俺はドアを開けた。

「ハルヒ…やっぱりここにいたか。」
「    」

思った通りだった。旧校舎の、俺たちの部室に、SOS団の部室に、こいつはいた。

「    」

窓のそばに立ち、外を眺める少女。

「…ハルヒ。」

呼びかけるが、こちらを振り向く気配はない。

「おい、ハル」
「何しに来た?」

……

明らかな拒絶。

…覚悟はしてたさ。ハルヒが、覚醒を起こしてぶっ倒れちまった時点でなぁ。言わずもがな、こいつは…
俺の知ってる涼宮ハルヒではない。窓から立ち退き、振り向いたその顔は…無機質な表情そのもの。
記憶喪失にでも遭い、俺が誰だかわからない…そんな虚無感を覚えた。

「お前は…ハルヒじゃないな。」
「    」

『最初の宇宙は無限宇宙だった。この無限宇宙には初めは創造主である神しかいなかった。
始まりもなく終わりもなく、時も空間もなく、形も生命もなかった。このような全くの無の宇宙に
神は初めて有限を生み出した。神が自らを具現化した有限…我々はその存在を
各地の神話や伝説に照らし合わせ、【ソツクナング】と呼んでいる。』

長門の言葉を思い出す。

「これまで何度も世界を破壊し、そのたびに創造してきた張本人…そうだよな?神様…いや、」

……

「ソツクナングと、そう呼んだ方がいいのか?」
「    」

……

「 ソツクナング か 懐かしい名前 そうだとして、あなたはどうするつもり?」
「決まってんだろ…この世界の崩壊を…!第四世界の崩壊を今すぐ止めてくれ!!」
「できない相談だとわかっていて わざわざそれを口に?」

淡々とした 冷酷な口調。

…時計を眺める。

23時56分

時間がない…!こいつを説得してる時間など…もはやない…っ!  

「…力づくでもお前を止める。」

……

「まったく、呆れる  力でしか物事を解決できない それが人間 」

ッ!!

「お前に言われたかねえよ!!これからまさに【力】でもって世界を滅ぼそうとする…
お前みたいな【邪神】にはな!!もはや神ですらねえ!!」
「 今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない
なぜなら、私自身 ここにはいないのだから 」
「何をワケわかんねえことを…ッ!」

……

『あたしはあくまで神の化身でしかないの。確かに人間の身に投じてはいるけど、
だからといって本来の神が消えてしまったわけじゃない。本当の神はあたしとは別に
宇宙のどこかで存在してるわよ。で、その存在が地球規模の天変地異を引き起こしてるわけ。』

ハルヒが昔言っていた。

…こいつの言うとおりだ。神はここには…いない。

「ハルヒは…」
「    ?」
「ハルヒは…元のハルヒはどこに行った!!?」

そうだ…あいつは言っていたんだ…!

『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている…
それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。
そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。
人間である以上、最低限の理性はもつもの。…当然の帰結よ。』
『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』

「あいつはな…見たくなんかねえんだよッ!!この世界の人間が死ぬ様なんてな…、
お前の…その体の本来の持ち主である涼宮ハルヒはなぁ!!!」
「だから何?」
「あいつ自身そんなことは微塵も思っちゃいねえ…だから、言うぜ。今すぐ…今すぐ
ハルヒの人格を呼び戻せ!!お前が今やろうとしてる暴挙に…あいつはきっと反対する!!」
「  ?呼び戻す必要性が感じられない 」
「そんなこともわかんねえのかよ!!?ハルヒは…元はと言えば涼宮ハルヒは
お前の分身のような存在だったはずだ…俺が言いてえのは!!!仮にも分身だと言える
そいつの声を… 一方的に封殺しちまってもいいのかって、俺は聞いてんだよッ!!!!」
「この人間のことなど知ったことではない」

躊躇うことなくこいつは言い放った。冷たかった。

『本来の神はとても考えが物質的で無機的で…そして冷酷。』

「そうかよ…じゃあ、この質問にだけは答えろよ…!!ハルヒをどこにやった!!?」
「別にどこにも ただ言えるのは 彼女がこの体に意識を宿すことは二度とないってこと 」



……



今…何と言った?

「てめぇ…!!今の…冗談じゃ済まさねえぞ!!?」
「第三世界崩壊直後、私に牙をむき 本来担うはずの神としての業務を悉く放棄してきたこの人間を、
私は許さない 存在意義を絶ったこの人間を、私は許さない この人間の本来の人格には    消えてもらう」
「……ッ!」

俺はある種の恐怖を覚えた こいつは自分以外の存在を 単なる道具としか思っちゃいない

…時計を見る。

23時58分を過ぎている…

時間が…ない!!!

