「長門…もう一回言ってくれないか?誰だって…?」
「藤原。」

……

嘘だろ?

「長門!何かの間違いじゃないのか!?」
「あなたがそう思いたくなるのもわかる。でも、これは事実。」

事実 事実 事実 事実 事実 事実 事実 事実 事実 

…頭の中でこだまする二字熟語…今にも目の前が真っ暗になりそうな俺。

「おい…だっておかしいだろ??仮にも朝比奈さんは以前、藤原たちに誘拐されかけたことあるんだぞ?
被害者だぞ?なのに…何でその被害者が藤原と連絡とってんだよ!?」
「落ち着いてくださいキョン君…我々も気持ちは同じです…。」

…そうか。そういうことかよ。

「長門…お前ら二人が話をためらってた理由、ようやくわかったぜ。昼のときお前らが話さなかったのは…
単に俺がハルヒのとこへ行こうっていう意志を、朝比奈さんの話題で潰したくなかったから…だよな?」
「…そう。」
「そして今躊躇ったのは…未来人犯人説に朝比奈さんを、否応にも結び付けたくなかったから…そうだよな?」
「…そう。」
「でもな…それでも俺はいまだに朝比奈さんは仲間だと信じてる。疑おうなんて微塵も思わない。」
「しかし、彼女には犯人と疑われても仕方がない多くの側面をもっている。」
「長門…お前まさか朝比奈さんを…!」

…また、何熱くなってんだ俺…これじゃさっきの古泉の二の舞じゃねえか。長門だって本当はそんなこと
思いたくねえんだ…可能性を示唆こそしているが、本人だってつらくてそれを言ってる…それを察してやらねえと。

「いや、何でもない、続けてくれ長門…その側面とは何だ?」
「…涼宮ハルヒが倒れた時、もっとも彼女の近くにいた未来人…それが朝比奈みくる。」
「ちょっと待て長門…朝比奈さんはハルヒが倒れたとき、
俺たちと一緒に部室にいた。それはお前も見てるだろう?」
「それだけでは朝比奈みくるを無実とするには到底成しえない。
例の電磁波にしても、遠隔操作等使えば涼宮ハルヒの側にいなくとも何とでもなる。」

……

「…他には?」
「朝比奈みくるが涼宮ハルヒの家の場所を知っていてもおかしくないということ。
さらには、未来経由でステルス機材をも入手できる環境にあるということ。」
「…ハルヒのあとをつけてた犯人まで朝比奈さんだと言うのか?」
「もちろん確証はない。しかし、彼女にはそれが可能。」

……

「そして、極めつけは未来人藤原との会話記録。」

…こればかりはどうしようもねえな…。

「言いたいことはこれで終わり。あなたにはつらい思いをさせていまい、本当に申し訳なく思ってる。」
「いや…お前だって相当苦しかったろう。多々に渡る説明、ありがとな長門。…古泉もいろいろとありがとな。」
「いえいえ…とんでもないです。」

……

慣れないな…これはあまりにショックが大きい。ついさっき
『氾濫する情報の取捨選択に徹して、なんとしてでもハルヒを守り抜く』と決心したばかりだってのに…。
情報の取捨選択だと?一体何が正しい情報で何が間違ってる情報なのか…俺にはもうわからない…。

ハルヒを守り抜く…

っ!ハルヒを一人にさせておいたんだ…!それも、随分長いこと長門や古泉とは話してたから
相当時間が経ってしまっている。…嫌な汗が流れた。不審者がいないか見て回ると言い外へ出ただけに、
俺がそいつにやられてくたばったとか…妙な勘違いを起こしててもおかしくないんでは…!?

せめて家にいることを願いつつ、俺は急いでハルヒに電話をかけた。









「もしもし、俺だ。」
「…キョン!?キョンなのね!?あんた…どこ行ってたのよ!?襲われたとか、そういうのじゃないわよね??」

案の定、最悪のケースを想定してたらしい。

「あのな、襲われてたら今こうやって悠長に電話かけたりはできないだろ?」
「じゃあ、今何してんのよ??」
「ええっと…なに、散歩してただけさ。」
「…呆れた。心配して損したわ!すぐ戻ってくるって言ったくせに…っ」
「とりあえず、今すぐ戻る!だから…機嫌直してくれ、な?…もちろん、お前は今家にいるんだよな?」
「当たり前でしょ?っていうか、そういう連絡はもっと早くよこしなさい!?本当キョンってバカなんだから…!」
「わかったわかった!すぐ戻るから、家でじっとしててくれな。」

