これは、実際には起こらなかった出来事、でも本当にあった出来事。

 今のみんなは知らない出来事、でも、みんなが見た出来事。

 壊れてゆく世界で、人々がもがいた記憶。


 第1周期 施し


 自転車で走行中、下り坂ではスピードが出がちになる。ペダルを漕ぐ労力が不要になるし、風があたって心地よい。
 もし、その先に交差点があったらどんなことが起こる可能性があるかはみんな分かるだろう。更に、そこがブロック塀などで先が見えないようになっている場合はなおさらだ。
 ふと通過しようとした瞬間に、車が見える。イメージしただけでもぞっとするね。
 その時のスピードにもよるだろうけども、「あっ」と思ったとこでブレーキすら間に合わないようなこともあろう。
 眼前に迫ってくる車が見えた次の瞬間には、既に病院に搬送されていて、ちょうど顔の傷の縫合をしている真っ最中だった。
 ……という上記の一行は知人の体験談である。
 僕からすればなかなか恐ろしい話を、知人は平気な顔で言っていた。もう過ぎ去った事だから、当然その時の感覚を寸分狂わず覚えている訳はないだろう。
 『喉元過ぎれば熱さ忘れる』とは言ったもので、たとえ苦しかったとしても、それが過ぎればもう大丈夫なのだ。
 そう、過ぎてくれれば。 

 今現在の僕は、そんな知人が経験したものよりもっと恐ろしい状況の中に放り込まれているのかもしれないね。
 何がどうなった結果なのかさっぱりわからないけれども、気付くと僕はベッドのようなものに寝かされていた。突然現れたこの状況に動揺しながら周りを見回すと、医師や助手と思われる姿が数人見えた。それに、医療器具らしきものも見える。どうやらここは手術室のようだ。
 僕も、先述したような状況にあるのだろうか。医師や看護師が慌ただしく動き回る中、オシロスコープの音が聞こえる。現在の自分の心拍数は安定しているらしい、……今収集すべき情報はそれじゃない。
 どうして僕はこんなところにいるのだろう。必死に今日の自分の行動を遡ってみると、登校途中で記憶は途切れている。
 知人のように、突然の交通事故に巻き込まれて、今から治療のが行われる直前なのだろうか。それにしても痛みやそれに類する感覚はない。麻酔を打たれているようにも感じないのだが、

 違う。
 絶対にそれはおかしい。
 そう言わざるを得ないような状況が、目の前で展開していた。
 とりあえず、これから行われるのは手術ではないことが判明した。
 この国の、しかも手術室で行われるとは考えられないほどに考えられないほどに非人道的なことが行われようとしていた。
 ひどく呼吸が乱れ始めた。当然のことながら、オシロスコープから発せられる音の周期も変わってくる。
 これから、僕は、表現のしようのない残虐な殺され方をするのだ。
 自然と身体が動き始める。震える、では語弊があるかもしれないというくらいの動きだ。無意識化で逃避しようとしていた。
 身体までもが冷静さを失った状態になって初めて気づいた。手術台に寝かせられているだけかと思っていた(普通はそうであるから当然といえば当然)けども、手も足も首も手術台にベルトでしっかりと固定されていたのだ。
 更に恐ろしい事に、今から処置を始めようとしている医師たちは、何をどう間違えているのか、メスやハサミを逆手で握っている。
 自分の命の危機を感じるには十分だと思うのだけど、まだ足りないかな。

「く、来るな!!」

 僕は必死に抵抗し、ベルトか自分の手足、どちらが先に千切れるかを競うように激しく体を動かして回避を試みたが、どうやら間に合いそうに無かった。
 僕がいくら叫んだところで、彼らは止めるつもりは微塵もないらしかった。
 一人が突然、必死にもがく僕の腹部にハサミを突き立てた。
 その痛みは、先程までの恐怖感すら吹き飛ばしてしまっていた。どう表現すればいいかと言われても、『腹部を刺された痛み』というもので不足はないのではないだろうか。
 気を失うことさえ許さなかった。これが終わるまで、苦しみ続けなければならないなんて、
 刺したハサミを抜き、また別のところに突き立てる。次にはメスが刺しこまれる。
 いっそ殺してほしい、そんなことさえ、考えてしまっていた。
 いくら叫んだところで、痛みは決して和らぐことはない。でも、それしか出来ることはなかった。血を吐きながら、滅多刺しにされながら声を上げることしか、

