「ウオエアエェェェェ………」
カラカラカラ。
「ペッペッ」
ジャーーーーー。
バタン。
「はぁ」
溜息をつき、よろよろとトイレから出る。
なんだってこんなことに…。
朝比奈さんのお茶があんなに不味いことなんて今まで無かった。誰かが毒でも盛ったのか?
…そんなわけあるか。
俺の舌がイカれたのかもしれない。
病気かも…。いや、どんな病気だよ。味覚障害じゃあるまいし。
朦朧と考えながら、部室に戻る。
俺が部室に入ると、小泉と朝比奈さんが俺の湯飲みを覗き込んだり、臭いを嗅いだりしていた。
長門はそれを突っ立って眺めている。
「あ。大丈夫ですか」
小泉が深刻な顔をあげる。
「ああ」
ゲッソリとした俺の顔を見て、朝比奈さんは泣きそうだ。
「だだだ、大丈夫ですかぁ…。やっぱり、わたしのお茶が…」
「いやいや。お茶じゃないですって。ちょっと腹が痛くなっただけですから」
「でも……」
しばらく考え込むように俯くと、決心したように顔をあげ、俺の湯飲みを引っ掴んだ。
「あ、朝比奈さん?」
と、そのお茶を飲みだした。
ゴクゴクゴク………。
呆然と見つめる3人の視線の中、朝比奈さんはお茶を飲み干す。
「ぷふぁあ……。なんともないです」
毒味をしてくれたらしい。
「でしょう?朝比奈さんのお茶が原因なわけがない」
「よかったぁ…」
胸をなで下ろす。ところがすぐに顔をあげ、
「あ、良くない…よね。大丈夫?キョンくん」
と心配そうに見上げる。
「大丈夫ですよ。たぶん食い過ぎです。今日、調理実習があったんで」
俺が必死にフォローすると朝比奈さんは「えへへ」と笑った。
かわいい。
冷静に考えれば、俺と朝比奈さんは間接キスしたことになる。
ラッキー。
そんなことを考えていると、小泉が椅子に腰掛けながらクッキーの袋を指さした。
「それも調理実習でつくったんですか?」
「ん?ああ。ハルヒがな」
「へェ~。おいしそう」
朝比奈さんが目を輝かせる。長門はさほど興味なさそうに本を読み始めた。
「食べますか?」
「え?いいんですかぁ?」
「大量にあるんで、構いませんよ。味は微妙ですが」
「わーい」
さっそく一枚取り出す。
「僕もいただきます」
小泉もクッキーを手にした。
「えす…おお…えす…『えすおーえす』って書いてあるんだぁ」
朝比奈さんは、まじまじと見つめながら声をあげる。
「これはまた。芸術的ですね」
小泉も微笑みながら興味深そうに眺め、一口。
「…」
「…」
「…どうだ?」
「えーと…おいしい…かな?」
「ええ」
どうやら不味かったらしい。
バタン!
突然扉が開かれた。
ハルヒだ。
「ったく、音楽室なんて毎日掃除することないわ!大切な時間を無駄にすごした!」
仏頂面で入ってきたが、すぐに顔を明るくさせる。
「あ。クッキー食べてるの?」
「ええ。とってもおいしいですよ」
白々しい笑みだ。
「でっしょー!私がつくったんだから当然よ!」
笑いながら団長席にドカッと座り込む。
その横で、朝比奈さんが笑いながらお茶を添えた。
「涼宮さんがつくったんですかぁ」
「ええ。またつくってきてあげるわ」
「わ、わぁ~い」
あからさまに喜んでみせている。
またつくってくるんなら、もっとマシなのにしろよな。
ふと長門を見ると、クッキーを眺めながらフリーズしている。
「どうした」
「…」
俺の問いかけに顔をあげると、無言で首をかたむけた。
なんだ?
「食いたいのか?」
「…いらない」
そう言うとまた窓辺に座り、本を読み始める。
朝倉といい、長門といい、そんなにクッキーが珍しいのだろうか。
続く。