長門と俺。

特に話すこともなく、ボーッとしていると、

コンコン。

弱々しいノックがドアを震わせた。

思わず口が緩む。

このノックは……

「失礼しまぁす」

朝比奈さんキター。

愛しのマイエンジェル。朝比奈さんの降臨である。

まともな活動と呼べるようなことをロクにしないようなSOS団部室へ毎日毎日足を運ぶ理由。その一つが朝比奈さんの笑顔。朝比奈さんの出すお茶だ。これだけが楽しみだと行っても過言ではない。

ところが、近頃の朝比奈さんはどこか元気のないように見受けられる。

俺や他のメンバーに話しかけるときはいつもの朝比奈スマイルなのだが、時折ふと朝比奈さんを見ると、どこか考えるような、疲れた表情をしているのだ。

なにか考え事でもしているのかなと思い聞いても、「そんなことないですよぉ」と笑っている。

俺の思い過ごしかと考えなおしてみるものの、やはり気になってしまう。

「あのぉ」

脳内で朝比奈さんが落ち込んでいる理由を討議していた俺に、朝比奈さんが声をかけてきた。

「はい?なんでしょう」

「着替えたいの…だから…」

「ああ!すいません」

律儀な人だよ。ハルヒのお申し付けをきっちり守るんだからな。

でもメイド姿を拝めることは俺にとって歓喜すべきことであり、案外本人も気に入っているようだ。

メイド系の漫画を読む姿をよく見るからな。

部室の外で一人突っ立っていると、

「どうも」

小泉が階段をあがってきた。

「よう」

相変わらずの小泉スマイル。同じスマイルでも朝比奈スマイルとは全く別物だ。俺は断然朝比奈スマイル派。朝比奈スマイル信者。

「涼宮さんはもう在室しているんでしょうか?」

ハルヒか?まだだが。

「そうですか」

なんだ?ハルヒが気になるのか?

「いえ、まあいろいろと…ね」

困ったような微笑をたたえる。

「この頃の涼宮さん…どう思われますか?」

どうって…。

「変わったような様子は?」

「あいつはもともと変わってるからな。『宇宙人、未来人、超能力者を探して一緒に遊ぶ』なんて普通の人間は言わねえだろ」

「そういうことではなく…」

どこか深刻そうな顔だな。

「まあ……、最近やけに不機嫌だな。いつも憂鬱そうにしてるが、ここ最近はとくに…」

「やはり。そうですか」

納得したようにうなずいている。

「なんだ?ハルヒが不機嫌でなんか困るのか?」

「いえ。今はまだ…なんとも言えませんね」

何が?

「話すべき時がきたら話しますよ」

意味深発言だな。漫画とかに出てくる謎キャラが言う台詞だ。

「ところで…、長門さんや朝比奈さんから何か『話』をされませんでしたか?」

話?

「ええ」

…いや…とくには。

「長門さんから何も聞きませんでしたか?」

だから。聞いてないって。

「ん~…そうですか。」

また考え込むようなモーションをとる。

なんなんだよ!気になるだろ!ってかなんだ、その『話』ってのは。

「気になさらないでください」

そう言って、また微笑をたたえた。

「どうぞぉ」

同時に、ドアが開かれた。

「着替え終わりましたぁ。あ、小泉くん」

「どうも」

何事もなかったかのようにそそくさと部室に入っていきやがる。

伏線ばかりでストーリーを進ませようとしない作家に対してのと似たような怒りを感じるぜ。

「おい小泉。気にするなって方が無理だろ」

結果は見えていたが、少し追求してみることにした。

「いえ、お気になさらず」

食えない笑みを浮かべる。

こうなったら意地でも聞き出したくなったな。そう思ってどう責めるかプランをたてていると、

「はい。お茶でぇす」

朝比奈さん至極の一杯だ。

小泉のことが一瞬でどうでもよくなった。

話さないのなら『話すべき時』とやらを待つさ。今はこの朝比奈ブランド茶に集中する。

俺が小泉とオセロをしながら、長門は本を、朝比奈さんは漫画を読んでいる、静かな時が部室を流れる。

平和だなぁ。

だがその平和も長続きしない。

俺が朝比奈ブランド茶を飲み終えるころ。

バンッ!

ドアが勢いよく開かれた。

「お待たせ!」

待ってねえわ。

ハルヒが意気揚々といった感じで入ってきた。

最近の憂鬱っぷりが嘘みたいだ。

「元気だな」

皆が唖然と(まあ小泉は微笑をたたえ、長門はもともと黙ってて、朝比奈さんくらいか)してハルヒを見ているので、俺が第一声をかけることにした。

「ふふーん。いいこと思いついたの!」

いいこと?それって俺たちにとっては悪いことじゃないか?

