「はぁ…はあ…、くっ…!」

俺は走っていた 息を切らしていた

……

ああ…やっぱみんな揃ってやがる…

……

…疲れた

「キョン…遅い!!罰金ッ!!」

高々に罰金宣告を放つ団長様。

「…俺がいつも最下位っていうロジックは変わらないわけだな…、」
「遅れてくるあんたが悪いんでしょ!?」
「まあまあ涼宮さん。彼も疲れてるようですし、このへんにしておきましょう。」
「そ、そうですよぉ。キョン君息まで切らしてるみたいですし…。」

古泉と朝比奈さんが仲介に入ってくれる。

「ふん、頑張ってきたことを認めたって、あんたがビリなことには変わりないんだからね!」
「…そんなことわかってるぜ。別に事実を否定しようとは思わん。だから、早く中へと入らして休ませろ…。」

そんなこんなで、俺たちは喫茶店へと入る。

椅子へと座る。

……

ふう…  やっと一息つけたぜ。

「やはり、昨日の疲れはまだとれませんか?」

口を開く古泉。ハルヒはというと、長門や朝比奈さんと一緒にメニューを眺めている。

「当たり前だろう…そういうお前こそどうなんだ?内心はかなりきつかったりするんじゃないのか?」
「…確かに、きつくないと言ってしまえばウソになります。ですが、その疲労もあなたと比べれば
大したことありませんよ。あそこに残り、最後まで涼宮さんと一緒に戦い続けた…あなたと比べればね。」
「さ、あたしたちのは決まったわよ!男性陣もとっとと決めちゃいなさい!」

そう言ってメニュー表を渡すハルヒ。

「何に決めたんだ?あんま高価なもんは勘弁してくれよ、払うのは俺なんだからな。」

罰金とは即ち、全員分の食事をおごること…SOS団内ではそういうことになっている。
もっとも、それを毎回支払うのは俺なんだが…。

「あのね、あたしだってそこまで鬼じゃないわ。せめてもの慈悲として、一応1000円は
超えないようにしているもの。あたしが頼むのはね、そこに載ってる…これよこれ!」
「…このチョコレートパフェ、値段が800円なんだが…」
「つべこべ言わない!そんくらい払いなさい!そもそも、遅れてくるあんたが悪いんだから!」

何が、あたしは鬼じゃない…だよ…。それどころか、棍棒を装備した鬼といえる。

「…キョン君、財布が苦しいようでしたら、いつでも相談してきてください。
機関でそのへんはいくらでも工面できますから…。」

ハルヒに聞こえないよう小さく耳打ちする古泉…って、マジか!?それは非常に助かる…

「いつもいつも払ってもらってゴメンねキョン君…なるべく私安いのを頼むから…!」

そう言って朝比奈さんが指したのは…この店で最も安い120円のオレンジジュースであった。

「私も…朝比奈みくるに同じ。」
「奇遇ですね。僕もそれを頼もうと思ってたところなんですよ。」

長門、古泉が言う。

…つくづく、俺は良き仲間に恵まれたと思う。なんだかんだで3人とも俺に気を使ってくれている。
まったく、どこぞの天上天下女に… 一回みんなの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。

「え、えぇ!?みんなオレンジジュースにするわけ!?」

動揺するハルヒ。

「みたいだな。ちなみに、俺自身もそれを頼もうと思ってる。」
「あんたの注文なんか聞いてないわ!!」

そうですか…

「だってみんなオレンジジュースな中、あたしだけデザートっていうのもバカらしいじゃない!?
しかも結構でかいから食べ終わるのに時間かかるし…!!あぁ…もう!!じゃあ、
あたしもオレンジジュースでいいわよ!!良かったわねキョン?みんな安い物選んでくれてさ!」

これは驚いた。なんと、俺たちは意図的ではないにしろ、あの涼宮ハルヒ自らの決断を…
覆してしまった!!歴史的瞬間とはこのことか!こんなの今までなかったことだぜ…?
…なるほどなぁ、ようやくハルヒも人の痛みがわかる道徳人間へ進化したってわけだ。

「何ボケっとしてんの!?そうと決まれば、早くみんなの分注文しなさい!」

前言撤回。俺の勘違いだったらしい。





……





「じゃ、いつものクジ引いてもらうわよ!」

SOS団恒例のクジ引きである。不思議探索にて二手に分かれる際、
その人員采配として、この手法が導入されている。

……

皆、それぞれハルヒからクジを引く。

「おや、僕のには印はないようです。」
「私にもないです。」
「ん?俺もだな。」

ということは…

「え…!?じゃあ、あたしと有希!?」
「そういうこと。印があったのは私とあなただけ。」

…珍しいこともあるもんだ。まさか、組み合わせが俺・古泉・朝比奈さんとハルヒ・長門に分かれるとは。

「有希と二人っきりなんて、なかなか無い機会よね~今日はよろしくね有希!」
「こちらこそ。」













ジュースを飲み干し、会計を済ませた俺たち。そういうわけで俺たち5人は…不思議探索とやらに励むのであった。

「いつも通り、5時に駅前集合ね!」

そう言って、長門とともに商店街のほうへと歩いていくハルヒ。

「なるほど、涼宮さんたちはあちらに向かわれたようですね。我々はどうしましょうか?」
「そうだな、とりあえず俺は…落ち着いて話ができる場所に行きたいな。
朝比奈さんはどこか行きたいところはありますか?」
「いえ…特にないですよ。お二人の好きなところで結構です♪」
「そうですね…では、図書館にでも行きませんか?あそこでしたら静かに話をするには悪くない上、
暖房も聞いていますし…ちょうどいいのではないかと。さすがに、また喫茶店やファミレス等に入るのも…
あなたたちには分が悪いでしょう?」
「いや、俺は別に…それでも構わんが。」
「でも、さっき私たちジュース飲んだばかりですよね。昼食だって家で既にとってますから…、お店に入っても、
特に進んで何かを頼む…というわけではないんですよね?でしたら、私も図書館がいいと思います。
話してばかりで何も頼まないようでしたら、お店の人に迷惑がかかるかもしれませんし…。」

