しばらくして食事を食べ終える古泉と朝比奈さん。再び話は再開する。

「さて、長門さんはようやく【過去】の話を終えたわけですが…ということは、
今度は何を話すか…大体予想はつくでしょう。洞察力の鋭いあなたならね。」

別に鋭くはないがな。

「お前が【過去】って言葉を強調したことから察すると、今度は【今】についてでも語ろうってか?」
「ご名答です、さすがですね。これから話すことは事態の核心に迫る代物です。
少し気を引き締めて聞いてもらえると嬉しいです。」

まあ、もとからそのつもりだ。

「いきなりですが、【フォトンベルト】という言葉をご存じですか?」
「本当にいきなりだな…ああ、聞いたことはあるぞ。よくテレビの怪奇特番だので、
最近おもしろおかしく扱われてる題材だろ?」
「その通りです。ではフォトンベルトについて、あなたはどこまで知っていますか?」
「んなこと言われてもな…聞いたことがあるってだけで全然詳しくはないぞ。
確か地球を滅ぼす類のものだったような記憶が。」
「それを知っていれば十分です。おそらく今から話す内容も、あなたなら差し支えなく理解することができるでしょう。」
「ならいいんだけどな。で、いい加減フォトンベルトとやらがハルヒとどう関係があるのか話してくれないか。」
「では、まずフォトンベルトの定義についてあなたに説明したいと思う。」

再び長門先生の出番だな、よろしく頼むぞ長門。

「フォトンベルトとは、銀河系にあるとされている高エネルギーフォトン、即ち光子のドーナツ状の帯。」

いきなり高度な説明がきたな。

「要は光子の集合体ってことか?」
「その認識で問題ない。話を続けるが、太陽系はアルシオーネを中心に約26000年周期で銀河を回っており、
その際、11000年毎に2000年かけてそのフォトンベルトを通過するとされている。」
「すまん長門…アルシオーネとは何だ?」
「プレアデス星団の中心的な星の呼称。」
「また質問してすまんが…プレアデス星団とは??」
「銀河系に属する新しい星団のこと。地球からおよそ10光年の距離にある。」

なるほど、わかりはしたが…なんとも掴みどころがない感じで 正直イメージし難い。
宇宙に関する知識があまりない俺には必然事項か。

「何やら苦しんでいる様子ですね。」

そりゃそうだろ古泉… 一端の高校生が大学で習うような
天文学的単語を聞かされているんだ。無理もないとは思うがな。

「できる限りわかりやすく説明するのであれば、初秋の夕暮れ時…東の空にて見られる青白い星の集団、
それがプレアデス星団です。我が国ではスバルと呼ばれ古くから親しまれています。
あなたも、この名前くらいはどこかで聞いたことがあるのでは?」

そう言われればなんとなくわかる気はする。 いや、やっぱりわからん。

「…長門よ、フォトンベルトについてもう少し詳しく説明してくれないか?
ハルヒと関係があるない以前に俺があまりに無知すぎて、そもそも判断ができん。」
「了解した。では、まず【フォトン】について細かく説明したい。フォトンとは光エネルギーのことで、
粒子であると同時に電磁波としての性質を持っており、日本語では光子と訳されている。」

つまりは光エネルギーってことか。

「ところで、酸素や水素などの元素は原子から出来ていることはご存じ?」
「…いくらなんでもそれくらいはわかるぜ。授業でも習ったしな。」
「これらの原子の中心に陽子と中性子からできた原子核があり、その周りを電子が回っている。
この電子とその反粒子である陽電子が衝突すると双方とも消滅し、2個または3個のフォトンが生まれることが
知られている。地球上にはこうして生成されたフォトンの他に、太陽から飛来したフォトンが存在している。
太陽内部の核融合反応によっても生成された厖大な量のフォトンは地球に向かって放射され、
その一部は地球大気の吸収や散乱などを受けながら、粒子の状態で地表に達している。」

すまん長門、後半ほとんど聞いてなかった…この場合、この聞くという動詞には
英語ならばcanがついているところだろう。聞いていないのだから、即ちcan'tだ!

「つまりこういうことだろ?さっきお前が言ってた10光年離れたプレ…プレなんとか」
「プレアデス星団。」
「そう、それそれ。そこに今言ったフォトンとやらが密集してる、それがフォトンベルトってことなんだろ?」
「そう。」

何だ、案外フォトンベルトって簡単じゃねえか。難しく構える必要もなかったな!

