※『宇宙人じゃない長門』の設定です

 

「何つくる?」

朝倉が問う。

「焼き魚でいいんじゃねえか」

谷口が素っ気なく答える。

「安っぽい。最低。もっとマシなの考えなさいよ」

ハルヒが反論。

「だって魚使わなきゃならねえんだろ?焼き魚以外なにがあるんだよ」

谷口も反論。

「例えば…鯛のポワレとか」

「はァ?そんなイタリア料理みたいなのつくれるかよ」

「フランス料理よ!」

ハルヒの威嚇に谷口は肩を竦め、俺の方を向く。

…しゃーない。

「いいだろ。調理実習なんだし。高校生らしいのでいこうぜ」

俺が谷口をフォローする。

そんなこんなで、かれこれ15分。一向に意見がまとまらない。

何をそんなに議論しているのかというと…。って、もう答え出てるな。

調理実習である。

4人1班で飯をつくる。テーマは『バランスのとれた魚料理・夕食編』だそうだ。

で、俺たちの班は俺、ハルヒ、谷口、朝倉…となった。

くじ引きで決定したのだが…、たぶんハルヒの力が発動したのだろう。俺とハルヒは離れられないのか…。

「ポワレはいいけど…私たちの班、『鰯』だし…」

白紙のプリントを前に、朝倉が溜息をつきながら三人を見回した。

問題児三人に手を焼き困り果てた母親のようだ。

「なんでジャンケン負けたのよ!谷口のアホ!」

「し、知るかよ。時の運だ」

谷口がジャンケンに負け『鰯』を選ぶ羽目になったのも、ハルヒが谷口に対して微塵も期待していなかった結果か。

「なあ。そろそろ決めちまおうぜ」

こんなことしてても決まりそうにない。

にらみ合っている二人の間に入り、発言した。

「『鰯』なんだろ?つみれ汁とか、イワシバーグとか。そんなんでいいだろ」

そう言って朝倉に目配せする。いいから書き込んじまえ、という合図だ。

「そうね。無難だし」

そう言って、さっさとプリントに書き込む。

「ありきたりねぇ…。まあいいわ。焼き魚よりは。朝倉。ちょっと貸して」

あまり納得していないようだが、聞き分けがいい。

朝倉からプリントを受け取ったハルヒは、『メニュー』の欄に何かを書き足した。

三人がのぞき込む。

「はあ?」

「え?」

「オイ…」

三者三様の声をあげる。

そこには『クッキー』と書かれていた。

「じゃ。提出して」

「コラ待て」

俺はすかさずツッコミを入れた。

「クッキーてなんだ?」

「知らないの?クッキー」

「知ってるよ。小麦粉を用いオーブンで焼き上げた洋菓子であることは重々承知だ。なんでクッキーなんだと聞いてるんだ」

「なんとなく。つくりたかったから。はい朝倉」

さも当然のように言ってのけた。

プリントを受け取った朝倉は苦笑いを浮かべながら席を立つ。

『バランス』『夕食』『魚料理』どれにも当てはまらん。

…まあ、今更始まったことじゃない。

思いつきで行動するのがコイツだからな…。

ハルヒは満足そうに頬杖をつき、窓の外を眺めた。

「なんでクッキーなんだよ」

谷口が小声で俺に耳打ちする。

「知らん」

バレンタインでも、ましてホワイトでもない。

ただ単に菓子づくりに興味持っただけだろ。オンナってのはそういうもんさ。

「俺、料理なんてしたことねえよ」

「奇遇だな。俺もだ」

そんなバカ話をする。

このとき、まだ俺は知るよしもなかった。

何を?

決まってる。ハルヒがらみの騒動に巻き込まれることを…だ。

 

 

 

次の日。

「ああん。そうじゃないわ。もっと…こう…」

「こ、こうか」

「不器用ねぇ。…いい?ココを…こう」

「…こんな感じか?」

「そうそう。いい形」

端から聞いていると、ナニをナニしてるように聞こえる。

そんなわけない。

谷口と朝倉がイワシバーグをつくっているのだ。

フッ。

俺がキザに笑うと、国木田が声をかけてきた。

「どうしたのキョン。変に笑って」

「いやな。谷口だよ。アイツ、散々文句言ってたわりに真面目にやってやがる」

「ああ。朝倉さんの前だからじゃないかな。そういう奴だよ」

「根はいい奴なんだがな」

「そうだね」

「お前、自分の班はいいのか?」

「女子が頑張ってくれるから、男子の出る幕無しだね。その点、朝倉さんはいいよ。男子にも気を利かせてくれるだろ?」

「ああ。そうだな。俺は何もしてないが」

「ハハハ」

「ハッハッハ」

「ちょっとキョン!あんたの仕事はコレよ!」

俺がぼんやり国木田と内容が薄い話をしていると、ハルヒが喝を入れてきた。

「クッキーの生地!こねるの手伝いなさい」

「あいよ」

しかたなく返事をし、のそのそとクッキー生地を練り始める。

お菓子づくりなんてして何が楽しいんだろうな。食うほうがよっぽど面白いわ。

「こんな感じか?」

「ん~…まあいいわ。じゃあ形つくりましょう」

「カタは?」

「自分で成形するの!」

なんで変なところで凝るんだよ。

生地を丸め、それから潰すようにしてはんぺんみたいにする。

「なんか形がイワシバーグとかぶるな」

「いいわ。ちょっと広いほうがデコレートしやすいし。これ全部ね」

そう言うと、ドンッ、と大量に生地が入ったボールを置く。

「…俺のつくった生地と違うぞ」

「小泉くんに相談したら用意してくれたの。学校が出してくれる材料じゃ足りないから」

小泉……。

「どんだけつくるんだよ」

「できうる限り」

「おま……」

溜息をつく。

こんなにつくって、鰯かクッキーか、どっちがメインだか解らんぞ。

「いいのよ!つべこべ言わないでやんなさい!」

それから、俺は機械作業のようにクッキーを成形しつづけた。

なんかもう何が自分の意思なのか解らなくなってきたころ。

「終わった…」

やっとつくり終えた。

「上出来。んじゃ後はやるから。あんたはつみれ汁の火加減でも見てなさい」

そう言うや否や、もう自分の世界に入り込んでクッキーに字を書いている。

ありがとうの一言もなしかよ。

俺がコンロのそばで突っ立っていると、谷口がやってきた。

「災難だったな」

お前に言われるとイラッとくるのは何故だろう。

そういうお前はどうなんだ。

やたらニタニタしている谷口に、ぶっきらぼうに聞いた。

「いや~。俺、料理の才能あるかもしれねえよ。朝倉に『上手』って褒めてもらったぜ」

……悲しいこと…言うなよ。

初体験で年上の女性に褒めてもらったような笑顔を見せる谷口を哀れに思い、俺は温かい目を向けてやった。

 

続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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