと一緒にしてしまっては失礼ですね。今だから言えるんですが、
僕は…当初は、涼宮さんのことを恨んでいました。」
「な、なんだって??」
「ある日突然、超能力者という訳のわからない存在へと変貌してしまった僕は…
そりゃもう、ひどく取り乱しました。なぜ自分が…神人倒しなどという、命を懸けたことを
やらねばならないのか!?…と。やがて、その発端が涼宮ハルヒなる人物であることを知ったときは…
正直復讐したいくらいでした。今までの日常を返してくれ…!!とね。」

…まさか、温厚なこの男の口から『復讐』などという禍々しい言葉を聞くとは…夢にも思わなかった。

……

いや、よく考えてみれば、こいつが抱いた憎悪の感情は…人として当然なのかもしれない。
俺がこいつの立場だったとして、いきなり非人間的能力を覚醒させてしまったらどうする…?
しかも、それが死ぬかもしれない大仕事ときた。…正直、やりきれない気持ちだ。

…改めて思い知らされる。俺は、こいつのことを理解しきれていなかった。
古泉の事といい朝比奈さんの事といい…もう少し俺は自分を磨く必要があるのかもしれない。

「ですが…なんとも不思議なものですね。みなさんと一緒にいるうちに、しだいに自分の中に…
仲間意識なるものが芽生えてきたんです。断って言っておきますが、長く一緒にいれば芽生える、
というような簡単なものではありませんよ…仲間意識というのはね。それに僕自身、些細なことで
考え方を変えるような器用人間じゃありませんのでね…尚更です。つまりですね…それだけあなたたちは、
相当たる人格者だったということですよ。こういう友人に囲まれて僕は…幸せでした。
仲間のために頑張ろう、涼宮さんを守るべく頑張ろう…その思いに、全くの偽りはありませんでした。
…もう言うまでもないでしょう。僕も、朝比奈さん同様、涼宮さんの能力の有無にかかわらず
この学校に居続けるつもりですよ。SOS団の一人として…副団長として…ね。」
「古泉…お前…、」
「古泉君…。そこまで私たちのことを想ってくれて、どうもありがとう…!」
「いえいえ、お礼を言われる所以など、どこにもありませんよ。」

…憎しみを乗り越え、お前は俺たちのことを仲間だと…思ってくれるに至ったんだな。

……

そうか…。結局、ハルヒがどうであれ、二人ともここに残ってくれるんだな。俺は…嬉しい。

……

「長門は…どうするんだろうな…、」
「長門さん…ですか。そればかりは本人に聞いてみませんと…わかりませんね。
おそらく、内心は僕らと近いはずです。ただ…彼女は僕や朝比奈さんとは事情が異なります。
本人が望んだとして、果たしてそれを上が許すのかどうかは…我々では判断しかねますから。」
「…そうだな。」

高次元生命体の亜種である情報統合思念体の面々。
そんな彼らが長門個人の事情を酌んでくれるかどうかは…正直わからない。

…まあ、それはそれで、そのときまた考えよう。
今は…朝比奈さんと古泉の気持ちが聞けただけで、俺は幸せだ。




……




話が落ち着いたせいか、ふと思った。

「なあ、古泉。散々言っといてあれだが…やっぱり、ハルヒの能力はまだ消えてないんじゃないか?」
「ほう…どうしてそう思うんです?」
「今日の集合で、いつものごとく俺が最後だったろ?」
「なるほど、涼宮さんが今まで通り、あなたの遅刻を密かに望んでいたというわけですか。
良い指摘とは思いますが、強ちそうとも言い切れませんね。単に偶然だったのかもしれません。」
「まあ、そうかもしれんが…」

…ん?

「今気付いたんだが…、もう一度確認させてくれ。俺は…
異世界人なんだよな?ハルヒの影響は…受けないんだったよな?」
「ええ、その通りですよ。」
「…なら、おかしくないか?どうして俺は不思議探索の集合時…決まって最下位だったんだ?
いくらハルヒがそれを望んだって、俺はその影響を受けないはずなんだろ??」
「…これには落とし穴がありましてね。別にあなたに直接干渉しなくとも、それを成し遂げることは可能なんですよ。」
「どういうことだ?」
「簡単な話です。単に、僕や長門さん、朝比奈さんを涼宮さんが来る時間とほぼ同時刻に
来させればいいだけのことです。おわかりですか?涼宮さん単体があなたより先に来るだけで、
あなたの最下位が決まってしまうというシステムですよ。間接的干渉と申しましょうか。」

……

確かに筋は通ってる…。そんな回りくどいやり方で、いつも俺を貶めてたってのか…。

「…だがな、もしハルヒが俺より遅れて来たら、そんときはどうする?」
「涼宮さんが…あなたより遅れて来ると思いますか?団長として、強固なプライドをお持ちになる涼宮さんが…
果たして、あなたより遅れてやって来るとお思いですか?」
「そこまで言われると悲しくなるが…しかし、その通りだからどうしようもないな。今のは愚問だった、忘れてくれ。」
「そ、そういうことだったんですね…!私、今の今まで全く気が付きませんでした!」
「朝比奈さんだけでなく、僕や長門さんもすっかり騙されていたんですよ?最近まではね。
まさか、キョン君に涼宮さんの力が通用しないなんて…思いもしませんでしたからね。
つい、これまでの集合に関しても彼女がキョン君に直接干渉してるものとばかり…。」

…まあ、そればっかは誰にもわからなかったかもしれねえな…。























さて。俺たちは待ち合わせ場所へと着いた。
時刻はちょうど5時…古泉の言ったとおりだったな。前方にはすでに、ハルヒと長門の姿があった。

「あ、みんな!どう?何か不思議は見つかった?」

ハルヒが詰め寄ってくる。

「あ、いや…何もなかったぜ。」
「…怪しいわね。本当に探してたの!?みくるちゃん!どうなの!?」
「え…えぇ?え、ええっと…あ、あう…」

まずい!ハルヒのやつ…故意に朝比奈さんを狙いやがったな!?
彼女が嘘をつけない体質だと知ってのことかッ!

