音が鳴っている…

俺はアラームを消した。

10時半…どうやらちゃんと起きられたようである。まだ少し眠たいが、そんなことを言ってる場合ではない。
さて、親に何と言うかだが…『友達の家で寝泊まりする』とでも言っとけば、まあOKだろう。
俺はコートを手に取り、部屋から出た。

…さっき誰かと会話していたような気がするが…。いや、それはありえないか。なんせ俺は寝てたんだしな。
おおかた何か夢でも見ていたんだろう。明確に内容を覚えてないことから、どうやら昨日、一昨日のような
悪夢ではないことは確かである。それだけでも良しとしようじゃないか…古泉たちとの会話の前に
気疲れなど起していては話にならんからな。

自転車に乗った俺は、颯爽と目的地へと向かった。

……

10時50分、ちょうどいい頃合いであろう。俺は自転車をわきへ停め、店内へと入った。
案の定、いつもの日曜日の不思議探索時同様、最後にやって来たのは俺のようである。
唯一の相違点は我らが団長ハルヒがいないということだが。とりあえず俺は席に腰掛ける。

「あなたが待ち合わせ10分前に来られるとは珍しいですね。」

うるせーぞ古泉。いつもいつもお前らが早すぎるんだ。

「とはいえ、今日ばかりは涼宮さんみたいに罰金を課すつもりも、
ましてやおごらせるつもりも我々には毛頭ありませんので、どうか安心してください。」

当たり前だ。ハルヒにならともかく、お前にそんなことされた日にゃ泣くぞ俺は…

「キョン君、罰金!」

な、なんですと??この光景は何だ?あの愛くるしい朝比奈さんが俺に向かって『罰金』?!?Why?なぜ??

「うふふ、慌ててるキョン君かわいい♪もちろん冗談です。
一回涼宮さんのセリフ言ってみたかっただけなの、ゴメンね。」

そういうことですか…まさか、あなたが冗談おっしゃるとは思いもしませんでしたよ。

……

「そういえばここって一番奥のテーブルなんだな。」
「そうです。こういう隅のほうが長話をするには適してると思いましてね。」

なるほど、考えたな。

「だが、その分デメリットもある。」

珍しく言葉を発する長門。何だそのデメリットってのは?

「この店において、この位置は中心部から最も離れている。
よって、ドリンクバーを注文した際 コップに注ぎに行くまでの距離が最たるものとなっている。」

…まさか長門がこういった類のことを口にするとはな。

「つまり…面倒ってことだな?」
「端的に言えば、そういうこと。」
「まあ、すでにドリンクバーは注文しておりますので、とりあえず話の前に
ジュースだけでも各自汲んでくるとしましょう。さすがにまだ食事は早いでしょうし…
まあ、お腹がすいているかたは注文されても一向に構いませんけどね。」

俺はカルピスを…古泉はウーロン茶、長門はグレープフルーツ、朝比奈さんはオレンジジュースを、
それぞれ汲んできたようだ。長門だけ選択が意外のようなそうでもないような…まあそれはいいか。

…さて、そろそろ本題に入るとしよう。

「古泉や長門はハルヒが倒れた一連の経緯についてすでに知ってるようだが、
朝比奈さんはどこまで知っているんです?」

顔が曇る朝比奈さん…どうやら、彼女もある程度事情を把握しているようである。

「一応長門さんから全容は聞きました…正直今でも信じられないんです…聞いたときは
随分と私混乱しちゃってましたし…って、不安にさせるようなこと言ってゴメンねキョン君。」

なんせ、ハルヒの心理学の専門家古泉ですらパニックに陥ったくらいだ。
朝比奈さんのその反応は、むしろ当然であろう。誰もあなたを責める人などいませんよ。

「いいんですよ朝比奈さん。事情がそういう重いものだってのは、
古泉からの電話である程度は感づいてはいましたから…。」

……

「じゃあ古泉、そろそろ説明してくれ。その『事情』とやらをな。覚悟はできてるぞ。」
「わかりました…では、話すとしましょう。」

 

 

 

 

 



「しかし、一体どこから話せばいいものか…とりあえず、以前僕があなたに自分は超能力者だと
明かしたときに、『機関は涼宮ハルヒを神的存在だと捉えている』と言いましたよね?」
「ああ、確かに覚えてるぜ。」
「…本当に神だった…としたらどうします?」
「?どういうことだ古泉?」
「つまり、彼女はこの世界を創造した張本人だというわけですよ。」
「?言ってることがよくわからんが。世界を構築したのは涼宮ハルヒだってのは
お前ら機関が以前から唱えてた持論じゃなかったのか?なぜ今更それに驚く?」
「同じ世界創造でも、実際我々が考えていたような創造とは違う意味での創造だったということです…。」

創造創造連発されてもな…っていうか、いまだに話の流れがわからんのだが。
いつもわかりやすく解説する古泉にしては珍しいじゃないか。それとも、俺に理解力がないだけか?

「すみません、混乱させるような説明をしてしまって…ここからは
長門さんが説明していただいたほうが良いでしょう。というわけで、長門さん。よろしくお願いします。」
「心得た。」
「よろしく頼むぞ長門。」

……

「古泉一樹ら超能力者一同による機関内部においては、
『世界は近年になって構築された』という説が主流な見解として置かれていた。」
「で、それを作ったのはハルヒだと。」
「そう。しかし、実際は世界は近年になって構築されたわけではない。重要なのは、その時期。」
「…要は近年じゃないってことか。紀元前とかそのへんか?」
「いわゆる人間視点で語られる次元の話ではない。」
「じゃあいつなんだ?…まさか恐竜が地球を支配してた2億年前だとか何とか言うつもりじゃないだろうな…?」
「それも違う。正しくは、およそ46億年前に遡る。」

…え?

