【時のパズル~迷いこんだ少女~】
-Interlude 2- 『木曜日のキョン』


ハルヒとの話し合いが終わり分かれる時
「今度は俺が送るよ。帰る途中に暴漢にでも出くわしてまたリープしたらややこしくなるからな」
「だったら学校の行き来も危ないんじゃない?」
ハルヒは、そんなことを言ってくる。先に言われちまったな。まったく……眩しい笑顔しやがって。
なら、お望み通りの台詞を言う事にしようか。
「分かってるさ。この件が片付くまで俺はハルヒから離れない。明日の朝もハルヒを迎えに行くよ。ハルヒの記憶のままな」
もう一度、ハルヒはにっこりと太陽のような笑みを見せてくれた。

その後、ハルヒを送り届け俺たちは帰路に着く。
しかし、俺にはまだやらなければならない事がある。

「長門……これからお前の家に行っていいか?」
別に長門の家でなくても構わなかったが、とにかくゆっくりと話せる場所が欲しかった。
「わかった」
そう一言だけ口にし、長門は先に歩き出した。付いて来いってことだろう。

そして、今ではすっかり御馴染みになったマンションの一室に俺たちは揃って入った。
「話したい事がある」
「わかっている。でも、少し待って」
そう言って長門は奥へと消えていった。2~3分して現れた長門の手にはお盆が載っていた。
「どうぞ」
お盆には、いつかの時のようにお茶が載っていた。そして……あれは煎餅か? お茶請けのようなものも載っていた。
「お茶にはお茶請けも必要。涼宮ハルヒの家ではそうだった」
なるほど、ハルヒの母さんが持ってきたものを真似ているのか。……こいつも、こうやって成長しているんだな。
「飲んで」
「ああ」
俺は時間が惜しかったが、少しぐらいはと長門が注いでくれるお茶を愉しんでいた。

「もういいぞ」
三杯目のお茶を飲み終えた俺は、長門の動きを止め、今度こそ話を始める事にした。

「そうだな。まずは、ハルヒから聞いたミスについて俺なりに理論を考えてみたんだ。訊いてくれ」
「わかった」
長門の返事を聞き、俺は内容を整理しながら、俺の理論を話し始めた。

「―――――という訳なんだ。どう思う?」
俺は自分の考えを話した。大分ややこしかったが、長門は一度も口を挟むことなく訊いてくれた。
「わたしはあなたと同じ推測をした。それですべての矛盾点が解消される」
そうか! 俺は、嬉しかった。さっきまで自信がなかったが、長門と同じ意見と言うだけで自信がわいてくるんだから、俺の頭も単純なものである。
「じゃあ、『予備知識』を得ていても、それを『知る前』ならなにも問題がない。それでいいんだな?」
「いい」
よし、これで取りあえず一つ目の重しが取れた。次は……

「あなたが一番したい話はそれではなかった筈。続きを」
……流石だな。俺の考えてる事なんて、やっぱりお見通しか。
「ああ、そうだな。本当はこっちがメインだったんだ」
そう言って俺は話し始めた。今度の話は否定して欲しいと思いながら。
「ハルヒに言った俺の想像……ハルヒを狙っている奴がいる。これについてどう思う?」
「…………」
長門は黙ったままだ。俺が痺れを切らして催促しようとしたその時、長門はぽつりぽつりと話し始めた。
「昨日話したようにわたし……情報統合思念体は、涼宮ハルヒの力によって……タイムリープ現象が始まった時から力の干渉を阻害されている。
 だから、これから話すことは確認したわけじゃない。つまり推測の域を出ない。でも、訊いて」
「ああ、もちろんだ」
俺の言葉に長門はミリ単位の頷きで返し、話し始めた。
「あなたの想像はおそらく正しい。水曜日の植木鉢、明日のオートバイ、そしてタイムリープの原因になった筈の日曜日の出来事。一週間に体験する危険にしては確かに多すぎる」
俺は頷いた。
「もちろん推測の域はでない。でも、涼宮ハルヒを狙っている人物がいるという前提で行動するべき。あなたが送り迎いを了承したのもそのためだと思われる」
その通りだ。ハルヒに先に言われたが、俺はなんとしてもその事をハルヒに頷かせようと思っていた。
「お前の言った通りだ。それで長門、犯人がいるとしたら目星はついているか?」
「……恐らく涼宮ハルヒ個人に恨みを持つ人物。一般人という可能性もあるし、特殊能力を持った者かもしれない。でも、誰かまではわからない」
「……そうか。それさえわかれば対策のしようもあるんだけどな……」
俺は行き詰まりを感じ、黙り込んでしまった。