…ここまで真剣なのは俺の人生の中で…おそらく最初で最後だろう。思考回路が焼き切れるのではないか…
そのくらい俺は真剣だった。真剣に考えていた。どうすれば世界が助かるかを。どうすれば…!?
とりあえず落ち着く必要がある。さっきこいつが…ソツクナングが言っていたことを思い出せ…

『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』

つまり、俺が今この場で側にある椅子を持ち上げ…ハルヒ(の姿をしたソツクナング)の頭めがけ、
殴りつけたとする。その場合、ハルヒは気絶、ないしは死に陥る。だが、そうしたところで…
この世界の崩壊は止まらない。

…まあ、万一にもそれはありえん話だがな…。いくら意識が神に乗っ取られてようと、
この体が涼宮ハルヒ本人のものであることは…疑いようのない事実…!!気絶ならまだいい!
誤って殺したりでもしたら…ッ!一体どうすんだ!!?そんなことをしたらハルヒは永久に帰ってこない…
そんなリスクを犯すはずがない…!!

どちらにせよ事態の好転は望めない。

じゃあどうすんだ!?

…てっとり早いのは、宇宙のどっかに存在する神に対し…直接干渉してやること。

……

一人間である俺が どうやって??

…時計を見る            --------------------------------------23時59分

ダメだ。俺は…このまま何もせずに終わるのか!?もう世界は…どうにもならねえのか!?

みんな…ゴメン…

……

『…キョン君、僕は信じてますよ。必ず世界を救ってくれる…とね。』
『キョン君…!!どうか…無事帰ってきてくださいね!涼宮さんと一緒に!!』
『何があっても決してあきらめないで。あなたならきっとできる。』

!!

俺は…みんなと約束した。できるできないの問題じゃない!!やらなきゃいけない…!!
俺は…最後まで絶対あきらめない!!…落ち着け、落ち着いてもう一度冷静になって考えてみろ…ッ!

…そもそもである。

『今更お前がこの人間の体をどうしようと、世界の崩壊は止まらない なぜなら私自身 ここにはいないのだから』

この言葉がどことなくひっかかるのは …俺の気のせいか?







ハルヒの覚醒、即ちハルヒがハルヒでなくなったとき。それこそが世界崩壊へのカウントダウンだった。
裏を返せば、昨日ハルヒが倒れるまでの間、そのカウントダウンとやらは起きなかったということになる。
世界崩壊は誰の意志?誰の仕業?言うまでもなく、今目の前でハルヒを操っている神そのものだ。
つまり、神はハルヒの覚醒無しでは世界崩壊は成し得なかったはず。

…覚醒とは何だ?ハルヒはどうなった?

【前時代の記憶を取り戻す。】

これは俺のみにならず、長門や古泉たちとの共通認識でもあった。
だが…今のハルヒは違う。記憶が戻ったとか、そういう次元の問題ではない。
目の前のこのハルヒには【ハルヒ】としての意識がそもそも存在していない。自我が存在していない。
それもそのはず…神がそうするよう仕組んだからである。言わば、神の操り人形といったところか。
…俺たちの覚醒認識が間違っていたのか?だが、長門・古泉が主張していたあたり、安易にそうとも思えない。

1つ仮説を立ててみる。仮に、俺たちの認識は正しかったとする。
そうである場合、今のこの現状はどう説明すればいい?

…思いつく答えは1つ。それは、記憶が戻った直後、神の介入により意識を絶たれたというもの。
第四世界崩壊のためには涼宮ハルヒの意識を奪い、神の監視下、コントロール下に置く必要があった。
…要約すればこういうことだろうか。

しかし、なぜそんなことをする必要が?正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?

「後 数秒で地球は公転周期上、完全にフォトンベルトに突入する  これで第四世界も終わり 」

…数秒だと!?すぐさま腕時計を確認し…!?もう10秒もない…!!

ッ!!!

くそッ!!後もう少しで…後もう少しで何かわかりそうだったってのに!!!

9

…ッ!!俺はあきらめない…!!あきらめたら…何より朝比奈さんの死はどうなる!?
俺に言葉を託して死んだ朝比奈さんはどうなる!?これじゃ単なる無駄死にじゃないか!!!

8

『たぶ…ん、この世界は…守られる…第五…世界ももう…すぐ消滅…みん…ないなくな…る』

7

朝比奈さんは…あのとき何を根拠にこんなことを言っていたんだ…!??
あのとき…彼女は何を思ってこれを口にした??