「長門…俺の聞き間違いかもしれない。もう一度言ってくれないか。」
「およそ46億年前。」

……

雨が降ってきたと思ったら、実はその雨粒全てが隕石だった。あるいは、朝起きたら
枕もとに核兵器が置いてあった。ありえないことではあるが、それくらいの衝撃だったと言っておこうか。

…カルピスをストローですすり、喉を潤したところで…俺は長門にこの一言をぶつけた。

「…それはマジか?」
「信じられないのも無理はない。しかし、可能性としてはかなり高い。」

…古泉がパニくるのも当然というものであろう。なんせ、やつらからしてみれば、『近年』という時期が
常識だったはずである。それが46億年前…たとえるならば、1+1=2だとずっと思いこんでいた人類が
実は1+1=20億だったという驚愕の事実を目の当たりにするようなものだ。

……

それにしても、スケールでかすぎだろおい!?そう言わざるをえない。

「しかしだな、あくまでそれは可能性であって、まだそうだと決まったわけではないんだろう?」
「ところが、そうとも言い切れないんですよ。」

古泉が口を開く。

「実際機関の面々ともこのことについては協議してみたのですが、ほぼ9割がたの人間が
これまでの近年説を捨て新説に鞍替えされていかれましたよ。それくらい説得力がありましたし、
何よりこれまで抱えていた矛盾が、その新説により全て解消してしまうという、
爆弾級の事態に発展したわけですからね。無理もありません。」
「その考えでいくと、ハルヒの倒れた原因についても説明できるってことなのか?」
「はい。おそらく全容を知れば、あなたも納得すると思われます。」
「そうか…で、その全容とやらを知るためには時間が朝までかかりそう…というわけだ。」
「そうですね。少々きついかもしれませんが…。」
「私も頑張りますから、キョン君も一緒に頑張りましょう!」

朝比奈さんからの熱いコールである。これで万が一にも途中で寝てしまうような男がいるなら、
ここに連れてこい。俺が一刀両断してやる。

「ところで…そろそろ食事でもとりませんか?閑話休題も必要でしょう。時間はまだまだあるんですから。」

それもそうだな。誰も拒否することなく、俺たちは古泉の提案に甘んじることにする。

「私は…野菜サラダがセットの和食定食を頼もうかしら。」
「僕はそうですね…コーンスープ付きのハンバーグ定食を。」
「私はカツカレーの特盛りを注文するとする。」

なるほど、朝比奈さんはカロリー控え目の和食ときたわけだ。古泉は洋食…まあ、イメージ通りである。

……

なぜカツなのかは敢えて言及しないでおこう…とりあえずカレー好きってのは知ってたが、大盛りをとび越えて
まさかの特盛りですか長門さんよ。まあ、こいつは食べだすと際限が無くなるから予想外ってわけでもないか…。

「で、キョン君の注文は何かな?」
「雑炊ですよ朝比奈さん。」
「ほう、なかなか地味な選択をしましたね。」

だまれ古泉、しばくぞ。地味でも別いいじゃねーか。雑炊なめんなよ?魚貝や野菜、醤油に味噌…
最近は種類によっては肉も入ってる栄養満点の嗜好品なんだぜ?少なくとも俺にとってはな。

……

「ご注文は何になさいますか?」

しばらくしてやって来た店員に、俺たちは各自の品を言う。これで10分後くらいには食事にありつけられるわけだ。

……

って、森さん?あなたこんなところで何やってんですか?

「何って…ただの店員でありますが、それが何か?」

突っ込みどころがありすぎて困るんですが…。とりあえず、接頭語の『ただの』はおかしいでしょう。

「古泉、これは一体どういうことだ?」
「ああ、すみません…言っておくのを忘れましたね。一応念には念を入れて…
我々の会話が誰かに傍受されることがないよう機関の皆さんが見張ってくれているのですよ。
我々と敵対する組織も決して少なくはありませんからね。」

うーむ、それにしてもやりすぎ感があるが…。

……

「ということは…」

俺はふとレジのほうを眺める。ああ、あそこで店員やってるのはよく見たら田丸裕さんではないか。

「ということは、おおかた厨房には新川さんと田丸圭一さんでもいるんだろう?」
「いやはや、何もかもあなたにはお見通しというわけですね。参りました。」

……

あるときはメイド、あるときは執事、あるときは一般人、あるときは警察官…
そして、今回は店員というわけか。一体どこまで得体の知れないスキルを習得しているというのだろうか彼らは。
…まあ、これに関して聞くのはよそう。何かこう、暗黙の了解って感じで…触れたらやばい気がする。
素直に、自分の心中だけに留めておくとしよう。

…まあしかし、誰かに傍受されたらまずいような重苦しい話をこうやって深夜にすることになろうとは、
数日前の俺は予想だにしてなかったぜ。煩わしいながらも、作曲やこれからするのであろう
バンド活動に楽しみを見出していた昨日一昨日が、今では遠く感じる…。

「何か寂しそうな顔をしてますね。やはり、こういった話は疲れますか?」
「いや、そうじゃない。ハルヒが倒れるなんて事態にならなきゃ、今頃俺たちはハルヒの思いつきで始まった
音楽活動とやらに…振り回されながらも、それなりに楽しそうにやってたんだろうなあと思ってさ。」
「なるほど、確かにその通りですね…そうだ、どうせですし音楽の話でもしませんか?」
「おいおい…気持ちは嬉しいが、そんな状況でもない気がするぞ?」
「ちょっとくらいなら良いと思いますよ私は♪息抜きには、こういうのも必要だと思います。」
「それに、我々は涼宮さんを助けるんでしょう?」

な、何だ古泉??

