「あ、あのさ、写真、撮らないか?」
「え?」
「だからさ、その、プリクラ。プリクラ撮らないかって言ってんだ」
「どうしたのよ急に。まぁいいわよ。時間がないわけじゃないし」
よかった、断ることはないとは思っていたが、やっぱりドキドキするものである。
実を言うとそんなに時間はない。ツリーを見に行き、予約しているレストランに行くとなるとあんまりダラダラとはしていられない。
とにかく、ハルヒもOKしてくれてよかった。
「それじゃ撮りましょ」
「おう、悪いな付き合わせて」
「いいのよ、今日は誘ったのはあたしだし」

ハルヒと俺はプリクラの機械が群がっているプリクラの団地みたいなコーナーにきた。
なんかいろいろプリクラの機械がある。どれに入っていいか分からないので、ハルヒが選んだ機械に入ることにした。

「撮ってどうするっていうのよ」
「なんでもいいじゃねぇか」
「まぁイヴだし、こういうのもいいわね。明日はクリスマスの上に冬休みだから、今度はSOS団のみんなと撮りましょ」
「そうだな。俺らだけで記念撮影は団員のみんなに悪いな」
「そうね」
明日も俺が暇を持て余すことはなくなった。ああ、正直言って嬉しいさ。

「あんたプリクラとか撮ったことあるの?」
「どういう意味だ?」
「女の子とプリクラ撮ったことあるって聞いてるの?」
「女子と撮ることは殆どないな。中学のとき佐々木と撮ったことは覚えている。あとは妹か?」
「ふーん。まぁそんなとこだろうとは思ったわ」
ハルヒはどうなんだ?と聞こうと思ったが、やめておいた。理由は聞かないでくれ。

「一枚目は変顔でいきましょ」
「ハハッ、変顔か。いいんじゃねぇか?」
「まぁキョンなんて普段が変顔だけどね」
正直ヘコんだ。本音じゃないとしても傷つくだろ。自分の顔に自信はないのは確かだが。
「・・・うるせぇ」
「あら?気にした?真に受けないでよね」
「気にしてねぇよ」
「あっそう。じゃあ撮りましょ」
俺は寄り目で鼻に力を入れ、上唇と下唇をずらすという自分の中で高難易度の技に出た。
ハルヒと俺の姿はカメラの右下の液晶に映されているが、俺は寄り目で確認できないので、カメラを凝視する。
「あんたがどんな変顔しているのか楽しみだわ」

『はーい!撮影完了!もう一枚撮れるよ~!』
機械音声が変顔の撮影が終わった合図をする。
「二枚目は普通に行きましょ」
「そうだな」
ハルヒは腰に手をあてる得意の団長ポーズで満面の笑みだ。
俺は普通にしようと思ったが、その普通が自然と笑顔になるのは、今がとても楽しい証拠だろう。

『はーい!撮影完了!隣の部屋でデコレーションができるよ~!』
機械音声が撮影完了の合図を発したので、俺らは隣の部屋に移動する。

隣の部屋には2つのペンと液晶がある。一枚目のデコレーションから始める。
そこに映っていたのは俺とハルヒのすさまじい変顔だった。
ハルヒは白目で舌を出し、顎の下に手のひらを置くという、
女の子らしいポーズと女の子崩壊の顔のギャップが素晴らしい変顔をしていた。

「アハハハ!キョンのかけらもないわ!すごい顔ねぇ!」
「そういうお前もすげぇぞハルヒ」
「これなら下手にデコレーションしなくても、十分面白いわ」
そういってハルヒは俺の顔の下に『アホ面キョン』と書く。
俺はハルヒの顔の下に『団長改めアホ面ハルヒ』と書く。
背景はハルヒの好きなものにまかせた結果、なぜかヤンキーな感じ漂う古い日本の日の丸という謎のチョイスをした。

二枚目は俺の予想通りなかなかよく撮れていた。
「キョンの変顔見た後だから、普通の顔見ただけで思い出し笑いしそう」
「うるせえ。にしてもいい写真だと思わないか?」
「そうね。あんたもいい笑顔じゃないの。あたしには敵わないけど」
全くその通りだ。こいつの笑顔に勝てるわけない。
入学した時はこんな笑顔俺にも見せてくれなかった。今ではクラスの連中にも笑顔で接することがあるくらいだ。
ハルヒの笑顔が増えるのことはうれしいことだ。