俺は電話をきった。

「涼宮さん大丈夫ですかね?今の調子だと、だいぶ焦ってるようでしたが…。」

…お前もそう思ったか古泉。そりゃ、威勢だけはいつものハルヒだったよ。
だが、何か取り乱してるような感じがしたのは、決して気のせいじゃないだろう。

「そうであるならば、あなたは一刻も早く行ってあげるべきですね。」
「もちろんだ。だがな、お前らもくるんだよ!そもそもだ、こんな公園で待機しとかなくても…
ハルヒに断って家に入れさせてもらえばよかったんだろうが!ハルヒだって、決して拒否はしなかったはずだぞ?」
「あなたと涼宮ハルヒが二人きりでいるところを私たちは邪魔したくなかった。それゆえの話。」

……

変に配慮を利かせてたんだなお前ら…。

「とにかく、もうそんなことはいいから俺と一緒に来い!
みんなと一緒のほうがハルヒだって喜ぶさ!仲間だろ?SOS団だろ!?」
「…その通りですね。我々も行くとしましょう、長門さん。」
「了解した。…しかし、それでは…SOS団は揃わない。」

…長門の言うとおりだ。

……

俺は朝比奈さんのことをどう思ってる?あんな情報を聞いてしまった上で、一体どう思ってる?

…敵?

……

バカ野郎が!仲間が仲間を信じてやれないようでどうすんだ!?
そうだ…朝比奈さんは、俺たちの仲間だ!

「長門、今朝比奈さんはどこにいる!?」
「!?本当に彼女を涼宮さんのところへ連れて行くつもりですか??」
「古泉よ…気持ちはわかる。でもな、それでも俺は朝比奈さんを仲間だと信じたいんだ。
愚かな人間だと笑い飛ばしてくれても構わない。それでも…俺は信じたいんだよ…仲間だと!」
「…そこまで言うなら、僕からは特に何も言うことはありませんよ。むしろ、あなたの考えに
賛同させていただきます。彼女のことを仲間だと信じたい気持ちは、僕も同じですから。」
「私も…仲間だと信じたい。だから、彼女を呼ぶことに異論はない。朝比奈みくるは…ここから近くのスーパーにいる。」

…俺とハルヒがカレー粉を買った所だな。よし、早速電話だ。

「もしもし。」
「もしもし…って、あれ?キョン君ですか!?どうしたの?!」
「今からSOS団みんなと一緒にハルヒの家へ行ってやろうと思ってましてね。朝比奈さんも一緒にどうですか?」
「も、もちろん行きます!そうだ、私今スーパーにいるんで お菓子やジュースを買ってそっちに持っていくね♪」
「それはさぞかしハルヒも喜びますよ!」
「だといいな…って、そういや私涼宮さんの家どこにあるか知らないんです…どうしよう…。」
「本当ですか!?ええっと、そうですね…そこのスーパーから一番近くにある公園はご存じですか?」
「え?ああ、黄色いベンチや象さんの滑り台がある公園のことですよね?わかります!」

一旦電話から口を遠ざける俺。

「古泉…すまんが、ここの公園で朝比奈さんを待っていてはくれないか。」
「お安い御用です。しかと導きますから、ご安心を。」

再び電話に戻る俺。

「ええっと、もしもし。古泉がそこの公園で待っているんで、
合流したらそいつと一緒にハルヒの家まで来てください!」
「ありがとう!後で古泉君にも礼を言っておきますね。」
「じゃ、そういうことで!」
「あ、はい♪」

……

ふう…

いつもの朝比奈さんだ。電話なだけに声しか聞こえなかったが…
それにしたって、あれはいつもの朝比奈さんだったように思う。

「じゃあ古泉、任せたぜ。」
「承知しました。」

古泉に一時の別れを告げ、俺は長門と一緒にハルヒ宅へと向かう。もちろん、走ってな。

「…長門さ、俺にはやっぱ朝比奈さんが犯人のようには思えねえわ。
さっきも電話で言ってたしな、ハルヒの家がどこかわからないって。」
「…でも」
「ああ、言いたいことはわかる。彼女が嘘をついていたとしたら?だろ。だがな、朝比奈さんに限ってそれは
ありえねえよ。あの方に巧妙な演技が務まると…お前は思うか?仮に嘘をついていたとしたら彼女のことだ、
取り乱したり動揺したりだのですぐばれちまうさ。つまりだな、『涼宮さんの家どこにあるか知らないんです…』
ってのを自然体でしゃべった時点で、すでに彼女のシロは確定しちまってるんだよ。」