「確かに、我々は今の状況から涼宮さんを救いださねばなりません。しかし、その後
平穏に戻った際には、あなたは涼宮さんが喜ぶ曲を作って提供する…そういう手筈だったはずでしょう。
そのときの楽しそうな彼女の笑顔を見たいとは、あなたは思いませんか?」

何かの誘導尋問か?…まあ本人もいないことだし、ここは敢えてバカ正直に答えておくか。

「そりゃ、そうしたいに決まってるだろ。」
「なら、先の話をしてたって何ら問題はありませんよ。
なぜなら、我々はこの窮地をなんとしてでも脱するんですから。違いますか?」
「…!」

古泉の言う通りだ。未来を考えることを放棄したとき、即ちそれは現在(いま)が
確証のもてる状況ではないことの裏返し…か。いや、この場合自信がもてないといったほうが正しいか。
だが、俺たちSOS団はこれまで何度も力を合わせて幾度かの修羅場をくぐりぬけてきた…。
だから今回もきっと上手くいくと、俺はそう確信している。ああ、そうか…確信してるって時点で、
すでに答えは決まってたんじゃねえか。

…ってなわけでいろいろ話したわけだが、なんとも内容はカオスなものとなった。

 


 

 

 



「さて…まずは、それぞれの音楽性でも語ってみませんか?」
「音楽性?」
「自分の好きな音楽のジャンル、曲、あるいは尊敬する歌手やミュージシャン等を
言い合おうではありませんか、ということです。」

なるほど、そういうことか。

……

そういえば今になって気づいた。俺たちは各々の音楽性について全く知らないではないか。
たいていバンドというのは、互いが音楽的意思疎通ができていて初めて成り立つものであるが…
方向性とかそんなもんをな。俺たちはまだそれすらできていない有り様である。
非常識も甚だしいとはこのことだな。まあ、これから深めていけばいいさ。

「まず言いだしっぺの僕から話しましょうか。そうですね…好きなジャンルは特に問いません。
好きなアーティストは175Rや19、スピッツといったバンド類でしょうか。」
「もしかして、転校してくる前の学校でやっていたバンドってのはそいつらのコピバンか?」
「ええ、その通りです。さすがにオリジナルを作れるほど、我々は音楽に精通してはいませんでしたからね。」
「スピッツのボーカルの人の声は好きですね~さわやかな感じがして、聴いてて気持ちいいです。」

なるほど、朝比奈さんはそういう部類の声質が好きらしい。

「そういえば朝比奈さんは未来から来てるわけですが、最近…いや、この現代の歌手については
どれくらい知ってるんですか?現に、今スピッツはご存じのようでしたが。」
「当たり前ですが、この時代の人たちほど詳しくはありません。年間シングルをチェックしたりとか、
気が向いたときに音楽番組見たりとか…その程度でしかないですよ。」
「僕の予想では、朝比奈さんはYUIや大塚愛さんといった歌手がお気に入りのはずです。違いますか?」
「す、すごーい!古泉君何でわかったの!?」

まあ、俺でも大体予測はついたがな。朝比奈さんのお人柄と、音楽における媒体が主要メディア、
そして爽やか系が好きってことから推測すれば、それなりに的は絞れるはずだ。そう、ポップスというジャンルに。
消去法でもいけるかもな…ロックバンドやV系、洋楽、レゲエ、テクノ等のジャンルを、彼女が万が一にでも
聴いてるようなら それこそ驚愕ものであろう。いや、待て… 一瞬テクノなら合うかもと思ったのは秘密だ。

「……」

いかんいかん、さっきから長門が沈黙に徹しているではないか。古泉や朝比奈さんの話題に入れないってのは
つまり…どうやら音楽性が二人とは根本的に異なっているようだ。まあ、大体そんな感じはしてたがな…。

「長門はどういうのを聴くんだ?」
「幻想的かつ抽象的なものに私は音楽問わず惹かれる傾向にある。一方で力強く、メッセージ性が強いものも。」

うーむ、これは朝比奈さんのときとは違って予想しにくいぞ…。

「また僕が予想してみましょう。そうですね…前者ではラルク、後者はB'zといったところですか?」

俺は飲んでいたカルピスを思わず吹きそうになった。だってそうだろ?長門がラルクやB'z??
古泉よ…いくらなんでもそれはないだろう…確かに、長門の説明に合致している部分はあるかもしれんが、
しかしこれには異議を唱えずにはいられない。イメージ的に。

「じゃ、じゃあ私も思い切って予想しちゃいます!うーん、浜崎あゆみさんやドリカムさんですかぁ?」

朝比奈さん…なんというか、【とりあえず、知ってる歌手を挙げてみた】感が半端ないです!

「あなたは…予想しないの?」

な、長門??

「古泉一樹や朝比奈みくるが予想しているのだから、あなたもそれをすべき。」

いきなり長門さんは意味不明なことを言い出した。もしかしてアレか?俺にも構ってほしいのか?