…こういうときハルヒがいてくれれば俺に厳しいツッコミをしてくれたものを…。
『何得意げにアホ面してんのよこのバカキョン!?ただわかった気になってるだけじゃないの?』との侮蔑に対し、
『調子のってすみませんっした。』と、面白くもないコントを繰り広げていたであろうことは安易に想像できる。
今となってはノリツッコミで悲しいだけだが。とりあえずだ、フォトンベルトをイメージとしてだけでも
捉えられるようになったのだから、俺にとってはそれでもう十分だろう。俺にとっては。

「ただ、地球のそれとは桁違いの量のフォトンが充満している。」

え?地球にもフォトンとかいうのはあったのか?あ、もしかしてさっきの話にあったのか…聞いてなかった。
それより今話すべきは…

「ええっと…そんな桁違いのフォトンが集まってるフォトンベルトってのはあれか?危険な存在ってことなのか?」
「少なくとも、人類にとってみれば、あまり好ましいものではないと言える。」

俺が以前テレビ特番で見たように、フォトンベルトが地球滅亡と結び付けられていた理由も
今ようやくわかったぜ。そんな複雑な事情があったとは。

…ん?待てよ。

「だがな、長門。少なくとも俺が見た番組内では、否定派が肯定派を圧していたぞ。否定派からすれば
フォトンベルトの危険性とかいうのは… 一部の疑似科学信仰者やオカルティストが存在と影響を主張するだけで
科学的根拠はないとか何とか。現にそう言っていた科学者もいたようだし…このへんはどうなんだ長門?」

「確かに、フォトンベルトというのは物理法則的にはありえない。なぜなら、そもそもフォトンは光子であり
フォトンの帯が形成されることは基本ない。それに加え、太陽系は銀河系中心に対して約2億2600万年周期で
公転しており、プレアデス星団を中心に回るということは考えられない。実際に26000年周期で太陽系が
銀河系を公転したとすると光速度を超えてしまい、即ち特殊相対性理論に反するのは必至。
仮にプレアデス星団を中心に回っているとすると、そこには銀河系を遥かに上回る質量がなければならない。
フォトンベルト説では地球がプレアデス星団の周りを回っている説と、わずか26000年で銀河を回るという二説が
それぞれ矛盾する、にもかかわらず併記されていることが多い。よって、フォトンベルト説が
暴論だと捉えられても無理はない。」

なるほど、全くわからん。

 

 

 

 

 

 
とりあえず…だ。フォトンベルトとやらが存在しえない産物であろうことだけは何となくわかった。

「フォトンベルトが存在するかどうか怪しいものなんだとしたら、なぜお前や古泉は執拗にフォトンベルトについて
俺に詳しく説明してくれていたんだ?おまけにだ、お前さっき『人類にとってみればあまり、好ましいものではない』
とか言ってなかったか。それを言うからには何か根拠があってのことだよな?一体どういうことなんだ?」
「涼宮ハルヒの能力が関与すれば、強引にでもそれらの物理法則を捻じ曲げることは可能。」

??なぜそこでハルヒがでてくる??

「涼宮ハルヒが、無意識であっても再び世界が滅ぶことを望めば…
存在不確定のフォトンベルトを実在するものとして、物理法則を無視して作り上げることは可能。
なれば、フォトンベルトが人類にとって最悪の方向へ向かうのは必然。」

なんてむちゃくちゃな…科学万能説終了のお知らせ。そうか、そういやハルヒには
願望を実現させる能力があったんだっけか…それなら可能っていう話もわかる。だが

「何をバカなことを言うんだ。ハルヒが世界を滅ぼす?あいつがそんなことを
思ってるとでもいうのか?いくら常人離れしたやつとは言え、そんなこと望むはずがないだろう??」
「あなたがそう言いたくなる気持ちもわかります。しかし、あなたにはついさっき長門さんが
話してくれたばかりなんですがね。涼宮さんが過去に何度も世界を滅ぼしたことがある、ということを。」

ッ!

…なぜ俺はあのとき、こんな当たり前の質問を思いつかなかったんだろうかと思う。話の複雑さゆえに
思考がよく働いていなかったせいなのか?…何にせよ、今なら俺はこの質問を投げかけられる。

「そもそもだな…ハルヒはどうして世界を滅ぼしたりなんかしたんだ?」

根本的な疑問である。事の根幹を成す疑問である。これが解消されなければ…
とてもではないが、俺は平然としていられることはできなくなるだろう。

「神だから…としか言いようがないのではないですか?」

…ハルヒが神みたいな存在だってことは認めてやる。長門の一連の話を聞いても、
尚それに抗うような野暮な人間では俺はないんでね。だがな…神であったとしてもだ、
それは全然理由になってないんじゃないか古泉?神だから滅ぼすだと?一体どういう理屈だ。

「本質的な理由はもはや本人以外には知りようがないでしょうね。ですから、憶測を挟む余地が
あるのだとしたら、もはや我々には『神だから』という稚拙な理由でしか返答できないんですよ。」

だから、その『神だから』の意味がわからないんだが…

「涼宮さんが地球を滅ぼした時、世界はいつもどういう状況でしたか?
長門さんの説明を思い出してみてください。」
「…人間が私利私欲に走った挙句、戦争を起こしたんだよな。覚えてるぜ。」
「その通りです。ならば、世界の統治者とも言える神が…そのような世界を望んで維持させようとは思いますか?」
「…だから滅ぼしたってのか。」
「神という存在の捉え方にもよりますがね。争いが無く人々が幸せに暮らせる世界…
恒久平和が続く完璧な世界を創りあげたかった…のではないか。僕はそう考えています。」

