ここからはエピローグになる。早いものでもう十二月の中旬過ぎ、終盤前だ。活気のない文化祭が終わってからもう数週間が経つ。

「このくらいの季節だったよな」

何が?

「お前と相合い傘で帰ったの」

ば、ばっかじゃないの! 傘が無かっただけじゃない!!

「ほう、じゃあ職員用の傘が一本しか無かったってのか?」
「ぅぐ……」

余計なことばかり覚えているものだ。何故その能力を試験勉強に使わない?

「今回は良かったじゃね~か。お前や古泉には遠く及ばんが、俺のランキングは急上昇だ」

あたしが教えたおかげでしょうが!!もっと感謝しなさい!!

「ああ、ありがとうよ」
「うっ……」

そんな顔で……笑うな……バカ。





この何の変哲もない県立高校でこんなことを望むのもあれだが、廊下にエアコンでも設置するくらいの配慮は無いのだろうか? いや、その前に部室か。……というか、まずは掃除当番の仕事量をどうにかしてもらいたいものだ。近くの私立高校では掃除はすべて外部の業者がやっているらしいし。

「意外と手抜きらしいぞ。それに、机の中に物を入れて帰ったら担任に報告が上がって翌日その生徒は大目玉を食らうらしい」

ああ……それは嫌……って、何でそんなこと知ってんのよ?

「中学の時のクラスメイトが通ってるのさ。なかなか大変らしいぞ」

あそこ女子高じゃない!!

「だから何だよ……。俺にだって女友達の一人や二人……はいないな。そいつだけだ」

……その子名前何て言うの?

「………」

……何よ?

「嫉妬か?」

違うわよっ!!あんたみたいな人間と友達だったってことはその子もきっと平平凡凡とした子だったんでしょうねって言いたかったの!!国木田みたいにね!!

「人の友達を貶すなよ」

だってそうじゃない!この際だから言っとくけどね、浮気なんかしたら死刑よ死刑!全身の毛穴という毛穴に爪楊枝を刺し込んでやるわ!!

「うげ……浮気は無いから心配するなと宣言しておくが、ハリセンボンの刑から逃亡する準備は整えておく事にする」

逃がさないわよ!!

「逃げね~よ」

………もう。

 




もうこの階段を上るのも何度目の事か。上ぼる度に幸せが少しずつ近付いた魔法の階段。一人増え、また一人増えして五人という大所帯を居座らせる事になった元文芸部室。ドアを開ければそこにある日常。今となっては非日常が仮面を被っていたと理解できるが、それを知らなかった頃のあたしは一体どんな顔をしてその日々を送っていたのだろうか。


「おっ待た」

威勢よく出たのはそこまでだった

「せ」

と、あたし。

「ぇ~………」

と、続く。

フェードアウトして行く声。どこまで続いたかは定かでないが、モスキート音まで行っていない事だけは確かだ。デクレッシェンド後、緩やかにビブラートを保ちつつ、一気に絶句。

「あひゃっ!!」

と顔を赤らめて後退する名誉顧問。時既に遅し。

「そ、掃除当番じゃ~なかったのかにゃ……?」

SOS団の団員が二人も居て通常より早く終わらない理由など無い。

「ノ、ノックぐらいしておくれよぉ~……」
「まったくです」

と、顔色を変えずに笑顔で副団長。以前よりもずっと素敵になった、と付け加えてもいい。勿論、笑顔がだ。

「でも部室でキスなんて………何だか谷口の気持ちが分かりましたよ……」
「……にょろ?」
「あ、こっちの話です」

そう言って鞄を定位置に置き、お茶を入れだすキョン。うんと美味しいのを頼むわよ。今日は長丁場なんだから。

「分かってるさ」

鶴屋さん、古泉君。

「ひゃ、ひゃい!」
「何でしょうか?」

とりあえず座りましょう。話も始められないし。それと古泉君、敬語そろそろ抜けないの?

「いや……まぁ、なかなかね」

そうそう、その感じ!やっぱりそっちの方が自然でいいわ!もっと早く言うべきだったかもしれないわね。

「お前か機関かは知らないが、どうやらパーフェクトな集団では無かったようだな」
「だね。上層部の人間とか頭固いのばっかりで困ったもので………、もんだったよ」
「一樹君、セーフ!」
「ギリだったな。お前にしちゃ上出来だ」

へへっ、と副団長。それと同時にボッと音を立てるカセットコンロ。最近の、いつもの風景。

 




「さて、お茶も並び終わった所でいい加減始めたいと思う」

とはキョン。

「いろいろと回りくどく話さなきゃいけないこともある。が、その前に」

何?

「……やっぱり中華のフルコースでなきゃ駄目か?」

何を今更!?

「ダメ」

と、ウインクをしながら意地悪く舌を出す副団長。

「アルバイト辞めたから金欠でね。最近いいもん食ってないんだよ。悪いけど行く予定の店までリサーチ済みさ」
「ぐ……お前のリサーチ能力の高さを忘れてたよ……」

『高級』という漬物石的ワードを取ってもらっておいてまだ文句を言う気?

「キョン君、もう諦めたほうがいいっさ!その代わり今日は帰りに鶴屋さんがクレープを奢ってあげるよっ!」
キョンははにかみつつも「やれやれ……」と声を漏らす。今のが諦めの声か、はたまた本当に落胆した声なのかを聞き分けられるのは恐らく地球……いや、この宇宙でただ一人。あたしだけだろう。
その精度は正確無比。二十キロ先の針にライフルで糸を通す程の正確さだ。
何といってもこの能力は神様のような力を捨ててまで手に入れた力。青林檎を一緒に探してくれると言ってくれた人の隣で、笑いながらその人が大好きな赤林檎を一緒に食べ続けられる能力だからだ。


「それでは……」

その声で会議が始まる。



議長:あたし
進行:キョン
笑顔:副団長
積極的発言:名誉顧問

 




議題:SOS団の今後について





赤色エピローグ epilogue-2


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