「それに、あなたが何を挙げるのかも気になる。」

……

去年の長門による例の世界改変後くらいからであろうか、長門に感情と言える感情らしきものが
見られるようになったのは。システムに影響をきたすそういった感傷的・流動的要因はいわゆるエラーだと捉え、
排除してしまうのが情報統合思念体・有機ヒューマノイドインターフィイスにとっての常だった…はずだった。
だが、長門はそれに立ち向かい、そしてそれを受け入れた。以後、長門の人間らしさは着々と実りつつある。
おそらくこれもその一環なのであろう…ならば、俺はそれに誠意をもって答えてやらねばなるまい。

「そうだな…前者は椎名林檎、後者は鬼束ちひろといった感じか?」

ない知識を振り絞って考えた結果がこれだ…。

「……」

……

「それらの指摘は間違ってはいない。私はL'Arc-en-Ciel、B'z、椎名林檎、鬼束ちひろ…いずれも聴いている。」

自分の予想が当たったことよりも、古泉のそれが当たったことに俺は愕然としていた。
なるほど、長門もこういうの聴いてたりするんだな…と、とりあえず感傷に浸る。

「ただし朝比奈みくる、あなたの予想は見当違いにもほどがある。もう少し知識を高めてから出直してくるべき。」
「ふぇ、ふぇえ~ん、長門さんひどいですよぅ~」

言いすぎだぞ長門!と、言いたいところだが、残念ながら長門の気持ちもわからんこともない。
よって、ここはだんまりを決め込むとする。擁護できなくてすみません朝比奈さん…。

「そう言えばキョン君はまだ言ってませんね。何を聴いてるんです?」
「俺はバンプとかラッドとか、そういうところだな。」
「なるほど…実にあなたらしいですね。」
「それは良い意味で言っているのか?それとも悪い意味で言っているのか?」
「いえいえ、別に深い意味はありませんよ。本当ですって!」

嘘だ。絶対こいつ心の中で【地味だ】とか何とか思っただろう…まあ、そういう認識でも別に構わんがな。俺は。

「キョ、キョン君…ごめんなさい…私その二つわかりません…やっぱり私ダメ人間ですぅ~ううー」

確かに、バンプにしてもラッドにしても地上波にはほとんどでないアングラバンドだからな…ゆえに、
朝比奈さんが知らないのも無理はない。…って、どうやら彼女のダメージは思った以上に深刻のようである…
これは何とかせねばなるまい。俺は長門に朝比奈さんに気づかれないよう小声で話しかける。

「長門…さっき朝比奈さんに言ったこと、どうか撤回してやってくれないか?
彼女にだって悪気があったわけではないんだしさ、どうか大目に見てやってはくれないか?」
「…そうすれば、彼女はいつも通りになる?」
「その通りだとも。だから、頼む長門!」
「了解した。」

しかしである…長門は一体どういった言葉を朝比奈さんに投げかけるのであろうか?
俺には、それが今一番気になっている。

「朝比奈みくる。」
「ふぇ…?な、何ですか長門さん?」
「さっきのはジョーク。」

……

長門…

「じょ、ジョーク??ってどういうことですかぁ??」
「私はいわゆるギャグをした。ただそれだけのこと。」

……

「…ふふ…ふふふ…くっ…あ、あはははは!!」

ここでいきなり笑い出す朝比奈さん。一体何事だ…

「あ、いや…長門さんが物凄く真面目な顔で『ギャグをした。』って言ってるのがとても面白くて…
なんというか、とてつもないギャップっていうか…っく、ふふっあはは!」
「朝比奈みくる、笑ってくれた。これで結果オーライ。」

これは予想外の展開だ…これも長門流なのか?そうなのか?そうなんだな??よし、そう思うことにしよう。

「長門さんは人を笑わせる才能においては天下一品とみました。その才能、ジェラシーです。」
「感謝する、古泉一樹。」

……

今の古泉の発言は…どう客観的に捉えたって【皮肉】ってやつなんだろうが…
当の本人である長門は、そのことには全く気づいていない。俺は、敢えてこの言葉を言わせてもらう。

「ああー…カオスだな。」


 

 

 

 

まあ、内容はこんな感じだったのさ。そんなところへ…注文した料理が届いた。実に良いタイミングで来たな。

……

言わずもがな、お味のほどは極上の品だった。さすが新川さん、料理の腕に関して…ただただ感服する
ばかりである。雑炊を噛みしめる俺の口の中で山菜、マツタケ、カニ、サケといった大自然のサチが
程良いハーモニーで広がってゆく… 一体どこに文句の付けどころがあるというのか、
それだけでも今日ココに来た甲斐があったってもんだ。まあ、趣旨は違うんだがな…!

「む…こんなジューシーなハンバーグ食べたことありませんよ。」

お前は機関の人間なのだから、しょっちゅう新川さんの手料理にはお世話になってるんじゃないのか?

「いえ、それでもこの料理に関しては食べるのは初めてだったんですよ。ふむ…牛豚の合いびき肉に
鶏ミンチを、見事なまでの2:1割合で混ぜているとみえます。彼の腕には全く驚かされてばかりですね。」
「和食らしいヘルシーな味ですぅ…ほっぺが落ちそう♪」

古泉はもとい、新川さん料理は朝比奈さんにまで大絶賛のようである。

「……」

何か深刻そうな顔つきでカツカレーを頬張っている長門…
まさか味が気に召さなかったとでもいうのか??そんなバカな。

「約2分間、私は席をはずさせていただく。」

そう言って長門は厨房のほうへと歩き出した…って、おい!?まさかイチャモン付けるつもりじゃあるまいな!?
確かにお前のカレーへのこだわりは尋常ではないところがあるが、それにしたって あ の 新川さんに
苦情を提言するなんて…贅沢にもほどがあると思うぜ?!