「まあまあ、涼宮さん。ここは僕から説明させてください。」

古泉が割って入る。…ナイス古泉。

「僕たちはですね、先ほどまで図書館にいたのですよ。」

…まあ、それは事実だな。

「図書館に?ふーん…それで、何やってたの?」
「この町のですね、伝奇や歴史書を眺めてたんですよ。ここで言うデンキとは、【怪奇・幻想に富んだ物語】
という意味での伝奇です。過去に、この町で何かしらの不思議事件が起こっていれば…こういった類の書物に
記載されているはずですからね。それを調べ、少しでも多くの不思議に立ち会おうと考えたわけです。」
「さすが古泉君!あたしが副団長に任命しただけのことはあるわ!で、何かわかったの!?」
「いえ、それがですね…膨大な量なだけあって、調べ終えるには時間が足りなかったんです。
そういうわけで、今日はこれといった収穫はありませんでした…すみません涼宮さん。」
「そういうことなら仕方ないわ!いやぁ~、それにしても本で不思議を探すとはね…
その発想はなかった!ホントもう…キョンとみくるちゃんも、少しは古泉君を見習いなさい!」

そうだな。俺は古泉を見習いたいと思う。とっさに捏造できる知恵と冷静さを…俺は見習いたい!
…古泉。お前、詐欺師の才能があるんじゃねえか?いや、マジメにそう思ったんだが。

……

「そういうお前はどうだったんだ?何か不思議は見つかったのか?」
「あたしね、今日は有希と一緒にデパートの衣料品コーナーにいたの!」
「…え?」
「それでね!いろいろ有希に試着させてみたんだけど…凄いのよ有希!
ドレスとかワンピース姿とかすっごくかわいかったんだから!」
「……」
「特に一番似合ってたのは…そうね、ゴスロリだったかしら!」

「長門、大丈夫だったか?ハルヒに無理やり着せられたりしたんじゃないか?」
「きょ、キョン!?なんてこと言うのよ!!」
「一概にそれを否定できないのは確か。」
「…やっぱりな。」
「ゆ、有希~!?」
「しかし、多様な服を通じ、様々な自分を確認できたのは事実。とても楽しいひと時だった。」
「ほらほら!やっぱり行ってみて良かったでしょ!?また今度も行こうね有希!」

…こりゃ驚いた。まさか、長門から直々に『楽しい』などという感情形容詞を聞こうとはな…
それほど、長門にとっては納得のいく時間だった…ということか。良かったな…長門。
で、そんな長門さんはゴスロリが一番似合ってたわけか。是非その姿、拝借してみたいものだ。

……

「…待て。今のが不思議とどう関係あるんだ?」
「それはね、有希が予想外にかわいかったってことよ!」
「…全然意味がわからないんだが…。確かに長門はかわいい、俺もそう思う。だが、それのどこが不思議だ??」
「問題はね、服を着せたとき…そのインパクトがみくるちゃん並だったってことよ!!
そんな資質を込めた有希の本質を…今の今まであたしは見抜けなかった!
みくるちゃんは見抜けて有希は見抜けなかった!これが不思議以外の何だって言うのよ!?」
「……」

何て言葉を返したらいい?誰か教えてくれ!!

「それは…単に気付けなかったお前の問題なんじゃないのか?」
「それが普通の人間ならね。でも あ た し は違うわ!普段着からメイドまで、
ありとあらゆる衣服に精通してるあたしが見抜けなかったのよ?これは大事件だわ!
…どうしてかしらね?有希の地味さが先行してたから…?ともかく、これは不思議なの!!」

なるほど、王様理論ですねわかります。自分が不思議だと思い込んだ物は、即ち不思議だと。
…そりゃぁな、単なる主観で言わせるなら、不思議なんかあちこちに転がってるだろうよ…
まあ、かと言って反論する気もさらさらない。こいつ相手にんなことしたって不毛だ…!

「じゃ、そういうわけで今日は解散ね!また明日学校で会いましょ!」

よし、じゃあ今から帰って寝るとすっかなぁ…ハルヒの電話で妨害された分をな…
あ、いや、今寝ると深夜の中頃に目を覚ましてしまうのではないか…?

「そうそうキョン!忘れないでよね!!」
「…ん?何をだ?」
「作曲よ!作曲!!」

……

そういやぁ、そんなもんもあったっけなぁ…ははは、遠い昔のように思える。
昨夜からの大騒動で、そんな宿題すっかり忘却の彼方だったぜ?ハルヒさんよ。

「…あ、ああ、覚えてるぜ…、」
「いつまでに作ってくるつもり?」

!?こいつ、期限を設けるつもりか!?当初はそんなこと言ってなかったじゃねえか!?

「いつまでにとか…何か上限はあるのか?」
「いや、別に~ ただ、あんたがいつ作って来るのか、その目安が知りたいな~と思って。」

…なるほど。それなら、特に委縮することもないだろう。余裕をもって作ればいいんだ。

……

とはいえ、さすがに遅すぎるのも考えもの…か。
1年後とか言ったらどうなるんだ?…横から平手打ちがとんでくるかもな。
それにだ…あまり締切が遅いと作業自体もダレてくるよな。人間ってのは大抵そうだ。
ここは自分への戒めのためにも、それなりのラインは引いてたほうがいいだろう…そうだな…、

「じゃあ、今学期中には作ってくるぜ。」
「そう?わかったわ。じゃ、絶対作ってきてよね!また明日~」

言ってすぐ後悔した。俺のバカ野郎…ッ!!