ハルヒは時折「フフッ」とニヤニヤしながらデコレーションする。
背景とフレームを冬の感じにしていく。こういうところは女の子だ。
谷口と国木田とかで撮るムサいデコレーションとは大違いで、かわいい感じに仕上がっている。
5種類のデコレーションができる内、1つは何もいじらず、残り4つはいろんなバリエーションのデコレーションをした。
それは単純に『Merry X’mas!!』と書かれたものや、『SOS団団長と団員その1!』などと飽きないデコレーションだった。

現像も数分かからないうちに終わり、それぞれの携帯で写真を赤外線受信したあと、プリクラ団地の近くにある机にいく。机の上にはハサミがある。
ハルヒと俺で手分けして写真を切り取っていく。俺は変顔のほうを、ハルヒは笑顔のほうを、丁寧に切り取っていく。
「何枚切り取るのよ?」
「どうだろうな。三枚くらいでいいんじゃねぇか?」
「わかったわ」
それぞれが切り取り終わり、お互いのプリクラを交換し、切り取っていない分を分けて互いがバックに入れる。
ハルヒはプリクラを剥がしてる。
「今何に貼るんだ?」
「携帯に決まっているじゃない」
正直驚いた。俺の二人のプリクラを携帯に貼ってくれるとは思ってもみなかった。
「そうか。じゃあ俺も貼るとしよう」
バックから変顔と笑顔の二種類を一枚ずつ出し、携帯に貼る。
「お揃いだな。」
「・・・バカキョン」
ちなみにさっきUFOキャッチャーで取ったキーホルダーも携帯に付いている。表情の種類は違うものの、こちらもお揃いだ。
俺もプリクラを貼り終わり、なんだかんだでもう7時だ。

プリクラとキーホルダーのおかげか、ツリーを見に行こうという誘いはすんなり出た。 「ハルヒ、小耳にはさんだんだが、ここのモール中庭があって、今そこにとんでもなくデカいクリスマスツリーがあるらしいんだ。一緒に見に行かないか?」
「ふーん。なんか面白そうじゃない。行きましょうよ、そこ」
「おう。また付き合ってもらって悪いな」
「・・・」

ゲーセンから数分とかからない場所に中庭はあった。
イヴの日曜というだけあり、今日は一昨日見に来た時よりカップルが多い。
「ほら、ハルヒ、あれだ」
そのツリーはイルミネーションこそ多いが、ちゃんとモミの木らしきものに飾られている。
「・・・綺麗」
長門並に小さな声で言う。ツリーの上を見上げている。
「あたし、最近のイルミネーションだけのツリーより、こういうツリーのほうが趣があって好きなのよね」
「俺もだな。なんかあったかいよな」
「そうね」

ハルヒの顔を見ると瞳にイルミネーションの青が輝いている。
俺は迷った。告白の場所は予め決めておいたのだが、ここで告白してもいいような気がした。
だが俺は告白のシチュエーションには拘りたいので、ここはぐっとこらえる。
この場所以外に適当な告白の場所ってのも無いのかもしれないが。俺には考えがあったのだ。

「キョン、あそこ!なんか面白そうよ」
「ん?なんだ?」
ハルヒに連れてかれた先はクリスマスツリーのすぐ下だった。
見るとそこにはモールの関係者であろうか、なにやら紙を配っている。
『おや、お譲ちゃんたちもやるかい?』
「おじさん、なにそれ?」
『まぁ七夕の短冊みたいなものだよ。このクリスマスカードに願いを書いて、このツリーにつるす。どうだい?』
「もちろんよ!2枚ちょうだい」
ハルヒは紙を受け取る。ハルヒは何かと七夕に縁があるみたいだな。

「キョン!あんた真面目に書きなさいよ!」
「わかってる。そういうお前こそ、『世界征服』とかは書くなよ?」
「あ、バレた?」
俺はなんて書こうか。いろいろありすぎて思いつかない。
間違っても『金くれ』とか『犬を洗えそうな庭付き一戸建てをよこせ』とかは書いてはダメだろう。

ハルヒに『俗物ね』と言われたくはないので、俺は、
『いつまでもこの楽しい日々が続きますように』と書いた。
直球には書かなかったが、言わずとも意味は分かるだろう?

