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【時のパズル~迷いこんだ少女~】
-Interlude 3- 『金曜日のキョン』


「わかってるさ! 届いてたよ。これのことでしょ?」
鶴屋さんの手には、俺が催促した三通の手紙が握られていた。
「ええ、それです。もらえますか?」
「もちろんだよ」
そう言って、鶴屋さんは手紙を渡してくれた。
「で、なんなんだい? これは?」
「すいません……まだ話せないんです」
申し訳ないことだがいくら鶴屋さんでも、まだ話すわけにはいかない。そんな俺を見て、鶴屋さんは持ち前の勘の良さで言ってきた。
「……ふぅーん。……なるほどね、またいつものだね?」
「はい、そうです。すいません……」
相変わらずこの人には頭が下がる。そう思いながら俺は、手紙を受け取った。
「いいよ、気にしないでよ! まだってことはそのうち話してくれるんだろ? それまでめがっさ楽しみにして待ってるさ!」
「キョン君、その時にはわたしにもお話ししてもらえますよね?」
「はい、信じてもらえるかはわかりませんが必ず。―――長門」
鶴屋さんと……朝比奈さん、その二人に必ずと約束し、俺は長門を呼んだ。手紙を確認するためだ。

「鶴屋さん、朝比奈さん……すいませんが」
「わかってるよ。あたしたちは、あっちへ行けばいいんだろ?」
「……はい。本当にすいません」
「いいんだよっ。みくる行くよ」
「え? きゃっ」
鶴屋さんが朝比奈さんを引きずりながら、ハルヒのところに行く。これでゆっくり確認できる。

そして、長門と共に受け取った三枚の封筒を綺麗に開封し、中から便箋を取り出した。
その三通の内容は、次の様なものだった。


『確認文(音楽室) 誰が出入りしたかを書かないといけないんだけど、この日、音楽室はペンキの塗り替えで、三時間目から立ち入り禁止だったのね。
 でも、安心して、窓から教室の中を確認していたのね。
 その結果、十二時十二分から十三時十分まで、誰も出入りしなかったのね。
 涼宮さん、これでいい?
 追伸:キョン君とお幸せにね(はあと) 』

『頼まれていた報告書だよ。
 じっと、影から覗いていたけど、昼休みの間は出入りがなかったみたいだよ。
 五時間目開始ぎりぎりまで見てたから、間違いないよ。
 これで、いいんだよね?』

一枚ずつ順に確認し、二枚目まで確認し、思うような成果が出ない事に焦りを感じながら、俺たちは最後の『屋上』の手紙を見た。
そこには、驚くべき結果が載っていた。

『報告書。屋上への出入りについて。
 十二時四十六分、古泉一樹。立入り禁止の筈の屋上の施錠を破り、入る。
 十二時五十二分、再び、施錠して出る
 その後、昼休み終了一分前までいたが、古泉以外、屋上に出た奴も、入った奴もいなかったぞ。これでいいのか? 涼宮?』

確かに、前の二枚目までは確認できなかった犯人になり得る名前がそこには刻まれていた。
しかし、その名前は俺たちにとってあまりにも聞き覚えのあるものだった。
『古泉一樹』……この名前には。

「落ち着いて」
長門が言ってくる。『なにを言ってるんだ?』と思ったが、見れば手紙を掴んでいる腕が震えている。いや、震えているのは体全体だった。
「なあ、嘘だろ?」
俺は否定してもらいたいと思いながら長門に聞いた。
「…………」
長門はいつものように無表情だった。しかし、その無表情には、妙な言い方だがどこか翳りがあり、言葉以上にこの事態の深刻さを雄弁に語っていた。
「彼しかいない」
そうして、長門がぽつりぽつりと語りだした。
「わたしも信じ難い……でも……状況から見て犯行を行えたのは、古泉一樹しか存在しない」
俺はその仮定を振り払おうと否定の材料を探した。そして、思い出してしまった。『否定』の材料ではない。『確信』を持つ為の材料を……。
「どうしたの?」
長門が、そんな俺に気付いて、聞いてきた。俺は答えようかどうか迷ったが、次の長門の一言で話す事にした。
「話して……あなたは涼宮ハルヒを護ると誓った筈」
そうして、俺は水曜日に古泉が俺たちの位置を把握し得たことを話した。
長門はそれを聞き終え、しばらく無言のままだったが、顔を上げて言った。
「犯人は古泉一樹、これで決まり」
その後、俺はなんとか否定しようとした。だが、長門は古泉が犯行を起こし得た理由と状況を次々と上げた。
それに反論する事もできず、俺は納得するしかなかった。

