……

「…ここはどこだ?」

気がつくと、俺は真っ暗な空間へと浮かんでいた。
目の前には地球が広がっている…隣には月らしきものも見える。

「ここは…宇宙?」

あまりに広大すぎる暗黒の大空間に、
青く澄みきった水の惑星を目の当たりに 俺はただ呆然と立ち尽くすだけだった。



「地球が燃えている…」

青かった地球がいつのまにか赤く変色していた。

「一体何がどうなってんだよこりゃ…」

自分の置かれている状態もそうだが、全く状況がつかめない。

!?

「今度は透明に…?」

次の瞬間には地球は水色に近い透き通った色へと化していた。まるで氷で覆われたかのごとく…。

……

「…また青に戻ったか。」

再び地球は青色へと戻った。しかし、どうやら何か様子がおかしい。

「陸地が…ない…?」

地球全体が真っ青な球体へと化していた。緑や茶色といった陸地が
ことごとく消滅してしまっているのが見てとれる。陸が海に呑まれてしまったとでもいうのだろうか。

……

今度はどこからか泣き声が聞こえてくる…

「この声どこかで…」

どこか聞いた覚えのある声。

「まさか…ハルヒか!?」

そう叫ぶと、いつのまにか声は聞こえなくなっていた。

「…え?」

ふと地球のほうに目をやって俺は驚愕した。なんと、先程まで見えていた地球が消滅してしまっている…
いや、消滅というのは言い方が悪い。正しくは【見えなくなっている】と言うべきだろう。物を見るためには
言うまでもなく光が必要であるが、その光が四方を見渡しても見当たらないのだ…
光源体である太陽は一体…どこへ行ってしまったというんだ??

再び声が聞こえる。

「…や…い…あた…したく…な…」

その声は、しだいに大きなものへとなっていく。

「いや…い…あた…こ…な…くない…」

……

「嫌…っ!嫌!!あたしは…こんなことしたくない…!!!!」

!?









 

 

 

 

 







ッ!!

……

…デジャヴ

いつもと同じ見慣れた俺の部屋。窓から朝日が射していることから、
おそらく今は朝なのであろう。昨日のように時計を確認するまでもない。

いや… 一応確認しておくか。

時刻は7:38

ほら見ろ、やはり朝じゃないか!と得意げに語っている場合でもない。一歩間違えりゃ遅刻じゃねーか畜生。

急いでかばんに教科書やノートをつめる俺。にしても自らの不覚さを嘆かずにはいられない。
なぜ俺は【目覚ましセット】という当たり前にして当然のごとく行為を、昨夜忘れてしまったというのか?
それほどまでに、俺は昨日疲れてたってのか?

準備を終えた俺は廊下で妹と軽く挨拶を済ませた後、
食卓に並んだトーストを口に頬張り、潔く玄関を飛び出した。


……


「はあ…はあ…まったく、いい運動だぜ…。」

今俺がいる位置は、学校に隣接するあの忌々しい長い長い坂のちょうど真下である。つまり、
俺はここまで全速力で走ってきた…というわけだ。携帯で時刻を確認、とりあえず遅刻は免れたようである…。
時間的余裕もあるので歩くとする。この坂を走らねばならないとなった日には自殺ものであろう。
それが防げたというだけでも、俺は今日も力強く生きられるというものである。

…ようやく落ち着いたところで、俺は昨晩の事象を振り返ることができた。

「まさか二日続けておかしな夢を見るとは…。」

その一言に尽きる。支離滅裂かつ荒唐無稽な夢など一体誰が進んで見ようなどと思うのか…
まあ夢など言ってしまえば、全てそういうもんなのかもしれないが。とにもかくも、
まず話をまとめることから始めるとするか…と思ったのだが、そもそも抽象的すぎて
何をどうすればいいのかもわからん。とりあえず…特徴らしきものだけでも挙げていってみるとしよう。