…確かにその通りだ。朝比奈さんの指摘もなかなか鋭い。

「決まりですね。では、図書館へ向かうとしましょう。」

俺たちは歩き出した。

「それにしたってなぁ…ハルヒのヤツも、今日くらいは集合かけんでよかったのにな…
いくら今日が日曜で不思議探索の日だからって…。ついさっき、12時間くらい前か?
俺たち…この世界の危機に立ち会ってたんだぜ!?」
「仕方ないですよ。涼宮さんは…神に纏わる一切のことを忘れてしまったのですから。
昨夜の一連の記憶がないんです…二日前から今日にかけての日々は涼宮さんの中で
【いつも通りの日常】として補完されているはず、つまり【無かった】ことにされているんです。
であれば、日曜恒例の不思議探索を、彼女が見逃すはずはありません。」
「…まあ、それもそうだよな…あいつ、覚えてないんだよな…。」

……

「それにしたって、今朝お前に…家まで車で送ってもらったことに関しては、本当に感謝してるぜ。
脱力しきって動く気すらなかったからな…とても家まで自力じゃ帰れなかった。
それと…朝比奈さんもいろいろとありがとうございました。」
「感謝なんてとんでもない。当然のことをしたまでです。」
「そうですよ…私たちなんか、キョン君と涼宮さんが闘ってる間、何もできなかったんですから…
むしろ、今か今かと二人を助ける時を待ってたくらいなんですから!」
「古泉…。朝比奈さん…。」

…古泉・朝比奈さん、そして長門の三人にしてみれば、これほど歯痒い思いもなかったかもしれない。
できることなら、神を消し去るそのときまで…俺やハルヒと一緒に闘い続けたかったはずだ。

「…それにしても、三人ともよく俺とハルヒが倒れてる場所がわかったな。」
「前例がありましたのでね、推測は容易かったです。」
「前例?」
「以前、あなたが涼宮さんと二人で閉鎖空間を彷徨われたことがありましたよね。
あそこから帰ってきたとき…気付けば、あなたはどこにいましたか?」
「どこにって…自分の部屋のベッドだな。お前にも前にそう話したはずだぜ。」
「そうですね。で、そのあなたの部屋とは…即ち、涼宮さんによって
閉鎖空間に呼ばれた際、あなたが現実世界にて最後にいた場所というわけです。」
「まあ…そういうことになるな。ベッドに入りこんで眠った直後、俺は閉鎖空間にいたわけだからな。」
「その理屈を今回の事例にも当てはめた…ただそれだけのことです。」

「…なんとなくわかったぜ。」
「今回涼宮さんが閉鎖空間を形成するに至った契機となったのは…長門さんが隣家を爆破した、
あの瞬間です。とは言っても、あくまでそれはキッカケにすぎません。決定打となったのは…
朝比奈さんが涼宮さんをかばい、敵からの攻撃を被弾した…あのときでしょうね。」
「わ…私ですか…?」

…血まみれになった朝比奈さんを思い出す。

……

確かに、精神的ストレスとしては十分なものだったかもしれない。

「その時点での涼宮さん、及びあなたの立ち位置はどこでしたか?
涼宮さんの家の前でしたよね。それさえわかれば、後は何も言うことはないでしょう。」
「俺たちが現れる場所も、つまりはハルヒの家の前だと。」
「そういうことです。」
「…なるほど、簡単な理屈だな。それにしても朝比奈さん、昨日は無事帰れましたか?」
「それはもちろん!森さんがちゃんと私たちを送ってくれましたから!それにしても…
彼女の見事なハンドル捌きにはあこがれちゃいます!私もあんなカッコイイ女性になりたいです…。」

…新川さんの運転もやけに上手かったな。その証拠に、
ハルヒ宅から俺の家に着くまでの時間も…随分短かった気がする。…機関はツワモノ揃いだな。

……

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闇だった

意識を失った俺を待っていたのは

…闇だった



……



俺はどうなるんだろうか?このまま永遠に目を覚まさないのだろうか?
…そんなことがあってたまるか…!俺は…生きてハルヒに会わなきゃいけないんだ…!

……

誰か…助けてくれ…っ!

……

…?

何か声がする…

誰かが俺を呼んでいる

……

古泉…? 長門…? 朝比奈さん…? 

……みんな…?

「ッ!!」



……



「こ…ここは…?」

「!?目を覚ましたんですね!!」
「キョン君…!!無事で…何よりです…!」
「…本当に良かった…。」

……

仲間たちの姿が…そこにはあった。

「俺は一体…」
「本当によくやってくれましたよあなたは…涼宮さんと一緒にね。」
「涼宮…。」

……

「そうだ…ハルヒは!?」

すぐに立ち上がり、辺りを見渡す。なんと、横にハルヒが倒れているではないか。

……

ハルヒ…また会えたな…っ!