「できたぞ、ハルヒ」
「あたしもできたわよ」
「見せろよ」
「い、いやよ!あんたこそ見せなさいよ。どーせろくでもないことでも書いてるんでしょ?」
「お前が見せないなら俺も見せない。それにろくでもないことはお前も同じだろ」
「うるさいわね。じゃあ今日の言葉はお互いの胸にしまっておきましょ」
「そうかい、じゃあしまっておきますとも」
ハルヒが何を書いたのかものすごく気になる。

「これでよしっと」
ハルヒと俺はモミの木にカードを結びつける。
「そろそろ帰りましょうか」

今は7時20分。レストランの予約は8時なのでなんとか間に合いそうだ。時間も時間だし、OKしてくれるといいんだが。
「なぁハルヒ、夕飯食べに行かないか?」
「いいけど、どこのレストランよ?」
よかった。ママに電話してみる、とか、ドキドキさせる展開があるかと思ったがよかった。
「・・・実は予約してる店があんだ」
「予約!?あんた、あたしがオッケーしなかったらどうしたつもりよ?」
「どうしたって、キャンセルすればいい話なんだがな」
「・・・まぁいいわ、それでなんのお店?」
俺が予約した店は洋食屋だったが、昼間がイタメシだったのでハルヒが文句を言わないか不安だ。
「普通に洋食屋だ。だけどクリスマス限定の特別コースがあるらしい」
「ふーん。ベターな選択だけど失敗はなさそうね。それじゃあ早く行きましょ。あたしお腹ぺこぺこ」
「だな。行こうぜ」



「ハルヒ、もう着くぞ」
俺は眠るハルヒに声をかける。楽しくて疲れたのか、こいつは俺の肩に頭を乗っけて寝ちまった。
俺も寝たかったが、俺が寝ちまったら間違いなく終点まで行くバッドエンドの方向になるのでこらえた。
前まではなんともなかったが、今の俺は当然ドキドキしたさ。
「ハルヒ~起きろ~」
「・・・ん」
ファーッ
ハルヒは人目を気にせずデカいあくびをする。
「みっともないぞハルヒ」
「うーん、うるさいわね。駅からどのくらいなの?」
「歩いて数分だ。そんなに遠くはない」
「あらそう・・・」
急行に運良く乗れたおかげでそこまで急ぐ必要はなさそうだ。
『次は、北口駅、北口駅です』
「ほらハルヒ、目覚ませ」


俺が階段につまずき、ハルヒが大爆笑した後はハルヒの眠気も殆ど覚めたらしい。
レストランは駅前から遠くなく、長門と来る図書館のすぐ近くだった。
「ふーん、あんたが選ぶにしては、随分おしゃれなお店じゃない?」
「そりゃどうも」
「あんたをほめてないわ」
「そうかい」

お店の中は俺が来るには十年早いような雰囲気が漂っている。
『いらっしゃいませ』
「あのーこの時間に予約していた者ですが」
『あぁあなた方ですか。ではご予約席へどうぞ』
この店もあのアクセサリー店並に不用心だ。名前の確認はどうした。
『ご予約のコースはクリスマス限定コースでよろしかったでしょうか?』
「はい」
『ではお飲み物をお伺いします』
「ハル」
「あたしコーラね」
「じゃあ俺はジンジャーエールを」
『かしこまりました。ご予約のコース以外にご注文はございますか?』
「俺はいいけど、ハ」
「ないです。追加あったら後で言うわ」
『かしこまりました。少々お待ち下さい』
ちょっと彼氏気どりをしてみようと思ったが、早かったか。