…確かに、ハルヒがそういった類の理想郷を構築せんと邁進していたであろう事実は
長門の説明からみてとれる。その瞬間だったか、俺の中に新たなる疑問が生まれる。

「…ハルヒは第一、第二、そして第三世界時においては自分が神だっていう自覚はあったわけだよな?
まあ、もともとが神の分身だったらしいから当たり前っちゃ当たり前なんだが。それでだ、なぜ今のハルヒには
その自覚がない?そして、なぜ神という自覚がないにもかかわらず、フォトンベルトに干渉できる?」

「涼宮さんになぜその自覚がないのか…それについては返答しかねます。しかし、涼宮さんが
徐々に神としての意識を取り戻し…そして、それが何らかの経路で深層心理に働きかけていたとしたならば…
無意識にでも能力は発動し得ます。無意識にでも。それは、あなたが一番よくご存じのはずです。」
「ああ…確かに、あいつはそんな芸当が成せるやつだよな。それなら、いつからあいつにそんな自覚症状が
現れ始めた?いつ、そしてどういった契機でそうなったのか…それについては何か知ってるか?」
「涼宮ハルヒに異変が生じたのは昨日の…およそ午後6時15分あたり。」

なんだと??その時間帯って確か

「そう。涼宮ハルヒの意識が途切れ、失神した時間帯とほぼ同時刻。ならば、その時間帯にて
涼宮ハルヒに対し外部から何らかの干渉があったのは確実。肉体的打撃の痕跡がなかったことから、
重度の精神的ショックにより意識を奪われたと考えるのが妥当。」
「原因は??なぜそんなことに??」
「あの時間帯にて、私は微量ながら通常の自然条件においては発生し得ないほどの異常波数を伴う波動を
観測した。気になるのは、それが赤外線・可視光線・紫外線・X線・γ線等、いずれにも属さない
非地球的電磁波だったこと。これら一連の現象が人為的なものであると仮定するならば、現在の科学技術では
到底成し得ない高度な技術を駆使していることに他ならない。その波動が涼宮ハルヒの脳波に何らかの影響を
及ぼし、結果として『自身は神である』というある種の覚醒を引き起こしたのではないかと私は考えている。」

……

「そして、これはあなたの先程の質問に対する答えとなるが…涼宮ハルヒの全容を私が知ったのもこのとき。
卒倒時、涼宮ハルヒから膨大ともいえる量の情報拡散を確認、同時に私はその解析にあたった。ただし、
その情報量が私個人のスペックをはるかに凌駕するものであったため、大雑把な客観的事象を除いては、
私は解析を中断せざるをえなかった。即ち、私があなたたちに話した内容というのは非常に断片的なもの。
十分な情報摘出ができず、私は申し訳なく思ってる。」

…いや、むしろ俺はそれに対し感謝せねばならないだろう。断片的だったその情報に関してですら、俺は
理解が追いつかなかったのだから。それ以上の説明をされたところで頭がオーバーヒートしてしまうだけであろう。

「長門さんは、本当によく頑張ってたと思います!」

珍しく声を張り上げる朝比奈さん。一体どうしたのだろう?

「実はあのとき…彼女は」
「古泉一樹、朝比奈みくる。そのことは他言無用と言ったはず。」
「すみません長門さん。しかし、彼には伝えておくべきです。いえ、僕が彼に知っておいてもらいたいのです。」
「そうですよ!またあんなことが起こったらどうするんですか!?
キョン君を心配させたくないって気持ちはわかりますけど…それでも!」

何だ何だ??長門に何かあったってのか?!

「実はですね、あのとき僕たちが止めなければ彼女は…ちょうど内部容量を超え
フリーズしてしまったパソコンのごとく、二度と機能しない体になっていた可能性があるんですよ…。」

パソコンは電源を落として起動させればまた使えるようになる。しかし長門はどうだ?
いくら情報思念統合体とはいえ、体は人間のそれと一緒なはず。そんな彼女がフリーズを起こしてしまったら…?!

「長門!?どうしてそんな無茶なことを!?」

おそらく長門のことだ…無理やりだとわかってても、なるべくなら
情報の取りこぼしは防ぎたかったのだろう。だが…それとこれとは別問題だ。

「以前言ったよな!?無茶はするなって…!何かあったら俺に言えって…!そりゃ、あのとき俺は
ハルヒのとこに向かってていなかったし、仮にいたとしても俺のような一般人がその解析とやらを
助けてやることはできんかったろうが…そういう問題じゃねえんだよ!俺も、そして古泉や朝比奈さんもだが…
お前の無理するとこは誰も見たくねーんだ!!ここにはいないがハルヒもな。だから…長門、俺に約束してくれ。
二度とこんな真似はしないってな。もしやるようなら…罰金だからな?それがSOS団ってやつだ。」
「…っ。」

罰金という言葉に反応したのか、それまで重かった(ように見えた)長門の顔色が不意に明るくなる。

「…わかった。私も、罰金は払いたくない。」

シャッターチャンスだったかもしれない。そう思わせるような…優しい表情だった。

 