「おいハルヒ…大丈夫か!?ハル」

言いかけて口を閉じる。

……

『明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、
ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。』

そうだ…。このハルヒは、昨日今日のこのことを覚えていない。神に纏わる全ての記憶を。

『ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う…
普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。』

わかってるさ。そのほうが…ハルヒは幸せに生きられるもんな。
…とはいえ、それはそれで悲しいもんだ。もう、【あのハルヒ】には会えない…ってのは。

「涼宮さん、まだ起きないんですよね…。どうしましょう?」
「キョン君も起きたところですしね。呼びかけてみましょうか?」
「!待ってくれ古泉…!ハルヒは…このままにしておいてやれないだろうか?」

俺は…事ある事情を話した。

……

「なるほど…言うなれば、涼宮さんは三日前の状態に戻った…というわけですね?」
「…ああ、そうだ。だから」
「言いたいことはわかりました。涼宮さんはこのままにしておきましょう…
それもそのはず、前後の記憶がないのであれば 今ここで起こすわけにはいきませんからね。
『どうしてあたしはこんな外で寝ていたの?』、このような質問をされてしまっては
不都合なことこの上ないでしょうから。」

…さすが古泉。お前の理解力には脱帽だぜ。

「となれば…。朝比奈さん、長門さん 頼みがあります。」
「な、何でしょう!?」
「これから二人で涼宮さんを背負って…彼女の部屋、できれば寝床まで
連れて行ってもらえないでしょうか?少々きついとは思いますが…。」
「あ、そっか…目を覚ましたときにベッドの上にでもいれば、
涼宮さん自然な状態で起きられますもんね!私…頑張ります!!」
「了解した。涼宮ハルヒはきっと部屋まで連れて行く。」
「お、おい古泉!?ハルヒくらい俺一人で背負って行ってやるぞ!?
何も長門と朝比奈さんに頼まなくても…しかも、長門は未だ能力が使えないだけあって
体は生身の人間なんだ。いくら二人がかりとはいえ…それなりの負担にはなっちまうぞ!」
「だ、大丈夫ですよキョン君!すぐ着く距離ですから!」

…?

……

そういえば

俺は…ここがどこかをよく把握してなかった。起きたばかりで、いささか余裕がなかったせいか?
隣には見慣れた家がある。いや、見慣れたとかそういう次元の問題ではない…か。
そりゃそうだ。なぜなら、それはさっきまで俺たちが一緒にいた家なんだからな。
…つまり、俺たち二人はハルヒの家の前で倒れていた…というわけだ。

「いや…、それでもだな…。」
「今は涼宮ハルヒのことは私たちに任せて、あなたは休息をとるべき。あなたは今、心身ともに衰弱している。」
「何言ってやがる長門?俺はこの通り…」

…どうしたというんだ?足に力が入らない…?気のせいか、体もふらふらする。

「キョン君…私からもお願いします、どうか今は休んでください!
自分では気付いてないのかもしれないけど…すっごく疲れきった顔してるんですから!」

何…!?今の俺の顔はそんなに酷いというのか。

「彼女たちもそう言ってくれてるんです。ここは素直に従ってくれませんか?」
「あ、ああ…わかった。じゃあ、ハルヒをよろしく頼みます…朝比奈さん、長門。」
「はいっ!任せてください!」
「では朝比奈さん、長門さん…涼宮さんを運び終えたら、しばらくの間、彼女の家で
待機してていただけませんか?こんな夜遅くに女性が一人外を出歩くのは…危険ですからね。
長門さんも今は普通の人間なわけですし。というわけで、これから森さんに電話を入れます。
彼女の車がここに来たら、それに乗り…家まで送っていってもらってくださいね。」
「古泉君…ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えます!」

「それと、すでに新川さんには電話を入れてあります。彼にはキョン君を送っていってもらいましょう。」
「古泉…すまんな。」
「いえいえ、こんなときのために機関の面々はいるようなものですから。」
「じゃあ、長門さんはこっちをお願いします!」
「了解した。」

ハルヒの肩を担ぎ、彼女の家へと入ってゆく二人。

「おや、もう来たみたいですね。」

ふと、道の横に黒塗りの車が停まっているのが見える。

「…いつ呼んだんだ?」
「3分前くらいでしょうか。あなたが目を覚ます直前くらいですね。」

…相変わらず仕事が速い新川さんである。

「さて、森さんにも電話を入れました…じきに彼女もココに来るでしょう。では、車に乗るとしましょうか。」

新川さんの車に同乗する俺と古泉。

「今日は本当にお疲れ様でした。帰ってゆっくりとお休みください。」
「…どうもです。新川さんも、夜遅くお勤めご苦労様です。」
「ははは、あなたの偉業と比べれば、私の働きなど足元にも及びませんよ。」

フロント席から俺に話しかける新川さん。

……

「古泉…大丈夫か?そういうお前も随分疲れてるように見えるが…。」
「おや、そう見えますか?だとしても、弱音を吐くわけにはいきませんね。
これから僕は一連の事後処理に追われるわけですから。」
「これからって…まさか今からか??」
「ええ、そうです。」
「……」

時計を見る。今は午前の2時である…。

「新川さんの車で本部に帰ったら、ただちに仕事のスタートです。神は一体どうなったのか、
涼宮さんの能力の有無は…、調べるべきことは山ほどありますよ。」

…確かに、それは気になる。何よりも、神がどうなったかということが。

「…僕個人の勝手な推測で言わせてもらうと、神は消滅したのではないか?そう考えてます。現に今、
この世界に何も異変が起こっていない…それがその証拠かと。仮に時間を置いて世界を滅ぼすつもりで
あったとしたら、地震や寒冷化などといった何らかの前兆が観測されてしかるべきはずですからね。」
「…そう信じたいものだな。」
「場所は、ここでよろしいですかな?」

気付けば俺の家の前まで来ていた。

「新川さん…ありがとうございました。そして古泉…大変とは思うが、どうかほどほどにな。」
「はい、心得ておきます。では、お休みなさい。」
「おう、またな。」

…さて、家に入るとするかな。…合いカギもってて助かった。

……

部屋へと戻った俺は…ベッドに倒れ込んだ。…もはや何も考える気がしない。

気付くと俺は寝ていた。





























…?

携帯が鳴っている。はて、目覚ましをセットした覚えはないのだが…。
…ああ、なるほど。電話か。窓からは日が射している…起きるには十分な時間帯、というわけか。
とはいえ、昨日あんなことがあったばかりだ…正直言うと、まだ寝ときたい。

…電話?

