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立春とは名ばかりでくそ寒い日々が続いた月もいよいよ終わり、まだ寒さが残るものの
少しずつ生命の息吹が芽生え始める早春へと季節が移り始めた三月初日。
「3年間続いた高校生活も終わりか…長いようで短かったわね」
「そうだな」
卒業式の後に行なわれたHRが終わり、クラスの連中との別れの挨拶も一通り終えた俺たちは
卒業記念パーティが行なわれることになっているSOS団の根城、もとい文芸部部室へと向かっていた。
…のだが、どうもハルヒの様子がおかしい。
いつもなら身長の半分くらいはありそうな歩幅で無駄に威勢良く進んでいくのに、今日は
その4分の1以下の歩幅しかなく、勢いもいつもと比べると熱帯のスコールとじょうろの撒き水くらいの差だ。
まあ、これが普通の人間だったら卒業式を終えてしんみりしていると考えられるが
なんせ相手はあの涼宮ハルヒであり、そんな繊細な心を持っているとは思いがたい。第一、ハルヒの
様子がおかしくなったのは俺と部室に向かい始めてからで、HR後に阪中たちと話をしていたときはいつも通りに元気そうだった。
たく、ハルヒの奴何を考えてやがる。お前の様子が変だと心配…いや不安になるだろうが。
また面倒なことに巻き込まれんじゃないかってさ…。
そんなことを考えていると俺の横で歩いていたハルヒが急に歩を止めた。
「どうした?」
「ちょっと寄り道するわよ」
そう言うなりハルヒは俺の手首を掴む。
「何だよいきな…」
「いいから来なさい」
俺の話は聞く耳もたずか。こういうところは出会ったときから全く変わってないな。
…まあいい、今日くらいはこいつの言うことを素直に聞いてやっても罰は当たらないだろ。
「わかったよ」
引っ張って行くというよりは手を繋いで歩くみたいな感じで俺の手を引くハルヒについて行くことにした。

 

「何だ、行きたかったのはここか」
ハルヒに連れられてやって来たところは1年5組の教室だった。
「悪い?」
卒業式が終わってかなりの時間が経っているせいかもう教室には誰もいない。
「いや、別に」
「…そっ」
そう言ったきりハルヒは口を閉ざす。まるで次に何を言うかを迷っているかのように。
おーい、全くもってらしくないぞ涼宮ハルヒ。お前はそんなキャラじゃないだろ。
そんなことを心の中で突っ込みつつ俺は正面で閉口しているハルヒの様子を見守ることにした。何せほかにすることがないからな。
いつぞやの閉鎖空間のときみたいに世界中に俺とハルヒしかいないんじゃないかと思える
くらい静かな教室に響くのは時計が奏でる無機質で規則的な音だけだった。

教室を沈黙が支配すること約十数秒、ようやくハルヒが口を開く。
「…ここで出会ったのよね、あたしたち」
正式にはその前に入学式のときに一応顔をあわせてはいたはずであり、そうなると俺たちが
出会った場所はここではなく体育館ということになるのだが、それを言及するのは野暮な話だし自重しといたほうがいいか。
「そうだな」
それに俺がハルヒを認識したのはここであいつがしでかした後々の語り草となるあの奇妙奇天烈な
自己紹介のときだったし、あいつが俺を認識したのだって恐らく入学式より後だろうからあながち間違いとも言えないだろう。
「あたしの自己紹介覚えてる?」
覚えてるかだって?愚問だな。
「東中出身涼宮ハルヒ」
忘れるわけがない。
「ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上…だろ?」
何たってそいつはいたって平凡だった俺の日常をこれでもかって位に奇妙奇天烈のはちゃめちゃで
騒がしく…そんでもって面白おかしいものに変えちまった魔法の言葉だからな。