 

 

 

 

 


…で、ふと思ったんだが…。

「もしそれが人為的なもんだったとしたら、犯人は未来人かもしれないってことか?」
「未来技術を応用しているのだとすれば、犯人が未来人であるという可能性は非常に高いと思われる。」

……

俺は思い出していた…二日前、放課後にて俺の下駄箱に入っていた… 一枚の手紙に書かれていたことを。

『どうか、未来にはお気をつけください。』

ハルヒをこんなことにしやがったヤツは未来人ってことかよ。
あの手紙の意味がようやくわかったぜ…朝比奈さん大には感謝しねーとな。

ふと朝比奈さんのほうを見る俺。

「え、ええっと、キョン君??今の話だと犯人は未来人だとか何とかそういうことらしいですが、
決して私は犯人じゃないですよ?!?どうか信じてください…。」

涙目ながらに懇願する朝比奈さん。どうやらこのかたは何か勘違いをなさっているようだ…。

「誰も朝比奈さんが犯人だなんて思ってませんよ!?」
「…じゃあどうして今私のほうをジロっと見たんですかぁ…?」

う…これはまずい。朝比奈さん大のことを思い浮かべ、朝比奈さん小をついつい見てしまったなどとは
口が裂けても言えない。なぜなら朝比奈さん大のことは本人(小)には話さないようにと…以前彼女と
そう約束したからだ。詳しい理由はわからんが…やはり大人となった自分に過去の自分が会ってしまう、
あるいは存在を認知されてしまうというのは、時系列上いろいろと問題が生じてしまうのであろう。

「いえ、この事件には未来が関与してるとか…そういったことが今しがたわかったので、
未来人である朝比奈さんは何かそういう情報を掴んでいないかなあと思って見たってだけの話ですよ。
何か知ってることとかありませんか?最近未来で不穏な動きがあったとか何とか。」

ふう、なんとか上手くごまかせたぞ。

「あ、そういうことだったんですね。…そうですね…不穏な動きですか…。」
「些細なことでもいいんです。何かありませんか?」
「…そういえば最近藤原君たち一派が事あるごとに時間移動していたのがちょっと気になります…。」

…やっぱりそうだったか藤原よ。一連の事件の一部始終がお前の差し金だったんだな。
まあ、朝比奈さん大と直接会って『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』
と忠告されていた段階ですでに薄らと気付いてはいたんだが。

「長門よ、今朝比奈さんの言ったこと聞いたよな?ということは、犯人は藤原一派で確定か?」
「そ、そんな、時間移動といっても、もしかしたらそれは私のただの勘違いだったかもしれませんし、
たったそれだけの情報で藤原君たちを犯人扱いしてしまうのは…」

うーむ…朝比奈さん大にそう言われたと本人には言えないからなあ…苦しいところだな。

「もちろんその可能性もある。まだ確定したわけではないが、彼らを警戒するに越したことはない。
その場合、以前彼らと連動していた天涯領域や橘一派に対しても同様の措置をとるべきだと考える。」

長門の言うとおりだな。

「……」

何か言いたげな顔をしている朝比奈さん。一体どうしたんです?

「ええっと…犯人が藤原君たちでしろそうでないにしろ、
いずれにしても 犯人は未来人だっていうのはもう決まってるんですか?」
「可能性は非常に高いですね。」
「だとしたら、私にはなぜこんなことをするのか理解しかねます…。」
「?どういうことですか?」
「考えてもみてください。涼宮さんに神としての自覚を促すということは…つまり、この世界をもう一度
滅ぼしかねない可能性を与えてしまうってことなんですよ?当たり前のことですが、現行世界が消滅してしまえば
つまりは未来だって消滅しちゃいます。私たち未来人からすれば帰る場所が無くなっちゃうんですよ。
にもかかわらずそんなマネをするなんて…あんまりこういう言い方はしたくはないんですけど、これじゃ
自殺行為と変わらない気がします…そういう人たちがいるのだとしたら、とても正気の沙汰には思えません…。」

肩を落として悲しげな表情をする朝比奈さん。やめてください、あなたにはそんな表情似合いませんよ…。
それにしたって、朝比奈さんの言い分も至極当然である。一体どういった目的でハルヒにこんなマネをしたのか?
犯人が未来人だったとしたなら、なおさら考えさせられるべき問題だ。

「古泉、理由に関して何か見当はつくか?」
「こればかりは僕にもさっぱり…最大の謎としか…。」
「そうか…長門、お前は何かわからないか?」
「古泉一樹同様、見当の余地もない。何より、現段階では情報が少なすぎる。」

誰にもわからない…か。それならいくら悩んだって仕方あるまい。

…そういえば

「なあ、長門。」
「何?」
「仮にハルヒに神としての意識が復活したとしても、ハルヒがこの世界を好きになれるように…
維持したいと思わせるように俺たちが働きかけることができるようなら、世界は消滅せずに済むんじゃないか?
原理的にはあれだ、いつぞやの閉鎖空間のときみたいにな。」
「…それは非常に厳しいと思われる。」