今日は12月2日。そして、今学期終業式が12月24日。
期 末 試 験 の 真 っ た だ 中 じ ゃ ね え か 
しかし、時すでに遅し。ハルヒの姿は見えなくなっていた。

……

ふむ。これはもう、覚悟を決めるしかないようだな。これは大きくため息をついた。

「あ、あのぅ…大丈夫ですかぁ?作曲、大変なようでしたら私も力になりますからね?」

…朝比奈さんではないか。みんな帰った中、彼女だけ依然ここに残っていたというのか。
もしかして、俺を気づかって…?やっぱ良い人だ朝比奈さん。

「…ありがとうございます朝比奈さん。でも、気持ちだけで結構ですよ。」
「な、ならいいんですけど…。ところでね、キョン君。渡さなきゃいけないものがあって…。」

そう言って、彼女はカバンから手紙を取りだした。…手紙?

「自分にもよくわかんないんですけど…未来のほうから
『これをキョン君に渡すように。』との指示があったので…とりあえず、渡しておきますね。」

俺は朝比奈さんから手紙を受け取った。

「じゃあ、私はこれで。また明日会いましょうねキョン君♪」
「はい、また明日!」



……



手紙…ねぇ。木曜の放課後、ロッカーにて見つかった手紙のことを思い出す。…またあんな内容じゃあるまいな?
さすがに勘弁してほしいぜ…?まあ、今回は朝比奈さん直々の手渡しがある上、神が消えたとされる可能性が
高い後だ。そこまで悪い内容…というわけでもないだろう。そう信じて、手紙の封を開けてみる。

『今から公園に来てもらえませんか?』

…あまりの内容の薄さに気絶しそうになった。って、本当に何なんだこれは??
そりゃ、言いたいことはわかる。今から公園に行けばいいんだろう?

……

二つ、突っ込もうか。

一つ、せめて差出人の名前くらい書いてくれ…
二つ、公園ってのがどこの公園なのか示唆してくれ…漠然としすぎだぜ…おい。

……

とりあえず、こっから一番近い公園に行ってみるとすっか。違うなら、また他のところを回ればいいだけだ。
一瞬、罠の可能性も疑ったが…まあ、それはないだろう。さっきも言ったが、
朝比奈さん本人が直々に俺に渡してくれたんだ。どこぞの誰が送ったかもわからない
得体の知れない手紙とはわけが違う。これは、信用してもいいということだろう。
駐輪場に停めていた自転車に跨り、俺はペダルを漕ぎ出すのであった。




























近くの公園へと着く。

……

ふと、人影を見つける。俺の姿を確認したのか…こちらへと歩いてくる。






考えるよりも先に体が動いていた

気付いたときには

……

彼女を抱きしめていた。なぜ…そんな行為に及んだのかわからない。今思えば俺は、この人物が本当に
生きている人間なのか?実は幻覚ではないのか?見間違いではないのか?それを確かめたかったんだろうと思う…

「きょ、キョン君!?ダメよ、そんなことし」
「……」
「…ぁ…、」
「……」
「私に…会ったんですね…?」
「…はい」
「私は…死んだんですね…?」
「…はい」
「そっか…じゃ、仕方ないよ…ね。」

肩の力を抜いたのか 俺に身を委ねてくる彼女

……

確かに、この彼女は生きている。肌の暖かさが伝わる。吐息が聞こえる。俺の…錯覚などではない。



……



しばらくして、それを解いたのは俺だった。

「すみません…朝比奈さん。こんなことをしてしまって…。」
「いや、いいのよ。気持ちはわかるもの…。」
「…朝比奈さんは…、俺の知ってる朝比奈さんなんですよね?」
「…そうよ。」
「…あの世界の【朝比奈さん】が死んだのは、俺にだってわかってます…わかってたんですが!
どうしても朝比奈さんを見たとき、それが死んだ【朝比奈さん】だと思わずにはいられなくて…つい。」
「そうね…でも、それも仕方ないわ。中身は違えど、彼女と私は同一人物みたいなものだもの。
…キョン君。彼女と一体何があったのか、よければ話してくれないかしら?」
「…もちろんですよ。というより、俺はあなたにそれを話す義務がある…そう思ってるんですから。」

俺は…事のあらましを話した。





……





「…謝るわ。」
「え?」
「大体そうなんじゃないかとは思ってたけど…まさか、【私】があなたに危害を加えたのみならず…
あろうことにも殺してしまうなんてね…、痛かったでしょう?本当にごめんなさい…、」
「ど、どうして朝比奈さんが頭を下げる必要があるんです!?
あの【朝比奈さん】は…あなたとは全くの別人じゃないですか!!」
「いくら自分とは対の異世界人だとしてもね…、何もかも違うってわけじゃないの。
性格や思考パターンといった、そんな内面的・本質的なものは…基本変わらない…。
唯一大きく異なったもの、それはね…生まれ育った環境の違いよ。」

……

「生まれた当初は似たようなDNA構造でもね、温室育ちの子供とスラム街で生きた子供…
一体どれだけの差異が現れるのか、それはあなたにもわかるはず。…裏を返せばね、
似たような環境・同じ境遇に居合わせれば、きっとその二人は近い行動をとるってこと。…笑えない話よね。
私がキョン君を殺すなんて…絶対ありえないことだってわかってるのに。…でもね、向こうの世界の私は
あなたを刺した。これが…何を意味するのかわかる?もし私が彼女と同じ立場だったとしたら、私も…
私も、それに値する行動をとっていたかもしれない…。だから、キョン君には謝らずにはいられなかった…!」