「あれ?有希メガネ外した?」

今更ながらハルヒが気がつく。

長門がコクッとうなずいた。

すると朝比奈さんも気づいていなかったらしい。

「あ。ほんとだあ」

と声をあげる。注意力散漫も朝比奈さんの魅力だ。

「せっかくの眼鏡属性が…。まあいいわ!そっちのほうがかわいいかも!」

ところで何を思いついたんだ?

「そうだった!」

そう言うとマジックを手に取り、声を張り上げた。

「次の土曜日!」

そう言いながらホワイトボードに字を書き殴る。

「し…ない…たんさ…くっと!」

ドンッ!

ホワイトボードを平手でぶっ叩く。

いちいち五月蠅いヤツだ。

「市内探索するわよ!」

「するんですかぁ」

意外にも、真っ先に声をあげたのは朝比奈さんだった。

なんか嬉しそうだ。

「そう!するわよ!」

ハルヒも嬉しそうだ。

「おい」

朝比奈さんが、何故だか解らんが、賛成らしいから異論はない。だが聞いておくべきだろう。

「なに?」

「何を探すんだ?」

「決まってるじゃない!」

そう言うと、腰に手を当て胸をはり答えた。

「この世の不思議をよ!」

……だと思ったよ。

「今までわたしたちはいろいろやってきた。ビラ配り、ホームページのたちあげ、校内放送、ポスター、ちんどん屋。おかげで校内において我々SOS団の名は知れに知れ渡り、今や知名度NO,1!と言っても過言ではないわ」

だろうよ。

あれだけやって知名度があがらなかったらびっくりだ。

「ところが!不思議と我が団には世の中の不思議に関するメール、相談等が舞い込んだためしがないわ!」

活動内容もよくわからないような謎の団に相談はしたくないだろう。俺だったらしない。第一、まだ部活として認められてないし。

そもそも不思議なんてそう簡単に見つかるもんじゃない。

「ここで反省点!はいみくるちゃん!」

「ふぇ!?」

いきなり指名され、朝比奈さんは目を白黒させた。

「え、えーとぉ……自分たちから行動しない…から…ですか…?」

「そのとおり!」

朝比奈さんはホッとしたように胸をなで下ろした。かわいい。

「家宝を寝て待っていたから、この状況。みんな反省しなさい」

しねえよ。お前一人でしてろ。

「そうね、一番反省すべきはわたしだわ。なんでこんな簡単なことに気づかなかったのかしら!」

気づかなくても良かったんだがな。

「とにかく!土曜日!明日よ明日!朝9時に北口駅前に集合、遅れたら殺すわよ!」

殺されてたまるか。

言い終わるとハルヒは全員を見渡す。

俺は仏頂面を浮かべ、小泉は笑ってやがる、長門は無表情、朝比奈さんは嬉しそうにうなずきホッとしているようだ。

朝比奈さんはお出掛け好きなのだろうか。

「じゃあ今日は解散!」

そう言うとハルヒは意気揚々と去っていった。急に部室内が静かになる。嵐みたいなやつだ。

とりあえず気になっていたことを聞いてみる。

「朝比奈さん。嬉しそうっすね」

「ええ!?そんなことないですよぉ」

いやいや、どう見たって。まあすぐ顔に出ちゃう馬鹿正直な感情表現も魅力のひとつなのだが。

「では、お先に失礼しますよ」

食えない笑みを浮かべながら小泉が部室から出て行く。

あいつの話…なんだったんだろうな…。

「…」

ん?

気づくとすぐ真後ろに長門が突っ立っていた。

無表情でコッチを見上げてくる。

「…」

「…やっぱり眼鏡外して正解だぞ」

「…」

「…」

「…そう」

そう言うと長門はフラッと出口に向かい、

「じゃあ。明日」

そう言ってフラッと出て行った。

褒め言葉を待っていたのだろうか…。

長門と知り合って何度かコミュニケートをとってきたが、アイツが何を思っているのか、イマイチ解らないな。

「あのぉ」

はい?

「着替えたいので…そのぉ」

失敬。

「お先に失礼させていただきます」

深々と頭を下げ、俺は部室を飛び出した。

朝9時か……遅刻したら殺されるから、早めにいったほうがいいだろう。

どうせ市内を探索したって、なにも見つからないだろうな。

というか、見つからないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


|