・地球の崩壊
・謎の声

…明確に挙げられるのはこの二つくらいか。なぜ俺があのとき宇宙にいたのかは知らんが…
(単に視点が宇宙だったってだけかもしれんが)地球が燃えたり氷ったりするのを、確かにこの目で見た。
ならば崩壊という表現は別に差し支えないだろう。そして極めつけは、夢が覚める直前に聞こえてきたあの声…

「あの声は…ハルヒだったのか?」

もしそうなのだとしたら、一昨日みた夢との関連性が見えてくる。一昨日の夢では地震やその他怪奇現象で
町が壊滅。昨日は地球が…規模こそ全く違うが、同じ【崩壊】というワードでくくることができる。そして…
思い出したくはないが、地震により家族が息を引き取った際、放心状態に陥っていた俺の脳内に響いてきた…
ハルヒの声。あのときハルヒは『助けて!』言っていた。昨日の例の声は…確か『こんなことしたくない!』
とかいう内容だったかな。両者に共通することは、俺に向かって何らかのSOSを発信していたということである。

俺は常識人だ。ゆえに町や、ましてや地球荒廃などといった異常にさらに異常をかけたような
とんでも事態が発生するなどとは…微塵も思っていない。ただ、あれらがハルヒの無意識の内に
発動した…俺に対する干渉なのだとしたら?一連の超常現象はあくまで比喩であり、夢の本質自体が
実は、ハルヒが俺に救助信号を発信するだけのただの手段でしかなかった可能性が浮上してくる。

つまり、ハルヒは今現在とてつもない悩みを抱えている…その可能性が非常に高いということである。
その悩みが何なのかは俺には見当もつかないが。というのも、最近のハルヒに変わった様子など
特に見受けられないからだ。万一それに俺が気付かなかったとして、長門や古泉がそれを見逃すとは
考えにくい。だから、なおさらである。

……

とまぁ、ここまでカッコよく主張してみたはいいものの…
一連の夢がハルヒの能力とは無関係の、本当の意味でのただの【夢】だったのだとしたら、
ここまで深く熟考している俺など、傍から見れば滑稽以外の何者でもないだろう。
そうである場合、谷口にすら嘲笑される自信がある。それでもだ、俺自身こんなネガティブな展開など
望んじゃいない。ハルヒが何か多大な悩みを抱えて苦しんでる姿なんて、想像したくもないからな。


 



「あら、キョンおっはよー。予鈴ギリギリね。」

教室に着き、俺はいつもと同じく後部座席にて座っておられる団長様に声をかけられた。

「そうみたいだな。遅刻を免れて助かったぜ。」

どうするか…朝っぱらからいきなりハルヒにこんなこと質問すんのもアレかもしれんが、
一応言っておこう。杞憂であれば、それに越したことはないんだからな。

「なあハルヒ。」
「ん?何?」
「お前さ、今何か悩んでることとかあったりするか?」
「…は?」
「言葉通りの意味だ。」

しばらく沈黙が続いた後、その均衡を破ったのはハルヒだった。

「…ぷっ、あっはっはっは!キョン、朝からどうしたの?何か悪い物でも食べた?あはははっ!」

どうやら、団長様は真面目に答える気などさらさらない様子である。

「んー悩みねーまあ、ないこともないわよっ!!」

おや?一応答えてくれるみたいである。しかし万遍無く浮かべている笑みから察すると、
やはり真面目には答えてくれないらしい。しかも、展開が大体予想できた。

「悩みの種はね…あんたよあんた!テストは赤点スレスレだし今日は遅刻しそうになるわで、
ヒヤヒヤもんもいいとこよ!あんたはもう少しSOS団の団員なんだっていう自覚を持ちなさい!
団長に泥を塗るマネなんて許さないんだからね!」

楽しそうに俺を断罪するハルヒさん。うむ、やはり予想通りだった。相変わらず、俺に言い放題なのであった。

「まあそれは半分冗談としてさ、朝からそんなこと聞くなんて一体どうしたのよ?」

さて…どうしようか。変にはぐらかすと直感が鋭いハルヒのことだ、
ややこしいことになる可能性大。ゆえに、ここは素直に答えておくとしよう。

「いや、お前が俺に助けを求めてる夢を最近見ちまってな。ちょっと気がかりになって聞いてみたってところだぜ。」
「…何それ、気持ち悪い夢ね…。」

同意しておこう。現実的に考えて、お前が俺に助けを求めるなんてことまずありえんからな。

「もしかしてあんた、あたしに従順にさせたいって欲望でもあるんじゃないでしょうね??」

気持ち悪いって、そっちのほうかよ!

