ある日の放課後。文芸部室には俺と長門だけである。ハルヒは掃除当番、朝比奈さんは進路相談があるとか言ってたな。小泉は知らん。

とくに何をするでもなくボーッとしていると、ふと長門の熱い視線に気がついた。

なんだ?

「なんでもない」

そう言うとおもむろに立ち上がり、本棚へ向かう。

まったく足音を立てないウォーキングスタイルだ。体重あるのか?

窓辺の指定席に戻ってきた長門の手に本はない。

「…」

どうやら俺を観察することに集中したいらしかった。

まいったな…。なんか宇宙人的な行動をとってやった方が喜ぶんだろうが…。

「…」

「…」

まだかな…朝比奈さん…。

「…」

「…」

…小泉…お前でいいから早くこい。

「…」

「…」

視線が痛いよ。

場が保たん。

何か話すか。

とりあえず前から気になっていたことを話題にあげた。

「なあ。長門」

「…」

「有機生命体の『有機』ってつまり、生命力を有するって意味だよな」

「そう」

「じゃあ、情報…正当…違うな…なんだっけ?」

「情報統合思念体」

それだ。

「その情報統合思念体は無機生命体なのか?」

「…」

長門が押し黙った。まあもとから黙っているのだが。

俺は続けた。

「無機生命体って、つまりは『生命力を有さない生命体』ってことだよな。それって矛盾してると思うんだが」

「…以前わたしは『情報統合思念体に生死という概念はない』と言った」

ああ。言ってたな。

「つまり情報統合思念体は生きているのではない。同時に、死んでいるのでもない」

また矛盾だな。どういうことだ?

「『存在している』というだけ」

『存在している』=『生きている』じゃないのか?

「違う」

よくわからん。いや、さっぱりわからん。

「つまり情報統合思念体は無機生命体なのか?」

またこれに戻った。

「……違う」

なんか歯切れが悪い(ような気がする)。

「言葉ではうまく説明できない。齟齬が生じる」

困ったような表情(でも無表情)を見せる。

「有機生命体でもない。無機生命体でもない」

じゃあなんなんだ?

「情報統合思念体は生命力を保つと同時に、生命力を否定している」

…つまり。また矛盾だな。

なんかお前の説明、矛盾のオンパレードだぞ。

「無矛盾な公理的集合論は自己そのものの無矛盾性を証明することはできないから」

早口にそう言うと、もう話は終わりと言わんばかりに立ち上がって本棚へ向かう。

それとほぼ同時にドアが凄まじい勢いで開かれた。びっくり箱か。

「おまたせ!」

待ってねえよ。

「遅れてすいませぇん」

いや~待ってましたよ。

「これはこれは。遅れてすいません」

ノーコメント。

さて、今日もSOS団の謎の集会が始まったわけだが…。

なにやら長門の無表情が不機嫌そうに見える。

宇宙人第一候補である俺が宇宙人を否定することが気に入らないのか。

「矛盾のオンパレード」なんて言ったのがまずかったか?

分からないが、なんか対長門のご機嫌取りを考えたほうが良さそうだな。

あいつは何をされると喜ぶんだろう。そんな余計なことを考えながらでもボードゲームで小泉に負けることはなかった。

お前ほんと弱いな。

 

 

 

 


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