プロローグ

 

 


 このところ、どうも涼宮ハルヒが静かである。
 などと書き出してみると、そういえばこんな感じの書き出しをけっこう前にやったことに気づいた。それがいつだったか調べる気など俺にはないが、暇な奴がいたら調べてくれ。自分で綴った活動記録を自分で紐解いてるような暇など一日のスケジュールのどこを探しても見あたらないし、そもそもSOS団で過ごす日々はまだまだ現在進行形であって思いでに浸るのはまだ早い。あと、そうだな、一年間ぐらいはこの非日常サークルにどっぷり浸かっていそうな予感がするね。
 ……非日常サークル。非日常サークル、か。
 ところが、というわけだ。
 最近、ハルヒが大人しい。
 それも、嵐の前の静けさとか台風の目とかそういう類の不気味な静けさではなくて、小春日和とか小鳥のさえずりとか、そんな感じのごくごく平穏な静けさなのである。何か企んでいるわけではない証拠に、あいつなら俺と話したければ授業中だろうが休み時間だろうがお構いなしに後ろの席からシャーペンで俺の背中をつついてくる。
 ただ、そこでハルヒがしゃべり出す話題が変わったのだ。
 いつ、とはっきり特定することはできん。しかし熱湯が冷水と混ざり合うように、ハルヒと俺の会話における意味不明な話題の割合が減ってきたことは確かだ。最後にハルヒと宇宙人談義をしたのはいつかと訊かれたら、俺は答えに窮するだろう。
 そう。おかげで俺はここ何週間か、頭に超がつくほどまったくフツーの高校生活を送っていたのだった。
 いや、こう言うと誤解を招きそうなので釈明しておくが、俺は別にフツーの高校生活だって何一つ不自由なんかしないんだぜ? 妹に叩き起こされてベッドから這いだし、鞄ひっさげて坂道を登って、睡魔と戦いつつそこそこ勉強もやり、昼休みには友人と共に購買へ出かけ、放課後はお遊びサークルでさんざん駄弁ってから夕日が沈む頃に家へ帰り着く。そんな生活だって俺は全然構わないのだ。構わないのだが、しかし、そのフツーの生活が何週間も続いた頃、何だかなあというなんとも形容しがたいモヤモヤが俺にたまり始めたのは肯定せざるを得ない。どうもパッとしないというか、毎日が薄っぺらというか。そんでもって、ふとした瞬間にハルヒが何かやらかしてくれないかなどとおぞましいことを考えている大馬鹿者(俺のことだ)を発見して、ぎょっとする。悪寒で背筋が凍り付く。そのたびに迷惑をこうむるのは百パーセント俺だってのに。
 それでも俺はちょっと期待してしまうのである。ここらで手頃な事件は起こらんものか。
 このところ、どうも涼宮ハルヒが静かである。 
  

 

 

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