「へえ、ちゃんと覚えてたんだ。意外ね」
「忘れようと思っても忘れられるかよ、あんな強烈でぶっとんだ自己紹介」
当時の俺にとっては核弾頭並のインパクトだったぜ。
「ふーん。そう言えばあんたあたしの自己紹介が終わったときすごい間抜け面でこっちに振りむいてたわね」
俺だけじゃない。あの時はお前を除くクラス全員がそんな状態だったぞ。
「そんで興味を持ったのか何日か後であれどこまで本気だったんだ?って聞いてきて…」
「ぞんざいにあしらわれたわけだ。おそらくファースト・コンタクトとしては最悪の部類の会話だな」
「しょーがないじゃない。そのときは不思議な奴しか興味なかったんだから」
そのときは…ね。今は興味の対象がえらく増えちまったな。地元のイベントや鶴屋さんや古泉たち
機関主催のイベントに、女友達の阪中やそのペットのルソー、それに……挙げだしたらきりがねえ。
俺がこの3年間で膨大に膨れ上がってしまったハルヒの興味の対象に思考を巡らせていると
途中まで俺の顔色を窺っていたハルヒの顔が突然何かを思い出したような表情になった。
どうした?と声をかけようかと思っているとハルヒが再び口を開く。
「そう言えば、そのときのあんたってえらく愛想がよかったわよね」
げっ。こいつはなんつーことをなんつータイミングで思い出すんだ。
「今じゃ考えられないわ。どうしてかしら?」
今度は小悪魔めいた笑顔へと表情をシフトさせたハルヒはそう問いかけてくる。
くそ、一生忘れてればよかったものを。
「…あんときはまだお前の本性を把握しきれてなかったからな」
お前は黙ってじっと座ってる限りでは一美少女高校生にしか見えないもんだから、当時経験値が
圧倒的に足りなかった俺はたまたま席が真ん前だったという地の利を生かしてお近づきになって
おくのも悪くないかな…なんて血迷ったことを考えちまい、あんなことしでかしちまったんだよな…。
こういうのを若気の至りって言うんだろうね、きっと。
「ふーん」
「…何だよ」
あんまり人をにやにやしながら見るな。何か落ち着かない気分になる。

 

「べーつに」
嘘付け。顔に言いたいことがあるって書いてあるぞ。…俺としては言って欲しくないことっぽいが。
「どーせ、あんたのことだからあたしの外見だけ見て、目の前席になった地の利を生かして
親しくなろうとか考えたんじゃないのかなって思っただけよ」
うっ、相変わらず凄まじいまでに勘がいいな。
「その顔は図星ね。ほんと、あんたって美人に弱いんだから」
おーい、自分は美人ですって言ってるようなもんだぞ、それ。…まあ、事実だが。
「お前のことをよく知らない男だったら大抵の奴が俺と同じことするだろうよ」
それが男の性ってやつだ。決して俺が特別なわけじゃない。
「古泉くんみたいな一部の例外を除いたらそうでしょうね。全く、嘆かわしいわ」
あのなあ…。
「でも、」
ここでハルヒが不自然に台詞を切る。
不自然に思いハルヒの顔に目をやるとさっきまでイキイキしていた表情が幾分緊張したものに変わっていた。
こいつの表情がころころ変わるのはいつもの事とは言え流石に移り変わりが激しすぎじゃないか?秋の空も真っ青だぞ。
「でも、何だよ?」
「…………あ」
俺の問いかけにハルヒが堪答えようと口を開きかけたまさにその瞬間、
俺とハルヒしかいなかった教室に第3者の訪れを告げる音が響いた。
「!!!!」
その音とは教室のドアがスライドする音で、
「…あっ」
来訪者は1年女子だった。恐らく忘れ物でも取りに来たのだろうが知らない連中が教室にいたせいでかかなり驚いている様子である。
…おっと、のんきに状況分析してる場合じゃないな。
「えっと、俺たちは―」
「撤収!」
「ぐえっ」
いきなりネクタイを引っ張るな!そして万力のような力で俺を引っ張るなー!
と思ったところで一度動き出したハルヒが自分の意思以外で止まるわけがなく、
結果として俺はハルヒに引かれるまま教室を後にすることとなった。

「別に逃げる必要なかったんじゃないか?」
あれじゃ不審者と思われても無理ないぞ。
「必要がないからってやっちゃダメってことにはならないわ」
「…はぁ」
全く、こいつと言う奴は…。まあ、ハルヒと連れ立って行動すると著しく世間体を損なう
結果にしかならないってことは今に始まったわけじゃないか。
「溜息なんかついてないで次行くわよ」
まだどっか行くのか?…と言っても無駄なんだろうな、どうせ。
「待てよ」
だったら、あいつの気が済むまで付き合ってやるとしますかね。

 

次にハルヒが立ち寄ったのは中庭だった。
「次は中庭か」
「見ればわかるでしょ」
そりゃそうだが。俺が言いたいのはそういうことじゃなくてだな…。
「よいしょっと」
ハルヒは木の傍につくやいなやそう言って芝生に寝転がると、またもや
次に何を言うかを迷っているかのように口を閉ざしてしまった。
やれやれ。だったらこっちはお前が次に口を開いてくれるまでの間、いままでの高校生活でも
振り返りながら気長に待つとしますかね。卒業式だしさ。