「!」
「…?どうした長門?」
「朝比奈みくるに関して…私は数時間かけて熟考したが確固とした答えは出せなかった。対して、
あなたはたった数分の会話一つで物の見事に彼女の白黒を判断してしまった。私はそれに驚いている。」
「なーに、難しいことじゃないさ。単に朝比奈さんの人柄を考慮したってだけの話よ。」
「…人柄。」
「そうだ、人間ならみんなもってるぜ。あ、もちろんお前にもな。」
「…そう。」












さて、着いたぞ。

カギは閉めるように言っておいたからな…インターホン鳴らすとするか。

「ハルヒ…俺だ!」

……

玄関へと向かって走ってくる音が聞こえる。そしてガチャリと…カギの開く音がする。

「…キョン!!遅すぎッ!!覚悟はできてんでしょうね!?」

やはりハルヒは怒っていた。当然か…。あんな状況で一人残し、散歩に行った(ってことにした)んだからな…。

「本当にすまん…別に悪気があったわけでは」
「言い訳なんか聞きたくないわ!ホント、何が『すぐ戻ってくる』よ??」
「…まことに弁解の余地もない。」

言葉通りだ。何にせよ、結果的に嘘をついたのは間違いない。叱咤されても文句は言えんだろう?

「待って。彼を怒らないであげて。」
「ゆ…有希!?え?ど、どうしてキョンと一緒に!?」

俺の後ろから発せられた声に、ようやくハルヒはその存在に気付いたらしい。

「先程、外を歩いていたところを偶然彼と出会い、あなたの相談を受けていた。」
「あたしの相談を??」
「そう。そして、その答えというのが、SOS団の集合。」

ハルヒはポカンとしていた。何が起こったのかわからない、といった顔をしている。
…実は俺もその一人だった。長門よ?密談していたことを…奴に話しても大丈夫なのか??
事情が事情だっただけに、ハルヒには本当のことを言わない方がいいと思ったのだが…
当たり前だが、知れば奴は大混乱である。

「SOS団って…みんながこれから集まるってこと!?こんな夜遅くに??ど、どうして??」
「彼はあなたに元気になってほしかった。だからみんなをこの家へと呼んだ。
もうじき古泉一樹と朝比奈みくるも来る。彼が戻るのが遅くなってしまったのは、このため。」
「…キョン?有希の言ってることは本当なの??」
「あ、ああ。そうだ。だから遅れちまって…」
「…そうだったんだ。」

なるほど、そういうことか。言われてみれば、俺も最初から長門のように取り繕えばよかったのか。
言ってることは事実だが、別段それが俺たちにとって不都合となるような情報は、彼女は一切話してない。
言うなれば、過程をすっとばして結論だけ述べたようなもの。実際問題、俺は古泉・長門との話し合いを重ねた上で
結果として、朝比奈さんを加えたSOS団全員でハルヒに会いに行こうって、そう結論付けたのだから。

「…バカキョン。そうならそうと言えばよかったのに。」
「なんというか、つい照れくさくてな。とりあえず…お前が思ったより元気でよかった。」
「当たり前でしょ!?あたしを誰だと思ってんの?」
「2人とも仲が良さそうで何より。」

…今日の長門はどこかおしゃべりだな。はて、こんなにお茶目な奴だったか?

「有希も変なこと言わないッ!別にそんなんじゃないわ!…とりあえず、せっかく来たんだから
上がっていきなさい!キョンも、いつまでもそこでボサっとせずさっさと入りなさい!」
「へいへい、わかりましたよ。」

まったく、ホント人使いが粗い団長様だ。その様子だと、俺がいない間に変なことがあった
ってわけでもなさそうだな。とりあえず、家にいてくれただけでもよかったと言っておこう。
…今更ながら思った。外へ出ず、家でおとなしくしてくれてたその行動…これって、直情実行型のハルヒにしては
かなり頑張ったほうなんじゃないか??一体…どういう心境で俺の帰りを待っていてくれたんだろうか。
電話越しの、あの微かに震えてた声を思い出す。…ハルヒには無駄に心配させちまったのかもな。

「ええっと、古泉君やみくるちゃんも来るのよね?なら、みんなの分のコップも用意しておかなくちゃ!」

そんなハルヒはというと…もはや隠すつもりもないのか、それはそれは生き生きとした表情をしていた。
さっきまでの様子がまるで嘘のごとく。…そんなにみんなが来てくれるのが嬉しかったのだろうか…?
そのままキッチンへフェードアウトしていくハルヒを見送りながら、俺も不思議と気分が高揚していた。