―――

「瞳孔が開いたままです。心拍数も乱れています」

「このままでは危険です。中止した方がよろしいのでは?」

―――

 カルスト地形のように穴だらけになっている腹部(だったところ)に更に深くハサミを突き刺し、中をえぐっていく。亀裂から血液が噴き出し、臓器がこぼれてきた。
 早く殺してほしかった。なんて願望を抱いているのだろう、という立場の自分はもういなくなっていた。でも、誰も僕にとどめを刺してくれなかった。
 もう抵抗も出来なくなっていた。手足はもう自分ですら制御できず、滅茶苦茶に痙攣するだけだった。
 段々と寒くなってきた。結構な量の血液を失っているからだろうか。そろそろ失血死が近いのかもしれない。内側から体が冷えていく中で次に見たのは、臓器を引きずり出されていく光景だった。 

―――

「呼吸が停止しています」

「このままでは身体がもちません、危険です」

「もう時間が無いんだ。続けなさい」

「……分かりました。引き続き安定剤の投与を」

―――

「…あぁぁぁ………」

 もう抵抗することすらできなくなっていた。
 ただただ続く苦しみに対して僅かに反応するだけであった。
 もう呼吸はしていなかった。「呼吸」の「呼」さえ出来なくなった肺をさらに潰して、声にならない声を吐き出すだけだった。
 大きく開いた穴に、誰かが手を突っ込んでいる。その瞬間、僕はかつてない多量の吐血をしていた。今の僕の口は、ただ血を流している傷と大して違いはなかった。
 もう消えてしまいそうな視界に僅かに映っていたのは、医師(の姿をした殺戮者)の手に握られていた、僕の心臓だった。
 それは大きく脈打っていた。当然だ、それはさっきまで僕の中に



 …………



 その場面で映像は途切れた。
 次のシーンでは、そのような苦痛は微塵もなかった。 

「はぁっ……はぁっ……」

 目覚めた瞬間から、ひどく乱れた呼吸であった。
 胸に当てた右手には、心臓が激しく脈打っている感覚が確かにある。
 ……夢?
 落ち着こうと深呼吸をしていたが、全く落ち着くことはなかった。荒々しくも力強い呼吸をしていないと、酸素が欠乏してまた気を失ってしまいそうだった。
 胸に手を当てたままあたりを見回す。今度は手術台ではなくちゃんとしたベッドで寝ていた、それに加えて誰もいなかったという状況がようやく僕の心を落ち着かせてくれた。
 簡易ベッドに薄いマットとシーツを敷いただけの、正直に言えば寝心地の悪いものだったがそれでも今なら満足できた。
 呼吸の周期がようやく安定したところで、一つ大きく息を吐くと、力の入らない体に鞭打ち何とかして身を起こした。
「うう…………」
 見回すと、此処はちゃんとした病室のようだ。病院なら安心していいという訳では無かった、さっきまでの悪夢の舞台であった手術室が、同じ病院のでないという確証はなかった。
 でも、さっきまでのアレと比べたら、随分と穏やかじゃないか。
 音を発しているのは自分以外は存在しない、静寂。その中で、呼吸という動作を確認するように大きく息を吐いた。
 とても非現実的な、それでも恐ろしいほどにリアルな夢だった。あんな苦しみは一度たりとも味わいたくなかったというのに。

 それが果たして本当に夢だったのか、確認しないで入られなかった。いつの間にか着替えられていたバスローブのような薄い服の下を確認したが、腹部に穴は開いていないし、それらしき傷跡も全く見られない。これなら、夢であったと言ってもいいだろう。
「夢で、良かった」
 本音を言えば、夢であったとしてもあの様なことを経験すると言うのは良くないに決まっているのだけれども。
 言葉にした次の瞬間、僕は両手で口を塞いだ。しかし、指の隙間からは絶えず嗚咽がこぼれていった。
 酷く怖かった。
 あんな殺され方をするなんて嫌だった。
 さっきまでの恐ろしい経験と、それがこれからも続くかもしれないという恐怖に頬を濡らした。