どうして!?と言いそうになったが改めて考えてみりゃ、ハルヒは過去三度も世界を滅ぼしてしまった
神様なわけで、そういう事例がある限り俺らがいくら説得したところで態度を変えるかどうかは…
常識的に考えたらそれは困難だろう。いや、困難どころか不可能に近いかもしれん。だが

「万が一にでも説得に成功すれば世界は崩壊せずに済む…そういうことだよな?
可能性がゼロじゃない限りは、希望はあるはずだよな?」

しかし、長門から発せられた言葉は…無機質で冷めていた。

「仮に成功したとしても、事態の解決は望めない。」

……

一瞬『万事休す』という言葉が頭をよぎる。

…ちょっと待ってくれ…  本当にどういう状況なんだ??

「涼宮ハルヒの能力は、あくまでフォトンベルトによる人類への悪影響を助長しているに過ぎない。」

わけがわからない。

「つまり涼宮ハルヒの能力の有無には関係なしに、
フォトンベルトは人類にとってマイナスベクトルへと推移している可能性がある。」

…え?

「お、おいおい…それじゃあアレか!?ハルヒが望むにしろ望まないにしろ…
いずれにしても世界は滅ぶ運命にあると、お前はそう言いたいのか??」
「そういうことになる。」
「待ってくれ!?さっきハルヒの能力無しには地球崩壊の科学的根拠は成立しないって言ってたじゃねえか?
それにだ、そもそもフォトンベルトとかいうのが存在するかどうかも疑わしいんだろ?ハルヒが望めば、
お前がさっき言ったように物理法則でも無視してフォトンベルトとやらを作りあげるんだろうが…
裏を返せば、つまり望ませなければ、そんなもんも誕生しないってことだろ??
それなのに、なぜお前はフォトンベルトがあること前提で話を進めているんだ??これじゃ納得できねえ…!」
「きょ、キョン君!落ちついてください!長門さんだって、私たちと気持ちは同じはずなんです!」

……

朝比奈さんが叫ぶなんて珍しいこともあるもんだ。そのせいか…体から熱がひいていくのがわかる。

しまった…俺は熱くなり過ぎていた。無意識だっただけで、俺は長門に対して
どことなくぶっきら棒な言い方になってしまってたんじゃないのか…?

「あ…すみません、出過ぎた真似でした…!長門さんにも…勝手に気持ちを代弁しちゃってごめんなさい…。」
「いい。私もこの世界は安寧であってほしい。それはあなたたちと同じ。」
「朝比奈さん…むしろ言ってくれてありがとうございます。おかげで冷静さを取り戻せました。
それと長門…ゴメンな。お前を問い詰めようとか、そういうつもりはなかったんだ。」

「わかってる。言うなれば、【フォトオンベルト】の定義を曖昧のままにして話していた私のミス。
存在の確証も無しに【フォトンベルト】という語源を安易に会話に使用していたのは相手に誤解を招くには
十分な行為であり、私の不覚といたすところ。従って、次回から私の言う【フォトンベルト】とは、
あくまでそれに類似した何かであって、いわゆる一般的に厳正定義されているフォトンベルトとは
差別化することをあなたに伝えておく。これでいい?」

「つまり長門さん、こういうことですよね。確かに、『いわゆる肯定派が唱えるフォトンベルト』が
存在する確証などどこにもない。しかし、フォトンベルトに近しい何かが太陽系全体に接近しているのは
紛れもない事実であり、いくつもの科学データがそれを証明している。そして、その事実が地球に
害を及ぼしかねない可能性を示唆している。」
「そういうこと。」

古泉がフォローに入ってくれた。なるほど、なんとなくだがわかってきたぞ。つまりフォトンベルトではなく、
近しい別の何かと考えればいいんだな。ただ、その近しい別の何かの具体的呼び名が今はない。
ゆえに、とりあえずは暫定的に【フォトンベルト】という呼び名でこの場は定着させましょうということだ。

……

って、近しいって何ぞや??

「長門、近しいって何ぞや??」

反射的に心の声がダイレクトに出てしまった。だってその通りなんだから仕方ないじゃないか!
そうだろう??ただでさえフォトンベルト自体が意味不明なのに、それに近しいって一体全体何なんだ?!?

「フォトンは先述したように…」

しかし、そんな俺のふざけた口調にもかかわらず長門は黙々と答えてくれている。
何も反応がないってのも…それはそれでちょっと悲しいもんだな…。いや、待て

一瞬だったが、俺は長門の口がにやけたのを見逃さなかった。

「電子と…反電子の物理、的崩壊によって…」

言い方も何かもぞもぞとしておかしい。確信した、長門は間違いなく俺の『何ぞや』に受けている。
なんとも、世の中には変わった笑いのツボをお持ちのかたがいるもんだ。

「長門…そんなに何ぞや?がおかしかったのか?」
「今話してる途中…というか、そんなことはない。」
「無理しなくていいんだぜ?」
「そんなことはない。」
「ホントか?」
「そんなことはない。」
「やっぱ面白かったんだろう?」
「そんなことはない!」

!?