6

…俺は、あのとき覚悟を見せつけたじゃないか

5

【この朝比奈さんが…自分のいた世界を守るのに命懸けなのなら。俺だってそうだろう…!?
状況的には全く同じはずだろう!?俺は自分のいるこの世界を、人々を、家族を、友人を、 
…ハルヒを!守りたい…!!!】

4

朝比奈さんが俺の覚悟を垣間見たのだとしたら…彼女は俺に一体何を期待した?
世界の人々?家族?友人?いや…違う

3

『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』



彼女の最期の言葉が それを物語っていた

1

「    」
















「 」
















「!?」
















「…何を  し      計画       計画  が
あ 、あああ  !?   ああああああああああああああああ!!!!!!」

12月2日0時0分 第四世界滅亡 その筋書きが破綻してしまったせいか  -----------神は発狂し始めた



……



俺は今 一体何をしたのだろうか

…反射だ

小学校、あるいは中学の理科の授業にて、こんな言葉を聞いた覚えはないだろうか?
特定の刺激に対して意識とは無関係に引き起こされる反応……生物学的反射の一般定義だ。
熱いヤカンに指が触れ、熱い!と感じた時には、すでに指は手元へと引っこんでいた。
わかりやすい反射の一例としては、例えばこういうものがある。

…厳密に言えば、今のは反射ではないのかもしれない。まあ、この際それはどうでもいい。

……

机にもたれかかり、必死に倒れまいとするハルヒ。だが、それも時間の問題のように見えた。
それもそのはず…麻酔を叩きこまれて平然としてられる人間など、いるはずがない。

俺は涼宮ハルヒめがけ                     麻酔銃をぶっ放していた

「意識  意識がぁ  っ!」

ついに立っていられなくなったのか。床に塞ぎ込み、頭を抱えるハルヒ。
…麻酔銃?なぜ俺は、この局面でこれを使用したのか?  

……

…なるほど、

【正常状態のハルヒを放置しておくことで、神に何か不都合でも…?】
この問いに対する答えを、俺は知らぬ間に見つけてしまっていたらしい。…逆を考えてみればいい。
記憶を取り戻したということは、即ちその瞬間において、ハルヒが神と意識を共有することを意味する。

『だってあたしは神の分身だもの。つまり、神が考えてることが同時に今あたしが考えていること。』
本人の言葉通り、ハルヒはこれから神がしようとしていることを…瞬時に把握する。
神がこれからすることとは…言わずもがな、俺たちが生きるこの世界の破壊である。
…それを知ったハルヒはどうするだろうか?

『世界が滅びるったって神はそれを傍観するだけ。でも、地上にいるあたしは知っている…
それによって多くの尊い命が奪われ…また、彼らの悲鳴も聞こえた。考えようによっては単なる殺戮ね。
そして、その張本人が自身であることを自覚した直後、これまで何度あたしは発狂しそうになったことか。』
『もうね…あたしはこれ以上人々の痛みは見たくない。』

極めつけは…第一、第二、第三、第四と史実に準え、次々に世界が滅んでいく様を…
見せつけられた一昨日の夢の中で…!消えゆく夢の中で、かすかに聞こえてきた、ハルヒの言葉…!

『嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!』

もはや自明であろう。ハルヒが…決してこの状況を望んではいない、ということは。










話は次の段階へと進む。

望む望まないは別とし、ハルヒの中に何かしらの強固な意志が生まれた場合…
結果として【何】が起きる?…これが最も重要である。神はそれを恐れてる。
だからこそ、神は涼宮ハルヒの自由意思を阻害すべく、彼女を自らの監視下に置く必要があった。

以前、俺はハルヒに『神をやめて一人の少女、普通の人間として生きたいと思ったことはないのか?』
と提案したことがある。しかし、ハルヒはすぐには首を縦には振らなかった。その理由というのが
『化身である以上、これからもずっと神の意志に束縛されて生きていくのは自明で…。』
という思い込みにあった。自身が好きなように生きることを放棄した、ある種の諦観とも言うべきか。
その後の俺の説得により、ハルヒは立ち直った。これまでのステレオタイプから抜け出した。
結果、ハルヒは転生という手段に打って出る。代行者としての自分を捨て、来たる第四世界で 
1人の人間として----------、自身の意志で生きていくために。

『やっぱり物事ってのはやってみるに越したことはないと思ったわ…あたしの潜在能力って案外凄かったみたい。』

…試みは見事に成功した。画期的とも言える瞬間だった。



つまり



涼 宮 ハ ル ヒ の 力 の み が 神 に 干 渉 で き る 唯 一 の 手 段 



俺が言いたかったのはこの一点である。

ならば、ハルヒが記憶を取り戻した状態で、万が一にも神に対する強い反駁精神を発動させでもしたら
一体どうなるか?察しの通り、神は自らの計画に支障をきたすことを…覚悟せねばならぬ事態へと発展する。
仮にハルヒのそれが潜在的なものであったとしても、第四世界の崩壊にあたって全くのイレギュラー因子が
無いとは…言い切れない。神からすれば…これほど不気味な存在もいないだろう…?
言うことを聞いてくれない自身の分身など、脅威以外の何物でもないからだ。

言うのは二度目だが、ただの凡人である俺のような一人間には
宇宙のどこかに在する神に対し、どうこうしてやることなど…できるはずもない。
だが…ハルヒには…!涼宮ハルヒにはそれができる!!