 

思い返してみるとここでも結構色々なことがあったな。朝比奈さんのチョコ争奪アミダクジ大会やら
文科系クラブの仮入部受付兼部活説明会やらその他もろもろと。だがまあ…ここでの一番の思い出
というか記憶に残ったことというか…そんな感じのものを挙げるとしたらやはりあれになるのかな。
「前にもこんな風だったことがあったわよね」
お、やっと口を開く気になったか。
「お前がバンドのメンバーからお礼を言われた後の昼休みのことか」
「そっ」
どうやら考えることはこいつも一緒だったらしい。
「当時のあたしには新鮮だったわ」
新鮮か。…そりゃ、そうだろう。なんたって当時のお前は面と向かってありがとうなんて、
言われそうにないことばっかやってたんだからな。
「あんたの愛想笑いでもにやけ笑いでもない笑顔」
「はい?」
…って、そっちかい!!
「笑顔よ、笑顔。あたしがあんたに投げた草が風でこっちに戻ってきたのを見てあんた笑ってたじゃない」
そんなことは説明されんでもわかる。俺が疑問符を浮かべたのは別の理由だ。
「…はぁ」
しんみりして損した気分だぜ。
「お前も人のこと言えんだろ」
「何言ってんの。あたしはむっつり顔かにやけ面くらいしかしてないあんたとは全然違うわよ」
突っ込みはえーなぁ、おい。脊髄反射か?まだ、俺の話は途中だ。
「表情の話じゃない」
「じゃあ、何よ」
そう急かすなっての。もう少し心に余裕をもったらどうだ?急いでは事を仕損じるとか急がば回れとか言うぞ。

 

「その、何だ。あの時のことは俺にとっても新鮮だったんだぜ。まさか、お前が動揺なんてするとは思ってなかったからさ」
「なによそれ。あたしの神経が図太いとでも言いたいわけ!?」
お前…それマジで言ってる…んだろうな。やっぱり。
「やれやれ。自覚がないってのは恐ろしいね」
「なんですってー!」
いけね、声に出しちまった。
「そう怒るなって。それより冷静になってお前がこの3年間にしてきたことを
振り返ってみたらどうだ?そうしたら俺の言っことがもっともなことだとわかるかも知れんぞ」
都合の悪いことはスルーがハルヒイズムだし無駄だとは思うが一応言っておくとしよう。
何事も行動に移すことが重要だ。
「むぅ…」
おや、珍しい。ハルヒが罰の悪そうな顔をしている。
これは自分の非を認めたってことでいいんだろうな。いやあ、
あのハルヒがここまで成長するとはね。時の流れってのは偉大だ。
「ふんだ。それを言ったらあんたなんてむっつりで理屈っぽい若年寄じゃないの!」
「なっ!?」
珍しく自分の非を認めたと思えばこれかよ。…てか、流石にそれは言いすぎじゃないのか?
いくらお前の罵倒に慣れてても少し腹が立つぞ。
「ハルヒよ、それはいくらなんでも言いすぎじゃないか?」
「どこがよ。あんたってどっちかといえば無愛想な面構えだし、理屈が多いし、
溜息吐いてばっかりだし、年齢の割りに年寄りくさいし、そのまんまじゃない」
「あのなあ」
「何よ!」

 

とまあ、何だかんだでひとけがない中庭で睨みあう事となった俺とハルヒだが、
「ぷっ」
先に睨むのを止めたのはなんとハルヒのほうだった。今日は珍しいことが続くな。
明日の天気は大丈夫か?まさか、核弾頭なんて降ってこないだろうな?
「あはははは」
やれやれ。そんな笑顔見せられたら毒気が抜けちまうじゃないか。
「…急に笑いだしてどうしたんだ?登校途中にやばいもんでも拾い食いしててそれが今頃効いてきたのか?」
「バカッ。そんなわけないでしょ!」
わかってるよ。軽いジョークだ。
「ただ、初対面のときはあんなのだったあたし達が今じゃこんな風になっちゃうんだから
ほんと、人生ってなにが起こるかわからなくて奇妙だなって思っただけよ」
なるほど、確かに。あのファースト・コンタクトを考えると奇妙なもんだな。
「でもさ、奇妙だけど悪い感じはしないわよね」
気兼ねなく言い合いができる仲ってのは今の社会事情を考えると結構貴重なんじゃなかろうか。
「そうだな」
だからと言うわけじゃないが気が付くと俺はハルヒの問いに即答していた。
「まあ、だからって別にあんたをみくるちゃんや有希や古泉くんより団員として評価してるってわけでもないけどね」
がくっ、なんじゃそりゃ。
「まあ、でも…」
俺が思わずずっこけているのをよそにハルヒはまだ何かを言おうとしているみたいだったが
続きを聞くことはできなかった。というのも、
「よう。お前らまだ学校にいたのか」
「お、岡部!?」
どういうわけか担任岡部教諭が突如中庭に現れたからである。

