「わたしはこの時代の人間ではありません。もっと、未来から来ました」
そう言うと朝比奈さんはいつにない真剣な表情で俺を見上げてくる。
「いつ、どの時間平面から来たのかは言えません。言いたくても言えないんです。過去人に未来のことを伝えるのは厳重に制限されいるの」
慎重に言葉を選んでいるようだ。時々考えるように空を見上げる素振りをしながら、丁寧に話す。
「だから必要最低限のことしか話さないし、言おうとしても自動的にブロックがかかります。そのつもりで聞いて下さい」
今朝。
俺が駅に到着すると、もうすでに皆が集まっていた。
昨日のハルヒの「遅れたら殺す」宣言に、じゃあ早めに行くかと自転車をかっ飛ばして来たのだが、どうやら俺の時間感覚は遅れをとっているらしい。
「遅い」
いや、まだ集合時間5分前だろ。
「他のメンバーを待たせておいて言い訳?そもそも団長であるわたしより遅れてくる神経が知れないわ!自らの欠礼を詫びなさい!」
俺はお前に詫びの一発をかましてやりたい。集合時間に間に合ってこの言われようは酷くないか?…だが朝比奈さんと長門を待たせたのは気後れするな。とりあえず謝っておく。
「いいえ、わたしも今来たところですからぁ」
土曜の私服姿の朝比奈さんは反則級のドストライク。もうこの笑顔を見れただけで、ここまで来た苦労が報われたように感じる。
「…」
長門はいつもと同じセーラー服姿。俺を見上げる無表情もいつも通り……のはずだが、……いつもと違うような気がする。どこか不安げで…なにか悩んでいるような…そんな気がした。わずかミクロン単位の話だが、長門の表情の変化に俺は気づけるようになっていた。……まあただの気のせいかもしれないが。
「おはようございます」
小泉の微笑みも、私服姿だとイヤに映えるな。うっとうしい。
「さ!そろったことだし、まずは喫茶店に入りましょう。キョン!あんたの奢りよ」
奥まった席に怪しい五人組。
まったく、青春まっさかりの高校生のすることじゃない。
「はい!ひいて」
唐突にそう言うと、ハルヒは五本の爪楊枝を突き出した。
どうやらくじ引きで組み合わせを決めるらしい。
五人ってことは二人グループと三人グループか…。
ハルヒと二人になったら終始振り回されることになるだろう。それだけは勘弁願いたいね。
小泉が引く。印無し。
朝比奈さんが引く。印あり。
長門が引く。印無し。
よし!ハルヒと同じグループはまぬがれた。
印ありを引けば朝比奈さんと…二人。
「はやくひきなさいよ!」
ハルヒがイライラしたように催促してくる。
右か左か?ええいどっちだ!?
……そこか!
俺は右の爪楊枝をとった。
…………印あり。
っしゃあ!やったぜ父ちゃん!明日はホームランだ!
「ふむ、この組み合わせね……」
なぜかハルヒは俺と朝比奈さんを交互に眺めて鼻を鳴らし、
「デートじゃないのよ。真面目にやりなさい。いい?」
「わあってるよ」
そう言いながらも俺は脳内でビールファイトしていた。
「具体的に何を探せばいいんでしょうか?」
小泉が聞く。
目を向けるとその横で長門は無言でコップを傾け、氷に唇を当てフリーズしている。
…なにしてるんだ。
「とにかく不可解、疑問、謎、そういう類のものならなんだっていいわ。そうねえ…たとえば空間の歪みとか、地球人に変装したエイリアンとか」
そこで長門がピクッと反応した。
やっぱ好きなんだな。そういうのが。
「未来人とかも大歓迎よ」
こんどは朝比奈さんが反応した。ガタッと椅子をゆらす。なんだ?
「なるほど」
と小泉。
笑ってるけどお前。わかってるのか?
「ようするに、涼宮さん当初の声明発表に準ずる功績を目指せばいいわけですね?」
声明発表…「宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶ事よ!」…か。
そういやアレを聞いた日、長門の栞(呼び出しメッセージ)に気づいたんだよな…。
ってか、あれを目指すのか?
「そのとおり!目の付けどころがいいわね小泉くん!キョン、あんたも見習いなさい」
あんまり小泉を褒めるなよ。増長するぞ。
「んじゃ、そろそろ出発ね!」
そう言うと、伝票を俺の胸に押しつけ、
「行くわよ!有希!小泉くん!」
ズカズカと店の外へと消えていった。
「では後ほど。ああ、ごちそうさまです」
小泉は笑顔で会釈し、
「…」
長門は無言で去っていった。
さて、横を見ると朝比奈さんが手を振って三人を見送っていた。
どうするか…。まさか馬鹿正直に不思議を探すわけにもいかんだろうし、せっかく朝比奈さんとデーt、もとい市内探索できるんだ。無駄に時間をすごしたくないな。
そんなことを考えていると、
「あの」
朝比奈さんが声をかけてきた。
「あ、はい」
「ちょっと…話したいことがあるの。」
話したいこと?なんですか?
「ここじゃちょっと……どこか、公園でも歩きません?」
喜んで。