……

「…万が一そうだったとして、どうして俺が…朝比奈さんを責められますか?」
「…キョン君。」
「彼女も…必死だったんです…!!自分の世界を守るため…命懸けだったんです!!
その純粋な思いは…俺と何ら変わりありませんでしたよ。それだけ彼女は…立派でした。
狂いそうな状況にも…彼女は立ち向かった。決して惨い現実から目を反らしたりも…しなかった。
…こんな言い方は変かもしれませんが、むしろ朝比奈さんは誇りをもって…いいと思いますよ。」
「…ありがとうキョン君。そっか…【私】はそんなにも頑張ってたんだね。そんな彼女を…私は殺して…」
「…朝比奈さん。」
「キョン君も…もう気付いてるんでしょう?彼女の直接の死の原因となった…そう、例の装置のことをね…」

……

『というのも、これは…上司から未来経由で送られてきたものなんです…。』

……

「やはり、あの小型装置を子供朝比奈さんに送ったのは…あなただったんですね。」
「ええ…そうよ。…全ては、異世界の自分の【抹殺】のために…。」
「……」

ああ…そうだな。第四世界死守のためにも…【朝比奈みくる】と【抹殺】には切っても切れない関係があった。
目の前にいる、この朝比奈さんを含めた上層部の人間が…そう考えたのは極めて当然のことだろう…。

「…つらい思いをさせちゃって、ゴメンねキョン君…、」
「いえ…しょうがないですよ。仕方がなかったことです…。」

そう、仕方がなかった。そうでも思わないと…やってられない…っ!



…抹殺?



彼女は…初めからこれを想定していたのか?…疑問が残る。だって、そうだろう?
よく思い出してみろ。【朝比奈さん】の死は、そもそも偶発的なものだったじゃないか…?
レーザー銃を照射されたあの瞬間、もし俺が装置のボタンを押していなかったら…どうなっていた?
言わずもがな、【朝比奈さん】が死ぬことはなかった。…代わりに俺が死んでいたんだろうが。

…なぜ『押していなかったら』などという仮定が成立するのか?

そりゃそうだろう。なにしろ、俺はあの装置の詳細を知らされていなかったのだから。
あの場でボタンを押したのは、本当の偶然にすぎない。

「朝比奈さん…抹殺を確実なものにするのであれば、
どうしてあの装置の用途を…俺に教えてくれなかったんですか?」
「…怒ってるわよね?ゴメンなさい… 一歩間違えれば、あなたが死ぬところだったんだものね…、」
「あ、いや、そういう意味じゃ…っ」
「でもね、敢えてあなたに教えなかったからこそ…、【朝比奈みくる】の死を確実なものにできた。
同時に、あなたも救うことができた。 結果的に私の読みが当たって…本当に良かったと思ってる。」
「……」
「大事なのはね、キョン君を殺そうとした人物が、一体誰だったかってこと。」

…朝比奈さん。

「さっき…私言いましたよね?異世界人とはいえ、内包的な部分まで変わってるわけじゃないって…
私はそこに目をつけたんです。思考パターンが同じなのであれば、逆にそれがキョン君を助けられる
手立てになるんじゃないかって…。もっとも、それを考えるに至って私は苦しんだ…
でも!やってよかったって…そう思ってる。だって、キョン君も世界も救えたんだから!
ただ、同時に自分自身にも恐ろしくもなった。私の読みが当たったってことは、つまり…」











驚愕で声が出なかった…だって、そうだろう?朝比奈さんは想像した…人殺しとしての自分を。
いかにして殺すか、どのように殺すのか、どうやって殺すのか、ありとあらゆるパターンを…彼女は想像した。
絶対にありえないことを彼女は想像した。それも何度も…!誰を?誰を殺す想像をしたんだ?…俺だ…。

もし、俺が…SOS団の誰かを殺害する想像を強いられたら、どうする?
ハルヒ、長門、朝比奈さん、古泉…。ははっ、論外すぎて笑いそうになる。頭がおかしくなりそうになる。
死ぬってこと自体考えられない。いや、考えたくもない。ましてや、よりにもよって、その実行犯が俺…!!?

……

朝比奈さんの苦しみは…想像を絶するものだったんじゃないのか?なんて精神力の強い…っ

「そのあたりのことを…順を追って説明しようと思う。今日は私、このためにキョン君に会いにきた
ようなものだから…。全ての事情を、当事者であるキョン君には知っておいてもらいたかったから。」

…朝比奈さん…、

「その前に、キョン君に言っておかねばならないことがあるわ。未来における、二つの防御システムについて…
もっとも、さっきのキョン君の言い方だと、すでに【私】から説明は受けてるようだけど。」

……

『私の周りに1㎜膜の重力場を形成させたのよ。この膜に触れたあらゆる物体は
通常ではありえない重力加速度で垂直落下する仕組みになってるわ。』
『重力場なんて使う日が来るとは思わなかったわね。未来では光線兵器が主流だから、
たいていの防御システムと言えば、高次元フォトンを使った光子バリアが当たり前。』