「おやおや、キョン君も人が悪い。まさか女性を辱めて悦に浸る趣味をお持ちとは、思いもしませんでしたよ。
そのせいでしょうか、長門さんも随分とご立腹のようです。」
「そうですよキョン君。せっかく長門さんが一生懸命お話していたのに…そりゃ長門さんでも怒りますよ!」

なんということだ…長門には怒られ、古泉と朝比奈さんはその長門の援護射撃に入ってしまわれた。
さらば俺フォーエバー!

「…とにかく、話を続ける。」
「長門マジすまん、許してちょんまげ。」
「…今の…面白かったから…許す…っ。」
「キョン君、あなたは本当に何を言って…呆れて笑いが込み上げてきたではありませんか。」
「ちょ、キョン君、こんな重要な話の途中に何言って…くっあはは。」

朝比奈さんの言うとおりだよ。何言ってんだよ俺は…??ハルヒがいないからって
テンションがおかしくなってるんじゃないのか??いや…こんな重たい話だからこそ
反動で笑いを取りに行ってしまったのかもしれない。何にせよ、こういう空気もたぶん必要…だと思う。

「本当に話を戻す。フォトンは先述したように電子と反電子の物理的崩壊によって生まれた光の粒子だが、
人間が一般的に知る光とは異なり、多次元の振動数を持つ電磁波エネルギー。したがって大量のフォトンに
さらされたとき、真っ先に重大な影響を受けることになるのは地球の地磁気や磁気圏…最も深刻な影響は
地球磁場の減少。19世紀初頭以降、その動きが活発化。その減少率が……」

話は続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 


その後も長門から様々な科学データの提示、説明を受けた。地磁気減少による地球被害はもちろん、その他にも
太陽系惑星が総じて地球と同じ温暖化現象にあるということ、天王星や海王星でポールシフト即ち地軸移動が
起きたということ、土星や金星の明るさが劇的に増しているということ、周期的に沈静化するはずの太陽黒点が
一向に衰えないということなどなど、それはそれは幾多の情報処理に膨大な時間を削られたさ、ああ。

……

ふう…

あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

…と発狂したくなるところだったが、俺にも人並みの精神力がある。心の中では叫んでいても、
実際それを口に出したりはしないさ。つまりである、俺は長門や古泉による複雑怪奇&高度な説明を
長時間に渡って聞き続け、すでに俺の脳内は限界に達してしまっているのである。言わずもがな、
思考回路も悲鳴を上げてしまっている。このままではまずい…俺は古泉に渾身の一言をぶつける。

「古泉、休憩をとらないか?」
「奇遇ですね。実は僕もあなたと全く同じことを考えていたところだったんですよ。」

話に夢中だった俺は気付かなかったが…いつのまにか古泉の顔も、俺に負けんと言わんばかりの
疲弊具合ではないか。そして、朝比奈さんも朝比奈さんで同様の様子。
そうか、みんな疲れていたのか。そりゃ無理もないさ。

「食事を食べ終えた後ですし、ここはみんなでデザートでも取りませんか?
甘い糖分は思考を活性化させてくれますし、気分転換も兼ねて一石二鳥というものです。」

良いことを言うじゃないか古泉よ。いい加減何か甘いもんが欲しかったところだ…
疲れを癒すためにも、俺はこの久々のくつろぎ空間を思う存分味わうことにしよう。

注文を聞きにこちらへとやって来る店員…まあ、つまりは森さんなわけだが。

「私はバニラカフェゼリーでお願いします♪」
「そうですね…では僕はチーズケーキを。」
「私は白玉アイスを希望する。」
「俺はチョコレートパフェで。」
「バニラカフェゼリー、チーズケーキ、白玉アイス、チョコレートパフェをそれぞれ一つずつですね。畏まりました。」

颯爽と去っていく森さん。これで数分後には美味しいデザートにありつけるというわけだ…。

「おやおやキョン君、早く食べたそうな感じですね。」
「当たりめーだろ。そういうお前も同じ穴のムジナだ。」
「バレてしまいましたか。腹が減っては戦はできぬとは、よく言ったものです。」

戦じゃなくて話し合いだけどな…まあ、いずれにしろ疲れることこの上ないが。

「私も早く食べたいですうぅ…。」

干からびたかのごとくぐったとしている朝比奈さん。待ち遠しい気持ちは十分わかりますよ。

「長門、お前はいつもながら平静を装ってるわけだが、やっぱりお前もデザートが待ち遠しいか?」
「待ち遠しいか?と聞かれれば、間違いなく今の私は『はい』と答える。」

つまり待ち遠しいんだな。

そんなこんなで、ゾンビのごとくうなされていた俺たちのもとに…
5分後くらいであったろうか、ようやく希望の品が届いたのであった。

「ゆっくり召し上がってくださいね♪」

またまた颯爽と立ち去っていく森さん。言われなくともそうしますとも。

……

口の中にゆっくりと広がる甘いチョコの味…くうぅぅ!これはたまらん。
状況が状況だっただけに余計に美味しく感じるぞ。

「ああ…幸せです♪」
「さすが新川さん、良い仕事をしてますね。」

朝比奈さんも古泉も甚だしくご満悦の様子だ。

「いつか…。」

ん?何か言ったか長門?