……

『キョン…君…、すずみ…やさ…んを…大…切に…ね』

朝比奈さん…ありがとう。貴方が最期に言い残してくれた言葉のおかげで…、
俺は救われました。あの言葉の意味が…ようやくわかりましたよ。

…そうとわかれば話は早い。俺がやるべきこと…それは
ハルヒが【ハルヒ】として自我を確立してられる環境を作ってやること…!!
その一言に尽きる。残念ながら、現在目の前にて立ち塞がるハルヒは…ハルヒであって【ハルヒ】ではない。
神の息がかかった彼女を、一体どうすれば正常な状態に戻してやれるのか!?最大の難問だった。

『今更お前がこの人間の体をどうしようと 世界の崩壊は止まらない 』

こいつの言っていることは一理ある。

例えば、俺がハルヒに対し…素手や足で殴る蹴るなどし軽傷を負わせたとする。しかしそうしたところで…
それはあくまで、言葉通り軽い傷でしかない。そんな程度の低いアクションを加えたところで
ハルヒが神の監視下から逃れるとは…とても思えない。依然、意識は神に管轄されたままだろう…。
かと言って、重傷を負わせれば良いという問題でもない。それこそ暴論である…。
頭を殴りつけたり等して、万一ハルヒに永久に意識が戻らなかったらどうするつもりだ…!?
仮に戻ったところで、そんな重体な体で…どこに神に対し、憤る余裕があるというのか!??
痛みが先行してそれどころではないのは…言うまでもないはずだ。

では、どうすればいいのか?神に憑依された表層意識を払拭するには…
どうすればいいのか??単に、何か強い衝撃でも与え意識を失わせればいいのか??
…もちろん、暴力手段をもって身体に重傷を負わせる手法は…論外である。

……

『麻酔銃…ですからね。人を殺すための道具ではないんですよ。そう言えば、わかりますよね?』

俺は賭けに出ることにした。 麻 酔 を も っ て 意 識 を 絶 つ       
意識が揺らぐ一瞬の隙こそ、ハルヒが現状復帰できる最初にして最後の機会。俺はそう確信した。

…ああ、自分でもわかってるさ。これは賭けってレベルじゃねえ。
めちゃくちゃだ…大博打だ…それ以外に言いようがない。

……

あまりに不安要素が大きいのもわかってる。まず根本的な問題として麻酔ごときに、果たして神に隙が
生まれるのかどうか…?仮に生まれたとして、一瞬という僅かな時間でハルヒは意識を取り戻せるのか…??
麻酔自体の効力もいまいちわからない。軽傷と同じ部類の衝撃性ならほとんど意味を成さない。
かと言って重傷すぎても困る。深い即効性の昏睡だと、いずれにしろハルヒは戻ってこれない。

だが、今はこれしか頼れる方法がなかった。何かもっと、他に確実性のある方法はないのか!?
と、何度も何度も思案した。こんな危険な橋、誰が好き好んで渡るものか…ッ!!
しかし…考えに考え抜いた挙句、どうしてもこれ以外には思い浮かばなかった。
だから…敢えて俺は信じたい。これが現状における最良の手段だったと。

俺は涼宮ハルヒめがけ、引き金をひいたんだ。



















…そして、先ほどの冒頭に戻る。

「ぁあ くっ っ!」

今にも意識を失いそうな少女がいた。

……

時刻は0時1分

窓から外を眺める。…さっきと何ら変わったところはない。
まだ油断はできない。だが、一つだけ言えることがある。それは

12月2日0時0分世界崩壊

回避した

12月2日0時0分世界崩壊

確かに…回避した…!!少なくとも、この時間帯における世界崩壊は免れた…!!
これはつまり、神への干渉に成功したということ。もっと言えば、神に反駁すべく
ハルヒの自我が表層意識に現れ始めたという証拠。

…俺の博打も捨てたもんじゃなかったらしい。

……

古泉がくれたこの麻酔銃。結果として、俺は朝比奈さんは救えなかった。
だからこそ失敗は許されなかった…!!ハルヒだけは…なんとしても助けたかったから!!

「…、キョン…ッ」

…!?

急にハルヒの声色が変わった。…まさか

「ハルヒ…ハルヒなのか!!?」

すぐさま俺はハルヒの元へと近寄る。

「ふふっ…まさか、あんたが銃…それも麻酔銃なんてものを使うなんてね…、驚いちゃった。」
「ハルヒ!!お前…大丈夫か!?」
「…、大丈夫なわけないでしょ…!誰のせいで今体が…痺れてると思ってんの…!?」