 

「どうm」
「何であんたがこんなとこにいるのよ」
うわっ、スッゲー機嫌が悪そうな声。人が殺せそうだ。
「そこを歩いていたら窓からお前たちが見えたんでな、今度は何をしているのかと思って寄ったんだ」
と岡部は苦笑を浮かべ校舎を指差しながら答える。
「あっそ」
おいおい、自分から聞いておいてそれははないだろ。
「…だが、どうやら俺はお呼びでなさそうだな」
「………」
あのー、ハルヒさん。ムスッとしてないで何か言って………むりそうだな、こりゃ。しょーがない。
「あはは…、すいません。どうやらこいつ的にはそのようですね」
「なに、悪いのはこちらのようだから気にするな」
「………」
おーい、ハルヒ。何も親の仇を見るような目で岡部を睨まなくてもいいんじゃないのか?
「さてと、邪魔者は消えるとしようか」
岡部は身を翻しここから立ち去ろうとするが途中で立ち止まる。
「おっと、その前に」
「何よ」
「二人とも卒業おめでとう」
そう言うと今度こそ岡部は中庭を後にした。


「…ふぅ」
これでハルヒの不機嫌のもとは去ったわけだ。とりあえずこれでハルヒが
今以上に不機嫌になることはないだろう。岡部には悪いが助かった。
「次行くわよ!!次!!」
「おい」
さて、今度はどこに行く気なのかね?

 

1年5組教室、中庭ときて次にハルヒが向かった先は校舎の屋上だった。
「風が気持ちいいわね」
移動中に機嫌が直ったらしくハルヒの声はさっきと違いどこか楽しげだった。
ほんと、今日のハルヒは機嫌がころころ変わるな。
「そうだな」

「思い返して見るとさ、色々なことやったわよね。あたしたち」
海を眺めながら何の脈絡もなく話題を転換するハルヒ。
ハルヒの話に前後の繋がりがないのはよくあることって言えばそれまでかもしれないが、
何となくハルヒが唐突に話題を変えるだろうことが予測できていた。というのも、
あいつの様子がおかしくなった俺たちが教室を出てからのことを思い返してみると
ハルヒが俺に何か言おうとしていたように思えたからである。…何を言いたいのかはわからないが。
「不思議探索に野球大会に合宿に映画撮影にその他もろもろ…とてもじゃないが数え切れないぐらい色々やったな」
「不思議探索と言えば、あんた初めての探索のとき図書館で居眠りしてたわね」
これまた懐かしいネタを。よく覚えてたな。
「あんときは大変だったぜ。起きてみれば集合時間を過ぎてて慌てて戻ろうとしたら
長門が本棚の前から動いてくれないわ、お前から電話がバンバンかかってくるわでさ」
「何言ってんのよ。全部自業自得でしょ」
まあ、居眠りしなかったら長門の図書カードを作ってやってても間に合ったかもしれんが…。
「長門だって集合時間過ぎたのに気付かなかったんだから全部俺のせいってこともないんじゃないのか」
あの長門有希がそんなミスをするとは思えないので、本当は気付いてたけど
本を読んでいたかったから教えてくれなかっただけのような気がするがまあ似たようなもんだろ。
「有希は我がSOS団の無口キャラと読書少女の担当なんだから別にいいの。」
相変わらずと言うか何と言うか…何で俺と他のSOS団団員の間にはこんなに扱いの差があるんだろうね。

 