「助けを請うってのはつまりその裏返しだし、夢ってのは密かに思ってるようなことが
反映されたりするもんだし…あたしに何か変なことでも考えてたら承知しないわよ!?」

いやいや、そりゃ考えが飛躍しすぎだろう…ってか願望が夢で具現化なんて、一昨日、昨日の
夢見りゃ絶対ありえんことを、俺は知っている。何が楽しくて家族が死ぬことや地球の滅亡を
望まにゃならんのか…まあ、さすがにこういう夢の内容までハルヒに話そうとは思わないけどな。

 




…そんなこんなで時は昼休み。俺は谷口&国木田と席を囲って弁当を食っていた。
ハルヒは相変わらず学食のようだ。

「ところで国木田、昨日休んでいたようだが体のほうは大丈夫か?」
「ん?ああ、おかげ様で。」
「さてはお前、勉強のしすぎで熱でも起こしたか?」

谷口が横から言葉をはさむ。

「だったらまだよかったんだけどね…単なる風邪だよ、ほら、もうすぐ12月だってこともあって
冷えてきたじゃない?そのせいかな。二人は風邪ひかないよう気をつけてね。」
「おーおー、まあそのへんは大丈夫だぜ。特にキョンはな。バカは風邪ひかないって言うだろ?ははは!」

谷口よ、どの口がそれを言うんだ…確かに俺は成績も下の中くらいでバカかもしれない。
が、お前はお前で俺より成績悪かった記憶があるんだがなぁ…気のせいか?

「それを言うなら谷口もバカだから風邪ひくことないね。いや~二人とも羨ましいよ。」 

おお、俺が言わんとしていたことを代わりに国木田が言ってのけてやったぞ。
が、しかし、最後の一言は残念だ国木田…お前も俺のことバカだと思ってたんだな…。

「でもよ~そうそう例年通り寒くなるわけでもないみたいだぜ?
今朝の天気予報見てたら、来週の中頃は夏みたいな気温になるとかなんとか。」
「…谷口が天気予報を見るなんて珍しいな。」
「うるせーよキョン、俺だってそんくらい見るぜ。」
「どうせ朝食ついでに適当にTVのリモコンいらってたら偶然映ったってところなんでしょ?」
「国木田…お前鋭いな…。」

鋭いも何も、普段のお前の性格や言動を考えりゃ当然の帰結だとは思うがな。
しかし、夏みたいな気温か…そういや夢の中でも確かあのとき暑かった記憶が…

……

「キョン、大丈夫?顔真っ青だけど。」
「おいおい、バカは風邪ひかないって言った手前にこれかよ。」

気付かないうちに、俺は随分と陰鬱そうな顔になってたらしい。

「あー、いや、何でもないぜ。ちょっと寒気がしただけだ。」
「まさか風邪にでもかかったのかよ?」
「じゃあもうバカは谷口一人になっちゃったね。」
「国木田てめーッ!!」

お前らのコントを眺めてたら、あの悪夢が少しでも薄れたぜ。感謝するぞ谷口、国木田。

あんな未来…俺は絶対信じねーぞ…。

 

 

 

 

 



操行している間に放課後。またいつものごとく部室へと向かう俺。

「お、長門、お前だけか。」
「そう。」

俺が定着席に座ると、何かのCD-ROMをもってこっちにやってくる長門。

「これがSinger Song Writer…軽音楽部から借りてきた作曲用ソフト。
パソコンにインストールすれば即行使える。そして、これが説明書。」
「ん?ああ、これが昨日古泉が言ってたやつか!サンキュー、長門!」

