角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった

ハルヒと朝比奈さんが

……

血まみれで伏しているというのは  一体どういう冗談だ…?

気付くと俺は二人の前にいた

考えるよりも先に体が動いてしまったらしい

「大丈夫かよ!?おい!?!しっかりしろ!!!!!」
「キョ…キョン…!!みくるちゃんが…!!みくるちゃんがあ!!!!」
「しゃべるな!!お前だってケガしてんだろ!!?」
「違う…!!あたしはケガなんてしてない!!…みくるちゃんが…あたしを…あたしをかばって…!!!!」

……

え?

じゃあ、ハルヒの服にべったり付いているこの血は何だ?

……

全部…朝比奈さんの血……

…!?

「う…ぅ、ぅぅ……!」

悲痛な様で喘ぐ…彼女の姿がそこにあった

「朝比奈さん!!!!しっかりしてください!!!!…朝比奈さん!!!!」
「ょ…ょかった…すず…涼宮さんがぁぶ、無事で…!」
「朝比奈さん!!?」
「わた…し…やくにた…てたかな…ぁ…ぁ…!」

理解した

彼女は秒単位という時間の中で自らハルヒの盾となった   あのとき奴の一番そばにいた…彼女は




『ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?』




つい先ほどの彼女の言葉が頭でこだまする

朝比奈さん…あなたは…そこまで思い悩んでいたんですか…!?

「あ…あたしのせいだ…!!あたしがボーっとして動こうとしなかったからみくるちゃんが…!!
あたしのせい…あたしのせいでみくるちゃんが…っ!!いやあああああああああああああ!!!!」

頭を抱え絶叫しだすハルヒ

「よせ!!ハル」

言いかけてやめた。ふと、気付いたからだ…俺の横へと立っている人物の存在に。

「あなたは涼宮ハルヒを連れ、ただちにこの場を立ち去るべき。周囲の急激な悪化により
彼女の精神は極限状態。これ以上の錯乱は彼女の自我そのものを崩壊させる。
神としての記憶を覚醒しかねない極めて危険な状況。」

長門…

……

…!!

今の俺に長門の声は届かなかった

「長門…!!お前…!!」

気でも狂ったのか、俺は長門に掴みかかっていた。

「…銃で必死に迎撃してくれてた古泉と違って…お前は一体何をしていた!?
お前なら…!!今の攻撃からみんなを守ることなど造作もなかったはずだろう!?
…なぜそれをしなかった!?答えろよ長門ッ!!!!答え」

頬に鈍い痛みが走った

俺は古泉に殴られた

「てめえ…!何しやがる!?」
「あなたこそ…こんなときに何をやってるんです!?涼宮さんを連れてただちに逃げろと…
今長門さんに言われたばかりでしょう!?どうしてそれに従おうとしないんです!?」
「お前…!!!今にも死にそうな朝比奈さんは無視か!?それに長門は…!」
「おいおいおい、九曜さん。ちょっとやりすぎじゃ?死人がでそうな状況なんだが。」
「…関係のない人に重傷を負わせてしまったぶん多少の罪悪感はありますが…ま、仕方ないですね。
ある意味当然の報いですよ。なんせ、私たちは問答無用で先ほど殺られそうになったわけですから。」
「-----------身の程を-------------------------------知るべき」

炎上した隣家の方角から歩いてくる… 不快な言葉を発する三人組が…

……

そして、俺はこいつらの顔を知っている




未来人藤原

超能力者橘京子

天蓋領域周防九曜




…藤原。やっぱりてめえらの仕業だったわけか…!

「…長門さんと同程度か、それ以上の力を有する周防九曜…。天蓋領域という名の化け物に
彼女は…長門さんは情報操作をかけられ、一切の身動きがとれない状態でした。」

!!

「それでも彼女は抑圧されてもなお、力を行使し被害を最小限にとどめました…
朝比奈さんを助けることが叶わなかったのは…彼女の力が不完全だったためです…。
もちろん、僕の力量不足でもありますがね…。逆に、その不完全な力さえもなければ今頃僕も、
そしてあなたもタダではいられなかったでしょう。最悪の場合死んでいたかもしれません。」

…ッ!

…よくよく考えてみれば、長門や古泉が死に物狂いで頑張ってる中、俺は何をしていた??
自分を守ることで精一杯だったじゃないか…!?いくらハルヒと朝比奈さんとに
距離があったとはいえ…、、、、そんな俺に、長門を批判できる資格なんかない…!!!

