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 全員が全員、何かをやり遂げたかのようにスッキリ爽やかな気分になった四月初旬の午後。
 これから始まるであろうキャンパスライフに期待を膨らませているのか、或いはSOS団の新天地に希望を託しているのか。
 個々のフィーリングはこれ以上ないくらいハッピーで、閉鎖空間の頻発で病んでた心も落ち着きを取り戻し。
 宇宙人未来人為世界人超能力者、そしてただの人間も全員巻き込んで大円団を迎え――ようとした、その時。
 事件の元凶は、もの凄く意外な方面から走ってやってきた。


「おや、皆さんおそろいで。どうしたんですか?」
 突然聞こえてきた声に、俺たちは一斉に振り向いた。
「誰? あんた」
 ぶっきらぼうなハルヒの声に、
「ぱ、パパっ!」
 橘の声が入り混じった。
「ああ、これは申し遅れました。私は橘京子の父親です。娘がいつもお世話になっております」
 ああ、どうもと頭を垂れる一同。彼とは初めて顔を合わすはずだからな、俺除く。
「ふーん、橘さんのねえ。確かにそれっぽいわねえ。威厳の無いところなんか特に」
 ハルヒはおよそ初対面の人に言ってはいけないことを平然と口にした。
「そう言えば、娘さん、転校するんですよね。どこに転校するんですか?」
『……!!』
 ハルヒの何気ない一言が、俺たちを凍りつかせた。
 今ここにいる俺たちはともかく、蚊帳の外だったこの親父殿は一体何を答えるのか、全くの未知数だったからだ。
 いや、しかしこの人は何を隠そう『組織』のトップ。全てを見越して上手いこと流してくれるに違いない。じゃなきゃただの怪しい集団の教祖に成り下がってしまう。
 一縷の希望を託し、内心の動揺を押さえ、橘京子の父親の発言を待つ俺たち。
 しかし、甘かった。
 俺たちの予想を遥かに越えた一言が、ハルヒの……いや、この場にいる全員の大脳を直撃した。


「転校? なんのことですかな?」 


『……………………はあっ!?』
 男女混合九部合唱が、見事に決まった。


「あの……だから、娘さん……京子さん、転校するんでしょ?」
「はて……何のことだか私にはさっぱり……」
 俺も同じ質問をしてみるが、橘(親父)は首を傾げるばかり。
 たまらず橘(娘)も声を荒げた。
「パパッ! 昨日言ってたじゃない!」
「昨日……?」
「 へいさ……じゃない、この町内にいられなくなったから、出ていかなきゃって!」
「……ああ、あのことか!」
 ポンッ、とやたら軽快に手を鳴らして親父は、
「なんだ、本気にしてたのか。ハッハッハッ……。京子もまだ子供だな」
 何やら一頻り笑い出した。
 あの……全く展開が読めないんですが……?
「京子、ところで昨日は何月何日だったか、覚えているかい?」
 言われて橘(娘)はボケる事も無く、
「四月一日でしょ?」
「そう。四月一日といえば……もうわかるよね?」
「全然」
「くう……何という空気の読めなさ。私は自分が不甲斐ない!」
 一人憤慨する親父殿は、ビシッと実の娘を指差した。
「いいかいっ! 四月一日と言えばエイプリルフール! 嘘をついてもいい日なんだ!」
『…………はいっ?』
「最近京子が冷たいから、転校の話をしてあげたってのに」
『…………えええっと…………』
「せっかく彼と同じ大学にいくことになって喜んでた京子がどんな顔するか、楽しみだったんだよね」
『…………ええええっと…………』 
「なのに突然姿を消して……父さん探したんだぞ。プンプン」
『…………えええええっと…………』

 ――もしかして、このおっさんのKYな嘘が、全ての元凶ですかい?


「まあともかく、あんな話誰も信じるわけ……って、あれ? 何ゆえ皆さんハリセンを構えているんですか?」
「ふっふっふっふ…………なんかこう、いろいろぶちこわし♪」
「くっくっくっく…………以下同文♪」
 ――全くだ。諸手を上げて賛同しよう。
「…………あ、最優先強制コード発令です。あのおっさん、叩き潰せだそうです」
「はははっ、当然だ。規定事項を遵守しないものは、それなりの報いを受ける責務がある」
 ――超能力者の親玉は、未来人からはとても疎ましがられているらしい。
「当該対象の有機情報連結を解除する」
「解除了解――――駆逐する……――」
 ――訂正。宇宙人からも敵と判断されたようだ。


「えええええ……………っと、皆さん、目が据わってますよ? もっと人間おおらかにならないと。そうだ、お近づきのしるしにいいものをあげましょう!」
『………………』
 全員が怒気を孕んだ形相でにらめつけている中、代わりに俺が聞いた。
「何をだ?」
「えええっと…………ほら、これ!」
 橘の親父――『組織』のトップは、さも自慢げにソレをちらつかせた。


「京子の一日を隠し撮りしたフォトアルバム! なんと大判五十ページ! そしてなんと! 定価の三パーセント割引券を全員にプレゼントしちゃいます!」


 ――もちろん、誰も欲しがるわけも無く、親父殿は完膚無きまでに叩きのめされた。 


「橘さん。どうですか、バイト先変更しませんか? 今なら森さんを説得する自身があります」
「……ええ、是非お願いしますわ、古泉さん。あたし、少しくらい厳しくても、森さんに教育されたほうがいい気がしてきました」
 頭を抱える超能力者達。トラバーユするなら全力で応援したいと思う。

「……なんでこの人の子に生まれたんだろ、あたし」
 橘の嘯いた一言が、俺の心を揺さぶった。
 ああ、全くそのとおりだ。
 橘京子の欠点。それは性格でも、行動でも、超能力者としての運命でもない。
 せめて、一般人に生まれていたら数奇な運命――というか、KYな家系を受け継がずにすんだのに。



 冒頭で答えた、俺の自問自答。少し訂正しよう。


 ”――橘京子とは?”


 ……それは、全人類の中で、一番不幸な人物だったのかもしれない。



「やれやれ……」



 終われ。 





 本当にどうでもいいおまけ。

「あのミツバチ養蜂殖農家の人みたいな格好してるの……もしかして、朝比奈さん(大)?」
「ええ……こんにち……くしゅん!!」
「どうしたんですか? 風邪ですか?」
「い、いえ……くしゅん! 花粉症です」
「花粉症!?」
「くしゅん、くしゅん! もう、これだからこの季節の仕事、いやなのよ。もう鼻水も出るし、涙も止まらないし。それに過去は花粉飛散への対処が未熟な……くしゅん!!」
「あの、以前の電話で泣いてたのって、もしかして……」
「ええ。外に出ると酷くて、とても顔を合わすことできな……くしゅん!! いんですもの……くしゅん!」
「そんなに酷いのに、一体何のためにわざわざ……」
「だって、こうしないと出番が……」
「…………あ、そう」
『くしゅん!!』


「ふう……誰か未来でわたしの噂してましゅ……くしゅん!」



 本当に終われ。

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