早速パソコンを立ち上げてインストールする俺。

…部室に、団員それぞれにパソコンが宛てがわれていることには深く感謝せねばなるまい。 
これもハルヒがコンピ研から強奪だの従属命令などといった暴虐の限りを尽くしたおかげか。
コンピ研の皆さんにはもはや乙としか言いようがない…ありがたく、今日もパソコンを使わせていただきますよ。

インストールが完了したあたりで古泉と朝比奈さんが部屋へと入ってきた。
と、よく見たら二人とも楽器を担いでいるではないか。おそらく昨日言っていたように
軽音楽部から借りたものなのだろう。来るのが遅かったのはこのせいだったんだな。

「って、大丈夫か古泉?」
「いえいえ、これくらいどうってことないですよ。」

キーボード1台のみの朝比奈さんはともかく、
古泉はあろうこともギター2台に加え、ベース1台の計3つも担いでいるではないか。

「わ、私古泉君を手伝おうと思ったんですけど…。」
「朝比奈さんはキーボードだけで十分すぎるくらいですよ。僕は好きでこれらを担いでいるんですから。」

相変わらずのさわやかフェイスで涼しく答える古泉。なるほど、女の子に負担を負わせたくないというヤツらしい
ジェントルマン精神だが、俺がお前の立場でも間違いなくそうしていたであろう。何しろ朝比奈さんだからな。

「そうだ、良い機会だ。古泉よ、ベースの弾き方俺に教えてくれないか?」
「お安い御用ですよ。では早速始めてみるとしましょう。」
「じゃあ私もキーボードのいろんな機能を確認しとくとしまーす♪」
「私も…ギターをいらっておく。」
「長門はギター弾けるから別にその必要もないんじゃないか?」
「単純にギターに興味がある…ただそれだけ。」

長門に読書以外に関心のもてるものが現れるとはな…。文化祭にて、突発でいきなりギター引っ提げて
ステージ上にハルヒたちが現れたときは何事かと思ったが、今ではそのことがこうやってSOS団みんなで
バンドを楽しんだり長門の人間的嗜好の開拓といったことに繋がってる…こればかりはハルヒには
感謝しないといけねーかもな。あのときのハルヒの飛び入り参加は、長い目で見れば英断だったわけだ。

「なるほど、左から右へ1フレットずつ移るにつれて音が半音ずつ上がっていくのか。」
「その通りです。ちなみに手前の太い4弦から順に開放弦の状態だと
E、A、D、Gの音が鳴りますよ。ミ、ラ、レ、ソのことですね。」
「開放弦ってのはどういう意味だ?」
「左手で何も弦を押さえずに弾く状態のことですよ。」
「おー、了解したぜ。」
「慣れたらTAB譜を見て弾くのもいかがでしょうか。
そっちのほうが、フレット番号が明記されていて弾くのには楽だと思いますよ。」
「TAB譜って何だ?」
「それはですね…」

ピン!

ん?何だ??長門のほうから何やら音が聞こえたぞ。

「どうしたんだ長門?」
「ギターにチョーキングをかけていたら弦が切れた。ただそれだけの話。」

…その弦、まだ新しいやつじゃなかったか?一体どんなチョーキングをかけてたんだ長門??

「おやおや、しかもこれは一番細い1弦ですね。これでは切れてしまっても仕方ありません。」
「やりすぎた。次からは自重する。」

…仕方ない…のか?