「…重力場と光子バリアのことですね?」
「そうよ。私たちの未来ではね、防御システムと言われればその二つに大別されるの。
実弾に対しては重力場、レーザー兵器に対しては光子バリア…と言った具合にね。逆に言えば、
重力場ではレーザーを防げないし、光子バリアでは実弾は防げない。そのへん、わかってくれたかしら?」
「…はい。」
「じゃあ、話を戻すわね。【あなたが防御装置を持っているか否か?】…私が彼女の立場だったとして、
まず一番に知りたいのはこれね。もちろん武器だって確認しなきゃいけない…けれど、【あなたの殺害】を
第一優先に動いてる私であれば…攻撃が効くか否か?これがまず先行するでしょうね。
思った通り、彼女はそのアクションに出てくれた。」
「…?」
「二度目に会ったとき、彼女…空へ向け、銃を撃ったらしいじゃない?それがそのアクションよ。」

……

『今の発砲は気にしないでね。ただの威嚇射撃だから。』

「え…??あの行動に、何か意味でもあったんですか??」
「…もし、私があの小型装置についての十分な説明をあなたにしていたとしたら…
キョン君は、あの威嚇射撃で一体どんな反応をしてたかしら…?」

…俺がもっていた装置とは、レーザー光線をはね返す類のもの。例の射撃時に彼女が使っていた小銃は…
実弾を打ちだすもの。俺の装置じゃ…光子バリアでは、実弾は防げない。つまり、俺に彼女の攻撃を
防ぐ手立てはない。それが明確にわかる。防ぐ手立てはない。即ち、自らの死を意味する。それが明確にわかる。

…!

「…かなり慌てると思います。自分が死ぬかもしれないんですから…
最悪の場合、取り乱したりしたかもしれません…、」
「私がその反応を見逃すと思う?」
「え?」
「一瞬で見抜くわね…あなたが重力場形成の装置を持っていないことを。」

っ!!

「それがわかれば、私はあなたを…レーザーではなく、銃で撃っていたでしょうね。
だって、防ぐ手立てがないって判明しちゃったんだから。殺人遂行者としては当然の帰結ね…。」

…ちょっと待ってくれ…!?あの単なる威嚇射撃に…そんな意味が…??あんな発砲…
全く気にも留めてなかったぞ!?…朝比奈さんから装置の説明を受けなかったことが、
何も知らなかったことが、かえって俺の命を救った…!?

「朝比奈さん…まさか、あなたはここまで想定していたんですか??」
「そうよ…だって、私なら絶対そういうことすると思ったんだもの。」

この人は…そこまで考えて…

「で、でも!もし俺があの発砲で動揺したって…単に音に驚いたのかもしれないし、
【朝比奈さん】の出現に慌てたのかもしれないし、これからの戦闘に緊張したのかもしれない。
いくらでも他の理由は思いつくような気がします…。それだけじゃ、俺が重力場を
持ってないっていう明確な判断材料にはならないんじゃないですか…??」
「そうね…その時点ではまだ不明瞭。さらに、あなたが発砲に対し動揺しなかったことで
その見極めはますます難しくなった。そもそも、あの発砲を気に留めていたかすらわからない。
…話は次に移るわ。あなた…彼女に向けて銃を撃ったみたそうね。それも、古泉君直伝の麻酔銃だとか。」
「…はい。」
「で、それを彼女の重力場により無効化された…と。」
「そうですね…あのときは、本当に絶望しました…唯一の攻撃手段が通じなかったわけですから…。」
「ふふっ、やっぱりキョン君って、思ってることがすぐに顔や行動に出るタイプですね。」
「…みたいですね。気を付けたいものです…」
「私は、あなたのそういう特徴も把握済みですよ。それも踏まえて、私はあなたに三つのことをした…。
一つは光子バリア形成装置の譲渡。二つ目はその装置の詳細をあなたに伝えなかったこと。
三つ目は一切の攻撃手段をあなたに持たせなかったこと。」

…三つ目のは初めて聞いたな。って、よくよく考えれば…レーザー銃の一つや二つくらい
送ってくれてもよかったのに、なんて考えてみる。

「三つ目の理由については、後で説明するね。…とにかく、銃が効かないとわかったあなたは
そのときばかりは…ついに取り乱してしまったんですね?」
「はい。さっきも言った通りですよ。…あ、もしかして、そういうことですか…?」
「そういうことです。それを見た彼女は察したと思いますよ…キョン君の攻撃手段が
それしかないってことに。今回ばかりは、さっきの発砲みたいに気に留めた留めなかったの
レベルじゃないわけですから…おそらく、それは確信の域に近かったと思われます。
そして、キョン君の攻撃を封じたと思った彼女は…安心し、次の段階へと進みました。」
「…俺を殺しにかかることですね?」
「そうです。そして…そのとき彼女の手には、威嚇射撃時に使用した小銃があった。
おそらく、それで彼女は最後の見極めをしたんです。あなたが…重力場を持っているのかいないのかを。」
「俺は…そのとき、攻撃が効かなかったこともあってひどく沈んでました…。」
「…それが顔に出たのね。…結果、キョン君は重力場を持っていない…彼女はそう悟った。」



……



「ちょ、ちょっと待ってください!なら、その銃で俺を撃てばよかったんじゃないですか…?
どうして最後になって、レーザー銃に持ち替えるようなことを…彼女はしたんですか??」
「…撃てなかったのよ。あなたが、実弾性の銃を所持していたから。」
「??」
「防御システムにはある欠陥があってね。それは、外からのみならず中からの攻撃をも遮断してしまうこと。
だから不可能だったのよ。あの局面で…あなたからの攻撃を防ぎつつ、同時にあなたを銃で撃つって芸当はね。
だって、彼女自身が撃った弾も自身の重力場の膜に触れ、地面へと垂直落下してしまうんだもの。
…かといって、その重力場を解除すればあなたと相撃ちになる可能性もある。…だから、彼女は
レーザー銃に持ち替えた。光線は重力場の影響を受けないから…。そう考えたら無敵よね?
実弾を防ぎつつ、自身はレーザーで相手を攻撃できるんだから。」

…まさか武器や防御にそんな事情があったとは。ここでふと、俺は3つのことに気付いた。

「もしかして、俺が実弾性の銃をもっていたことがレーザー攻撃の決定打だったってことですか??」
「そうね。だから始めのあの威嚇射撃は、実は大した問題ではないわね。だってそうでしょう?
あの威嚇を、彼女は実弾ではなくレーザー銃で撃ってた可能性だってあったわけなんだし。」

確かに…って、それじゃあ、実弾性銃をあの局面で俺にくれた古泉は…命の恩人ということじゃないか!?

