【時のパズル~迷いこんだ少女~】
-Interlude 1- 『水曜日のキョン』


職員室からの帰り道

「とりあえずだハルヒ。これからはお前に会ったら、まず最初にどこから、いや『いつ』からかだな……いつから来たか訊ねるぞ」
「あ」
ハルヒは何かに気付いたような顔をしたが、すぐに顔を上げて返事した。
「わかったわ」

その後、俺たち二人は揃って教室に帰った。クラスメートには冷やかされもしたが、今の俺にはそんなことは気にしてはいられなかった。

ハルヒの話。『タイムトラベル』……本来、とても信じられるような話ではない。
しかし、その話を振ってきたのは『あの』涼宮ハルヒだ。信じるには、それだけでも十分だろう。
正直、ハルヒに話しかけられた当初はなんのドッキリだ?などとも思った。
だが、話を聞いてるうちにいやハルヒの様子を見ているうちに、その話が真実味を帯びている事がわかった。
『タイムトラベル』……本来なら未来人である朝比奈さんの専売特許だ。
しかし、今はその能力がハルヒに降りかかっているのだという。

けれど、俺には理解できない事があった。それはなぜ、『ハルヒ自身』にその現象が降りかかっているのか?だ。
確かに、ハルヒには不可思議な力がある。だが、その力を本人は自覚してはいない。
現に今までハルヒ自身が自覚してあの『力』が、ハルヒに振りかかった事はない。いや……一度だけあるか……。
あの五月の閉鎖空間で……ええい! また思い出してしまった。ちなみにあの繰り返す八月は含まれない。
なぜならハルヒはそんなことがあったなどとは知らなく、俺たち同様記憶をリセットされていたからだ。今回とは状況が異なる。
だが、今回は違う。ハルヒは自分がタイムトラベルしていることを自覚している。
尚且つその現象を止めたいと思っているに関わらず、止まらないようだ。
これは異常事態だ。あの力はハルヒのものだ。それがハルヒを苦しめるために働いている。明らかに矛盾している。なにか原因があるはずだ。
俺は六時間目の授業も聞かずに、その事ばかりを考えていた。

……やっぱり分からない。一時間たっぷり考えてはみたものの、俺にはハルヒに降りかかる災難の原因が究明できない。
どうする……? 誰かに相談するしかないか……。ハルヒのように。
では、誰にする? 時間関係の事件ならば朝比奈さんの領分なのだが、いかんせんあの人は頼りない。
この事件を解決できる糸口を教えてくれそうにもないな。
やっぱり……長門しかいないか……。毎回頼ってばかりで悪いが、今回はハルヒ自身にも関わっている。俺の胸の裡だけに留めておくにはあまりにも気が引ける。
ならば早速相談してみよう。ハルヒの話では一刻を争うようだ。早いに越した事はない。
ちなみに、古泉は最初から除外だ。時間関係の内容は完全にあいつの管轄外だし得られるものはないだろう。
なにより、月曜から学校に来ていない。いや、そういや今日は来ていたっけな。

そうして俺は、ハルヒに調べたい事があるので本日の部活の休部を提案してみた。出来ればハルヒのいないところで話したかったからだ。
割とてこずるものと思っていたのだが、意外にもすんなり許可は下りた。これでゆっくりと話が出来るぜ。

ハルヒと別れた後、俺は文芸室に入った。ついている事に中には長門しかいなかった。
「待ってた」
……どうやら長門も気付いてるようだな。
「他の二人は?」
取りあえず他のメンツの有無を確認しておいた。。
「朝比奈みくるは涼宮ハルヒに休部を告げられ帰宅した。古泉一樹はわからない」
古泉がわからないと言うのは、多少気になったがまあいい。

「長門、俺がなにを話したいのかわかってるか?」
「わかっている。涼宮ハルヒの時間跳躍について」
流石だぜ長門。相変わらず話が早くて助かる。
「それで、なにが起きてるんだ?」
「わからない」
おいおい、今わかるって言ったばかりだろ。
「わたしがわかっているのは、涼宮ハルヒが現在この時間軸に固定されていないと言う事象とこの現象は涼宮ハルヒ自身によるものだ、という事実だけ」
「それだけなのか? 原因や解決方法は?」
「わからない。原因を調べようにも涼宮ハルヒ自身によって完全にロックされている」
「あれか、それはお前の親玉にもわからないのか?」
「そう」
なんてこった……。頼りの長門がこれか……。どうすればいいんだ……。

「――――でも」
その時、長門が口を開いた。
「解決策はある」
「! 本当か!」
「本当、先ほどのあなたたちの会話を聞かせてもらった」
……ここは盗聴されていた事を怒るとこなのだろうか?
まあいい。それで?
「涼宮ハルヒは相談役としてあなたを選んだ。つまり、あなたには事件を解決する鍵がある」
おいおい……俺かよ。
「涼宮ハルヒの時間跳躍の原因はわからない。でも、それを解くための鍵はあなた」
つまり、俺に委ねるって事か。
「そう。涼宮ハルヒはあなたを選び選択した。きっと解決できる」

またか……俺は心の中で呟いた。ハルヒの力で迷惑が掛かるのには慣れたと思ったけど、まだまだ慣れてなかったってことか。
だが、俺の心の中では既に決意が固められていた。あのハルヒの不安そうな顔、震えていた体、あいつは不安で眠る事さえできないでいるんだ。
ならば、団員の俺が助けてやらないとな。はぁ……俺もホントにお人好しだな。

「なぁ長門」
「なに」
「この事件を俺は引き受ける」
「そう」
「だが、正直俺の手には手に余る。だから、頼む。俺と一緒にハルヒを助けるために力を貸してくれないか?」
「…………」
「頼む」
「……わかった」
俺の真剣さが伝わったのだろう。長門は微かに頷いてくれた。

「ただし―――――」
ん?
「わたしは今回の事件では力が使えない。貸せるのは知恵だけ……それでもいい?」
長門は若干不安そうな眼差しで覗き込んでくる。失望させたと思っているのだろう。
だけど、そんなことない。力なんてなくても長門が力を貸してくれるといっただけで、こんなに力が湧いてくるんだ。十分だ長門。
「……ありがとう」
微かに頬を紅く染めて。そう言ってくる。さて、これから三人で頑張らないとな。
そして俺と長門はその後、ハルヒの会話から取るべき対策を下校時間ぎりぎりまで話し合った。

下校途中、俺は横にいる長門に話しかけた。
「ハルヒを助けて、いつもの日常にもどろうな」
「頑張って」
おいおい、俺たちでやるんだろ?
「そうじゃない」
じゃあ、なんだ? なにか他にも問題があるのか?
「そう。涼宮ハルヒの話では、あなたは明日の数学のテストで0点を取る。追試は確定」
なぬーーーー!!! そうだ……そうだった……なぜかは知らないが俺はハルヒの『予言』によると、明日返却されるテストで0点を取る筈なんだ。
追試が待っている。なんてこったい……。
「……なあ長門?」
「なに」
「これが終わったらテスト勉強に付き合ってくれ」
「……わかった」

長門の返事を聞きながら、俺はハルヒの『予言』が外れてくれる事をほんの少しだけ願ってしまった。


-Interlude 1- out

最終更新:2007年01月13日 06:54