まあ、しかし そんな長門が楽しそうに見えるのは
決して気のせいではないはずだ。良い趣味を見つけられてよかったな長門。

「な、長門さ~ん、助けてくださ~い!」
「何かあったの?」
「いくら鍵盤押してもキーボードから音が出ないんです…電源は入ってるはずなのにどうしてなんでしょうか?」
「これはシンセサイザーの部類。よって単体では鳴らない。
シールドでアンプに繋いで初めて、アンプから音が鳴る仕組みになっている。」
「あ、これアンプからじゃないと音出ないんですね…勉強になりました!ピアノから入った私には
そういうの疎くて…あ、でも今ここにはキーボのアンプがないです…今日はあきらめるしかないみたいですね…。」
「その必要もない。そこにあるベースアンプでも代用は可能。」
「本当ですか!?ありがとうございます長門さん!」
「礼ならいい。」
「キョン君、ベースのアンプ貸してください!お願いします!」
「どうぞどうぞ、使っていただいて結構ですよ。今日はベースの基本技術を学ぶだけでアンプは使いませんからね。

そんな感じで、俺たちは有意義な会話をしていた。いつもは古泉とボードゲームだのカードゲームだので
時間を費やしていた俺であったが…こういう時間もなかなか楽しいじゃないか。一昨日、昨日の悪夢のことを
一時的にでも忘れられるという意味でも、尚更貴重な時間である。特に、昼休みに谷口から例の天気予報の話を
聞いてからというもの、放課後までずっとそれを引きずっていた俺には…な。もちろん、今でもそんな未来は
信じちゃいないさ。ただ、一つでもそういった判断材料があると不安になる…それが人間というものであろう。

本来なら放課後にでもこれら夢の一部始終について長門や古泉に相談しようと思ってはいたのだが、
正直今のこの談笑している空気を壊したくはなかったし、何よりハルヒ本人が部室に顕在だから話せなかった
ってのが一番の理由だな。本人の目の前で能力云々語るのは言わずもがな、禁句である。

…いや、待て。

今気がついた。そういえば、ハルヒはいまだ部室には来ていないではないか。
いつものあいつなら…とっくに来ていてもおかしくないはずだが。

「おや、どうされたんです。涼宮さんのことが気がかりですか?」
「いや、気がかりってわけでもないんだが…やけに来るのが遅いなと思ってな。」
「掃除当番にでもなってるんじゃないですか?」
良い指摘ですね朝比奈さん。が、それにしても遅いような気がしますが…。
「!」

突然立ち上がる長門。

「涼宮ハルヒが…倒れた。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






…俺はベッドで横たわっているハルヒを見つめていた。

「先生、ハルヒの具合はどうなんです!?」
「大丈夫、大事には至ってないわ。おそらく軽い貧血ね。」
「そう…ですか。」
「今日のところは安静にしておけば大丈夫よ。幸い明日は土曜日だから、
それでも気分が治らないようなら、病院に行って診てもらえばいいと思うわ。」

事なきを得たようで、ひとまず俺は安堵の表情を浮かべた。

------------------------------------------------------------------------------

「倒れたって…どういうことだ長門!?」
「涼宮ハルヒの表層意識が、たった今消滅した。」

…??意識が消滅?何を言っているんだ??

「原因は不明。今それを解析中。」
「長門さん!涼宮さんは今どこにいるんですか!?」
「旧校舎の玄関口からすぐ入ったところの廊下。おそらく部室へ向かう途中に倒れたものだとみえる。」
「キョン君、何をボサっとしてるんですか!?早くそこへ行ってあげてください!!」

突然の事態に状況が把握できずうろたえていたのであろう俺に、怒鳴りつける古泉と朝比奈さん。

「お…おう…!お前らはどうすんだ!?」
「長門さんが解析に手間暇かけている時点でこれは非常事態に他なりませんよ。
身体機能における単なる物理的損傷ではない…そういうことですよね長門さん??」
「そう。」
「であるからして、我々は我々でできることをします。原因の調査および機関への連絡その他をね。」
「今、涼宮さんの隣にはキョン君がいてあげるべきです!」

考えるよりも先に体が動いたのか、気付くと俺は廊下へと跳び出していた。
もちろん、ハルヒのもとへとかけつけるために。

正直、いまだに俺は混乱していた。そりゃそうだろう?ついさっきまでいつものごとく
ピンピンしていたハルヒが…意識を失う?倒れる?一体何をどうしたらそんな展開になるってんだ??
説明できるやつがいるなら今すぐ俺の所に来い。