そうだったな…すまん、ハルヒ。

「別に…落ち込まなくていいわよ。それしか…良い方法がなかっ…たんだろうし…。」

所々ハルヒの言葉が途切れているのがわかる。…これも麻酔のせいか。

「よく…戻ってこれたな…。」
「…え?」
「麻酔によるショックで神が動揺したのはほんの一瞬だったはず…その短時間で
よく意識を取り戻せたなと言ってるんだ…。俺が麻酔という手段に訴えたことに
お前が驚いてるように、俺も…お前の素早い復帰には心底驚いてるとこなんだ。」
「…別にそんなにおかしなことでもないわ。ただ、一瞬の隙さえあればあたしはよかった。
隙さえあれば、すぐにでも神と…取って代わるつもりだった…!」
「…??どういうことだ?お前…意識がなかったんじゃ…?」
「…それは違うわ。意識はあった。ただ…意識があっても、感情や仕草を表層に出すことが…
できなかった。これほど歯痒い思いもなかった…!言わば、神に抑えつけられた状態ね…
こればかりはあたしではどうすることも…できなかった。…操り人形のまま12月2日を迎えようとした時には…
正直もうダメだと思った…だから、必死に心の中で叫んでた…!
【キョン!!何ボサっとしてんの!?さっさとあたしを助けなさい!!】…ってね。」
「…まさか、お前があのときそんなことを思ってたとはな。俺は、その期待に応えることはできたか?」
「結果的にはね…さすがに、麻酔を使ってくるとは……思わなかったけど。」
「…そりゃそうだよな。」
「でも、おかげであたしは助かった…あんたの予想外の行動に、神は酷く動揺した…その隙をついて
あたしは…神に、一気に反転攻勢をかけた…!それもあって神は…世界崩壊を、中断せざるをえなくなった…。」

……

今更ながら驚く。

俺があのとき…世界を救うことで、頭を試行錯誤したり躍起になっていた中で…こいつはこいつで、
世界を救うことで必死だったんだ…!!確かに、そうでもなければ…麻酔をかけた直後に世界崩壊を
止めさせることなど、普通に考えればできるはずもない…ハルヒのとっさの反応があってこその芸当か。

…ハルヒには感謝せねばならない。

「…それで、全て思い出したのか?」
「…ええ、おかげ様でね…。あたしが神の代行者として日々奔走していたってことも…、
そして、第三世界の終わりで…あんたと出会ってたってこともね…。」
「…そうか。」
「まさか、またこうしてあんたと出会うときが来るなんてね…
もっとも、あんたは第三世界でのことなんて…覚えてないでしょうけど…。」
「いや、しっかりと覚えてるぜハルヒ。」
「…どうして?転生した人間が前世の記憶を取り戻すなんてこと、あるわけ…」
「夢を見たんだよ…昨日な。船上でお前と…いろいろと話してた夢をな。お前は気付いてないのかもしれんが、
無意識の内に力を使って俺に過去の記憶を覗かせた…古泉や長門はそう分析してたぜ。俺もそう思ってる。」
「…変な話ね…だって、あんたってあたしと同じく転生してきたんだから…厳密に言えば異世界人的扱い…
になるのよね?なら…そんなキョンにあたしが干渉することなんて…本来ならできるはずが…。」

…!!

確かに…ハルヒの言うとおりじゃないか??…じゃぁ、あの夢は一体??

「…ふふっ、もしかしたら…あの世界のあんたが、それを知らせたのかもね…。」
「お…俺が!?そんなことが可能なのか??」
「…確かなとこはよくわかんないけどね…でもね、あたしはそう思うの。だって…そうでしょう?
あんたの記憶は…キョンにしかわからないもの。キョンしか知らないんだもの…。」

……

【お前】が…見せてくれたのか?世界の危機を察して…わざわざ俺に知らせに来てくれたってのか…?
…夢から覚めた後、俺の問いかけに対し、長門・古泉は『ハルヒに異変はない。』と言っていた。
あれは…本当だったってわけか?俺の代わりにハルヒを守ってやれって、そういうことだったのか?
【お前】も姿が見えないってだけで…俺たちと一緒に、必死に戦ってくれてたのか…?実際のところはわからない。




……




「…あたしね、ずっとキョンに会いたかった…だから…っ!もっと話したいけど
残念だけど、そうもいかないみたい…この世界を…なんとかしなくちゃ…ね。」
「俺も…また会えて嬉しい。過去の俺も、再会できてさぞかし喜んでると思う。
俺だって話したいのは山々…だが、まずはこの危機を乗り切らなくちゃな。」

そう、まだ終わっていない。

12月2日0時0分世界滅亡

確かにこれは回避した。だからといって、第四世界崩壊という筋書き自体が消えてしまったわけではない。
この回避はおそらく一時的なもの…12月2日0時0分という定刻が先延ばしされたにすぎない。
…当然だろう。地球崩壊を企む張本人が宇宙のどこかで、いまだその遂行に励んでいるのだから。
極論を言えば、あと数分で再び世界が消滅の危機にさらされる可能性だってある。

「…ハルヒ。次に地球がフォトンベルトに入る時間帯は…いつかわかるか??」
「…後、20分もしないうちに突入よ…。」
「20分だと!?」

どうやら、俺がさっき言ったことは極論ではなかったらしい。

「畜生…!一体どうすれば」
「キョン…あたしちょっと…やばい…かも」
「…ハルヒ!?どうした!?」
「麻酔が…まわって…きたみたい」
「ッ!!」

麻酔銃を使った代償が…ここにきて現れ始めた。そうなることは覚悟していたが…っ!