飲み物のすぐ後に運ばれてきたメニューはいかにもお高そうなメニューだった。
「うわぁーっ!あんたお財布大丈夫なの?」
「いつも奢らせてるのに今更心配するのか」
「いつものなんて大したことないじゃない」
「あれだけ罰金払わされてりゃ、十分大したことある」
「つべこべ言わない。遅刻するあんたが悪いんでしょ。いいから食べましょ」
「そうだな」
前菜はなんだかよく分からない魚によくわからんナッツと、これまたよくわからんソースがかかっている。
「おいしいっ!あんたも早く食べなさいよ!」
「あぁ」
そう言われて一口持っていく。
前菜にも関わらず、ハルヒの料理に負けず劣らずのおいしさだった。
「・・・これはうまいな」
ハルヒはとっくのとうに食べ終わり、俺も食べ終わったところで今度は肉料理が運ばれてくる。
この店のコースは随分特殊な形態をとっているようだ。
運ばれてきたものは、鶏肉のローストにこれまた見たことないソースがかかっている。
「おいしいわ!まさにクリスマスっていう感じ」
食べるたびに見せるハルヒの笑顔が可愛い。その笑顔を見ているときは、正直料理の味なんてどーでもよくなった。

「ちょっと鏡見てくるわ」
「おう」
恐らくお化粧直しであろうか。ハルヒはバッグを持ってトイレに行く。

数分経ちハルヒが戻る。
「お待たせっ!」そんなに大きくは変わっていないようだが、心なしか口元が変わっている気がした。

ウェイターがやってくる。
『お飲み物の追加はよろしいでしょうか』
「じゃあ俺はコーヒーを」
「あたしもコーヒー。砂糖入れてね」
『かしこまりました』

それからすぐに運ばれてきたのはデザートのケーキだ。木の丸太みたいな形をしている。
「面白いケーキだな」
「あんた知らないの?これは『ブッシュ・ド・ノエル』っていうのよ。クリスマスにはよくあるケーキよ」
「ほう。知らなかった」

「うん、おいしいわ!甘すぎないし」
フルコースではなかったが、一つ一つのメニューの量が満足のいくものだったので俺はそろそろ腹が膨れてたが、
デザートは別腹、という言葉の通り、食べたいという気持ちが失せることはなかった。
「あんた食べないの?」
「食べるよ」
確かに甘すぎず、むしろほろ苦さもある。俺の好みな味だ。

携帯が震える。古泉からだ。
─────────────────
   メール0001
From 古泉一樹
To ****@docomo.ne.jp
Sub
─────────────────
どうでしたか?うまく行った
でしょうか??






─────────────────
ったくいいときに邪魔しやがって。
『バカ。まだ夕食だ。それに結果は今日言うつもりはない。明日団活があるらしいからその時だ。』

「隙あり!」
「おいっ!」
「へへーっ。ボーっとしている方がいけないの。食事は戦争よ」
またも携帯が震える。
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   メール0001
From 古泉一樹
To ****@docomo.ne.jp
Sub Re:
─────────────────
わかりました。楽しみにし
ていますよ(^^)





─────────────────
お前は絵文字なんぞ使わなくていい。

「ったくよ。一口で持って行くなんて大したヤツだ」
俺はまだ一口しか食べていなかったが、ハルヒのいじわるな顔も見れたことだし許すとしよう。
もちろんそんなことは、口が裂けても言えないのだが。

店を出る。図書館で見た雑誌に『KansaiWalkerを見た』と言えば割引になると言っていたので、安くはなったものの、それでも高校生の俺にしては結構な出費だった。
まぁハルヒのたくさんの笑顔と、楽しい話が出来たし言うことはなにもない。
その上料理も美味かったと考えたら安いもんだ。

「キョン、時間も時間だし、そろそろ帰るわ。楽しかったわよ。
明日の時間とかは追って連絡するわ」
俺はそろそろ今日一番の勇気を出さなきゃいけないようだ。

俺は告白を光陽園駅前の公園ですると考えていた。
俺はいつもの何気ない雰囲気で告白するのが一番だと思ったのだ。
変に気取るのは俺の性にあっていないからな。
それに、ここはSOS団としていろんな思い出があるからな。ハルヒとの思い出もここで作りたいと思った。


またも誘うのにためらいはほとんどなかった。どうしたものか。
今日は何もかも順調すぎる。ハルヒが望んだのか、としか思えないくらいだ。



「・・・ハルヒ、待ってくれ」
「えっ?」
俺はハルヒの手を握る。ハルヒも少し驚いたようだ。
「・・・ハルヒ。一緒に行きたいところがあるんだ。」


第八章

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最終更新:2010年01月05日 09:30