 どれくらいの間泣いていたのかは分からないが、しばらくしつようやく気分も落ち着いたことで、自分の周辺を見るだけの視野を取り戻すことが出来た。
 まず最初に、、僕はどうしてここにいるのかについて考えてみた。
 ここで目を覚ますまでの記憶は曖昧だ。何時ものように学校へ向かい……それ以降がさっぱり思い出せない。
 誘拐? それならどうして縛るとかして僕を拘束しないのだろう。
「……」
 分からないことをいつまでも考えているより、他に何か出来るはすだ。部屋を見回し、それによって得られる情報に期待しよう。
「誰もいない……のかな」
 いくらなんでも静か過ぎやしないだろうか。今僕がいる部屋には4つのベッドが並べられているが、隣のベッドはおろか他のベッドに誰もいない。
 だけども、布団やシーツなどはたたまれたままと言うことを考えると、まだこの部屋は病室として十分に機能しているはずだ。
 ふと、枕の横に僕の携帯があるのが見えた。それを手にとり、開いてみる。そこに表示されている待ち受け画面は僕が設定したもので間違いない。特にこれをいじられた痕跡は見られなかった。ただひとつ僕をがっかりさせたのは、画面左上に表示された圏外というに文字だった。
 携帯は無事だったものの、いくら部屋を探しても制服とカバンは見つからなかった。教科書やノートを失うのは大きな痛手だが、今現在の状況を考えると致し方ないのかもしれない。流石に命とノートを天秤にかけるのは間違いであるような気がするんだ。

 しばらくベッドの上で座ったままでいたのだけれども、何も起こらないようだった。
 誰もこないうちにここから動くべきだと考えた。ベッドを降りると、床の冷たさが直接皮膚を通じてきた。

 ひとまず様子を伺いながら廊下に出た。一歩ずつ歩み出るたびに、ぺたぺたという音だけが響いている。人影は全く見られない。
 普通の病院であれば、他の患者や看護師や見舞いの人がいる筈なのに。ストレッチャーが転倒したまま放置されているこの光景が、果たして機能している病院の姿であるというのだろうか。
 でも、蛍光灯が照らしていると言うことは、ここに電力が供給されているということであって、すなわち誰かが利用していたということにはつながらないだろうか。
 ますます分からない。これが誘拐監禁ならば、どうして僕は着替させられて、一人病室に放置されていたのだろう。
 僕は、随分と変な事件に巻き込まれてしまったようだ。 

 しばらく歩いても、状況は全く変わらなかった。
 物が散乱したまま放置されている、人の姿は見られない、そんな光景がどこまでも続いていた。
 ひとつ補足しておくと、散らかっているとは言ったが、汚れていはいない。つまりここは普段から利用されていたと考えていいだろう。何かが起こってここにいた人が一斉に出て行ったのかもしれない。
 ……その何かが非常事態だということは分かるが、一体どうしたのだろう、拉致してきた僕すら放っておいて。
「ただ散らかってるだけじゃなさそうだね」
 ついつい口に出してしまうくらい、辺りが静かすぎて不安だった。
 書類が満載されたいかにも重たそうな棚が倒れて扉を塞いでいる。偶然だったとしても、それが2つも3つも同じ状態にはなかなかなるまい。逃げ道を塞ぐためと考えても間違いではないと思う。