「長門…俺はお前にひどいことを…!本当に申し訳ない!この通りだ…!」

俺は長門に…誠意をもって謝罪した。

「…私が周防九曜に対し後れを取ったのは事実。だから、あなたが謝ることは何一つない。」
「しかし…!」
「私のことはどうでもいい。一刻も早く涼宮ハルヒを連れてここから立ち去るべき。」

…さっきも言われたな。頭に血が上ってたが、確かにそんな覚えがある。

……

ああ、わかってるさ。そうせねばならないほど窮した事態だってことは

だが

「朝比奈さんはどうすんだ!!?重体の彼女を放置して、俺とハルヒだけ逃げろってのか!!?」
「…朝比奈みくるは、これから私が全力を尽くして治療にあたる。」
「!確かにお前にならそれが可能だな…だが、あいつらの相手はどうすんだ!?
お前が治療に専念する間……、、!!まさか古泉一人に戦わせるつもりか!?無茶だ…!
相手にはあの天蓋領域だって」
「…幸か不幸か、涼宮さんの重度の乱心により…この場は閉鎖空間と化しつつあります。
となれば、僕も超能力者として…本来の力を存分に行使できるようになります。」

古泉…

「わかってんのか!?それでも1対3には変わりねーんだぞ!?」
「…涼宮さんにもしものことがあれば世界は終わりです。あなたもそれは十分承知のはず。」
「しかし…!」
「…以前ファミレスにてみんなと誓ったではありませんか。我々は協力して…みんなで涼宮さんを守る!…とね。」

…こいつは、自分の死を覚悟しているのか?仲間を守るために…

……

長門も同様にそうだろう。

朝比奈さんにしてもそうだ、命を擲ってでもハルヒを守ろうとした。




みんな覚悟を見せつけている




絶対に3人の覚悟は無駄にできない!!!!なら、俺にできることは一つ

「ハルヒ!来い!」

強引にでもハルヒの手を握り、連れて行こうとする俺。

「嫌!!放してよ!!!!放して!!!!みくるちゃんが!!!!!
みくるちゃんがああああああああああああッ!!!!!!」

ハルヒもハルヒで相当つらいんだろう…気持ちはわかる。だが、今は我慢するんだ…!
みんなの意志を…覚悟を…どうか酌みとってやってくれ!!!

そして…みんな…

どうか死なないでくれ!!!!

俺は3人に背を向け、ハルヒとともに走りだした。

「…はん、ようやくお喋りは終了か。じゃ、とっととそこをどいてもらおうか。計画に支障が出る。」
「その先にいるターゲットに私たちは用があるんで。早くしないと逃げられちゃいますしね。
それに、閉鎖空間と化したこの場で猛威を揮えるのは…決してあなただけではないってことも
どうかお忘れずに。だって、私も同様に超能力者なんですから。」
「それくらい承知の上です。それでも、あなた方が何を言おうと僕はここを通しません…!」
「古泉一樹…朝比奈みくるの治癒がもう少しで終わる。
そのときまで、どうか耐えしのいでほしい。終わり次第、私も参戦させていただく。」
「それは頼もしいですね。ぜひともお願いします。」

……

「一応忠告はしてあげたんですけど。じゃあ、仕方ありませんね。」
「結局こうなるのか。面倒なヤツらだ…。」
「---------邪魔」




















「「はぁ…はぁ…はあ!」」

一体どれくらい走ったのだろうか…、俺たちはすでに息をきらしてしまっている。
行く宛てもなく…ただただ走り続けた。藤原たちから離れることだけを考え…ただただ走り続けた。

轟音爆音が鳴り響く

火の手が上がっている

…俺たちが先ほどまでいた場所からだ。

……

ところで、俺にはさっきから妙な違和感がある。市街地を走りぬけていて気付いたのだが…
人一人歩いていない、というのはどういうわけだ?確かに、時刻は夜の10時をとうに過ぎてしまっている。
ゆえに、人通りが少ないのは理解できる。だが、人一人見当たらないのはどう考えたっておかしい。
…これも長門、ないしは周防九曜の情報操作に起因したものなのだろうか?
それともさっき古泉が言っていたように、この世界が閉鎖空間と化しつつあるから…?

っ!

ふとハルヒの手が放れる。酷く塞ぎ込み、その場にしゃがみこむハルヒ。

「もう…あたし…、走れない…!」
「…そうだな…随分走ったし、ちょっと休憩するか。」
「…ねえキョン」
「何だ?」
「そもそもさ…何であたしたちこんな必死になって走ってんの…??」
「……」
「さっきまでさぁ…あたしたちお菓子とか食べながらみんなで騒いでたじゃないのよぉ…!?
あれは一体何だったの!!?夢!?どうして…こんなことになってるの…!!?」
「……ハルヒ…」
「この状況は一体何よ!??家が吹き飛ぶわ、破片が飛び交うわ…そのせいでみくるちゃんが…!!」