「ハルヒ!!お前の…お前のその願望実現の能力で…!その麻酔を取り除けないか…!?」
「…残念だけど…、それはできない…。」
「どうしてだ!?」
「確かに…、麻酔を強く拒否すれば…能力は発動…するでしょうね…でも、今はそんな些細なことに力を
削ぎたくはないわ…キョンも…わかってるんでしょ…?神に対抗できる唯一の手段が…あたしだけって…ことに」
「…!」
「それでも…万全な状態でも、あたしは神の力には遠く及ばない…はず。ましてや…神を倒すともなれば…」
「!?神を…倒すのか!?」
「だって、そうでしょう!!?じゃなきゃぁ、さっきと同じ…。
一時的に防いだところで、世界が危機に見舞われていることには…変わりないわッ!!
なら、その根源である神そのものが消滅しない限り…世界は神の魔の手からは、永遠に逃れられない…!!
だから…少しでも、少しでも力を温存しとかなくちゃならない…!そうじゃなきゃ、世界は…!!」

……

俺から言うことは何もない…

ハルヒの覚悟は本物だ…!

「…それで頑張ったとしてだな…!後どれくらいもちそうなんだ!?」
「わからない……、もって5分…ってとこかしら…、」

5分

……

5分

胸に突き刺さる

このわずかな時間の中で…ハルヒは神を倒さなくちゃならない。
止めるならまだしも…神を倒す!?神の存在そのものを…消す!?そんなこと…
そんなことが本当にできるのか…!?そんなことが、本当に可能なのかっ!!?

「あたしは…神の消滅を強く願う…っ。強く願って…それを実現させる…!
それが…あたしの能力だったものね…。あたしが…あたしがやらなくちゃ…っ」






俺は…何をやってるんだ…?

確かに、状況は絶望的だろう。だが…それでも尚あきらめず、神に立ち向かおうとしてる
当の本人を前に俺は… 一体何をやってる…?何を勝手に…沈んでる…?

…最低だ。俺は。

……

『だけどね、あくまであたしの体は人間。だから力的には
本体である神を超えることなんて絶対に不可能なの…当たり前だけど。』
『……』
『転生はできそうなの。でも完全には…いかないみたい、残念だけどね。
今あたしがもってる人間らしからぬ能力も…おそらく一部は受け継がれることになると思う。
それどころか神の操作で、今以上により強大になっている恐れだってある。』
『……』
『だから』
『言わんとしていることはわかるさ、そこまで俺も鈍くない。それでもし
何か悪いことが起こったって…そんときはその世界の俺がきっとハルヒを助けに来るはずだ…
だからさ、お前は安心して転生に専念してりゃいいんだよ。』
『キョン…ありがとう。』

突然のフラッシュバック

……

そうだ…俺はあのとき、昔ハルヒに言ったじゃねえか…!?助けてやるって!!!!
あの世界の俺は…確かにそう言ったじゃねえか!!!?

「ハルヒ…!」
「…!?キョン…!?」

俺は…。座り込んでいるハルヒの手を…力強く握ってやった。

「ハルヒ、お前は…決して一人で戦ってるわけじゃない…!」
「…?」
「ハルヒ…実はな、さっきの麻酔銃は…古泉がくれたもんだったんだよ。」
「…古泉君が。」
「それとな…俺が今こうやって生きてるのも…長門と朝比奈さんのおかげなんだ。」
「…有希…みくるちゃん…。」
「みんなの力があって…今ここに俺とハルヒがいる。どうか…、それを忘れないでくれ!!」
「…!!」
「みんなここにいる…古泉、長門、朝比奈さん…みんな頑張ってる!!当たり前だろう!?
SOS団は…いつも一緒だったじゃねえか!!それは…それは、団長だったお前が何より…
誰よりもそれを知っているはずだ!!!」
「キョン…っ」
「残念ながら一人間にすぎない俺には…こうやってお前の手を握っておくことくらいしか…できない。
…けどな、それで少しでもお前の気持ちが安らぐのなら…!
【SOS団みんながお前についてる。】、その証を少しでも感じ、不安が拭えてくれるのなら…!
俺も、お前の横で…必死に、必死に祈り続けてやる!!決してお前を一人にはさせねえ!!!!」
「キョン……ッ!!!」

……

「そうね…あたしには…みんながいる…!!古泉君、有希、みくるちゃん…そしてキョン…!」

……

「あたしね…正直言うと、半ばあきらめてたの…神なんかに勝てるわけない…ってね…
でも…、あたしはキョンから勇気をもらった…!それだけで…それだけであたしは頑張れる…!!
だから…あたしが意識を失わないよう…!強く、強く…!手を、握りしめていてね…。キョン…っ。」
「…ああ、もちろんだ。」






