「まあまあ、ここは放っておきましょう。おそらく、彼女は
あなたの思惑とは別の方向で尋ねに行かれたのだと思います。」
「?」





…しばらくして戻ってくる長門。

「厨房になんか入って何してたんだ長門?」
「先程のカレーのレシピを…新川氏に拝借していた。まさか、隠し味にチョコレートやヨーグルトを
使っていたとは想定外。しかし味のほどは悪くない。美味しいカレーを作ってゆくためにも、
こういった斬新な手法はどんどん取り入れていくべきなのだと、私にはそう思えた。」
「もしかして、お前がさっき黙り込んでたのはカツカレーの味に酔いしれていたせいか??」
「そう。と同時に、私は新川氏の腕に感銘を受けていた。」

なるほど、そういうことだったのか。それにしても…長門のカレーへの情熱は相当なものである。
何が彼女をそこまで動かしているのか?理屈じゃないとは、こういうことなのかもしれない。

「長門、今度美味しいカレーを俺らにごちそうしてくれよな。期待してるぜ!」
「僕も、長門さんの丹精込めて作られたカレーは是非食べてみたいものですね。」
「私も楽しみにしてます!お願いしますね長門さん♪」
「あなた達3人の期待に沿えるほどの、カレーが作れる保障は現段階では無い。しかし努力はする。」

相変わらず無表情な長門ではあるが、どことなしに嬉しそうに見えるのは俺の気のせいだろうか…?

 




 

 

 


さて、一通り食べ終わった俺たち。疲れる話ではあるが、再び本題に戻るとする。

「で、長門…さっきの話だが、世界は46億年前に創られたんだっけか?」
「そう。」
「で、それを創ったのはハルヒだと。」
「そう。」

…聞くのは二度目だが、それにしたって未だ信じられない自分がいる。
逆算して考えればわかることだが…それが事実なら、つまりハルヒは46億年前という…
天文学的数値を遡る犯罪的なまでの大昔から存在していたことになる。もうアホかと。

「ところでな長門。その46億年っていう数字に何か意味はあるのか?その頃の地球はどんな感じだったんだ?」
「そもそもその頃の地球は、今のような球形としての原型を留めてはいなかった。」
「どういうことだ??」
「なぜなら、ちょうど地球が誕生した時期…それがおよそ46億年前にあたるから。」

あー、なるほどなあ…

「つまり、ハルヒは世界を創ったというよりはむしろ、地球を創造した張本人だってことか?」
「そういうこと。」

……

こんな話を信じろってほうがどうかしてんだろうが…はっきり言うぜ。あの信用足る長門や古泉だからこそ、
俺はこれら一連の話を鵜呑みにしているんだ。これがどこぞの馬の骨ともわからないようなヤツだったとして、
それを妄信的に信じる人間がいたとしたら…そいつは将来間違いなく詐欺、ないしは得体の知れない
新興宗教に染まる危険性を秘めていると言えるだろう。

まあ、宇宙人に未来人、超能力者に囲まれている時点で こんなこと考えるのもバカバカしいんだが。

「しかしだな…仮にそれが事実だったとして、なぜお前にはそれがわかったんだ?
というか、なぜ今それがわかった?今までそれには気付けなかったのか?」
「『なぜ今それがわかった?』という質問に際しては、現段階では返答しかねる。
予備知識のないあなたにとって、この情報は刺激過多。ゆえに、話の導入としては不適当。」

意味がよくわからないが…とりあえず、俺には教えられないということなのだろうか。
長門なら何でも答えてくれると思っていただけに、この反応は少し予想外だ。

「何やら困った顔をしていますね。安心してください、あなたにもこのことは後でお話します。
単に話の流れ的な意味というだけです。あまりそう深く捉えないでください。」

…納得したわけじゃないが、長門・古泉の両者が口そろえてこう言うんだ。
なら、俺からは何も言うことはない…それについては後で伺うとしよう。

「ただし、『今までそれには気付けなかったのか?』という質問に対しては、この限りではない。」

どうやらこっちには答えてくれるらしい。…って、さっきの質問とどう違うのか俺にはよくわからないが。

「YesかNoかで返答するならば、その答えはNo。ただ、それを前提とするに値する明確な根拠がなかっただけ。
古泉一樹ら機関の【近年説】は、あくまでそれを埋めるための暫定的処置にすぎない。」
「つまり、一番無難で当たり障りのなかった…ということです。
暫定とするには都合がよかったわけですね。もっとも、我々は本気でしたけど。」

古泉が苦笑する。

「ですが、それも今日で終わりです。固定観念からの解放、とでも言っておきましょうか。
こんなことならもっと早く、我々も長門さんたち同様に演繹的手法を用い、多角的考察に徹するべきでしたよ。」

やけに聞き慣れない言葉を耳にしたような気がした。

「演繹的…?」

「『演繹』とは、与えられた命題から論理的形式に頼って推論を重ね、結論を導き出すこと。
つまり【涼宮ハルヒという特異的人間の存在】、これを絶対的条件だと位置付けた上で、
そこから導き出される様々な可能性を」
「長門さん、この話はもういいでしょう。46億年前の続きを話しましょう。」
「……」