…奴がいないのを確認し、俺はそばにいた長門にボソっとつぶやいた。

「長門、さっきはありがとな。正直、お前がフォローしてくれて本当に助かった。」

もちろん、先程の件である。

「礼を言われるようなことはしていない。私はただ、事実を言っただけ。
涼宮ハルヒのことを考えての行動、そして決断。それらは決して後ろめたいものではないはず。違う?」
「…いや、違わないな。まったくもってお前の言う通りだ。…たまには正直に言ってみるもんだな?」
「そう。」









その後、遅れて古泉と朝比奈さんもやってきた。5人ともなると、さすがに雰囲気的にも賑やかだ。

「ところでさ、みんなはもう夕食は食べた??…9時過ぎてるからさすがに食べてるんだろうけど。」

ハルヒが口を開く。

「いやー、実はまだ食べてないんですよ。」
「わ、私もです…。」
「私はどちらにせよ問題ない。しかし、何か食べられるに越したことはない。」

古泉…お前が公園で食ってた弁当って…ありゃ昼飯だったのか?それから9時まで…飲まず食わずで
ずっと公園で待機していたというのか?…とりあえず乙と言わせてもらおう。一体どこの特殊部隊だ。

朝比奈さんもまだなのか。となると、あのとき彼女がスーパーにいたのは、
大方夕食の食材でも買う段取りだったってとこなんだろう。で、そこに俺が電話をかけてきたと。

長門は…まあ…その、なんだ、情報操作とかいうインチキまがいなことをすりゃ、食さずとも生きていける体質では
あるんだろうが…。『食べられるに越したことはない』って発言が彼女の食事に対する甲斐性を裏付ける。
基本大食いだからな長門は。食べることに人間とは違う… 一種の喜びみたいなものを感じてるのだろう。

「それはよかったわ!せっかく来てもらったんだし、今からみんなにカレーをご馳走するわ!」
「それは恐縮です。感謝して、いただくとしますよ。」
「涼宮さんのカレー… 楽しみだなあ♪ありがとうございます涼宮さん!」
「カレー……っ …ありがたくいただくとする。」

各々が感謝の意を言葉に含ませているわけだが、一人だけ
異色のオーラを身にまとっているように見えるのは俺の気のせいだろうか。

「ハルヒ、あのカレーはまだ残ってたのか??」
「もともと4、5人ぶんの分量はあったからね。
明日にでも帰ってきた親に振る舞おうと思ってたんだけど…この際どうでもいいわ!」

どうでもいいのかよ!って突っ込みは無しだ。何よりも、
俺たち仲間のことを大事に思ってくれていることの表れだろう。

「火にかけてくるからちょっと待っててね。そうそう、これあたしだけが作ったんじゃないのよ?
キョンとの共同作業の賜物!だから、ま、楽しみにしててね~」
「え、キョン君も一緒にカレー作ってたんですか!?ますます楽しみです♪一体どんな味に仕上がってるのかな?」
「あなたが料理ですか。いえ、特に他意はありませんよ。
涼宮さんと家で何をしているのかと思えば、夕飯の手伝いをしていたというわけですね。」
「あなたが作ったカレー…気になる。」

おいおいハルヒさんよ…何が共同作業だ。そんな誇れるようなもんをやり遂げた覚えはねえぞ…
単に野菜を切って退場したってだけだろ!?

…しばらくして古泉、長門、朝比奈さんの眼前にカレーが運ばれてくる。

「さー、召し上がってね!麦茶と紙コップここに置いとくから!」
「では、ありがたくいただくとしましょう。…ふむふむ、色合いが良いですね。なかなか整ってます。」
「にんじんやじゃがいもの形が個性的です♪もしかして、これキョン君が切ったんですか?」
「朝比奈さん!?どうしてわかったんです??」
「ほーらキョン!だから言ったでしょ?この大雑把な乱切りはキョンらしさが出てるって!」
「そうやるよう指示したのはお前だろが!」
「でも、そのほうがキョン君らしいですよ♪」

朝比奈さん。その発言の真意は何でしょうか…?プラスの意味ってことで取っていいんですよね?
そうに決まってる。なんせ、あの朝比奈さんだからな。

「味のほうも…悪くないです。十分おいしいですよ涼宮さん、そしてキョン君。」
「私も同感です♪」
「ありがとう、古泉君にみくるちゃん!」

だから…俺はそこまでこの料理に介入していないのだがな…。

ふと長門のほうを見る。

「……!」

何やら目を丸くしている。あれは…何だ?驚いているのか?