…ハルヒの疲弊は、どうやら単なる息切れによるものだけではないらしい。

「ち、違う…!!あたし…あたしのせいでみくるちゃんが!!みくるちゃんを助けないと!!」
「落ち着け!!落ち着くんだハルヒ!!気持ちはわかる!!わかるから…どうか落ち着いてくれ!!」
「嫌ぁ…!放して…!みくるちゃんが…みくるちゃんがぁ…!!」

……、

最悪の状況と言っていい。俺は…どうすりゃいいんだ?
極限状態なまでに錯乱した…今のハルヒに一体どんな声が届くってんだ…?仮にハルヒの立場だったとして、
今頃俺はどうしていただろうか?発狂していたのだろうか?だとして、そんな半狂乱な俺を…
俺はどうすれば救ってやれる??何をすれば救ってやれる!?

その瞬間だった

「あ…、ああっ…、……」

卒倒するハルヒ

……

…ハル…ヒ?

「ハルヒ!?おいしっかりしろ!!!!大丈夫か!!?ハル」

!?

何だこの揺れは…?地震…??規模こそ小さいが、一昨日見た夢を思い出さずにはいられなかった…

……

…冗談がすぎるぜ…世界が滅ぶのは12月23日の段取りだったはず…
今日はまだ12月1日だぞ…!?今日で…終わるのか?何もかも…!?

「今のハルヒの失神は…、まさか!覚醒しちまったのか!?」

…何なんだこの展開は…??ここまで頑張ってきたのに…頑張ってきたってのに、
全部水の泡で終わるのか?そんな…そんなこと…ッ!

しかし

いくら威勢を張ったところで、もはやどうしようもないことには変わりない。
ここまで【絶望的】という言葉が似つかわしい状況もない。

……

とりあえず、地震は収まったようだが… 俺が放心状態であることに、変わりはなかった…













「た、大変!!涼宮さん…その様子だと、神としての記憶を取り戻してしまったんですね…!」

はて、この場には俺とハルヒしかいないはず。ついに俺も幻聴が聞こえるなまでに廃物と化してしまったか。

「ふう…あなた達のこと探したんですよ…って、キョン君聞こえてますか…?大丈夫ですか!?」

!!

「あ、あなたは…」
「よかった…あなたまでおかしくなってたら、それこそ終わりだったわ…!」
「朝比奈さん!!」

いつしかお会いした大人朝比奈さんが…俺の目の前に立っている。

光明が射すとはこういうことを言うのだろうか?

例えるならば

WW2独ソ戦にて、モスクワ陥落を【冬将軍到来】により間一髪のところで防いだソ連。
池田屋事件にて、維新志士らにによる窮地を別動隊の【土方歳三ら】に助けられた近藤勇。
日露戦争にて、物資・国力ともに限界だったところを【敵国の革命運動】により難を逃れた日本。
関ヶ原の合戦にて、数による劣勢を【西軍小早川秀明の裏切り】により勝敗を決した徳川家康。
元寇にて、大陸独自の兵器や戦法で撹乱する元軍を【神風(暴風雨)】により撃退した鎌倉幕府。
キューバ危機にて、米ソによる核戦争を【ケネディ大統領の働き】で回避した当時の世界。
ワールシュタットの戦いにて、【オゴタイ=ハンの急死】により領土を守り切った全ヨーロッパ諸国。
2・26事件にて、不運にも義弟の【松尾伝蔵陸軍大佐の身代わり】で暗殺を逃れた岡田啓介首相。
1940年にて、【杉原千畝リトアニア領事によるビザ発行】でナチスによる迫害から逃れたユダヤ人。
クリミア戦争にて、【フローレンス・ナイチンゲールの必死の看護】により命を救われた負傷兵たち。

…挙げればキリがない。

それくらい、絶望的渦中にある今の俺からすれば…彼女の存在は例文の【】に値する。

「朝比奈さん…俺は…。俺は!どうすればいいんですか!!?」

彼女が今ここにいるということは、間違いなく何かしらの理由があるはず。そうでもなければ、
朝比奈さん小の上司でもある彼女が…自らこの時代へとやって来ることなどありえない。
だとすれば、彼女は知っているはずだ…俺が今何をすべきなのかを…!