「大体、仮にそれを有希とあんたのせいにしたとしても遅刻してるのはいつもあんたじゃない」
「遅刻って、俺はちゃんと定刻よりは早く来てるぞ」
さて、この3年間で俺はこのつっこみを何回したんだろうね。
「団長であるこのあたしが遅刻って言ったら遅刻なの」
「なんじゃそりゃ」
ヒトラーもビックリな独裁者っぷりだなあ、おい。
「とにかく。他の皆は自分の役割をちゃんとまっとうしてくれてるのにあんたときたら…
ほんと、あんたにはSOS団雑用係としての自覚が全然足んないわ」
「あのなあ…」
雑用係の自覚ねぇ…。悲しいかな、3年間SOS団の連中と行動をともにしたおかげで
一応、ないとは言いきれないこともないくらいには自覚があるんだぜ、これでも。
最も、雑用係の自覚があるなんて言ったらそれはそれであれなので言うつもりはないし、
俺がやる気を出して行動するのはどっちかというとお前が見てない非日常的出来事のときだから
俺の自覚とやらがお前に伝わることはないだろうが。
「だって、あんただけでしょ。あたしの提案に愚痴愚痴文句言うのも」
そりゃ、長門は文句を言う以前にそもそもあんまり喋らないし、朝比奈さんは他人に文句を言う
ようなお人じゃないし、古泉にいたっては所属する組織そのものがハルヒマンセーなわけで、
必然的にお前に文句をいうのは俺の仕事になるんだよ。
「活動中にやる気を感じられないのも」
あんなもんにやる気を出せるのは宇宙人、未来人、超能力者だけだ…とまでは言わんが
その…なんだ、SOS団の活動は普通の男子高校生がやるには恥ずかしいのが多いんだよ。
…楽しいと思ってはいるけどさ。
「活動中にえろいことを考えて団の風紀をみだしてるのもさ」
比較対象の古泉が特殊だから相対的にそう見えるかもしれんが俺はそんなにえろくないと思うぞ。
…せいぜい人並み程度だ。というか風紀がどうとかをバニーやチャイナ服でビラ配りしたり
朝比奈さんにセクハラな衣装を押し付けてたりしてるお前が言っても説得力の欠片もないぞ。
「…でも」
そこでハルヒは言葉を切り、それとともに首を90度回し俺から顔を背けた。
ん?

 

「あんたがいなかったらあたしの高校生活はつまらないものになっていたと思うの」
何だって?
「あんたと出会ったからあたしは面白い部活がないなら創ればいいと気付けた」
俺がハルヒの予想外な台詞に動揺しているのをよそにハルヒは話を続ける。
「SOS団を創ったから仲間ができた」
徐々に、
「仲間ができたから毎日が楽しくなった」
徐々に、
「毎日が楽しくなったからあたしは変わった」
語調を強くしながら。
「あたしが変わったからまた新しい仲間ができた」
ハルヒがゆっくりとこちらに振り向く。
「新しい仲間ができたからもっと毎日が楽しくなった」
その表情は、
「そんなのを積み重ねていけたからあたしの高校生活はすっごく楽しかった」
今まで見たことがないくらい優しげで柔和なものだった。
「だからあんたには感謝してる」
ここまで言うと一旦言葉を切り少し息を継いでからある言葉を紡ぐ。

「…ありがとう」
それは俺が始めて耳にした涼宮ハルヒの感謝の言葉だった。

 

ハルヒらしからぬ表情と紡がれた言葉に驚きを覚える一方で教室を出てからずっと疑問に思っていた謎が解けたような気がした。
成る程ね。ハルヒはあれだ、このことを言いたいがために俺を引きずり回したわけだ。
そう考えるとハルヒの様子がおかしかったのも肯ける。
なんというか…あいもかわらずバカ野郎だな、ハルヒさんよぉ。
別にこんな所にわざわざ連れ出して言わなくったって、廊下を一緒に歩いてたときに時にでも
言ってくれればよかったのに。こんな大げさな感じじゃなくてもっと気軽な感じでさ。
しかし、こういった不器用な所も1年の頃から変わってないな。まあ、ハルヒらしいと言えばハルヒらしいけど―。

そんな俺の思考はハルヒの次の一言によって中断される。
「間抜け面」
たく、何でこいつはこういうことをそんな眩しい笑顔で言うんだろうね?
ハルヒの感謝の言葉なんて珍しいものを聴いたせいか、それともこいつの無邪気な笑顔のせいか
怒る気もつっこむ気も起こらず、さてどんなリアクションを取ろうかと思っていると、
言うことは言ったとばかりにハルヒは即座に回れ右してドアへと駆け出した。
「おい」
「そろそろ皆が待ちくたびれちゃうわ。さっさと部室に行くわよ!」
…やれやれ。誰のせいで皆が待つことになったと思ってるんだ?…全く、困った団長様だ。
「待てよ」
澄み切った青空の下、俺はハルヒを追いかけることにした。

 


終わり

 

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