「でも……」
「ん?」
「犯人を見つけることは可能」
「!! ほんとか、長門!?」
「本当。しかし、これには涼宮ハルヒ自身の協力が必要不可欠」
「ハルヒの協力か……」
という事は、ハルヒに狙われている事実を意識させないといけないな。
「……取りあえずその方法とやらから訊かせてくれないか?」
「わかった」

長門から聞いた話は確かにこれ以上、いやこれしかないと言っていい方法だった。
「だけど……」
俺は長門の話に楔を打ち込んでおくことにした。
「ハルヒに話すのは金曜日……バイクの事が片付いてからにしよう。まだ、余計な不安を持たせたくないし、勘違いかもしれない……確信を持ちたいんだ」
「それでいいと思う。……明日の涼宮ハルヒの話ではわたしたちは涼宮ハルヒと下校していなかった」
「それは何でだろうな?」
「おそらく撒き餌」
「撒き餌?」
物騒な単語が出てきた。
「そう。恐らく涼宮ハルヒを一人で行動させれば、犯人が現れる。でも、わたしたちがいると犯人は現れない可能性があった。
 だから、わたしたちは涼宮ハルヒを一人で帰らせるという手段を取ると思われる」
「な!? そんな危ない事させられるかよ!」
「わたしもそう思う。でもこれは、『規定事項』。わたしたちは涼宮ハルヒが一人で下校する事と、オートバイが涼宮ハルヒの前に現れる事、という二つの『予備知識』を手に入れてしまった。
 過去を改変しないためにも、原則に従いこれは守らなければいけない」
なんてことだ……長門の言う通りだ。『予備知識』を得てしまった俺たちはそれを辿らなければいけない。
くそっ! ハルヒが危険に晒されるのを黙って見てろというのか!?

「大丈夫」
長門は、俺の考えを読んだように言ってきた。
「それがさっきの理論に繋がる。わたしたちは、『オートバイに轢かれた後』の涼宮ハルヒを知らない。つまり、助かったかもしれないし、轢かれたかもしれない」
「じゃあ……」
「そう。彼女を助ける事は可能。恐らくわたしたちは涼宮ハルヒの後を尾行していた……違う、必ずする筈」
「それで、ハルヒが轢かれる寸前に救出しないといけないわけだ……」
「そう。それをやらないといけない。出来る?」
「出来るかじゃないさ……やるんだ。俺はハルヒを絶対護ると誓ったんだからな」
「そう」
長門が俯いた。
「どうしたんだ?」
「なにも……ただ……彼女が少し羨ましかった。あなたに護ってもらえる涼宮ハルヒが……」
「? 何言ってるんだ長門? お前が危なくなっても助けるに決まっているだろう?」
俺の言葉に長門は一瞬きょとんとしていたが、次の瞬間確かに薄く微笑んだ。
「あなたのそういうところがいい」


「それでだ。明日はハルヒに勉強を教えるんだったな」
「そう」
そう。ハルヒからか聞かされた『予備知識』によると、明日の午前中はハルヒの『お勉強会』をしないといけない。
「午前中は休みか……」
「違う。明日のわたしたちは午後の授業も休んだ筈」
長門が否定する。
「なんでだ?」
「恐らくは確認行動」
「なんのだよ?」
「水曜日の植木鉢について……それの回収と状況確認などをする筈。涼宮ハルヒの話ではわたしたちは彼女と一緒に戻らなかった。別行動をした筈。
 そして、わたしが言った事をするには、明日のその時間しかない。正確には、その時間しか残されていない」
なるほどな……こいつはホントに何手先までも物事を考えてるんだろうな。
こんな頼りになるやつはいない。本当に相談してよかった。
「わかった。明日はそうしよう」

俺はその後、明日の夜ハルヒに話す内容の検討を夜遅くまでして、家路に着いた。
連絡も入れずに、帰宅した俺に夕ご飯が残されてなかったのも『規定事項』なのかね? 明日ハルヒに聞いてみようか?
……いや、『予備知識』をこんな下らない事で増やしてもしょうがないか。俺の胸にだけしまっておこう。

「あー、腹減った……」


-Interlude 2- out