「朝比奈さんは…古泉が俺にそれに準じた武器をくれることを読んでいたんですか?」
「彼は機関所属だもの。なら重火器の一つや二つ持っててもおかしくないじゃない?それに彼の性格を考えたら、
閉鎖空間が現れた時点で丸腰のあなたに武器を渡すのは必然ともいっていいくらいよ。」

頷くしかなかった。言葉通り、古泉の性格を知ってる者からすれば…
この予測はなんら難しいことではないのだろう。古泉も、まさか自分が大人朝比奈さんの計画に
知らぬ間に取り込まれていたとは…夢にも思わなかったろうな。話したら一体どんな顔をするんだろうか?
あのクールフェイスが崩れゆくところは、希少価値的意味でも是非見たいものである。

「それともう1つ気付いたことを…どうしてあの【朝比奈さん】は俺が実弾の銃を持ってるってことを
知ってたんですか?知らなきゃ、俺が撃った時点で重力場の形成なんてしてないですよね?
さっきの朝比奈さんの話だと重力場と光子バリアって同時には使えないみたいですし…つい気になったんです。」
「あら?そんなこと言ったかしら?防御装置として両方稼働させることは可能よ?
その場合、つまり無敵ってことだから安心して向こうが攻撃してくるのを待っていられるわね。」
「え??だってさっき防御システムには欠陥があるって…」
「あれは攻撃に際してのことよ。別に同時展開することは可能だけど、
そうなると自分も相手に攻撃できないものね。」
「ああ…そうでしたね。理解力不足でしたすみません…。」
「構わないわ。むしろ、こんな未来兵器を併用した実戦会話に概要だけでもついていけてるって時点で、
あなたはかなりの頭脳の持ち主だと思う。自分で気が付いていないだけで、実際あなたは想像以上の理解力、
順応力があるとみていいわ。これも涼宮さんに鍛えられたタマモノかしら?ふふっ♪」

実感がわかない…あまりに実感がわかないが。しかし、もしそれが事実だとするならば
俺はハルヒに感謝する必要があるということだろうか…?なんとも複雑な気分になってきたぞおい。
…さて、3つ目も聞いておこう。

「ちょっと細かいことかもしれませんが… 一発目の威嚇発砲やその後の俺の反応で
【朝比奈さん】は、少なくとも俺が重力場装置を持っていないことだけは確信済みだったんですよね?
それなら、どうして彼女は銃で俺を撃たなかったのかと…。防御装置の問題上、相撃ちにはなってしまいますが
その時点じゃ、俺が光子バリアを持ってるかどうかはまだ判別不可だったわけですよね?
不安要素はあったはずなのにわざわざレーザー銃に持ち替えたっていう彼女の心理が…」
「質問攻めね。もちろん、彼女は見極めようとしたわ。でも、それは… 一目瞭然だったかもしれないね。
キョン君、そのレーザー銃で撃たれたところを…思い出してみて。」

……

------------------------------------------------------------------------------

------っ!!!

朝比奈さんは銃の引き金を今にもひこうとしている。

俺は……俺は!どうすりゃいい!!?
この距離では素手で立ち向かう前に撃たれる…かといって、麻酔銃は通用しない…っ!!

どうすりゃいい!!?

「…さようなら。」

ころ…される

殺される



「あ…あぁ…うわあああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!」

------------------------------------------------------------------------------

……

確かに…これでは一目瞭然だろう。光子バリアを持ってるなら、こんなアホみたいな反応するはずがないからだ。

「でも、そこが彼女の命取りだったのよ。厳密に言えば、あなたは装置を持ってたわけじゃない?
…ただ、それを知らなかっただけで。」

ただ、知らなかった



……



ただ、知らなかった。ただ、それだけのことで。ただ、俺がそんな態度をとってしまっただけで。
彼女は、【朝比奈さん】は確信するに至った。俺が対レーザー用の防御壁を保持していないということを。
結果的に知らなかったことで…俺は死を回避した…!?

…先程のいくつかの質問からも窺えるが、彼女はここまで計算してたと…!?
【朝比奈みくる】が倒れる…その瞬間まで、考え抜いてたと!??
一体どれだけの想像を繰り返したんだ…!?どれだけのパターンを予想したんだ…!?なんて人だ…。












…だが、ちょっと待ってくれ…

「あのとき…俺が装置のボタンを押したのは、本当に偶然だったんです!
反射的なものというか…だから、もし押していなかったら、俺は…!」
「…そうね、キョン君は…死んでいたわね…、」

!!