「長門?どうした…まさか口に合わなかったか?」
「…たまねぎの形が、ユニーク。」



「え、やはりこの小さなツブツブした物はたまねぎだったんですか!通りで、何かそんな味がすると思ってました。」
「言われてみればそうですね…!」

長門の言葉を受け、それに古泉と朝比奈さんが呼応する。

「ゴメンね、みんな。キョンがみじん切りしちゃったみたいなの…
でも、これもキョンの趣味らしいから許してあげてね!」

ちょっと待てハルヒ

「キョン君はカレーを食べる時たまねぎはいつもこんな感じなんですか!?
…あ、いや、個性があって私はいいと思いますよ♪!」
「なかなか独特な感性をお持ちですね。御見それいたしました。」
「…ユニーク。」

ハルヒよ…いくら俺のせいだからとはいえ、その仕打ちはあんまりだ…。見よ!すっかり朝比奈さんと長門には
誤解されてしまっているではないか!?古泉は空気を読んだ発言をしただけで、誤解はしてない感じだが。
とにかくだ…彼女たちにジョークが通じないというのは、お前もわかっていたはずだろう…!?
あ、わかってたからこそ敢えて言ったのか。鬼の所業だ…

「あ、そうだ…私お菓子やジュースを買ってきたんです!みんなで食べましょう♪」

おお、これは…なんとも豪勢だ!チョコレートに砂糖菓子、おつまみにスナック、マシュマロ、クッキー、そして
ファンタ、カルピス…選り取り見取りとはこのことだ。さっきの鬼の所業云々についてなど、もはや忘れたぜ。
しかし…これだけの量、少なくとも1000円はしただろう。さすがに、彼女に全額支払わせるわけにはいくまい。

「皆さん、お代のほうはいいですよ?私、基本いつも皆さんのお役には立てませんから…これくらいいいんです。」
「何言ってんのよみくるちゃん!?役に立たないなんて…いつどこの誰に言われたのよ!?」
「あ、いえ、そういうわけじゃぁ…」
「なら別にいいじゃないの!そんなこと言うやつがいたら…あたしがぶん殴ってあげるから安心しなさい!」
「涼宮さん…。」

同感だハルヒ。俺もそのときは助太刀してやろう。

「レシート見せて、みくるちゃん。」
「あ、はい。」
「…みんな、みくるちゃんに300円ずつ渡して!」
「ふぇ、ふぇえ!?これ5人で割ったって240円とか250円とか、そのへんですよ?
これじゃ私だけ額が余っちゃいます!」
「そんな誤差気にしない!余った分はあたしたちからの気持ちだと思っときなさい!」

ハルヒ…良いこと言うじゃねえか。SOS団メンバー全員揃ったおかげか、すっかりハルヒは
団長様気分で元気を取り戻している。朝比奈さんも呼んだのは正解…いや、そもそもこの考えがおかしい。
彼女は俺たちの仲間だから呼ばれて当然の存在だ。そうだろう?

とりあえずハルヒの号令に従い、俺たちは朝比奈さんにそれぞれお金を渡した。

「皆さん…ありがとうございます。」
「いいっていいって!じゃ、みんな飲むわよ~食うわよ~!!」

飲み物がジュースで結果的に助かった。もしこれが酒やビールでもしたら…
おそらく俺たちは朝まで酔いつぶれてしまっていただろう。…それくらいのテンションだった。



……



しばらく食うだの話すだので盛り上がってた俺たちだったが…
急に立ちあがる二人。長門と古泉だ。

「ん?どうしたの二人とも?」
「夜風に当たるべく外に出る。」
「僕は…ちょっとコーヒーを自販機で買ってこようかと。」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!あんたたちキョンから事情は聞いてるんでしょ??
外はやめたほうがいいわ。誰かいるかもしれないし…。」
「?」

何のことかわからず、きょとんとする朝比奈さん。
そういや彼女にはまだ話してなかったんだっけか…適当な時に彼女にも話すとしよう。

「大丈夫ですよ涼宮さん。何かあったらすぐ戻ってきますので…同様に、長門さんもね。」
「そ、そう?ならいいけど…。」

そう言い残し、颯爽と外へ出ていく二人。

……

「…古泉君がコーヒー買いに行くって言ったの…おそらくあれはウソね。」

おお、ハルヒもそう思うか。それもそのはず、飲み物なら朝比奈さんの買ってきたジュースで十分事足りるからだ。
それでいてこんな寒い中買いに行くなど…重度のコーヒーオタクでもない限り、まずないだろう。
もちろん、古泉がそういう性癖をもってるとの記憶もない。つくづくウソをつくのが下手なやつだ。

「あたし的にはね…有希と一緒に外に出てったってのがポイントなのよ!」

そうだな…普通の人間ならともかく、それが長門となれば話は別だ。彼女の場合、外出という行動一つとっても
たいてい何かしらの意味は孕んでいる。そして、それを古泉は察した。で、ヤツも同様に外に出てったと…
まあ、そんなとこだろう。

「有希と古泉君…いつから仲が良くなったのかしら?最近よく一緒にいるわよね?」

この辺りからか、俺とハルヒとで思惑が違うことに気付く。

「もしかして…二人ともできてちゃったりして。」







え?