おいいぃ!?話を遮られた長門が何か神妙な顔をしているぞ!?
その表情はどことなく儚く、哀愁漂うものがあった…決して怒っているわけではなさそうだが。っていうか、
そもそも『演繹』の話を持ち出したのは古泉、お前だろうに…長門はその補足をしようとしてただけなのに
一体何だこの仕打ちは!?いや、待て…よく考えてみればそれを聞き返した俺が一番悪いように思うぞ…?
それとだ。実は、俺はその一方で古泉の話題転換に暗に感謝していた。
というのも、妙に長門の話が長くなりそうな予兆があったからだ…
なれば、早く本題に進んだほうが賢明だと古泉は判断してくれたのだろう。もちろん、
長門が俺のために善意で説明しようとしてくれてたのもわかってる。だから俺が言うべき台詞は…これだろう。

「古泉も長門も、俺に気使ってくれてありがとな。」
「え…?」
「……?」

2人とも意味がわからないといった顔をしている。そりゃそうだろう。
文脈もなしにいきなり礼を言われては困惑するに決まってる。

「はは、なーに、単なる独り言だ。」

とりあえずはこれでお茶を濁すことにする。お礼などこの間柄ならばいつでも言えるのだから。

「それにしては随分と聞こえのよい独り言でしたね。」
「……。」

もしかしたら、2人は俺の言おうとした意図に気がついてるのかもしれない。
特に、長門の表情がさっきより和らいで見えるのは…気のせいではないだろう。

「…では、古泉一樹に言われた通り、先程の涼宮ハルヒの話を続けるとする。」

こうして、再び話題は46億年前へと戻るのであった。

「ところで、まずこれを話すには時期をもっと遡らなければならない。」

と思いきや、46億年前ではなかった。

「どこまでだ?まさか宇宙誕生までとか言うつもりじゃ」
「その通り。」

まあ、大体そんなとこだろうとは思ってはいたがな…。なんせ、ハルヒは【地球創造】という
思考回路が今にもぶっ飛びそうなとんでも行為をやってのけてしまっているのである。さすれば、
この地球上に生きとし生ける人間たちのほとんどが、ハルヒを【神】だという超常的括りで分類しても
全くおかしくはない。そんな常軌を逸したレベルで【宇宙】というワードを出されても…
特に取り乱したりしないのはある意味当然といえる。

「では話すとする。」






「最初の宇宙は無限宇宙だった。この無限宇宙には初めは創造主である神しかいなかった。
始まりもなく終わりもなく、時も空間もなく、形も生命もなかった。このような全くの無の宇宙に
神は初めて有限を生み出した。神が自らを具現化した有限…我々はその存在を
各地の神話や伝説に照らし合わせ、【ソツクナング】と呼んでいる。」

…何やら大層な名前がでてきたな。ん?神話に伝説?

「ソツクナングというのは…インカやアステカ、マヤなどといった古代文明発祥の地において、
実際に文献上に記載されている名前なわけですよ。」

横から口をはさむ古泉。って、マジかよ?!?このへんの文明は文部科学省公認の歴史教科書にも
載ってるくらいだから知ってるが、まさかそんなのと長門の話が合致するなんて夢にも思わなかった。

「話を再開する。ソツクナングは神の計画に沿って宇宙を秩序正しく整え、水と風を生んだ。
樹木、灌木、草、花、等の植物を創造して地を覆い、一つ一つの生命に名前を与えた。次に、あらゆる種類の
動物と鳥たちを創造し、地の四隅に向かって広がるように命じた…そして、やがて人間も現れた。
ソツクナングは彼らに言葉を伝えるために、自分の姿に似せた人間そっくりの分身を造りだした。」

……

「まさか…」
「そう。現在のパーソナルネームで言うところの、涼宮ハルヒの誕生。」

それがハルヒの起源だって言うのかよ…なんというか、想像力がいくつあったって足んねえな。
と、面喰っていても仕方ない。再び長門の話に耳を傾ける。

「かくして最初の人類は地の表に増え広がり幸せに生きていた。しかし、それも長くは続かず
人々は互いを疑い非難し合って、ついには暴力に訴えて戦い始めた。そこには休息も平和もなかった。
真に平和を望む人々のみを地下の祭礼所へと導いた涼宮ハルヒは、人々が地下で安全に暮らしている間に
世界を火によって滅ぼすことを決めた。火山の口を開いて火の雨を降らせ、この世界を滅ぼした。」

……

「これで、第一世界の話は終わり。」

…第一世界?