しかし、自分にだって今すべきことはわかってる。この際、原因などどうでもいい…
ただ一つ言えることは、一刻も早くハルヒの容態を確かめ、そして救ってやることである。

……

ハルヒを見つけるのにそう時間はかからなかった。案の定、長門の指定位置にて
ハルヒはぐったりとした様子で壁に背を向けた状態でもたれかかっていた。

とりあえず最悪の事態は回避できたようだ。意識を失うタイミングにもよるが、頭から地面に激突した際には
最悪、脳震盪に陥る可能性だってある。しかし、このハルヒの体勢から察するに、どうやらハルヒは徐々に
薄れてゆく意識の中、反射的に頭だけは守ろうとしたのであろう…壁にもたれかかっているのがその証拠である。
例えば街中で運悪く出くわした不良に背負い投げでもされたとしよう。柔道に精通している者ならば、
とっさに受け身をとろうとするはずである。野球にてピッチャー返しをしようものなら、投手は瞬間の中で
球をキャッチしようとする動きに出るはずである。

今のハルヒにも同じことが当てはまる。スポーツ万能&運動神経抜群の涼宮ハルヒだからこそ、
成し得た芸当と言えるかもしれん。正直、俺がハルヒの立場だとどうなっていたかわからない。

ハルヒの顔に手を近付ける俺。どうやら息はしているようだ。俺の動作に一切の反応を見せないことから、
どうやら本当に意識を失ってしまっているようである。見方によっては眠っているようにも見えるが…
とにかく、俺はハルヒを背負い、急いで保健室へと駆け込んだ。

------------------------------------------------------------------------------

そして話の冒頭へと戻るわけである。

…しかし保健の先生には悪いが、俺にはハルヒの倒れた原因が単なる貧血には思えない。
元気のかたまりとも言えるハルヒに貧血など、不似合いにもほどがある。おそらく、それだけは
天地がひっくり返っても起こりえない事態のはずだ。何より、長門や古泉の尋常ではない焦りから判断しても、
単なる生理現象でないことだけは確かだろう。とにかく一刻も早いハルヒの回復を…俺は待ち望んでいた。




「……ん…」

…意識を取り戻したようである。

「…ハルヒ?!大丈夫か??」
「あれ、キョン…何でこんなとこに?…ってか何であたし保健室にいるわけ…?」
「お前が旧校舎の廊下で倒れているところを、俺がここまで運んできてやったんだ。」
「うそ…?そういえば手や足に力が入らないわ…。倒れたってのは本当…みたいね。
無様な姿をあんたに見せちゃったわね…。」
「どうってことねーよ。お前が無事で何よりだ。」
「…とりあえず、運んだってのが本当なのなら、一応礼は言っとくわ。ありがと…しかし困ったわね。
家までどうやって帰ろうかしら…。」
「それについては心配およびませんよ。」

うお?!いつのまにか背後に長門に古泉、朝比奈さんが立っているではないか。
もう調査とやらを済ませてきたのであろうか。

「タクシーを呼んできてます。いつでも発進できる用意はできてますよ。」

もうそんな手配まで済ましていたのか…相変わらず対応が速くて助かるぜ古泉。

「古泉君ありがとう。みんなには迷惑かけちゃったわね…。」
「そんなことどうでもいいんですよう!涼宮さんが無事でいられただけでも私嬉しいです…。」
「みくるちゃん…心配してくれてありがと。でも、もうあたし平気だから!ほらこの通り!」

潔くベッドからとび降り、仁王立ちしてみせるハルヒ。っておい、いきなりそんなことして大丈夫かよ??