……

まさか…ハルヒに何か!?

「もしもし、俺だ!」
「こぉ…んの…!!バカキョンッ!!今どこで何やってんのよッ!!?」
「おわ!?」

…驚くのも無理ないだろう…?まさかの本人ですか。

「は、ハルヒ…?何の用だ??」
「はぁ!?まさか忘れたとは言わせないわよ!?今日は不思議探索の日でしょうが!!」
「…今何と言った?不思議探索だと!?なぜ今日するんだ??」
「あんたがそこまでバカだったとはね…今日は日曜でしょう!?」

…確かに今日は日曜日だ。なるほど、いつもこの曜日、
俺たちSOS団は町へと出かけ、不思議探索なるものをしている。…だが

「昨日あんなことがあったばかりだろう?それでも今日するのか??」
「あんなことって何よ??いい加減夢の世界から覚めたらどう!?」

…しまった。そういや、ハルヒはこの三日間のことは…覚えてないんだっけか??

「とにかく!!今すぐ駅前に来ること!!いいわね!?」
「…ちょっと待ってくれ。今すぐだと!?いくらなんでも急すぎやしないか??」
「何言ってんのよ!?今日の3時に駅前に集合ってメールしたじゃない!!」
「そ、そうだったのか??」
「まさかあんた、今起きたとかいうんじゃないでしょうね…?失笑通り越して笑えないわよ…。」
「わかったわかった!!今すぐ行くから!!じゃあな!!」

電話を切る俺。

…マジだ。メールが来てやがる。って、今3時かよ!?こんなに寝てたのか俺!?

……

幸いだったのは、俺が着ているこの服が外出着だったってことか。
もちろん、いつもなら寝間着なんだがな…昨日が昨日なだけにそのまま寝ちまった。
とりあえず、これなら財布・カバン・自転車のカギを身につけ、上着を羽織りゃすぐにでも直行できる。

身支度を終え、部屋を飛び出す俺

「あ、キョン君!やっと起きたんだね!」

廊下にて、妹に見つかる。

「私がどれだけ叫んでも、キョン君ぐっすりだったんだよ?
でも今日は休日だから!さすがにドシンドシンするのは勘弁してあげたの!」

ドシンドシンとは…寝ている俺めがけ、トランポリンのごとくヒップドロップをかます
妹特有非人道的残虐アクションのことである。もっとも、妹にその気はないらしいが…
って、俺は妹の叫び声でも起きなかったのか。どんだけ熟睡してたんだ?

「ちょっと疲れててな…起きるのがすっかり遅くなっちまった。とりあえず、俺は今から出かけてくるぞ。」
「ええー?今からお出かけ?あ、わかった!SOS団の人たちと何かするんだね?」
「…お見通しってわけか。ああ、そうだぜ。」
「行ってらっしゃ~い。あ、でもキョン君今日まだ何も食べてないじゃない?大丈夫~?」

しまった。そういや今日…俺はまだ何も食べていない。あれ?デジャヴが?

…あー、昨日もそうだったか。そのせいで俺たちは…あの後マックへと行ったわけだ。
だが、今回はそうもいくまい。なぜなら、不思議探索をやるこの日に限って…しかも昼3時までに
昼食をとっていないなどというのは、ハルヒ的に考えられないからだ…!

まあ、別にいいか。食べてる時間などないし…。それに、昼飯なら探索時にどこかで適当なもん買って
食えばいいだけだろう…。外に出た俺は自転車に跨ると、すぐさま駅へと向かった。…全速力でな。



……



駅前の駐輪場に自転車を置いた俺は、すぐさまハルヒたちのもとへと走るのであった。

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…ちょっと回想してみたが。ホント、昨日今日と忙しい日々だった…。

……

おお、ちょうどいいところに店が。

「ちょっとコンビニ寄ってもいいか?」
「いいですよ。何か買うんですか?」
「ちょっと飯を…な。今日まだ何も食べてねえんだよ。」
「え、そうだったの!?それなら私、あんなこと言わなかったのに…。」

あんなこと…?ああ、あれか。

『でも、さっき私たちジュース飲んだばかりですよね。昼食だって家で既にとってますから…、お店に入っても、
特に進んで何かを頼む…というわけではないんですよね?でしたら、私も図書館がいいと思います。』

「いえいえ、いいんですよ朝比奈さん。古泉や朝比奈さんが何も頼まない横で俺一人だけ
何か食べるというのも…なんとも心苦しいですから。何より、二人が手持ち無沙汰でしょうしね。」
「別に私…そんなこと気にしませんよ?」
「ありがとうございます。でも、俺は飲食店に入ってまで大それた食事をとるつもりはないんですよ。
だから、軽い食事でOKなんです。」
「な、ならいいんですけど…。」

「では、我々はキョン君が食事をとり終わるまで暇を潰しておくとしましょう。
朝比奈さんは…何かコンビニで買うものはあったりしますか?」
「いえ…特にないですね。」
「なら、雑誌でも見ていきませんか?女性誌やファッション誌、漫画など…
未来から来た朝比奈さんには、この時代の雑誌はなかなか興味深いものと思われますよ。」
「!それもそうですね!面白そうです…!」
「というわけで…私たちは立ち読みでもしときますので、あなたはどうかごゆるりと。」
「すまんな古泉。」

