目が覚めた。

「…」

起き上がる。

どうやらベッドに寝転びながらウダウダしているうちに寝てしまったらしい。

窓の外を見ると、空が赤くなっていた。もう夕方だ。

あ~……、せっかくの日曜日を無駄に過ごしてしまった気がする。

「寝るという行為は幸福の象徴」と言う人がいる。俺も賛成だ。

だが、眠くもなかったのに寝てしまった場合の睡眠は幸福のうちに入らない。

起きたときの「よく寝たァ~」という清涼感は皆目無く、無闇に口の中がネトネトして身体全体が怠いだけだ。

寝て疲れることほど生産性の低い行為は無い。温泉行って疲れて帰ってくるようなもんだからな。

自分でも解るほどの仏頂面で、頭を掻き、涎を拭う。

腹減ったなァ………。

ブブブブッ

「お?」

ケータイが鳴った。

誰だ?

ブブブブッ

めんどくせえな、と思いながらも重たい腰を上げケータイをとる。

発信者を確認せずに電話に出た。

「あい?」

寝起きのせいで発声がバグった。

改めて言い直す。

「はい?」

「………」

無言。

だが、俺はその無言に覚えがあった。

おそらく受話器の向こう側にいる人物は…。

「長門か?」

「…話がある」

長門の声だ。

話?

「家に来て」

長門………。

「わかった。すぐ行く」

言って思い出した。自転車。

「悪い、ちょっと遅れる。いや…だいぶ…、とにかく待ってろ」

俺は電話を切り。部屋を出ようとして、ストップ。

隅に置かれた紙袋に目が行く。

…勢いで買ってしまったが……。持っていこう。そのために買ったんだからな。

紙袋を引っ掴んで階段を駆け下りた。

クソ、長門のマンションまで自転車を飛ばして20分かかるかどうかだってのに…!

また俺の足が死ぬ羽目になる。

リビングにいる母親と妹に「ちょっと出かけてくる。夕飯はいらないから」とだけ言い残し、俺は家を飛び出した。

 

長門のマンション。

しんどかった。今日一日でどんだけ歩いたんだ俺は。

息を整えながら、セキュリティーシステムの前に来る。

…708号室…だったな。

『…』

出たのは無言の長門。

「俺だ」

言った瞬間にドアが開かれる。

意外とすんなり開いた。まるで、待ち構えていたかのように。

長門の部屋に向かう途中、俺は長門の『話』とやらのことを考えていた。

『話』の内容。見当はついている。

何故だか胸が落ち着かない。ドキドキしてるのか?俺。

落ち着かない気持ちのまま、部屋の前に着いてしまった。

「…フゥ」

息をつき、インターホンを押す。

ガチャ

「よう」

長門は、相変わらずの無表情で俺を迎えた。

「入って」

中に入り、リビングに通される。

すると、そこには先客がいた。

「こんばんわ」

朝倉だ。

「お前も来てたのか」

もしかしたら居るかなと思ってはいたが、少し驚く。

「そう。長門さんの『話したい事』っていうのは、私にも関係があることだから」

首を傾け、手のひらを合わせながら言う。

「お前にも?」

「ええ。…とりあえず座ったら?」

リビングの入り口で突っ立っていた俺に笑いながら言った。

俺が座ると、長門がお茶を持ってきた。

「サンキュー」

俺がお茶を受け取ると、向かい合って座る。

「…」

無表情で俺を見つめる。

朝倉も、微笑みながら俺と長門を見つめるのみで、何も言ってこない。

とりあえずお茶を一口飲み、切り出した。

「話…って、なんだ?」

「私の正体」

「…」

やっぱり…な。

「以前、あなたに話した事と一部重複する部分がある」

長門は続けた。

「情報の伝達に一部齟齬が生じるかもしれない、でも聞いて」

まっすぐな目で俺を見つめてくる。

何故、今になって話すのか。解らないが、長門が話してくれるのならば、それでいい。

「わかった」

俺も長門の目を見る。

「話してくれ」

「…」

しばらく黙っていた長門だが、やがて静かに語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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最終更新:2010年04月17日 22:14