「ふぇえええええええええ!?」

何いいいいいいいいいい!?

驚愕する俺と朝比奈さん。ハルヒよ…その発想はなかった。一瞬反応が取れなかったじゃないか。

「だって、こんな夜中に男女二人が適当な理由つけて外に出るなんて…
それくらいしか思いつかないじゃないの!」

…言いたいことはわかる。…ただし、それが一般人の男女であるならの話だがな。

「団員は恋愛禁止とか言っておいたのにあの二人ときたらまったく…。
ま、別にいいわ。あの二人お似合いだと思うし!」

おいおいおい…話を勝手に、いや、妄想を勝手に進めるんじゃない!

「ほ、本当に長門さんと古泉君は付き合ってるんですか??私、今の今まで気が付きませんでした!!」
「だー!朝比奈さん、ハルヒの言うことを鵜呑みにしないでください!ヤツは何か勘違いをしてるだけです!!」

まったく…、一体ハルヒはどこまで本気で言ってるのやら…。
それにしても、二人は本当になぜ出て行ったんだろうな?ハルヒの横から聞こえてくる
暴論はほっといて、とりあえず俺は落ち着いて考えをめぐらせてみるとする。

…そもそも、俺たちが今日ここに集まったのは外敵からハルヒを守るためだ。
それがまず最優先事項のはず。とすれば、二人が外へと出た理由は何だ?

……

敵の迎撃…?

だとすると、今ってもしかして非常に危険な状況なんじゃ…

だが、もしそうなら長門…ないしは古泉が俺にそのことを伝えるはずだ。いや…ハルヒがこの場にいたから
話せなかったのか?…もしかしてアレか、俺も一緒に外へ来いってことか?で、そこで事情を話すと。

「ねえねえ、みくるちゃん!有希と古泉君ってお似合いよね!?そうよね??」
「そ、そんなのわかりませえええーん!」
「みくるちゃんさ、愛を確か合う方法って知ってる!?」
「ななななななな、何でそんなこと聞くんですかああー!?恥ずかしいですうぅー!」

…相変わらずのんきな会話である。もはや朝比奈さんをからかってるようにしか見えないのは…決して
気のせいではないだろう。どうやら今のハルヒにとって、古泉と長門の関係はさほど重要なものではないらしい。

……

うーむ…外に出て二人に話を伺ってきたいとこだが、さすがに俺まで行ってしまうのはまずい気がする。
3人もの人間が外へ出たとなると、間違いなくハルヒも異変に気付き外へと出てしまうだろう。
ここは…おとなしく静観しとくとするか。それに、長門と古泉なら何かあったって大丈夫だ。
それだけの知識と能力を、あいつらは身に付けているからな。

…ん?電話が鳴ってる。玄関のほうからだ。

「あら、誰かしら。ちょっと行ってくるわね。」

リビングを出るハルヒ。

「二人になってしまいましたね、朝比奈さん。」
「そうですね~」
「まったく…ハルヒは本当にけしからんヤツですな。
さっきの会話、もしあいつが男なら間違いなくセクハラで訴えられますよ。」
「ははは、いいんですよ。確かに恥ずかしかったですけど、涼宮さん楽しそうでしたし…私も私で面白かったですし。」
「なら、いいんですけどね。」

……

「ねえキョン君…私って本当にみんなの役に立ってるのかな…?」

…今日の朝比奈さんはどうしたんだ?何か気持ちが滅入るようなことでもあったのだろうか。
まさか、未来のほうで何かあったか??