 次第に、誰もいないということが不安要素へと変わっていた。進路の途上にある部屋の一つ一つの様子を伺いながら歩いていた。
 とある部屋を横切ろうとしていた時だった。
 ガラス越しに、女の子の姿が見えた。私と同じ服を着ている。僕は急いで近づき、ガラスをコンコンと叩いて向こうに存在を知らせた。
「君もここに連れてこられたのかい?」
 向こうもこっちに気付いて駆けよってきた。僕の質問に返答することなく、必死にガラスを叩いて何やら叫んでいるように見える。助けを求めているようだった。
 だが、彼女は叫んでいるのは目に見えて分かるというのに、その声が殆ど聞こえてこない。むしろガラスを叩くその音しか聞こえない。
 彼女の背後が突然明るくなった。その光源は部屋を挟んで反対側で上がる炎だった。
 それに気付いた彼女はパニックに陥り、叩き続けて手から出血していてもお構いなしさらに激しくガラスを叩いていた。その表情は、死の危機に直面したそれだった。
 でも、僕と彼女を隔てるガラスは厚く、傍らに倒れていた椅子を持って思いきりぶつけてもひびが入るだけで割れない。
「ダメだ! ガラスが割れない!」
 僕も彼女も必死になって窓を割ろうとしたが、二人が講じた手段のすべてが通用しなかった。馬鹿に頑丈なガラスだった。どうして病院でこんなガラスを使う必要があるんだい?

 目の前のことばかり考えていたせいで、僕は重大なミスを犯してしまっていた。
 一体何を考えているんだ僕は、自分が必死に叩いている窓のすぐとなりには扉があったではないか。
 これをいまさらと考える? いや、まだ間に合う。
 しかし、ここでも棚が倒れて向こう側から塞がれていて開けることができなくなっていた。
 僕は扉がある方を指さし、棚をどけるよう必死に訴えた。彼女にそれが伝わったらしく、それに気付いて駆けだした瞬間だった。
 女の子の後ろに黒い人影が見えた。誰なのかは分からないけれども、助けてくれる人であるかは分からない。自分の命がかかっているのであれば、まず疑う。
 だから、逃げてと叫ぼうとした。
 したのだけれども、声になる前に何かが弾けてガラスが真っ赤になり、彼女はゆっくりと倒れて見えなくなった。
「あ……」
 目眩がした。何が起こったのか、その時は分からなかったし、分かろうとしなかった。
 透明で、分厚くて、冷たい、ガラスの板を流れ落ちていくその赤い液体を、反対側からただぼんやりと見ていた。

「ど、どうして……」
 まさか、目の前で銃殺というものが起こってしまうなんて思わなかった。
 あの背後から迫っていた人は、どこからか逃げてきた彼女を探していて、それで、連れ去ってしまうものだと、思っていた。そう思っていたから、逃げてと言おうとしたけど、こうなるなんて、
 そのショックもあったが、助けることができなかったショックの方が大きかった。罪悪感すら感じられた。なぜあんなにもたついたのだろう。目の前にある頑丈なガラスに悪戦苦闘していないで最初にあの扉の存在に気づいていれば間に合ったかもしれないのに。

「……はぁ」

 あまりに混乱して、座り込んでしまった。事態は思った以上に深刻だった。僕は命の危機にさらされていたのだった。
 ここは別の国なのだろうか、まさかフィクションの世界に放り込まれてしまったのだろうか、これ自体も夢なのだろうか、いや、最後の候補はただの願望に過ぎなかった。
 目の前で起こった殺人を見て、僕の身体は立つ力を失っていた。

 先程僕が見た光景が何度も何度も繰り返して再生される。
 私と同年代の女の子が殺された。
 どうして。
 どうして殺される必要があったんだ。

 落ち着いている暇なんてここには無かった。さっきの銃を持った人物が僕の姿を確認したことはほぼ確実だろう。
 あの子と同じ服を着ている僕も狙われていないとは限らなかった。緊迫感が高まったところで、僕には先程までの自分とほぼ変わらない「早くここから出ないと」という程度の具体性に乏しい思考しかなかった。
 震える足に無理矢理力をこめて壁伝いに立ちあがった。少なくとも、早くここから動いた方がいいということだけは正しいと思っていた。

