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朝。

我が高校、最大の難点と言える『坂道』をえっちらおっちらと登っていると後ろから声をかけられた。

「ようキョン」

聞き覚えのある声だ………って、まあ毎朝声をかけてくるのはコイツぐらいなのだが。

無視してもよかったのだが、流石にな。

「谷口か」

たかがアホの谷口の為に首を回す労力をつかいたくない。横目で視線をおくると意地汚い笑顔を見せる谷口の顔があった。

「なんだ?元気ねえな」

朝の坂道だからだよ。お前は無駄にテンションが高すぎる。

「近頃はちょっと五月蠅いぐらいの男がもてるんだ」

嘘付け。それにお前は「ちょっと」ではなく「至極」だ。

「へへへ。ところでキョン。お前長門とはどうなんだ」

……またそれか。

「しつこいぞお前」

「へへへ」

くそ。あの日以来、なにかとこのネタを引っ張りやがる。

あの日。

朝倉にナイフをちらつかされたあの日だ。

一騒動の後、朝倉が教室に日誌を届けに行き……(何事も無かったかのように「日誌出してくるから」と言われたときは驚いた。「だってわたし今日当番だもの。教室の戸締まりついでにあなたを呼んだの」。殺人未遂と日直のお仕事を併行させるとは、どういう神経してるんだ…)俺と長門は先に下駄箱へ向かったのだ。

忘れ物を取りに戻った谷口はそこを目撃した。

次の日から「あの長門とお前が」とかゴタゴタと五月蠅いのだ。

最初は俺もいろいろと言い訳していたのだが、もうめんどくさくなって、最近は「ああ…」とか「まあな」とかそつない返事で流していたのだ。

「お前は隙がねえからな。イジれるときにイジらねえと」

「アホ」

馬鹿野郎と馬鹿話を興じていると、いつのまにか校門の前まで来た。

「坂道を登る苦」に「谷口につきあう苦」が勝ったか。注射をする箇所を叩いて麻痺させると注射が痛くなくなるのと同じ原理か。

そんなことを考えていると谷口が声をあげた。

「おお。長門じゃん」

前方に、こっちに向かって歩く長門の姿があった。

…あれ?

「おいキョン」

谷口も気づいたらしい。

眼鏡がない。

長門は眼鏡をかけていなかった。

「イメチェンかなんかか?」

長門がイメージを気にするとは思えないがなあ。

裸眼長門は無表情のまま校舎内へと消えていった。

「お前がなんか言ったんじゃないか?」

言ってねえよ……。…言ってないよな?

 

 

「言ったわよ」

朝倉が答えた。

「言ったか?」

「昨日。覚えてないの?」

覚えてない。いや、何をしたかは覚えてるぞ。長門に「眼鏡はずせ」なんて言った覚えがないんだ。

昨日。

昨日は長門家で夕飯をごちそうになった。

と言っても飯をつくったのは朝倉で、俺と長門は終始テレビの宇宙人特番を見ていたのだが。

あの日以来、たまに俺と長門と朝倉という謎の連みが長門のマンション限定で発動されるのだ。

別に何をするでなく、ちょっと部屋にあがってTV見るか漫画読むかだが。

その時、俺が長門に「眼鏡はずせ」と言ったのだと朝倉は言う。

「ん~…」

言った…ような……言ってない…ような…。

ダメだ。思い出せん。

「一緒にご飯食べてるときよ。『お前目が悪いのか?』って、聞いてたじゃない」

……ああ。聞いたような気がする。

「そしたら長門さんが『別に』って」

そうだ。思い出した。

長門がテレビの真ん前で画面を凝視してたから近視なのかと思って聞いたんだ。

 

「別に」

「じゃあなんで眼鏡してるんだ?」

と聞きながら思い出した。そういや「伊達眼鏡式ダウジングマシン」だったなそれ。

「それ誰からもらったんだ?」

「わたしがあげたの」

朝倉が?

「そう。気に入ったのね長門さん」

長門はコクッとうなずいた。

「パチモンじゃないのか?」

「失礼ね。カナダの宇宙人研究してる知人に貰ったものよ」

ますます怪しいもんだ。

「そんなもんつけてないほうがいいと思うけどな」

 

言った。

「ね?」

朝倉が首をかしげ微笑んだ。

「言ったけど…な」

別に俺は深い意味で言ったんじゃないんだがな。会話の流れにのっかって「はずしちゃえよ~」みたいなノリだ。

強制したつもりは…

「鈍感ね」

何が?

「あなたを誘ってるのはわたしだけど、誘おうって言うのはいつも長門さんよ?」

宇宙人候補としての俺に興味があるんだろ。

「それだけじゃないと思うなぁ~」

「なんだよそれ」

訝しがる俺の顔を見て朝倉はクスッと笑った。

「とにかく。責任はとってね」

 

責任をとれと言われてもなあ…。

自分の席に戻るとハルヒが不機嫌そうな顔を向けてきた。

「なんだよ」

「何話してたの?」

興味なさそうに聞いてくる。

朝倉とか?

「別に。社会情勢とか近代における日本経済のありかたとか」

なんとなくホラを吹く。

「バカ」

それだけ言うと、ハルヒは窓の外に視線を移し、憂鬱オーラ全開にした。

なんだよ。ここ最近、ハルヒが異様に不機嫌だな。

朝比奈さんもなにやら落ち着かないし……小泉は変わらんが。

なんか俺の知らんことで問題でもあるのか?

…考えすぎか。

 

放課後、部室に行くと長門オンリーだった。

眼鏡をしていない以外は変わった様子はない。

相変わらずの無表情、窓辺の椅子に腰掛けて本を読んでいる。

「よう」

声をかけるとわずかに顔をあげ俺を一瞥し、また本に目を落とす。

…どうしたもんかな。

朝倉に「責任をとれ」と言われたが…。

…。

「なあ長門」

長門がまた顔をあげる。

「その…だな」

「…」

「似合ってるぞ」

無表情。

「眼鏡がない方がいい。俺には眼鏡属性ないからな」

「眼鏡属性って何?」

「いや、なんでもない、と、とにかく、似合ってる」

「…」

「…」

「…そう」

そうつぶやくと、また本に目を落とす。

これでよかったのだろうか。

「責任」の意味がいまいち分からないが、俺のあの言葉で長門が眼鏡をはずしたのは間違いないらしい。

「それだけじゃないと思うなぁ~」。朝倉の言葉が頭で響いた。

長門にどういう心境の変化があったのか解らないが、長門の人間らしい一面を見れた。

人間なのだからあたりまえか。

それに…長門の素顔は可愛いな、と思った自分がいたのは事実なのだ…。

 

 

 

 

 

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