とはいえ…あまりにマイペースすぎても2人に申し訳ないので、一応それなりのスピードで食させてもらうとする。






……






おにぎりと肉まんを買い、外に出た俺。

さて、食べるか…。

「ん?まさかこんなとこであんたと会うとは。」
「こんにちは。あ、それ肉まんですか?私はアンまんのほうが好きですね!」

……

いかん、うっかり手にしていたおにぎり&肉まんを落としそうになった。

「…どうしてお前らがここにいる…!?」

藤原と橘が、そこにいた。

「どうしてって…単にコンビニに飯を買いに来たってだけだ。」
「私も同じく!」

『単にコンビニに飯を買いに来たってだけだ。』

…こう言われては、俺もどうにも言い返せないではないか…
なぜなら、コンビニに飯を買いに来ることはごく自然なことだからだ。当たり前だが。

「そうかよ…ならいいんだがな。それにしたって、俺は忘れたわけじゃねえぞ!
よくも…朝比奈さんを血まみれにしてくれたな!?」
「ああ、あれか。あのことで僕たちに文句言われても困るんだがな。やったのは九曜だし。」
「もっとも、その九曜さんは今ここにはいませんけどね。」
「そういう問題じゃねえだろ!?九曜とか何とか関係ねえ、連帯責任だ!」
「うるさいやつだな…第一、九曜にそうさせたのはどこのどいつだ?」
「あれって言わば正当防衛みたいなものですからね。私たちが非難される所以はどこにも
ありませんよ?誰かさんが家を爆破したりしなきゃ、こんなことにはならなかったんですから。」

…確かに、もとはと言えば、偽朝比奈さんに唆された俺が藤原一味を敵だと思い込んだことが
全ての発端か…そのせいで、長門や古泉は連中に対して先制攻撃に打って出ちまいやがった…。

「ま、どうせ異世界から来た朝比奈みくるにでも騙されてたってとこなんだろ?」
「……」

言い返せない。

「あらら、図星みたいですね。せっかく藤原君があなたに『朝比奈みくるには気を付けろ。』
って忠告したのにもかかわらずね。人の話はちゃんと聞かないとダメですよ?」
「?何のことだ?」
「え?藤原君が言ったの覚えてないんですか??」

…?

「それなんだがな、橘。実はそんときの記憶、こいつから消した。」
「ええーっ!?どうしてそんなことしちゃったんですか??」
「僕や九曜が暗躍してることを知られたらいろいろと面倒だろ?そう思って
消したんだよ。それにこいつ自身、結局僕の忠告に従わなかったしな。」
「そのときは従わなくても、途中で考えが変わったりしたかもしれないじゃないですか!
藤原君のせいで…キョン君が私たちを敵だと思い込んだようなものですよ…!?
結果として、私たちは朝比奈みくるを討てなかった!どうしてくれるんですか!?」
「おいおい落ちつけよ…いずれにしろ、目の前にいるこいつの働きのおかげで
世界は救われたんだから…結果オーライ。それでいいじゃないか。」
「そういう問題じゃないでしょ!?いつまでもそんなルーズな性格だと
またいつか、同じようなミスをしちゃいますよ!?」
「わかったって…わかったから。すまんかった橘…」
「わかればいいんです。」

さっきからこの二人は… 一体何の話をしてるんだ??…俺にはわからない。
ただ、【怒る橘】と【それに頭を下げる藤原】との対比に驚愕したのは言うまでもない。

「そういうわけで、それじゃキョン君も仕方がないですよね。
今回は双方に落ち度があったと…そういうことにしておきます。」

どうやら、俺にも落ち度とやらがあったらしい。まあ…今となってはどうでもいいが。

「何はともあれ、昨日今日は本当にお疲れ様でした!キョン君。ほら、藤原君も言う!」
「…何で僕がこいつなんかに?今お前が言ったんだから、別にいいだろう。」
「よくないです!こんなときに意地張っちゃってどうするんですか!?だから藤原君は…」
「わかったわかった…言えばいいんだろ?…お疲れ様でした。」
「あ、ああ…。」
「さて、じゃあ私たちは買い物に行くとしましょうか。じゃあねキョン君!」

颯爽とコンビニの中へと入って行く橘と藤原。…まったく、嵐のような二人だったな。
何がどうだったのか…結局よくわからなかった。

…って、これはまずいんじゃないのか??もし…中で立ち読みしてる古泉と朝比奈さんが
あの二人と鉢合わせでもしてしまえば…!!俺と違って事情を知らないだけに…
非常にややこしいことになるのは間違いない!!最悪の場合…喧嘩沙汰になるぞ!?





……





用事を済ませたのか、中から出てくる二人。

「それにしても、最近の藤原君はコンビニ食ばかりですよね…?気持ちはわかりますよ。作る手間が省ける分、
楽ですもんね。でも、それも程々にしておいたほうがいいかなーと。栄養が偏りますし。」
「何でお前なんかに心配されなきゃならない!?関係ないだろ!?」
「関係なくないです。また何か共同作業があったとき、体調でも崩されたらたまったもんじゃありませんから。」
「そういうお前はいいのか??自分だってコンビニで弁当買ってたじゃないか…。」
「私は た ま に だからいいんです。それに、私がコンビニを利用するときって
たいていは雑誌やライブチケットの予約ですからね。今だってほら…予約してきました!」
「…EXILEのライブ…か。この時代の人間じゃない自分にはよくわからん…。」
「今すっごく人気のグループなんですよ!?一回藤原君も未来へ帰る前に聴いておくべきです。」
「はぁ…そうかよ。」

……

「あれ?キョン君まだそこにいたんですか?」
「…何やってんだあんた?僕たちが中へ入ってから出て来るまでの間、
おにぎりの一つさえも食ってなかったのか?…呆れるな。」
「そうですね…肉まん冷えますよ?じゃあ、私たちはこれで。またねキョン君!」
「ふん、意味不明なやつ。よくあんたのような人間が世界を救えたもんだ。」
「何言ってんですか!?さっさと行きますよ??」

そう言い残し、去って行く藤原と橘。

……

突っ込みたいことは山ほどあるんだが…今は自重するしかない。とりあえず外から中を眺めていたが…
結局、両者が互いに鉢合わせすることはなかった。運が良かったんだろうな…要因は2つ。