 血だらけになっているガラスを背に、再び歩きだした。
 その間も、今僕が持ち出した一般常識では到底回答出来なさそうな疑問が頭の中を粘液のようにゆっくりぐちゃぐちゃと流動していた。
 何の為に病院にあのガラスが必要なんだろうか?
 外部への漏洩を恐れているのか?
 あの人物はいったい何が目的で彼女を殺したのかか?
 いわば『秘密組織』のようなものがこの施設を所有していたのだろうか。まさかとは思いながらも、もう落ち着いていられない自分の思考で納得のいく回答はそれ以外なかった。

 ショックから立ち直れたわけでは決してなかった。無意識下で必死に忘れようとしていたようであったけれども、目に焼き付けられたあの場面が意識の中に根を張るようにして離れてくれなかった。
 それでも過去のことに浸っている場合ではなく、歩いている限り状況はさらに進んでいく。足を止めると、まるで足の裏に接着剤でも付けられたかのようにもう二度と動けなくなりそうでたまらなかった。
 だから、通路の先で機関銃が落ちているのが目に入ってしまっても、それを通り過ぎるつもりだった。でも、足が止まってしまった。ああ、止まってしまったのは仕方ないのだけれども、僕はこれをどうしたいのだろうか。
 どうしてこんなところに落ちているんだという疑問はほとんど感じられなかった。それよりも、これを拾うべきか否かで迷っていたのだ。
 これを持つ必要性は果たしであるのだろうかとか、こんなもの映画などでしか見たこと無いから正しい使い方なんて知らない等と思ったものの、先程のような命の危機にさらされた場合は何か身を守る手段が無いとどうにもならなくなってしまう。
「本当に、この世界はおかしなことになっているよ」
 そう言いながらも拾ってしまう僕もどうかしているよ、多分。
 思っていたよりもとても重たい、金属の塊のようなものであることは見た目でも分かるけれども、実際に持ってみた時の重みは想像以上のものだ。これを持って歩きまわっているだけで相当な体力を消耗しそうだ。ああ、だから軍隊では訓練するのだったね。
 不思議なことに、また自分の意思で歩き始めることが出来た。武器を持っている。使い方は詳しくは分からないけども、何か心強かった。 

 その黒く輝く金属の塊を両手で大事に抱えながら歩いていると、前方に人がいるのが見えてきた。さっきの兵士ではないようであった。
 でも、安心するどころか、出会わなければよかったとすら思えた。
 上半身が裸であったことはこの状況からすればそれほど問題ではない。
 その人が、血まみれになっていて、かつ床を這っていたことが、僕に危機感をもたらした。
 まるで最初からそうであったかのように違和感のない、実に滑らかな4足歩行だ。そして4本の「足」をせわしなく動かしながら、猛烈な勢いで僕に迫ってきた。

「来ないでくれ」

 銃口を向ける。流石に普通の人であれば、驚いたり怯えるといった反応をするだろうけども、今回はそうではなかった。
 その人(の形をした何か別の何かであってほしい)は全く動じなかった。僕の精一杯の威嚇にもお構いなしにこちらへどんどん迫ってきた。
 銃すら恐れないのか、それとも、これがどういったものであるかを知らないのか。
 息遣いも聞こえてくる。猛然と迫ってくる姿は、僕を獲物として捕らえようとするそれのような気がしてたまらなかった。

 僕は、もう限界だった。

「来ないでくれと言ってるじゃないか!!」

 自分でも、一体どうしたのかよく分からない。傍から見れば、僕が手にした機関銃で銃撃しているというのは一目瞭然なのだが、どうして無意識下で扱えていたのだろう。
 暴れるように激しく振動する機関銃の銃口をその人に向け続けた。
 決して見たくない光景なのに瞬きが出来なかった。視界の真ん中で、先程まで人だったそれは風に飛ばされた布切れのように千切れ、舞い、やがて微塵になっていった。
 最早それは固体である部分の方が少ないようにも見えた。何もかもがぐちゃぐちゃに混ざり合い

 そうして、廊下はまた静かになった。
「ああ……」
 目の前にできた血だまりをぼんやりと見つめた。
「早く醒めてくれ」
 機関銃を落とし、それに続くように力無く座り込むと、また涙が溢れ出てきた。



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