「でも…許してほしいの…私だって、そんなリスクのある方法をとりたくなかった!!
確実に…キョン君が助かる道を!私は見つけたかった!!…けどね」

……

「自分で言うのも変だけど、本気で誰かを殺そうと思ってる【私】は…相手にするには
相当面倒な存在だと思うわ。相手のわずかな隙でさえ窺う、表情の変化だって決して見逃さない。
武器や防御装置にしたってそう…ありとあらゆるケースを想定して、万全の状態で挑んでくる…
確実に、確実に相手を仕留めるためにね。そんな【私】に… 一体どうやってノーリスクで勝てる方法を
見つけろっていうの…?ふふっ、変な話よね。どうして、ここまで自分自身に苦しまなきゃいけないのかしら。
何度も思ったわ…キョン君の敵が【私】じゃなかったら、一体どれだけ楽に攻略できたか…
どうして、どうしてそれがよりにもよって私なのかって…!!」
「朝比奈さん…。」
「ゴメンなさいキョン君…私のこと、嫌いになっちゃったよね。当然よ…。
いくら、自分の世界を守るっていう大義名分が【私】にはあったってね。仮にも、人殺しに
ここまで本気で、冷静で、完璧主義を求める…残虐非道な人間だったなんてね…。」
「朝比奈さん…もう、それ以上言うのは…」

「だから…あなたに武器は送れなかったの。これはさっき私が言った三つ目の答えだけどね…
もしそんなことをしたら、あなたと【私】は小細工無しの総力戦になるわ…。でも、もともと防御壁にしても
レーザー銃にしても使い慣れてる私。そんな真っ向勝負でもすれば…っ。間違いでも起きない限り、
キョン君は死んでしまう! じゃあ、私を油断させるには…騙すにはどうしたらよかったか…?
考えに考え抜いた。だったらね、もう…キョン君の性格に賭けるしかなかった。
【私】に…キョン君の意志を悟られないようにするならば、要はキョン君が何も知らなければいいと思った。
まったく、呆れるでしょう?極論以外の何物でもないんだもの。でも、私にはもう…それくらいしか
思い浮かばなかった。キョン君の性格なら、この手法でも【私】に通用できるって…私は信じた!
現に、私が彼女の立場だったら絶対騙されるって、そう思ったから…。」

俺の…性格。しかし、実際それで成功させてるのだから、これ以上俺が一体何を言う権利があるというのか??
というか俺にしても古泉にしても【朝比奈さん】にしても、それら人間の行動心理を巧みに見透かしていた時点で
彼女は天才なんじゃないか?平然と話してくれてはいるが、この人は軍師や参謀ならば並大抵でない力を
発揮することだろう…すでに未来でそういう仕事はやっているのかもしれないが。正直俺は朝比奈さんを…
見くびっていたわけではないが、相対的に過小評価しすぎていたのかもしれない。
ということはだ、大人朝比奈さんがこんな様子なのだ…。つまりそれは、今いる子供朝比奈さんの才能も
大変素晴らしくやばいものとなる…はず。現段階ではまだ朝比奈さん小の才能は開花していないみたいだが…
そんな覚醒朝比奈さん小を見てみたいような気もするし、見てみたくないような気もする。

「そして…最後の装置の発動も。キョン君はボタンを押してくれるって、私は信じてた。
もちろん、そんな根拠なんてない…でもね、あなたはこれまで何度も世界を救ってくれた。
涼宮さんの件といい長門さんの件といい…あなたは幾多の修羅場を乗り越えてきた!!
だから、あなたならやってくれる…!そんな強い確信が…私にはあったの。」

…ここまで信頼されてたなんて、むしろ光栄ですよ朝比奈さん。

「確かに、結果的にキョン君は助かったし世界も救われた。だから…この私の思惑も
表向きは成功だったのかもしれない。でも、結局それで…私はキョン君に嫌われてもおかしくな」

い、いかん…ますますもって朝比奈さんは負のスパイラルだ。

「ま、待ってください朝比奈さんッ!まずは落ち着いてください!」
「キョン君…そうね、ごめんなさい。」
「誰も…あなたを責める人なんてどこにもいませんよ!?どうして、そこまでして自分を苦しめるんです!?」
「あなたは…私が怖くないの?」
「どうして…俺が朝比奈さんを怖がったり嫌ったりしなきゃいけないんです!?そんなの、
やれって言われてもやりませんよ。むしろ、あなたには…感謝してもしきれないくらいなんですから!」
「…キョン君。」
「一体…どれだけそのシュミレートに時間をかけたんですか…?たぶん、想像を絶するほどの
時間だったと思います…。その時間の中で、あなたが身を粉にして見つけ出したくれた方法で…
俺は助かることができました。世界だって…救えました。だから俺は…今すぐにでも朝比奈さんに
何かお礼がしたいと思ってる。それだけ、感謝してます…本当にありがとうございました。朝比奈さん…!」
「…そう言ってくれると、私もやってよかったって…素直にそう思えます…。」

俺は…目に涙を浮かべる朝比奈さんと、互いに微笑み合った。






……






しばらくして、ようやく落ち着いたのか…彼女は口を開いた。

「ところで…その世界の【私】は、何か言ってましたか?最期に…何か言ってましたか?」
「……」
「こればかりはね…さすがに推測なんかできないもの。それも死ぬ間際だなんてね…、」

……

「涼宮さんを大切にね…それが彼女の最期の言葉でした。」
「…そう。」

……

「ふふっ、最後の最後で…私と【私】は交わったのね。」
「朝比奈さん…。」
「ちょっと…悲しいかな。立場さえ違わなければ私と彼女、良い友達になれたかもしれないのにね。」
「……」

……

「朝比奈さん…」
「…?」
「厚かましいようですみませんが…1つ、頼みを聞いてはもらえないでしょうか…?」
「…彼女のこと…ね?」
「…はい。」

……

「彼女が生きた第五世界というのが、平和な世界だったということは…ご存じですか?」
「…そうみたいね。実際、その世界へと行ってみたわけじゃないから、
詳しくはわからないけど…少なくとも、学問的な見地からはそう言えるみたい。」

