放課後。
掃除当番のハルヒより一足先に、部室に到着。
コンコン。
「………」
返事は無い。
ってことは…。
ガチャ。
「よう。長門」
「…」
「お前だけか」
「…」
無表情のまま俺の顔を見る。
相変わらず感情表現が独特だな。
机の上に鞄とクッキーの袋を置いて、椅子を引っ張り出し「よっこらせ」と座る。
「今日、朝倉に誘われたよ。…いいのか?」
「…いい」
コクッとうなずくと、本に目を落とした。
相変わらず分厚い本読んでるな。そっちの方が長門らしい。
することもなく足をぶらつかせながら長門を眺めていると、ドアがノックで震えた。
「はい」
俺が返事すると小泉と朝比奈さんが入ってくる。
「どうも」
「こんにちわぁ」
オイ、なんで2人が一緒なんだ?
「たまたま階段で一緒になりまして」
…お前がタイミング計ってるんじゃねえだろうな。
「とんでもない」
笑いながら手を振る。
「偶然ですよ」
そう言いながら鞄を机に置き、部室の外へ出て行く。
俺もそれに続き、部室を出てドアを閉めた。
朝比奈さんお着替えタイムだ。いつのまにか、SOS団で習慣化されている。
「最近の涼宮さんは落ち着いていますね」
「そうか?」
「ええ。それはもう」
「俺には実感が無いがな」
「我々『機関』は痛いほど実感していますよ」
「…まあ、入学当初のツンツンしたオーラは消えたような気がしないでもない」
「でしょう?中学生時代とは比べものにならないほど、安定した学生ライフです」
「その一方で俺たちの学生ライフは安定しないがな」
「それも仕方がないことです」
「ハア……」
窓の外を眺めながらそんな話をしていると、『どうぞ~』と朝比奈さんの舌足らずな声が聞こえた。
ガチャ。
ドアを開けると、朝比奈さんが後ろに手を組み微笑んだ。
あ、天使がいる。
「えへへ」
もうメイド姿に恥じらいはないらしい。天使の微笑みを俺たちめがけて投げかけると、お茶の用意を始めた。
毎日見ているが、飽きないものだ。
俺が朝比奈さんのメイド姿を眺めていると、小泉がドミノゲームを取り出す。
「どうですか?」
「いいだろう」
やることなんてゲームくらいしかねえからな。
向き合って座り、サイコロをぶっ潰したような長方形を並べていく。
数分で勝負がついた。
「弱いな」
「いやあ。参りました」
こっちが参るよ。全然手応えがない。
「お茶どうぞぉ」
第二戦を興じていると、朝比奈さんがお茶を持ってきた。
「ありがとうございます」
丁寧に受け取り、一口。
……あれ?
「…」
おかしい。もう一口。
「…んん~」
…そんな…はずは…。
何故だ?
「……」
俺が深刻な顔でお茶を口へ運ぶ姿を不安に思ったか、朝比奈さんが不安そうにのぞき込む。
「ど、どうしたの?キョンくん」
「え?ああ、おいしいですよ」
「よかったぁ。すごく怖い顔してたから…」
「アハハ、すいません」
笑いながら、湯飲みを置く。
小泉と長門にお茶を配ってまわる朝比奈さんを見ながら、俺は冷や汗を流した。
朝比奈さんのお茶はおいしくなかった。
というより、不味かった。
否、あり得ないほどの不味さだった。
朝比奈さんのいれたお茶だからこそ「おいしい」と言ったが、そうでなけりゃ「こんなもん飲めるか」と吐き出してもおかしくない。それほど酷い味だった。
ん~……俺はうなりながら喉を鳴らし、お茶を眺めた。
後味で…口が…ヴ……ウエッ。
ガタッ!
たまらず立ち上がる。
「ふえっ!?」
「?」
「…」
3人が一斉に俺を見る。だが、そんなことお構い無いしだ。
俺は部室を飛び出し、トイレに走った。
続く。