1つは古泉・朝比奈さんが立ち読みに夢中になっていた…ということ。
もう1つは藤原・橘の二人が雑誌コーナーに立ち寄らなかった…ということ。
この2つが掛け合わさり、見事に衝突は回避。めでたしめでたし…というわけだ。

……

いや、全然めでたしじゃない…無駄に時間をロスした分、一刻も早く食事に手をつけねばならない…
















「食べ終わったようですね。」
「ああ…おかげ様で、ゆっくりと食べることができたぜ。」
「それはよかったです!私も私で、ゆっくりと雑誌を眺めることができました!」
「何を読んでたんですか?」
「ファッション誌をね。特に、可愛い衣服やアクセサリーなんかは…
見ててほしくなってきちゃいました!この時代の衣料品もなかなか興味深かったです…!」
「気に入ってもらえて嬉しいです。勧めた甲斐があったというものですよ。」
「そういう古泉は何を読んでたんだ?」
「芸能系の雑誌をちょっと。政治の裏金や特定企業・芸能事務所間の癒着及び秘密協定等…
普段なかなかお目にかかれない記事に白熱していた…といったところでしょうか?」

…なるほど。各々の性格を考慮すれば、二人が本に夢中になっていた…というのも頷ける。

「二人とも満足そうで何よりだぜ。」
「そうですね。…では、行くとしましょうか?」

図書館へ向け、再び俺たちは歩き出した。

……

…どうする?朝比奈さんに…あのことを聞いてみるか?
事態が落ち着いた今なら…もしかしたら答えてくれるかもしれん。

「朝比奈さん…ちょっといいですか?」
「?何でしょう?」
「長門から聞いたんですが、昨日朝比奈さんは…時間移動したそうですね?未来へと。」
「!」
「もし差し支えなければそのこと…教えてくれませんか?」
「……」

彼女は答えない。…やはり、何か触れてはいけないことを…俺は聞いてしまったのだろうか?

「あなたが答えないのは禁則事項のせい…というわけではないようですね。」
「…!」

古泉の言葉に…かすかではあるが動揺する朝比奈さん。

「もし禁則事項で話せないのであれば、すぐさまあなたは【禁則事項】という名の言葉を口から
発するはずですよ。未来人からすれば、それは永久不可侵に通じる絶対のルールであるはず。
現代の我々から言わせれば、ちょうど犯罪是非の境界線認識に近いものと言ったところでしょうか。
朝比奈さんのような実直誠実なお方がそれを破るとは考えにくい…だから、尚更言えるんです。
あなたが答えないのは…単に個人的な問題によるもの、とね。」
「……」






……






操行してる間に、俺たちは図書館へと着いた。…とりあえず、3人で空いてるソファーに座る。

…空気が重い。

あんな質問、するべきじゃなかったのかもしれない…。俺は後悔の念に打ちひしがれていた。
事態が落ち着いた今なら…世界が救われた今なら答えてくれる…!そう安易に妄信していただけに…

「…話します。」

一瞬、空気が浄化されたような気がした。二度と口を利かない、
そんな雰囲気があっただけに…。彼女のこの一言に、俺は救われた。

「確かに、私はあのとき…未来へと帰っていました。それは事実です。」

……

「…覚えてるかしら?二日前、私たちがファミレスに集まって話したことを。」
「?…はい。」
「私…あのときは本当にびっくりしちゃいました。涼宮さんの誕生が46億年前に遡ること、これまで幾つもの
世界が存在したということ、フォトオンベルトによりこれから世界が滅ぶこと…どれも信じがたい内容ばかりで、
正直長門さんから初めて聞かされたときは耳を疑いました…。そんなときであっても、
あたふたしてる私とは対照的に、古泉君は凄く冷静で…決して取り乱したりはしませんでした。」

「…朝比奈さん、それは違います。とても内心穏やかだったとは…言えませんね。
むしろ、発狂したいくらいでした。世界は近年になって構築された…この近年説が覆された。
僕を含む機関の面々がこれまで妄信してきた価値観が…根底からひっくり返された。
長門さんの話を【事実】として受け止めるには…あまりにハードルが高すぎましたよ。その証拠に、
キョン君は知ってるはずです。僕のあのときの…ファミレスでの説明はお世辞にも良いものとはいえなかった、
ということをね。当然です、僕自身混乱していたのですから。」

「…何を言ってるんだお前は??十分上手く説明してたように…俺には思えるぞ?」
「本当にそう思っていただいているのであれば、嬉しい限りですね。ですが、よく思い出せば
わかるはずですよ。僕が…事あるごとに、しょっちゅう長門さんへ助けを求めていたことがね。」
「そりゃ、全体の説明量から言わせれば、長門の方が多かったかもしれんが…。」
「おわかりですか?朝比奈さん。あのときの僕は正常とはほぼかけ離れた状況にあった…ということが。」
「…古泉君の内心がそうだったとしても、それでも古泉君は…外面をちゃんと取り繕ってたじゃないですか!
キョン君が今言ってたように私からしても、とても説明に不備があったようには思えませんでした…!」

?朝比奈さんは…さっきから一体何を言おうとしてるんだ?今話してることが…
未来へと時間移動したこととどういう関係が?…それにしてもこんな会話、俺はどこかで聞いた気が…。

……

------------------------------------------------------------------------------

「ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?」

…今日の朝比奈さんはどうしたんだ?何か気持ちが滅入るようなことでもあったのだろうか。
まさか、未来のほうで何かあったか??