「落ち着いてキョン君!まずは状況をしっかりと把握しましょう。それによってあなたの成すべき事も…
決まってくるわ。だから、涼宮さんがこうして倒れるまでの間一体何があったのか…私に話してほしいの。」

話す内容によって、彼女が俺に与える助言もまた違ってくるのだろうか。

俺は…事の一部始終を洗いざらい打ち明けた。



……



「なるほど…つまり、あなた達は藤原君たちに追われていたのね?」
「はい…そのせいでこの時代に来ていた朝比奈さんが…重傷を負ってしまって…っ!!」
「…それは。さぞかし大変だったのでしょうね。」
「なぜ驚かないんです!?彼女が消えてしまえば、大人であるあなたも消えてしまうんですよ!?」
「そのくらい心得てるわ。でもね…逆に言えば、今大人である私が
この場にいる…生きてるってことは、つまり彼女はまだ死んでないってことよ。」



「そして、あなたと涼宮さんがここまで逃げてくるまで随分な時間が経過してる。
ともなれば、私だけでなく長門さんや古泉君も無事だってことが推測できるわね。」
「意味がよくわかりません…どうして長門や古泉までも無事だって言えるんです!?」
「考えてもみて。私は…自分で言うのもなんだけど、戦闘に関しては全くの素人。ゆえに、
殺されるのも容易いわ。万一私の傷が完治したとしても、その後無事でいられる可能性は極めて低い。」
「……?」
「つまり、長門さんや古泉君が死んで私が生きてる状況ってのは 常識的に考えて絶対にありえないのよ。
だってそうでしょう?彼らは私なんかより桁違いに強いんだから。まあ…逆は可能性として十分ありえるけどね。
私が死んで彼らが生きてるっていうのは…自分で言っててちょっと悲しいけど。」

なるほど、確かに理屈に当てはめて考えればそうなる。…実に的確な指摘だった。

「ありがとうございます朝比奈さん。3人が生きてるってことがわかって…俺、安心できました!」
「ふふ、さっきよりも落ち着きを取り戻したようで何よりね。状況の把握は大切に…ね。」

朝比奈さんはこれを見越して話してたってのか…?さすが大人の貫録だ。

「それで藤原君たちは…どんな様子だったの?」
「どんな様子って、俺たちを殺しにかかってきたとしか…。」
「一体誰を殺そうとしていたのかしらね、彼らは…」
「…?ハルヒを除く俺たち全員なんじゃないですか?それからハルヒを拉致でもして…
おおかた記憶を覚醒させるつもりでもいたんでしょう。…結果として覚醒しちゃいましたけど…。」
「でも…彼らがあなたたちの殺害、ないしは涼宮ハルヒの拉致を明言したわけではなかったんでしょ?」

……

彼女は彼らの目論見について、何か知っているのだろうか…?

「…キョン君、今あなたが言った推理は、おそらくはずれよ。」

…はずれ??どういうことだ?

「単に、あなたたちは成り行きで彼らの障壁となってしまっただけ。彼らからすれば、
初めからあなた達は眼中になかったわ。ましてや、殺害など論外ね。」

…?彼女の言っている意味がよくわからない。

「じゃあ、藤原たちの目的は他にあったってことですか??…それは何ですか!?」
「…混み合った話はまた後にしましょう。涼宮さんをこのまま放置したまま話し続けるのも…胸が痛むわ。」

…確かにそうだ。倒れてるハルヒをどうにかせねばなるまい。

「とりあえず、彼女を背負ってこっちに来てくれないかしら?いつまでもここが安全とは限らない。
閉鎖空間と化しつつある現状では先ほどの地震といい、何が起こったっておかしくないもの。」

朝比奈さんの言う通りだ。

…俺は彼女の言うことに素直に従い、ハルヒのもとへ駆け寄った。

「…ハルヒ、大丈夫か…??」

……

返事がない…どうやら本当に気絶してしまっている。俺は連れていくべく…ハルヒの肩を担ごうとする。

その時だったか















背中が妙に熱い

……

…何だこの不快感は?

いや、不快なんてもんじゃない…これは




生物に 本来あってはいけないものだ




「う…!!あ!!!!が…ああ…っ!!!!!」

猛烈な激痛              混沌とする意識

一体                   何が起こった

俺は         背中を手で           触ってみる

……

何だ    このどす黒い                         赤い液体は

意識が           朦朧とする




「キョン君…さっき私に聞いてましたよね?自分が今成すべき事を。それはね、






死ぬことよ。」


「冥土の土産に教えてあげる。藤原君たちの本当の狙いはね、私の抹殺よ。」


「まさか、涼宮ハルヒを昏睡状態に陥れた犯人が





私だったなんて想像もしなかったでしょ。」



俺   を             立って           

見下ろす              こいつは

誰?



「まさか、ここまで上手く事が運ぶなんてね。アハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!」



俺   を             見下し

笑う                こいつは

誰? 







意識が途絶えた












……












ここはどこだ?辺りが真っ暗で何も見えない……そうか、あの世か。俺は死んじまったのか




















2012年12月1日22時23分    俺は朝比奈みくるに刺殺された

 


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