「私もいつか、こういうアイスのような…美味しくて甘いデザートを作れるようになりたい。」

!?

… 一瞬びっくりしたぜ。お前がまさか、こんな女の子らしい言葉を口にするなんてな。
お前の料理熱はカレー方面だけかと思い込んでいた俺だったが…どうやら料理全般に興味があるようだな。
一体いつのまに…?いつの日か、お前がデザートを作れる日を心待ちにしてるぜ。

 

 

 

 

 

 




さてさて、二重の意味で甘い時間を堪能していた俺たちであったが、いつまでもデザートに
甘んじているわけにもいくまい。本当は延々とのんびりくつろいでいたいが…ココに来た本当の理由を
忘れちゃいけねえからな。ハルヒの今後がかかってる重要な会議ってことくらい…いくら怠慢な俺でも
常時頭の隅っこには入れておいたさ。そもそも、ファミレスでこんな深刻な話をしていたこと自体、
客観的に考えれば信じられないことこの上ないが…とりあえず、話を再開させるとするぜ。
しんどいが、これもハルヒのためだ。

「で、他に何か俺に話さなきゃならんことはあるか?」
「実はですね、これと言ってあなたに話さねばならないことはもうないのですよ。」
「何、そうなのか?」
「ええ、そうです。実に長きにわたって頭が痛くなるような話を聞いていただいて…本当に今日はお疲れ様でした。」
「…いやいや、お前も説明いろいろご苦労だったぜ。」
「それはどうもです。…そうですね、何か我々に尋ねておきたいことはありますか?
その質問に応じて、今日はお開きにしたいと思ってます。みんな疲労困憊のようですしね。」

尋ねたいこと…と言われてもだな、俺が今日どんだけ長門先生にご師事を受けたと思ってんだ…
彼女が一連の説明において、何か取りこぼしているようには全く思えない。ゆえに、俺には
質問すべきことなど何一つ残されてはいないのである。よし、それじゃあ今日はこれでお開きとするか。

……

…?

…何か喉につっかかる…はて、一体これは何だろうか。
疲弊しきった頭をフル動員させ、その違和感を探索すべく渾身の力を振り絞る俺。

……

夢…

そうだ、夢のことだ…!

「みんな、ちょっと俺の話を聞いてくれ…。」

俺は話したのだ。そう…昨日、一昨日と…俺が夢の中で一部始終見ていた惨劇を。もちろん、
話したのには理由がある。長門や古泉から今日受けた話と俺が見た夢との間に、随分な数の類似点を
見出したからだ。聞いてるときに感じたデジャヴ感とは、このことだったんだな。


……


「なるほど…確かにその夢はいろいろと筋が通ってます。例えば地球滅亡の様子においては
火→氷→水と…見事に涼宮さんの第一、第二、第三世界崩壊の末路と被っていますね。
そして水に包まれた後、地球が消滅…正しくは見えなくなった…そうですよね?」
「ああ、そうだ。」
「それも実は説明がつくんですよ。フォトンベルトの作用に照らし合わせればね。」

何、あれはフォトンベルトによるものだったのか??

「そこのところを詳しく説明したいと思う。実は、地球はフォトンベルトの周辺部にあるヌルゾーン
と呼ばれるエリアに突入する際、暗黒の中で星さえ見ることが出来ない状況に置かれる可能性がある。」
「暗黒?まさか地球が見えなくなったのはそのせいか…?で、それは一体どういう原理だ??」
「光子の影響で太陽光が視界から遮られる状況に置かれるから。
光源体が無ければ、人は物を識別することはできなくなる。」
「太陽光が全く当たらなくなるだって?それはあれか?例えばある場所が昼時ならば、
その地球の反対側に位置する場所は夜だとか…そういう当たり前の話じゃないってことか?」
「そう。地球の球体全てが暗闇に包みこまれる…そして、太陽光が当たらなくなった際には
地球全土で寒冷化現象が起こり、瞬く間に地球は極寒の地へと変貌する。」

恐ろしい事態だなそりゃ…

「それだけではない。地球の電磁気フィールドがフォトンエネルギーによって崩壊させられることにより、
あらゆる電気装置が操作不能となる。もちろん、人工的な照明器具類も一切用を足さなくなる。」
「つまり…完全なる暗闇…ってわけか。」
「そういうこと。」

……

万が一にもそういうことになれば、本当に地球は終わってしまうではないか。

「ちなみに…フォトンベルトに完全に突入するとされる時期はいつ頃かわかるか…?」
「今年2012年の12月23日だと推定される。その場合、翌日24日までに第四世界の崩壊は完了される。」