「火により滅亡したこの世界のことを…我々は第一世界と呼んでいる。」
「ということは…あれか?次は第二世界だの第三世界だのについて話していくってな流れか?」
「そういうこと。」

…俺はカルピスを手に取り、喉を潤そうとしたら…。ストローの先からカチカチっと音がする。
どうやら、先っちょが氷に当たっているらしい。つまりである、俺はいつのまにか
ジュースを飲み干してしまっていたというわけだ。

「あ、キョン君もう飲んじゃったんですね。私が新しいの汲んできましょうか?」
「え?いやいや、そんな、朝比奈さんに悪いですよ。」
「遠慮しなくていいの。こういうのはいつも部室でやり慣れていることですから!それに、
ちょうど私のもなくなったから自分のも汲みに行こうと思ってたところだったし…何がいいかしら?」
「…では恩にきります、ありがとうございます朝比奈さん。じゃあ白ぶどうジュースで!」
「かしこまりました♪」

ドリンクバーへと向かって歩いて行く朝比奈さん。つくづく、良い先輩だなあと思う。
俺も彼女のように、周囲の人間に気が配れるような人格者になりたいものだ。

……

さて、一体どうすればよいのだろうか。まず、先程の長門の説明に関して…
俺は全く頭の中を整理しきれていない。

「おやおや、案の定困り果てたような顔をしてますね。」
「そりゃあそうだろう…そういやお前、この話を聞かされて頭がパニくったって
電話で言ってたよな。今ならお前の気持ちもわかる気がするぜ。」
「気持ちを察していただけるとは、光栄ですね。」
「…私の説明がまずかった?」

それは勘違いだぞ長門。

「いや、そういうことを言ってるんじゃない。突飛すぎる内容に思考がついていかなかったってだけだ。」

むしろ長門の説明にしては、さっきのはかなりわかりやすいほうだったんじゃないか?
いつもの調子なら、意味不明の難解的専門用語の連発で俺の脳内は干上がっていたところであろう。

「それならよかった。時間をかけて推敲した甲斐があったというもの。」

…もしかして長門なりに、俺のためにわざわざわかりやすく文章を加工しておいてくれたというのか?
その気遣いが、俺にはとても嬉しく感じられた。

「…ちなみに、もし推敲しなければどうなってたんだ?」
「あなたに話す文章量がさっきのそれと比較して、およそ20倍以上に膨れ上がっていたと思える。」

……

「まさか…」

俺は古泉を見る。

「ははは、長門さんのお話は実に含蓄ある有意義なものでしたよ。
ただ、あまりにそれが時間を要するものだったので…僕と朝比奈さんで示し合わせて、
長門さんに申し訳ないと思いながらも、文章の大幅な削減、簡潔化をお願いしたのです。」

電話でお前がパニくってたのはそのせいか!?

「いえ、原因の大部分は内容から来たものですよ。それは間違いありません。
現に、あなたも今困り果てた顔をしてたではありませんか。」

…確かに。

「はい、キョン君!白ぶどうです♪」

おおっと、朝比奈さんに頼んでいたジュースが来たようである。

「ありがとうございます朝比奈さん!」

早速ジュースに口をつける俺…やはり、こういったある程度緊迫した状況においては、飲み物というのは
本当に最適である。少し気分が晴れたような気がした…。【朝比奈さんが汲んできてくれたから】というのも、
その理由に内包しているであろうことは言うまでもない。ちなみに、彼女はまたまたオレンジジュースである。
柑橘類がお好きなのであろうか?

……

「ええっと…今の長門の話をまとめると、つまり、あれだろ?人間たちが互いに争いだしたから…
そんな世界はダメだってなことで、おとなしい輩を除いてハルヒは世界を滅亡させた…そういうことだよな?」
「そのような軽い捉え方でいいと思われますよ。このへんはあくまでただの導入部であって、熟考せねばならない
段階でもないわけですから。ちなみに、これから説明される第二、第三世界についても同様、そこまで深く
考える必要はない…と僕は考えています。今言った認識で何か不都合は生じたりしますか?長門さん。」
「そのような認識で構わない。」

なるほど。どうやら現段階では、まだそこまで核心に触れているというわけでもないようだ。
ならば、このあたりは話の流れを掴んでおく程度の認識で十分事足りるということだろう。
もちろん、細部まで理解できるに越したことはないが。

「じゃあ長門、再び説明の方よろしく頼むぜ。今度はその…第二世界とやらをな。」
「承知した。」






「第一世界が滅びた後、地球が冷えるまでには時間がかかった。冷え終わった後、涼宮ハルヒは
そこを清め第二の世界の創造に取りかかった。次第に村が出来、その間を結ぶ道路もでき、交易が始まり、
互いに人々は物を売買するようになっていった。しかし、第一世界同様その平和も長続きはしなかった。
交易が盛んになるにつれて、人間たちは自身を養う以上の財物を欲しがるようになり、その結果人々は
争い始め、村同士の抗争が始まった。もはや事態の収拾は不可能だと察した涼宮ハルヒは、
清貧に甘んじる人間のみを地底世界へと誘導し、その後南極と北極を結ぶ地軸に衝撃を与えた。
世界はバランスを失い、回転が狂って二度反転した。山々は海になだれ込み、海と湖は陸に覆いかぶさった。
それらが冷たい生命なき空間を巡る間に、世界は厚い氷に閉ざされた。第二世界はこうして終わりを告げた。」

……

「これが第二世界の概要。」

……

相変わらず話が壮大だな…いや、壮大だとか何とかで例えられるレベルでもないか。

「で、結局この世界も最終的には人々による争いが起こり、世界はハルヒにより滅亡させられたと。」
「そういうこと。」
「ただ、第一世界との相違もありますね。あのときは原始共同体の延長線上、
その崩壊から始まった争いですが第二世界においては、それプラス余剰価値を求める動きが
介在してると言えます。資本主義的闘争とでも申し上げましょうか。」
「文明が一段階進んだって感じか。」

いずれにせよ、創ったり滅ぼしたり忙しいことこの上ないなハルヒよ。…まあ、所詮他人事なわけだが、
もし俺がこれらの世界に存在していたとしたら…当事者であったとしたら?つまり、それって生きるか死ぬかの
死活問題ってわけだよな。悠長に楽観できるってだけでも、俺を含む今の時代の人間は幸せなもんだな。

…待てよ

「なあ古泉。」
「なんでしょう?」
「俺の杞憂ならそれに越したことはないんだが…万が一にも、
俺たちがこういう世界の当事者に成りうる状況ってのは この先起こりえたりするのか??」
「!」

驚いたかと思えば急に黙りこくる古泉。何かまずいことでも言ったか??