……

「…フォトンベルトに突入したとして、世界はどうなったのか…地球物理学・地球電磁気学・分子生物学・
量子力学等…私も私なりに未来で勉強してみたけど…。なかなか興味深い世界だったように思う。」
「…そうですか。」

……

「…朝比奈さんの世界は…平和ですか?この世界の未来は…平和ですか?」
「……」

……

「そうね…少なくともこの時代、あなたで言うところの現代よりは良くなってると言えるわ。
戦争や紛争を根絶すべく、法・条約・規約の整備、地域・国家間の統廃合など…様々なことが行われた。
多くの人が平和共存に向け、頑張り続けた…それに見合うだけの平和、価値は得られたような気がする。
でもね、世界のあらゆる地域が…全ての人間が平和かと聞かれると、それは否定せざるを得ない。
タイムトラベルができるくらい科学が発達した未来でも…その辺はまだまだのように思うわ。」
「…あの世界の【朝比奈さん】は言ってました。全ての人間が平和に暮らしていると…
全ての人間が暴力主義を放棄し、諍いや揉め事の一切が起こらない世界を象っていると…。」
「…素敵な世界ね。」

……

「確かに、【朝比奈さん】は死にました…けれど、彼女の意志だけは…死なせたくないんです!
彼女が命懸けで守ろうとした世界を…俺はできる限り再現してみたい!!…そう思ってるんです。」
「彼女の意志…か。じゃあ、私もそれを受け継いでみようかしら。」
「…朝比奈さん。」
「あなたの頼みごとってこれなんでしょ?…ふふっ、言われるまでもないわね。
あの世界の【私】の思いを…私は決して無駄にはしないわ。真に世界に平和が宿るまで…
私はこの思いを忘れない。もっとも、できることは小さいかもしれないけど…それでも、
一緒に頑張りましょうねキョン君!私も、少しでも未来が良くなっていくよう…努力してみるわ…!」
「朝比奈さん…!ありがとうございます!」



……



さて…まだいろいろと彼女と話したかったが。どうやら、彼女の時間も無限ではないらしい…
何やら用事があるとか。…もしかしたら、彼女も追われているのかもしれないと思った。
古泉もそうだったように、神が消えたことによる…事後処理とやらを。

俺は朝比奈さんと別れ、家へと帰ることにした。



























『こんにちは!お元気にしていますでしょうか?いきなりこういう突然の手紙をよこしたことをお許しください。
キョン君の身の回りで近いうちに不穏な動きがあります。どうか、未来にはお気をつけください。
では、幸運を祈ってます 朝比奈みくるより』

…後から聞いた話だが、三日前の木曜、ロッカーにて見つけた例の手紙の差出人は
やはり彼女(さっき公園で会った朝比奈さん)だったらしい。

今となっては言うまでもないが、この手紙の『未来にはお気をつけください。』の『未来』とは、
異世界からやって来た【朝比奈みくる】のことだったらしい。…まあ、それにも気付かず、俺は彼女に…直後、
騙されてしまったわけだが。それもそうだ、『未来』などという抽象的単語を使われたって理解しかねる…。

……

かといって、言葉通り『朝比奈みくるにはお気をつけください。』としてしまったところで
意味不明だろう。なんせ、差出人の名前も朝比奈みくるなわけだから。一人コントになっちまう。

なら、『異世界から来た~』の接頭語を付ければいい話じゃないか?と言われれば、
そういう問題でもない。そもそも、この『異世界』という言葉自体訳がわからないからだ。

なら、その『異世界』とやらを説明すればいい話じゃないか?と言われれば
そういう問題でもない。なんせ、本人(偽)と向き合い、口頭で蹴りをつけたところで
ようやく理解できた言葉なのだ。そんな膨大な分量、手紙に載せられるはずもない。

なら、手紙ではなく、本人(本物)が出向いて直接伝えればいい話じゃないか?と言われれば
そういう問題でもない。これには難解な事情があるらしく…聞くところによると、全くの同一人物が同一世界にて
二人同時に存在し続けることは不可能らしい。一人当たりの空間が飽和を起こし、空間座標軸や時間軸に
歪みが出てしまうからだそうだ。つまり、この時代にすでに偽朝比奈さんが来ていた時点で…
本物の朝比奈さんが入り込む余地はなかったらしい。例えるならば、椅子取りゲームのようなもんか。
ちなみに、朝比奈さん(小)と朝比奈さん(大)の場合は話は別で、二人とも同一世界にて存在可とのこと。
一方が子供、片方が大人ということだけあって厳密に言えば同一人物ではないからだそうだ。

つまりこれらの理由で、朝比奈さんは『未来』などという
漠然とした抽象的単語を使わざるを得なかったわけだ。

ただ、これだけでは何のことかわからない…そう感じたのは彼女も同じで、一度は彼女も、この手紙の発送を
取り止めようとしたらしい。が、【無いよりは有ったほうがマシ。】との考えで、結局送ってきたとのこと。

……

『今から公園に来てもらえませんか?』

先程のこの手紙…特に深い意味はなかったらしい。いや、一応意味は孕んでるな。
要は、今から公園に来いってこった。…つまり、そのまんまだ。ただ、あまりに簡潔すぎがゆえの不満…
というのもあるだろう。公園とはどこの公園なのか?差出人は一体誰なのか?

彼女曰く、疲労が溜まっていて上手く手紙を書けなかったとか…。
なるほど、朝比奈さんらしいと言えば、朝比奈さんらしいのかもしれない。

とはいえ、笑い話にもできない。なぜなら、彼女の疲労とは例の甚大なシュミレートによる
精神的疲弊に他ならないからだ。彼女には疲れを取るためにも…しっかりと休んでもらいたいもんだな。

真剣にそう思った。

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