さて、収穫はなかなかのものだった。色とりどりの果実を目で楽しみ、手で楽しみ、当然口でも楽しんだ。

 

「それだけ食うなら昼飯はあまり入らんだろ。まあ安心しろ、俺達がちゃn」
「甘いものは別腹!」

 

そう言いきるあたしにキョンは「もしお前が教師になったら遠足の果物は間違いなくお弁当に入るんだろうな」なんて言ってきた。何それ?当り前じゃないの?


正午過ぎ、みんな一段落着いたみたいなのでシートを敷いてランチタイム。シートは副団長が持ってきてくれた飾り気のない花見用のそれだったが、広さは十二分。シートの上に居る人数の倍以上はゆっくり寛げそうだ。

 

「適当なサイズの物がありませんでしたのでこれを持ってきましたが、少し大きすぎましたね」

 

はにかみながら副団長は言う。

 

「いいじゃない!これなら全員で寝転がってもまだゆとりがあるわ!やっぱり花見はこうでなくっちゃね!」
「お前はこの秋空の一体何処に桜がみえr」
「さっ、早く食べましょ!ほら、置いた置いた!」

 

都合の悪いことは流すに限る。間違いない。

 

 

「いやぁ~…もう幸せで死にそうだ……」

 

そう言って寝転がるキョン。余程お弁当が美味しく感じたのか、普段はあまり見せない混じりっ気なしの笑顔だ。

……いつもその顔でいなさいよ。

 

「ん?何か言ったか?」

 

そう問われ、何でも無い!と強めに言ってあたしも寝転がる。チラ、と横目で見るとそこには木漏れ日を浴びて秋の柔らかな風を満喫するキョンがいた。他の三人はお茶が無くなってしまったので飲み物を買いに行っている。

 

「そうかい」

キョンの前髪を風が靡かせる度、あたしはどうしようもなくその光景に釘付けとなった。どうも胸と首の間辺りがジンジンする。やがて口が半開きになっている事に気付いたのは、キョンが此方を向いた時だった。


「…ん?」

 

キョンからの突然の問いかけを受け、あたしは勢いよく目線を空の途中にある木の枝へと向け直した。こういう時は話を逸らしてしまえばいい。

 

「あ、あんたの向こう側のシートを見てたの!三人が帰って来ても五人でしょ。まだまだ乗れるじゃない!」

 

キョンは視線を先程まで三人が座っていた方へ向けた後、私と同じく木の枝へと向けたようだ。

 

「そうだな」

 

ぶっきらぼうにそう言うキョン。まあそう返って来るだろうと思ったけど…。


「だから来年は新入生を思いっきり勧誘するわよ!何て言ったって高校生活最後の年だし、後の世で地球上の人間全部がSOS

団員になる布石を敷くの!新入生の勧誘はその第一歩なのよ!」

 

言い終るが後か先か、キョンは大きな大きな溜息を吐きだした。何よ?嬉しくないの?いい加減雑用を卒業したくないの?

 

「へいへい」

 

……またそんな返事。あたしは会話がしたいのに…。そう思っていると、またしても柔らかい風があたしとキョンの髪を揺らす。そして、風が髪の間を通り過ぎ去るまさにその時だった。

 

 

 

「俺は正直新入生に入って欲しくない」

 

 

 

キョンは今迄に無いくらいハッキリとした口調でそう言った。


「はぁ!?」

 

あたしはその言葉と共に飛び起きた。そして一気に捲くし立てる。

 

「あんた何考えてるの!?SOS団その1として今まで何を見て聞いて学んできたのよ!?来年一人も入団しなかったら二年後にはSOS団が北高から無くなっちゃうじゃない!!そんなことも分からないの?!」

 

更に続く。

 

「これだから向上心が無い団員って言うのは駄目ね!!だから所詮雑用止まりなのよ!!まったくもってなって無いわね!!!」

 

自分でも驚くくらいの大声が出た。そして、ここがいつもの部室ではないことに一瞬で気付く。周りにはちらほらと他の行楽客がおり、皆一様に此方を見ている。ちなみに、その中にはSOS団の副団長とマスコットと読書少女も含まれていた。

 

「あ……」

 

やってしまった…。『また』だ。昔ならこんな視線などもろともしなかったのだろうが、ここ最近は違う。こう言う視線が…何というか……とても痛い…。

 

 

 

「いかがなさいました?」

 

笑顔の副団長があたしとキョンの間にペットボトルのお茶を二つ置いて、先程まで自分が座っていた位置に座り直す。

 

「何か問題でも?」
「大アリよ!」

 

先程のような大声ではないが、それでも張り上げて言う。

 

「このアホキョンが来n」
「来年の新入生がSOS団に入らなきゃいいって言ったんだ」

 

そう言って起き上がるキョン。礼を言ってから副団長の置いたお茶を取り、蓋を開けてゆっくりと口へ注ぎ込む。あたしは何故かその間何も言えなかった。

 

「あのなハルヒ」

 

目を細めてキョンが此方を向く。他の団員もそのいつになく真剣な口調に押されたのか、誰も何も言わない。

 

「一回しか言わん。だから耳かっぽじって聞けよ」

 

どことなく古いセリフだな…なんて思っていると、あたしの耳にはもうその言葉が入って来ていた。

 

 

 

 

「俺は……この五人でいるのが……めちゃくちゃ好きだ」




赤色エピローグ 1章-3
 


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