「そんなことないですよ朝比奈さん。あなたは十分俺たちの役に立ってます…
いや、役に立つ立たないの問題じゃない。いて当然なんですよ。」
「……」
「何かあったんですか?俺でよければ話を聞きますが…。」
「…昨日の晩、私は力になれたかしら…?」

昨日の晩とは…俺たちがファミレスにいたときだ。

「世界が危機に瀕してる…そんなとんでもない状況なのに私は昨日あの席で…
長門さんや古泉君に説明を任せっぱなしで、自分自身は何一つ重要なことはできなかった…。」





「…朝比奈さん。」
「は、はい?」
「あなたには…長門や古泉には無い物があります。俺が二人の難解な説明を聞いて頭を悩ましているとき…
朝比奈さんが投げかけてくれた言葉の数々は、俺の疲れを随分と癒してくれましたよ。もしあなたがいなかったら…
二人の説明を本当に最後まで粘り強く聞けていたかは…、正直自信がありません。ですから、
本当に感謝してます。変に力まずにただ…自然体のままで。それで十分なんですよ。」
「キョン君…。そう言ってくれると嬉しいです…、でも私…」

……

「いや、なんでもないです!…私を励ましてくれてありがとう。」

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……

おそらく彼女は昨日、ハルヒの家で俺に話したことと…全く同じことを言いたいのかもしれない。

「朝比奈さん…まだそんなこと言ってるんですか??昨日も、俺は言ったじゃないですか!?
朝比奈さんがいたからこそ、長門や古泉の説明を最後まで粘って聞くことができたって!」
「そっか…キョン君にはこのこと昨日話したもんね。二度も似たようなこと言っちゃってゴメンね?
そんなつもり私もはなかったんだけど…ただ、【未来へと時間移動した】理由を言うには
今の話はとても欠かせないものだったから…。」
「…そうだったんですね。いえ、自分は全然気にしてませんよ。どうか、話を続けてください。」
「…ありがとうキョン君。」

……

「ここまで遠回しな言い方をしてしまったけど…つまりね、私はみんなの役に立ちたかったの…!
長門さんや古泉君のような…目に見えるような働きを…、私は果たしたかった!
いつも私だけ何もしないのは…もう嫌だったから…!」
「……」
「未来へ時間移動…その行動の契機となったのは、ファミレスで…長門さんが言ってましたよね?
涼宮さんが倒れた今回の騒動には…未来人が関与してるんじゃないかってことを…。」

『あの時間帯にて、私は微量ながら通常の自然条件においては発生し得ないほどの異常波数を伴う波動を
観測した。気になるのは、それが赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線等、いずれにも属さない
非地球的電磁波だったこと。これら一連の現象が人為的なものであると仮定するならば、現在の科学技術では
到底成し得ない高度な技術を駆使していることに他ならない。』
『…未来技術を応用しているのだとすれば、犯人が未来人であるという可能性は非常に高いと思われる。』

…確かに長門はそう言っていた。

「だから私は思ったの。もし犯人が…私と同じ未来人であるのなら、私にはその犯人の情報を
つかむ義務がある…と。SOS団で唯一時間跳躍ができる人間が私なんです…
もしかしたら、みんなが知りえない情報を私なら…未来で手に入れられるかもしれない!
そしたら、涼宮さんの役にも立てるかもしれない!そんな強い思いが…私に生まれたの。」

……

「だから、朝比奈さんはその情報を得るため、未来へと時間移動したんですね…?」
「…はい、その通りです。」

……

「でも…現実は非情だった。私は…いろんな人に話を聞いた。幾多の幹部の方にも話を伺った。
それでも…私が求める情報を、誰も教えてはくれなかった。まるで…みんな私に何かを
隠してるかのように…ふふっ、こんなふうに考えちゃいけないのにね。私って…ダメだね。」

…いや、朝比奈さんの今の考えは、おそらく当たってる。
なぜなら、犯人の名前そのものが…【朝比奈みくる】その人だったからだ…。
いくら別世界の住人とはいえ、彼女が【朝比奈みくる】なる人物と全くの同じ姿・形・名前をもつ
人間であることは事実…上層部の連中からすれば、これほど躊躇してしまう存在もなかったかもしれない。
ましてや、世界の存亡にかかわる…現代で言う国家最高機密に指定されていてもおかしくない情報を
彼女に話すことなど言語道断 このような認識が幹部たちの間で成立していたとしても、何らおかしくはない。

「でも、私はあきらめなかった。何度も何度も上層部の方とコンタクトを取ろうともしたし、
電話をかけたりもした…そして、ようやく上司からある情報を聞けたの…。」

上司…大人朝比奈さんのことだ。

「その情報っていうのがね…藤原君たちに任せておけば大丈夫、というものだったの…。」
「……」

言葉に詰まる俺。

……

結果的に、ヤツらが【朝比奈みくる】の暗殺に向けて暗躍していたのは…事実だったからだ。

「最初聞いたときは、私には何のことだか訳がわからなかった…それもそうよね?キョン君たちからすれば、
彼らは敵なんだもの…そんな彼らがいくら世界を救うとはいえ、その過程でキョン君や涼宮さんたちを助ける
だなんて…私にはにわかには思えなかった。…結局、私が未来でつかめた情報はこれだけ。だから、
私にはなんとしてもこの情報の真偽を確かめる必要があった…。藤原君がこの世界に来てるということを知って、
ただちにこの時間へと遡行したわ。そして、彼に連絡をとった…」

……ッ

ようやく話が繋がった。

『…朝比奈みくるがここの時間軸に戻ってきた午後1時24分以降、
これまでに6回…ある未来人との電話での接触を確認している。』
『パーソナルネームで言うところの、藤原。』

…この長門の言葉はそういうことだったのか。

「でも…彼は私の質問に対して、まともな返答はしてくれなかった…
一応何度か連絡はとってみたんだけど…結局、私は何も情報を聞きださず仕舞いに終わった…。」

……

もしかしたら、藤原のヤツは朝比奈さんの【声】を警戒したのかもしれない。
標的である【朝比奈みくる】と全くの同一の声…彼女を相手にしなかったのはこのせいか…?