「すみません…あなたのその、実に的を得た分析に驚かされたもので。
そのことについては…現段階では回答しかねます。」

…なぜだ??

「何事にも手順というものがあります。とりあえずはまず、この話を終わらせましょう。
人間という生き物は結論を知ってしまったら最後、その結論にいたるまでの過程を蔑ろにしてしまう
傾向にあります。それが意図的にしろ無意識的にしろね。そして、それはあなたも決して例外ではないはず。
ですから…どうかそのへんはご承知のほどをお願いしたいものです。」
「…すまんな古泉、話を脱線させてしまってな。今は長門の話にじっくり専念するとするさ。」

どうやら今の古泉の話しぶりから察すると、さっきの俺の発言は杞憂ではなかったってことなんだろう。

……

俺は後悔していた。【単なる俺の思い過ごし】ということで心中に留めておけばよかったものを…。
過程を無視して結論を聞く…それも悪い知らせを聞かされることほどショックなことはない。
とりあえず、今はこのことを忘れるほかないだろう。俺は黙って古泉の言うことを聞くとする。

「じゃあ、ジャンジャンいってくれ長門。次の話を聞こうじゃないか。」
「了解した。」

……

「涼宮ハルヒは南極北極間の安定化にのりだした。それが完了すると氷はまた溶け始め、世界は温暖になった。
第三世界の始まり。地球に人間が住める頃になると第三世界で再び人類は増え広がり、生命の道の上を
進み続けた。第一の世界では人々は動物と一緒に素朴な生活をした。第二の世界では手工品や家屋、
村落を発展させた。この第三の世界では人口も増え、人々は大都市や国々、大文明を築くまでに急速に
発展した。しかし、あまりに多くの人間が機械的生産力を私利私欲のために使い始めた。現代で言うところの
爆撃機や戦闘機まで現れた。これに乗って沢山の人々が他の都市を攻撃し始め、第三世界もかつてと同様に
腐敗し、侵略戦争の場と化した。涼宮ハルヒは決意した。彼女が地上の水の力を解くと、1kmを超す高い大波が
陸地を襲い、陸という陸は破壊され海中に沈んだ。彼女の助言により、船上で生き永らえた
信仰厚き人間たちを除いて。人類の第四の世界、現代文明の始まり。これが地球の歴史。」

…え?

「つまり、今俺たちが生きているこの世界が第四世界だと…そういうことか?」
「そういうこと。」
「そうか…。」

……

複雑怪奇な長話を一気に聞いたせいか、疲労困憊だぜ…。

「…キョン君、大丈夫ですかぁ?きついようでしたら仮眠でもとります?」
「いえいえ、さすがにまだその段階ではありませんよ。そのへんは心配無用ですから、どうぞ安心してください!」
「わかりました♪でも無理はしないでね。」

起きている朝比奈さんを無視してスヤスヤ眠るような男がいたら今すぐココに来い、俺が鉄拳制裁を下してやる。
常識的に考えればわかるが、彼女を前にそんなマネなどできるはずないではないか。

「長門さん、これで過去の話は一旦終わりなんですよね?」
「そう。」
「ならば、そろそろ皆さん休憩をとるとしましょう。先ほど頼んだ料理も、まだ完全には我々は食していない
はずですし…ああ、長門さんは別ですけどね。とりあえず、それらをゆっくり食べるとでもしませんか?」

そうだな、休憩するとしよう。古泉と朝比奈さんは食べるのが遅かったせいか、いまだ半分以上の
ハンバーグ定食及び和食が残っている…かく言う俺はごくわずかだ。これじゃあ5分もしないうちに完食だな。

……

うーむ、2分もしない内に食べてしまったような気がする…言わずもがな、古泉と朝比奈さんはいまだに料理を
美味しそうに食べており、とうの昔にすでに食べ終わっている長門はというと、暇そうに本を読んでいるしだいだ。
…みんなが団らんしている間に、俺はこれまでのことを少し整理しとくとしよう。
これだけの膨大な情報量を喰らい、今にも俺の頭はパンク寸前なのだから。

…長門の話が事実なのだとしたら。今まで俺たちが信じていた歴史が根本からひっくり返る事態へとなってしまう。
なぜなら…歴史教科書通りに倣うのであれば、人類は一つの直線上のもと段階的に進化を遂げていった
というのが通説のはずである。それがどうだ?長門曰く、これまで世界は何度も滅んでいるというではないか。
とすれば、人類の歴史というのは一つの直線状で置き換えることのできる短絡的なものではなく、
ゼロからのスタートをたびたび繰り返す途切れ途切れの断続的史実に他ならない。こんな事実、言わずと知れた
歴史学者が知るものならおそらく発狂ものであろう。これまでの史観概念が悉く粉砕されてしまうのだから。

そして、長門から聞かされた世界滅亡の仕様に何かしらのデジャヴを俺は感じる。
一度目は火で滅び、二度目は氷、三度目は水…どこかでこの光景を見たような覚えがあるのだが。
気のせいか?


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