「そんなことないですよ朝比奈さん。あなたは十分俺たちの役に立ってます…
いや、役に立つ立たないの問題じゃない。いて当然なんですよ。」
「……」
「何かあったんですか?俺でよければ話を聞きますが…。」
「…昨日の晩、私は力になれたかしら…?」

昨日の晩とは…俺たちがファミレスにいた時だ。

「世界が危機に瀕してる…そんなとんでもない状況なのに私は昨日あの席で…
長門さんや古泉君に説明を任せっぱなしで、自分自身は何一つ重要なことはできなかった…。」

…そういえば長門と古泉によるマシンガントークの嵐だった気はする。

「しかし朝比奈さん…それは相手が悪すぎですよ…、例えば長門なんかは人間的能力を超越してる時点で
すでに論外ですし、古泉も古泉で…長門ほどではないですが一高校生としては異常なくらいの博識の持ち主です。
一方の朝比奈さんは普通な人間であると同時に、何より未来人だというハンデがあります。
最近のことを知らないのは当然ですし、逆に未来のことを話そうとすれば禁則事項がかかってしまう。
俺としては、朝比奈さんは凄く頑張ってる方だと思いますよ。だから…どうか気を落とさないでください!」
「キョン君ありがとう。でも、慰めならいいの…実際昨日どうだった?
私はいてもいなくても同じじゃなかったかしら…?」

朝比奈さんの目は真剣だ。

…あのとき、本当に朝比奈さんはいてもいなくてもどうでもいい存在だったのか?
いや、そんなはずはないだろう…よく思い出せ…!



……



『私も頑張りますから、キョン君も一緒に頑張りましょう!』
『ちょっとくらいなら良いと思いますよ私は♪息抜きには、こういうのも必要だと思います。』
『あ、キョン君もう飲んじゃったんですね。私が新しいの汲んできましょうか?』
『はい、キョン君!白ぶどうです♪』
『…キョン君、大丈夫ですかぁ?きついようでしたら仮眠でもとります?』
『そうですよ。私たちも協力しますから!絶対にそんな未来になんかしちゃいけません…!』

「…朝比奈さん。」
「は、はい?」
「あなたには…長門や古泉には無い物があります。俺が二人の難解な説明を聞いて頭を悩ましているとき…
朝比奈さんが投げかけてくれた言葉の数々は、俺の疲れを随分と癒してくれましたよ。もしあなたがいなかったら…
二人の説明を本当に最後まで粘り強く聞けていたかは…、正直自信がありません。ですから、
本当に感謝してます。変に力まずにただ…自然体のままで。それで十分なんですよ。」
「キョン君…。そう言ってくれると嬉しいです…、でも私…」

……

「いや、なんでもないです!…私を励ましてくれてありがとう。」

よかった…幾分か調子を取り戻してくれたようだ。

「自然体か…、じゃあ昼にあそこまでやっちゃったのは私らしくなかった…のかな。」
「昼?何かあったんですか?」
「あ、え、ええっとですね。」
「ああー!ようやく終わった…まったく、久々の長電話だったわ…!」

電話が終わったらしい。ハルヒさんが再び戻ってきた。

「おお…ハルヒか。相手は誰だったんだ?」
「…親よ。今日は何食べただの、どこ行っただの、誰と会っただの聞かれたり…あと、
冷蔵庫や戸棚に入ってるおかずやオヤツの位置を教えてくれたりだの…ホンット、面倒な親よ!」

…大変だったんだなハルヒ。

「まあ…しかし裏を返せば、それほどお前は親に大切に思われてるってこった。
娘を一人で家に残せば、そりゃそうなろうて。」
「ふーん…そういうもんなのかしらね。」

…そういや、朝比奈さんの話を聞きそびれてしまったな。話の文脈上から察するに…昼の時間帯、
いろいろと何かを頑張ってたみたいだ。その『何か』…が聞けなかったわけだがな。

…ん?昼?

……

『今日の午前11時47分、朝比奈みくるがこの世界の時間平面上から消滅した。』
『午後1時24分、彼女は再びこの時間平面上に姿を現した。』
『行き先はもともと彼女がいた世界…未来だということは判明している。』

…そういや、ちょうどこのとき、彼女は未来へと時間移動してたんだっけか。
しかし、そこ(未来)で何をしてたかまではわかっていない。…今ハルヒが来なかったとして、
果たして朝比奈さんはその暗部を、俺に打ち明けてはくれたのだろうか?それともくれなかっただろうか?
くれなかったとしても、それは打算的なものではないと…俺は信じている。
大方いつもの禁則事項とやらであろう。だが…

『この世界は危機に瀕してるのですよ。我々だって…最悪の場合死ぬかもしれない。
そんな時期に際してまでも、彼女は我々より【禁則事項】とやらを優先しようとするわけですか?』

あのとき、俺はこの古泉の発言に対し取り乱してしまったわけだが。あいつは…朝比奈さんを悪く
言いたかったんじゃない、仲間であるなら話してほしいと…信じたかったのだ。ただ、それだけの理由。
今更だが…ヤツのあのときの気持ち、少しはわかった気がする。

「あれ、そういえばまだ有希と古泉君帰ってきてないの?いい加減戻ってきてるとばかり思ってたけど。」

…あの二人はまだ外にいるわけか。一体全体何をしているのだろうか。

……

ん?俺の携帯が鳴ってる…メールか。差出人は…古泉か。どれどれ。

(長門さんが敵に対して一斉攻撃を始めます。急ですみませんが…涼宮さんを連れて逃げください。)

……

は?