「ハルヒ、お前が元気だってことはわかったから、とりあえず
今日は無理はするな?俺がタクシーのとこまで背負っていってやるからさ。」
「まあ、あんたがそこまで言うなら仕方ないけど。」 

渋々俺の背中にもたれる団長様。

……

タクシーには俺とハルヒの二人が同乗した。本当は長門と古泉、朝比奈さんも
付き添いたかったらしいが、あいにくタクシーにはスペースというものが限られている。
一旦古泉たちとは別れ、俺はハルヒを家まで送っていくのであった。

「しかしお前が倒れたというからびっくりしたぞ俺は。一体何があったんだ?」
「それはあたしが知りたいくらいよ!気付いたら意識がとんでたんだし…。」
「最近何か無理でもしてたんじゃないか?そのせいで一気に疲れがドバーッときたとか。」
「特に、何か無理をした覚えもないわ。」
「じゃあ精神的なものか?ストレスとかさ。」
「何に対してのよ?」
「いや…俺に聞かれてもな…。」

結局そんなこんなではっきりとした原因はつかめないまま、俺たちはハルヒ宅へと着いた。

「今日はゆっくり休めよな。なんせ明日は土曜だ。昼まで寝てたっていいんだぜ?」
「あんたねえ…あたしをバカにしてんの?ま、いいわ。とりあえず、今日はどーも。」

団長様が一日に二度も俺に礼を言うなんて、珍しいこともあるもんだな。
ハルヒと別れを済ませたあたりで、ちょうど携帯から着信音が鳴る。古泉からだ。

「もしもし、俺だ。」
「古泉です。涼宮さんは無事家まで戻られましたか?」
「おお、そりゃ元気な様子でな。」
「それはよかったです。ところで、涼宮さんが今日突如として昏睡状態に陥った原因についてなんですが…。」

息をのむ俺。

「長門さんとも話したんですが…正直に申し上げましょう。これは一言二言で伝えられる代物ではありません。」

…どうやら予想以上に深い事情がありそうな様子である。

「明日何か用事はあったりしますか?」
「用事?特にないぞ。」
「それは助かります。突然ですが…今日の夜11時に駅前近くのファミレスに来てほしいと言われたらどうします?」
「つまり、朝まで長話できそうなとこに集まろうってことだろ?全然構わないぜ。」
「ご明察です。それに加え、こういった場所だと食事も好きなときに注文できたりしますから、
聞き疲れを起こしたりしたときに、何かと都合がいいかと思いまして。」

なるほど…どうやら相当長い話になりそうである。それにしても食事か。なかなか用意周到じゃないか。

「だがな、なぜ11時なんだ?今6時だし、8時集合にしたっていいようなもんだが。」
「確かにその通りですね。しかし、もう少しだけ我々に時間をくれませんか?
まだ原因の全てを把握できたわけではないのですよ。」

何、そうなのか。

「いえ、今のは表現が適切ではないですね。あくまでこれは僕自身の問題です。」

?どういうことだ?

「今回の原因について、僕はかつてないほどの膨大な情報の処理や解釈に追われ…
弱音を吐こうなどとは思ってはいないのですが…正直、今僕はパニックに陥っている
と言っても差支えないかもしれません。それほどまでに窮した事態なんですよ…。」
「な、何だ??その原因とやらがそこまで震撼させるような内容だったってのか??」

あの古泉が壊れかかってるんだ、おそらく話とやらは想像を絶するレベルなんだろう。
それを改めて認識したせいか、しだいに話を聞くのが怖くなってきた自分がいる。

「ですからその処理および解釈にもう少し時間がかかるということです。
そのへんはどうか、ご察しのほどをお願いします…。しかしですね、僕はこれに立ち向かいます。
立ち向かわずしてどうやって涼宮さんを救えますか。」

そうだ…これに目を背けたら、ハルヒは一体どうなるんだ?今日はあの程度で済んだが、もしかしたら次は
こうはいかない可能性だってある。最悪の事態も考えられる。なら、俺も覚悟して立ち向かおうじゃないか。
それがハルヒを助けることに繋がるのならば…俺はそのための努力を惜しまない。