「…私がね、昨日涼宮さんの家で元気がなかったのも…さっきキョン君から時間移動のことについて
聞かれた際に沈んでいたのも…そのせいなんです!だって…そうでしょう…っ?
犯人が未来と関係あるっていうのなら…きっと未来で何かしらの情報がつかめると、そう思ってたのに!
今度こそ…みんなの役に立てると思ってたのに…。結局、時間跳躍した意味もなかった。
藤原君からも何も聞き出せなかった。私には…みんなと会わせる顔がなかったの…。」

彼女が涙声になっているのは言うまでもない。もしかしたら、泣いているのかもしれない。

……

まさか、彼女にこんな事情があったなんて…思いもしなかった。
ハルヒや自分のことで精一杯だった俺には…彼女の苦しみなんて気付きようもなかった。

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「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」
「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」
「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」

……

え?

じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ?

……

全部…朝比奈さんの血……

…!?

「う…ぅ、ぅぅ……!」

悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった

「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」
「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」
「朝比奈さん!!?」
「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」

理解した

彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった   あのとき奴の一番そばにいた…彼女は

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尚更、あのときの彼女の心情がわかる。幾度と奔走した挙句、成果を上げられなかった彼女は…
あのとき死す覚悟だった。そこまで彼女は追い詰められていた。
そうでもしないと、自分でも納得のいかない段階まで来てたってのか…!!?

…っ!!

「朝比奈さん!すみませんでした…!!」

急に立ち上がり、何事かと思えば…彼女に向け、土下座をする古泉。
もちろん、ここは図書館。館内のあらゆる一般人の視線を…ヤツは浴びることになった。

「ど、どうしたんですか古泉君!?何で…何で私に土下座なんか…!?」
「僕は…正直に、あなたに包み隠さず話さなければならないことがあります…!」
「…??」
「僕は…あなたを、一時的ながらも…疑っていたんですよ…。あなたを、犯人だと!」
「っ!」
「この局面においての未来への時間移動、我々の敵であるはずの藤原氏への電話連絡、未来技術応用による
涼宮さんの卒倒等…いくつもの状況証拠により、あなたを… 一時的にでも犯人だと、僕は疑ってしまった!
朝比奈さんに…そんな重い事情があるとも知らずに僕は…ひどいことを考えてしまった!!
最低ですよ本当に…。深く、深くお詫び申し上げます…。」
「……」

……

「古泉君…顔を…、顔を上げてください…。」
「朝比奈さん…?」
「…確かに、それを聞いたときはショックでした。でも!それを言うなら私にも非があります…!
だって…考えてもみれば、世界がどうなるかもわからないこの局面で…みんなに何の相談もせず、
勝手に時間移動をしてしまった。状況的に疑われても仕方ないことを…私はしてしまいました。
だから、責められるべきは迂闊で軽率な行動をしてしまった…私にあります。古泉君は…涼宮さんのことを、
みんなのことを一生懸命考えてた…!だから、一つでもあらゆる不安要素は潰しておきたかった!
仲間想いの優しい副団長さんだと…私はそう思いますよ…?」
「…許して…くれるんですか?」
「許すも何も…当たり前じゃないですか!私のほうこそ…ゴメンね。」
「朝比奈さん…!ありがとうございます…っ! …そうだ、朝比奈さん。」
「な、何でしょう??」
「僕はですね…その点においては、彼を…キョン君のことを尊敬しているのですよ。」
「お…俺…??」

急に自分の名前を出され、驚く俺。

「彼はですね…僕と長門さんが朝比奈さんの…、一連の状況証拠を並べている時に際してまでも
朝比奈さんの無実を訴えて止まなかった。朝比奈さんが無実だと…信じて止まなかった。それどころか、
そんな問題提起をする僕や長門さんに対して逆上しそうになったくらいでした。…それだけ彼は仲間のことを
心底信じていたというわけですね。ここまで純粋で素朴な人間は…なかなかいないでしょう。」
「キョン君が…私のためにそこまで…?!ありがとう…キョン君…。」
「ま、待ってください朝比奈さん!そんなこと言われる所以、自分にはありません…
むしろ、謝りたいくらいなんですから…。もっと早く、もっと早く朝比奈さんのそういう事情に気付いていれば…
朝比奈さんがここまで精神的に追い詰められることもなかったかもしれない…。だから 謝ります、朝比奈さん。」
「……」

……

「どうしてキョン君にしても古泉君にしても…みんなここまで謙虚なんですかね…?
もうちょっと自分を持ち上げたっていいのに…。ふふっ、なんかおかしくなってきちゃいました♪」
「確かに…ちょっとおかしな状況かもしれませんね。僕も自然と笑いが…。」
「古泉よ、どうおかしいのか?お前の得意分野、解説でぜひ説明してくれ。」
「いやぁ…さすがに、こればかりは僕にも解説不能です。」

俺たちは笑いに包まれた。…さっきまでの重い雰囲気は、一体どこにいったんだろうか。

……

良い仲間に恵まれて、本当に自分は幸せだな…。出過ぎたマネかもしれんが、
おそらく他の2人も似たようなことを考えてるのではないかと…。俺は強くそう感じていた。
いつまでも、こんな時間が続けばいいなと思った。
























いや…どうも、そういう問題ではないらしい。さっきから周りの視線が…痛い。
どういうことなんだろうな?俺たちは、すっかり忘却してしまっていた…っ!

【ここは図書館だ。】

何でかい声で笑ってんだ…迷惑にも程があるだろう…?
そういうわけで、俺たちは図書館を後にしたのさ。

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最終更新:2010年10月27日 17:38