「……でも、なんで……」
「……わからない。彼にどんな動機があったのかは……でも、これで決定した。涼宮ハルヒは古泉一樹の『凶行』により、タイムリープ現象を起こした」
その通りだ。俺たちはこの事態を引き起こした犯人を、とうとう突き止めたんだ。
これでハルヒを助けてやれる材料がすべて揃ったのだ。
「でも……こんなのってあるかよ……」

長門も混乱していただろう。しかし、長門はこれからの行動を的確に考え出していた。
『日曜日に襲われる』ハルヒのために、『稽古』を付ける事。
古泉をおびき出すための方法。
そして、事後処理の仕方……。

長門は、それらを淡々と言っていた。でも、その表情を見ればわかる。伊達に長門の表情の専門家を言い張る俺ではない。
長門の顔には、『迷い』と『悲しみ』、『驚愕』の色が微かにだが、しかし確かに写っていた。

「―――――これでいい?」
決めるべき事を素早く言い終え、俺に同意を求めてきた。
「…………」
俺は返事を出来ないでいた。だって、そうだろ? ハルヒにしろ、古泉にしろ、どちらかを切り捨てろと言われているんだ。決められるわけがない。
だが、長門は先程と同じ台詞を再び言った。
「あなたは言った。涼宮ハルヒを必ず『護る』と、その誓いは、嘘だったの?」
「嘘じゃない……嘘じゃないさ……でも……」
「あなたがやらなければ涼宮ハルヒは助からない。彼女が死んでもいいの?」
! そうだ、ここで古泉を見逃してもそれは不幸の連鎖にしかならない。なら俺は―――――。

その後、俺たちは鶴屋さんにハルヒの『稽古』を依頼し、二人を見送った。
そして、ハルヒを家にまで送り終えた時、ハルヒが言ってきた。

「ねえ二人とも?明日のあたしは『何曜日』に跳ぶのかしら……?」
そんな事か、明日のハルヒは土曜日に行く筈だ。
「明日は『土曜日』。間違いない」
長門が俺の代わりに、答えてくれた。
「なんでそこまではっきりと言い切れるの?」
「スケジュール表に残された空白は日曜日だけだから。そこでなにがあったのかわからない以上、あなたの無意識が『そこ』に跳ぶ事を拒否する。だから、『そこ』に跳ぶ事はない」
「でも、また明後日や明々後日に飛ぶかも……」
「そうなるには、『土曜日』で新たな『怖い事』が必要。もし、タイムリープすることになっても、まずは土曜日から始まる事になる」
「でも……」
中々納得しないハルヒを見ながら俺は、気付いた。そうだ、ハルヒは土曜日だけじゃない。事件を解決しない限り、いつまで経ってもこの狂った日常から出られないんだ。
こいつは、こんなに不安そうな顔をし続けなければいけないんだ。厳しい『予備知識』という原則に縛られながら。
そうして、ようやく俺は決意した。ハルヒを『護る』なにがあっても……。
なら俺のする事は―――――。
「今夜『怖い事』があった場合はそれには当てはまらないけどな。頼むから階段から落ちたりしないでくれよ?」
俺は引きつりそうになる顔をなんとか笑い顔にし、ハルヒを元気付けた。
「そんなヘマしないわよ……」
「そうだな。でも、一応それだけは注意してくれ。お前を狙っている犯人も家の中までは来ないだろうからな」
「……うん」
「頼んだぞ、そうすれば……」
「そうすれば……?」

「明日で片をつけてやる。……必ずな」
俺は、その言葉をハルヒ訊かせるというより、むしろ自分に刻みつけるために口にした。。



俺たちは今公園にいる。日曜日にハルヒが古泉に『襲われた筈の』公園だ。
ここにいるのは、ハルヒの家から長門の家に行こうという俺の提案を長門が断ったからだ。
その長門に引かれて、俺たちはここにやってきた。

「……明日、ここで決着をつける」
「……ああ」

暗闇に覆われた公園に、俺の返事は飲み込まれた。


余談だが、土曜日の事も少しだけ語っておく。
次の日、谷口に確認した時、やはり屋上には古泉しか現れなかったという……。


-Interlude 3- out