「長門さんと朝比奈さんにも連絡はつけています。では、夜11時にまた会うといたしましょう。」
「おう、またな。」

…まだ集合の時刻まで時間はある。
それまで家で仮眠でもとっておくとするか。話とやらは朝までかかるのだろうし。

……

家に着いた俺は、とりあえず晩飯を食い、部屋に向かった後ベッドに横になった。タイマーは…念のために
10時半にセットしておく。寝過ごしたりでもしてしまうようなら、それこそ打ち首にされてもおかしくない。
そう例えられるくらい、今後を左右する重要な会議になるはずだ。

「少し眠るだけ…だ。さすがにまたあんな夢は見ねえよな…?」

内心不安だったが、しかしこればかりは気にしてもどうしようもない。
とりあえず、俺は目を閉じ、寝ることに専念した。

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 









音が鳴っている…

俺はアラームを消した。

10時半…どうやらちゃんと起きられたようである。まだ少し眠たいが、そんなことを言ってる場合ではない。
さて、親に何と言うかだが…『友達の家で寝泊まりする』とでも言っとけば、まあOKだろう。
俺はコートを手に取り、部屋から出ようとした。そのときだった。

「ようやくお目覚めってわけだ。」

ふと背後から声が聞こえた。はて、これは幻聴か何かであろうか?当たり前だが、この時間帯俺の部屋には
俺一人しかいない。妹が勝手に部屋に侵入した?それはない。なぜならその声は男のものだったからだ。
しかもどこかで聞き覚えがある…

俺は後ろを振り返った。

「てめえは…!」

予想外の人物に俺は驚愕した。いや、俺が忘れていただけで、こいつと再び会うことは
必然だったのかもしれない。とっさに拳に力が入り、臨戦態勢に入る俺。

「おいおい、そんなに身構えなくったっていいだろう。別に僕は、あんたに危害を加えようなどとは思っちゃいない。」

どの口がそれを言うんだ。俺はお前らのしでかしたことを忘れたわけじゃねえぞ。

「誘拐の件についてはすでに謝っただろう?…まあ、それはいい。
今日は言いたいことがあってここに来た。」

朝比奈さん大の言葉を思い出す俺…

『藤原くん達の勢力には気を付けてください。』

…藤原…てめえ、一体何企んでやがる?

「差し金は誰だ?何の目的でココに来た??」
「…勘違いしてないか。確かに、この時代への時間移動命令については上からの指示だが、
あんたに会いにきたことに関しては、単なる僕の独断だ。」
「独断だと?そこまでしてお前は俺に何か言いたいってわけか。が、生憎様だな。どうせ俺に巧みな言葉をかけて
騙そうって魂胆なんだろうが、そうはいかねえ。朝比奈さんから、すでにそれに関しては忠告を受けてある。」
「何、朝比奈だと!?」 

しまった、つい朝比奈さんの名前を出してしまった…まあ、もともと朝比奈さん大は藤原たちの勢力とは
敵対関係だったから、これも今更か。別に危惧するような情報流失でもない…と、とりあえず俺は信じたい。

「まさか…昨日の異空間からの転移は…ふ、まさか現行世界に直々干渉してくるとは。」
「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?」
「いや、とりあえずあんたの話を聞いて理解はした。おそらく、僕が伝える予定内容を聞かせたところで、
あんたはそれに従わないであろうことにはな。やはり、僕らだけで何とかする問題だったか。」
「聞くだけ聞いてやる。一体何を伝えるつもりだったんだ?」
「『朝比奈みくるには気をつけろ』端折って言うならそういうこった。」
「なるほど、どうやら聞くだけ損したみたいだ。お引き取り願おうか。」
「まあ、はなからあんたは宛てにしちゃいないさ…さて、面倒なことになる前に撤収するとしようか。
九曜、もういいぞ。ここの時間軸を正常に…加えて、今の会話記録もこいつの記憶から抹消してやれ。」
「---了解した-------」

!?九曜だと??あいつもいたのか!!?

その瞬間だったろうか 俺の意識はブラックアウトした


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