……

俺が二日前に見た夢の世界での日付を俺は覚えている…
ああ、長門の言うとおりだ、確かに12月23日だったよ…あの忌まわしい日はな…。

…なるほど、今の長門の説明で全てに納得がいった。
冬にもかかわらずの酷暑は地磁気の漸進的低下による環境変化のせい…
有り得ない規模の大地震は地球の磁場が消滅したせい…
助けを呼ぼうにも携帯電話やラジオが全く機能しなかったのは光子による電磁波のせい…
ハルヒを見つけた際に辺りが真っ暗になったのは太陽光が遮断されたせい…
その直後に急激に冷えだしたのは寒冷化のせい…

……

あの夢は…まさか予知夢だったとでもいうのか?じゃあ、まさか本当にあんな出来事が後一カ月ちょいで…
いや、ふざけんじゃねえ…!?指をくわえて、家族や友人が死ぬのを待ってろってか?

「そんな未来、俺はぜってぇ認めねえ…。」
「何一人でいきりたってるんですか貴方は。『俺』じゃなくて『俺たち』でしょう?」
「そうですよ。私たちも協力しますから!絶対にそんな未来になんかしちゃいけません…!」
「もちろん、私も協力する。」

「みんな…ありがとう」

本当に良い仲間に恵まれたと思う…俺は。

「…それにしても、どうしたって俺はあんな夢を見ちまったんだ?
予知夢にしたって、俺にはそんなもんを見れる特異体質だの何だのあるわけでもない…。」
「…これは僕の推測ですが。おそらく、あなたに未来を見せたのは涼宮さんの力によるものでは?
一度目、そして二度目の夢にも際して涼宮さんの…助けを求める声が聞こえたらしいじゃないですか。
それが何よりの証拠かと。」

……

つまり、ハルヒは俺に助けを求めていた…?

「無意識ながらも神としての自覚を取り戻しつつあったのなら…
キョン君に地球の崩壊を止めてほしかった…からじゃないかな?私にはそう思えます…。」

朝比奈さんの言うとおりなのだとしたら、俺が翌日ハルヒに対して思っていたことは
杞憂でも何でもなかったことになる。俺の読みは間違っていはいなかってことかよ…
できればはずれてほしかったがな。まあ、もはやそうも言ってられまい。

「とりあえず俺のことはこれで置いといてだな、これから俺たちは何をすればいいんだ?
どうすればハルヒと…そして世界を救える?」
「有効な策が現時点では思いつかない…というのが実状ですね…情けないですが。」
「そうですね…相手が未来人なのなら尚更です。万が一にも追い詰めたとしても、時間移動されてしまうのが
オチでしょうし…それに、まずどこにいるのかもわかりません。他の時間平面上に潜んでいて、涼宮さんに
干渉する時にのみこちらの時間軸に顔を現したりするようでしたら、こちらからは何も手が出せません…。」
「つまり…ハルヒの近くに連中が現れるのを待つしかない…と?」
「端的に言えばそうなる。」
「少しばかり悔しいですがね。こればかりはどうしようもありません。」

古泉、長門、朝比奈さんの言うことに倣うのであれば、つまり、今俺たちにはハルヒを見守ってやることしか
できねえってことか…納得いかねえが、しかし仕方ないことなのだろう。その代わり、連中が現れた際には
全力をもってハルヒは守るつもりだがな。よしんば、ヤッコさんも袋叩きにできれば言うこと無しだ。
…ああ、わかってるさ、そう簡単に上手く裁ける敵じゃねえってことくらいな。なんせ相手は未来人だ。
でも俺には頼れる仲間がいる…そう思えば少しは気が楽になるってもんだろう…。

そんなこんなで今日はお開きとなった。言うまでもないが、俺は今から家に帰って睡眠をとる必要がある…
いくらハルヒを守ると言えど、万全な体調で挑まねばそれこそ意味がない。万一にも思考回路が働かない
などという事態に陥れば、それこそ本末転倒であろう。それに、一旦長門たちの話を整理する時間も必要だ。
時計を確認する俺。時刻は…朝の6時10分か。なんと、俺たちはいつのまに
こんなにもの長時間を会話に費やしていたというのか?時の経過は早いのだとつくづく実感する。

 

 

 





疲労した体で家に戻った俺は、早速ベッドに横になった。今すぐにでも眠りそうな勢いである…
昼夜逆転してしまったが、一日くらいどうってことないだろう。ハルヒのためだと思えば何ら惜しくはない。

……

寝る前に俺は夢のことに気づく。そういえば、またしても俺は何かしらの夢を見てしまうのであろうか?
昨日、一昨日と、見た内容が内容なだけに寝るのが恐ろしく感じられるが…しかし、
古泉や朝比奈さんの言っていたように、あれらがハルヒの俺に対する何らかのメッセージなのだとしたら…
俺はそれから目を逸らすわけにはいかないだろう。というか、そんなことは許されない。





…意識が薄れていく。そろそろ眠りに入る頃合い…か。
ま、覚悟はできてるぜ。どんな夢でもかかってこいや。

俺は ゆっくりと目蓋を閉じた

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最終更新:2010年10月26日 18:57