一体どれだけの時間が経過しただろう。

「キョン…」
「…何だ?」
「神の声が…聞こえなくなっ…たよ…」
「…俺はな、お前にならできると思ってた。」
「一体…、どれくらい…、時間…経った…かな?」
「…ちょうど5分ってとこだな。」

いまだにその5分というのが信じられん 俺には無限もの時間が去ってくような、そういう感覚に囚われていたんだ

「あたし…頑張っ…た…よね?」
「ああ、お前は十分に頑張ったさ…、よくここまで耐えたと思う。」
「…神の…声が…聞こえない…」
「…やったな…ハルヒ…ッ!!」
「声が…聞こえ…ない…」

神の化身である涼宮ハルヒには神の声が聞こえる 神が何を考えているかがわかる
その声が----------------------------聞こえなくなった

……

つまり、神は消滅した

はっきり言おう。信じられない。わずか数分で…ハルヒは神を凌駕した。本当に凌駕してしまった。






予防線を張っておく

あくまで可能性でしかない。神が本当に消えたかどうかなんて、一体誰がどうやって確認できる??

……

それでも俺は…ハルヒに対し、素直におめでとうと言いたかった。
死力を尽くした本人に…俺は誠意をもって労いの言葉をかけてやりたい。

「ハルヒ!おめで…」

…?

「ハル…ヒ?」

…いつからだろうか?ハルヒの体が…光っていた。

「ははっ…力を…使い果たしちゃった…みたい。」

……

デジャヴだった。この光景を…俺はどこかで見た。…そう、第三世界終焉時の夜。
海岸でハルヒと出会ったとき。あのときも彼女は…確か光り輝いていたんだ。

「転生のときと同じ…最後の灯火ってやつ?能力が無くなっちゃうときって、いつもこうなるのよ。
あのときもあたしは神に抗い、力を使い果たしたんだっけ…今のこの状況と全く同じね。」

…ハルヒのしゃべり方に、俺はどことなく違和感を覚えた。

「ハルヒ…お前、麻酔は…?」
「……」

……

「状況は転生したときと全く同じ。つまり、これからあたしの記憶は永遠に失われる…
だから、せめて最期くらいはあんたと、万全の状態で接しておきたかった…。
そう強く思ってたら…いつのまにか麻酔はとれてた。…そういうとこかしら。」

今、何と言った?

「ちょっと待て…記憶が失われるって…?どういうことだ!?」
「慌てないで。ただ、三日前のあたしに戻る…それだけの話よ。」

……

「神に纏わる記憶が総じて消されるってことか…?」
「そういうことね。おそらく、明日にでもなれば…神だの第四世界だのそういうことを一切知らない、
ちょうど三日前の状態のあたしがいる…と思うわ。ただ、その明日が来ればの話だけど…。
本当に神が消えていれば…ね。」
「……」

ハルヒもハルヒで自覚していたらしい。神が消えたというのは…あくまで可能性でしかないということを。

……

「…いずれにしろ、もう【お前】とは会えないってことか…?」
「ええ…残念だけど。でも、あたしはそれでいいと思う…
普通の、一人の少女として生きるのであれば、こんな記憶…邪魔以外の何物でもないもの。」

このハルヒとは二度と会えない

…会えない

……

なんだ?この喉につっかかる妙な感覚は…?

……

俺は…こいつに   何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃなかったか…?

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あれ…どうして俺は泣いてるんだ?確証はないが…遠い未来再びハルヒと会えるかもしれないじゃないか。
ああ、わかってはいるさ。会えるのは【未来の俺】であって今の俺じゃない。問題は会えるかどうかじゃない。
今の俺が…ハルヒに『この思い』を伝えられなかったこと…それが悔やんでも悔やみきれない。

そうか、だから俺は泣いているのか。ようやく理解した。

……

「ハルヒ……ハル…ヒ………」

いくら叫んだってもう伝わりはしない。聞こえもしない。見ることも、触れることもできない。



……



遠い未来の俺よ… 一つ頼みごとを聞いてはくれねえか。

もしお前がハルヒと出会うようなときが来れば…
そんときは俺の代わりに『この思い』  ハルヒに伝えてはくれねえかな?

俺は第四世界の出発点とも言えるこの時代で精一杯生き抜いて…そして寿命を終える。
だから…遠い未来の俺よ、お前もお前でその時代を全うして生きろよな。

ハルヒと一緒に。

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そうだったよな?あのときの俺…

「ハルヒ…。お前に、伝えなくちゃいけないことがある。」
「…キョン?」
「今から言うことはな、あの世界の俺がお前に…言いそびれたことだよ…。」
「…?」
「でもな、それと同時に…それは、今の俺が思ってることでもある。…じゃあ、言うぞ。」



「俺は…お前のことが         ……、大好きだ。」
「!!」


……


「……」
「……、」
「……」
「……、、」

…ハルヒ?

……

おい、どうしたハル

……

泣い…てる…?