何かの冗談か?

……

…マジで言ってんのか…?

一斉攻撃??この住宅街で今から攻撃??敵??敵って誰だ??

……??

あまりに急すぎて思考が働かない。

……

ただ、事の重大性は理解していた。ハルヒをここから連れ出してやらねえと!!

…だが、行動に移すには間に合わなかった。




ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ
オオオオオオオオオオオオオオオン……




「「「!?」」」

突然の爆発音 慌て慄く俺たち

「な……何よ!?今の音!?」
「そ、外から聞こえましたよ!?!な、何ですかぁ今の!??」

……

長門…マジで始めやがった。

「あたし…外見てくる!」

玄関へ向かって走り出すハルヒ…っておい!ちょっと待て!お前は行くな!!

…しかし、あまりに凄い爆音だったせいか…体が怯んでしまったのか。
思うように四肢が動かせない。…くぅ…情けねえ…!それでも…俺はハルヒの後を追う。

「す、涼宮さん!?キョン君!?」

一人残されるのが不安だったのか…同じく俺たちの後を追いかける朝比奈さん。















外に出て唖然とする俺たち。

…隣の家がまるでダイナマイトで爆破されたかのごとく…木端微塵になっている。
辺りには火の粉や粉塵が蔓延している。

「な…長門!?これはいくらなんでもやりすぎだろ!?
隣に住んでる人はどうなったんだよ!?まさか殺したのか!?」

長門に詰め寄る俺。事態が全く呑みこめず、その場に立ち尽くすハルヒと朝比奈さん。

「そもそも、もともとあの家屋にいた住人は情報の操作と改変で…今はいないことになっている。」
「それは…長門がやってくれたのか??そりゃよかったぜ…。」
「私ではない。やったのは敵。」
「…どういうことだ??」
「住人の存在を情報操作によって消すことで、彼らはこの家への潜伏を可能とした。
そして、私が隣家にただならぬ気配を感じたのは先ほどの午後9時21分のこと。」
「僕が長門さんと一緒に外へと出て行ったのは…このためです。敵を掃討すべくね。」

ふと、側に古泉がいることに気付く。何やら…大きな鉄の塊を両手に抱えている。

「こ、古泉…それは…本物か…??」
「ええ、正真正銘、本物の…機関銃です。」

さっきの大爆発といい今はっきりわかった。こいつらに【手加減】の文字はない…本気で殺るつもりでいる。

「しかしだな…いきなり爆破はやめてくれないか…?心臓が止まりそうになったぜ!?
警告のメールも前もって送ってくれ…いくらなんでも直前すぎだろ??」
「それに関しては謝ります…すみません。その証拠に、
涼宮さんを連れ出すこともできなかったようですね…あそこで唖然としている彼女を見ると。」

……

「仕方がなかったんですよ…というのも、敵に動き出そうとする明確な気配が感じられましたので。
やむをえず、長門さんからの提唱で先手を打たせていただきました。あのメールも…
僕なりに速く打ったつもりなんです。どうかご勘弁を。」
「…それについてはわかった。で、もう終わったのか??
そりゃそうだよな?さすがに、今の攻撃喰らって生きてるなんてことは。」
「先ほどと同数の熱源を確認している。つまり、敵はまだ生きている。」

ふと気づいた。大破した家屋の破片が宙を舞っている。

なぜ?




次の瞬間 それらは弾丸のごとく

雨となり

俺たちに降り注いだ






















「……!?」

何が起こったのか、一瞬よくわからなかった

「…とっさの迎撃で対抗しましたが…、くそ!!守りきれませんでしたか…!!」

来襲する破片めがけ機関銃をぶっ放した古泉。おかげで今、俺は無傷でいる。

だが

……

角膜に映しだされている光景を、俺は夢だと思いたかった

ハルヒと朝比奈さんが

……

血まみれで伏しているというのは  一体どういう冗談だ…?

目の前が真っ暗になった


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