……

「…まさか、最後の最後で、あんたの口からそんなこと言葉…聞くなんてね…。」
「……」
「最期にその言葉を聞けたあたしは…とても、幸せな【人間】だと思った…!」
「ハルヒ…。」
「キョン…覚えてる?第三世界での別れ際に…あたしが言ったことを。あのときも、あたしは幸せだと言った…、
でも…違うの…っ!あのときの『幸せ』とは…違う…!!本当に…嬉しいの…っ!」

……

『【神の代行者】としての最期に、あなたのような人間に出会えてあたしは幸せだったわ…!』

……

「ははっ…あたし、何泣いてんだろう…?また、ハルヒはキョンに会えるっていうのにね…」
「……」
「キョン…今の言葉、ハルヒにも…ちゃんと言いなさいよ…?
あたしと…約束しなさい…!これは…団長命令……よ……、」

…そう言い残し、ハルヒは泣き崩れた。

「…団長命令に逆らう部員が 一体どこにいるってんだよ…?」

俺はハルヒを…強く、強く、抱きしめてやった。この華奢な体を…壊してしまうくらいに強く。
…不思議なことに、ハルヒは痛いとは言わなかった。…変な話だ。こんなにも強く抱きしめてるってのに…!

「キョン…あたしはあんたのことが…好きだった!大好きだった…!!」
「…そう言ってもらえて、あのときの俺も…さぞかし嬉しいだろうよ。」
「何…カッコつけてんのよ…?あんただって…嬉しいくせに…っ」
「…当たり前だろ。」
「……」

ずっとこうしていたい。俺とハルヒの間に…距離はなかった。













「…あたしね。」

ハルヒが口を開く。それは…独白ともいえる内容だった。

「…地球が誕生してから、やがて人類が生まれた…その人類を統括するための仲介者として
あたしは生まれた…。やがて、人々はあたしを神と見なし、敬うようになった…。神は平和を望んだ、
だからあたしも平和を望んだ…けれど、それも長くは続かなかった…人間たちは互いを謗り合い、傷付け、
憎み…やがて戦争が起こった。神は怒った…結果、世界は滅ぼされた。けれど、そのときはまだあたしは
何も感じなかった…感情がなかったのね。けれど、しだいに人間や動物との交流が進んでいくうちに…
そういう神の行いを、あたしは暴挙だと捉えるようになった。でも…それでもあたしは自分からは
動こうとはしなかった…神の仰せのままに従うのが、あたしの宿命だったから…、天命だったから…、
運命だったから…、そう強く あたしは信じていた…」

……

「あんたがいなかったら…あたしって、一体どうなってたのかしら?
いまだに神の代行とやらに追われ…日々奔走してたりしてね。」
「…そりゃなんとも、難儀な話だな。」
「あたしね、あんたと会えて本当によかったと思ってる。
だって、あんたがいなきゃ…今のあたしはいなかったんだもんね…。」



……



「…時間…ね、」

「ついに…きたのか…。」
「ええ…あと1分もしないうちに、あたしの記憶は消されるわ。
神としての記憶も、滅んだ世界の記憶も、そして…昨日今日あった出来事も含めて全部…ね。」
「そうか…寂しくなるな。」
「何バカなこと言ってんのよ。ちゃんとハルヒは健在よ!」
「そんくらいわかってるぜ。」
「なら、紛らわしいこと言わないの。」
「……」
「な、何よ?」
「ハルヒ…」

……

「今まで…ホント大変な人生だったろう…?よく、ここまで頑張ったな…。」
「……」
「でも、それも今日で終わりだ。次の朝からはお前は…今度こそ、本当の意味で
普通の人間としての生活を送れるようになる。その人生を…これまで苦労した分、どうか楽しんで生きてくれよ。」
「…もちろん、それはあんたがするのよね?」
「…?俺が…お前を楽しませるってことか…?」
「そゆこと。」
「まったく…お前には敵わんな。」
「当然よ!あたしを誰だと思ってんの!?」
「…団長様だろ。で、俺は雑用係りの平団員というわけだ。」
「わかってるのなら、それでいいわ!」










「どうか、ハルヒをよろしくね…っ」

直感で察した。たぶんこれが…このハルヒの最期の言葉なんだろうと。

…ハルヒは目を閉じたまま、顔をこちらに向けている。
彼女が何を言わんとしてるのか…俺にはすぐわかった。

「ハルヒ…また会おうな。」

そう言って俺はハルヒと…静かに口づけを交わした。

……

その瞬間だったろうか。辺りの光景が目まぐるしく変わりだした。








以前、ハルヒと二人 閉鎖空間に閉じ込められた時も…こんな感じだっただろうか。



















閉鎖空間から出た後、俺たちはどうなってるだろう

世界は?天災は?神は?



……



いつもと変わらない日常風景が広がる世界

凄惨かつ荒廃した光景が広がる世界

…俺たちが元の世界に戻った直後に目にする景色は、果たしてどちらか








前者であることを信じたい








…俺は 意識を失った


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