翌日、恒例の不思議探索の日。今朝は妹のボディープレスを受けることなく起床に成功した。
昨日は割と早く眠りに着いたせいか、遅刻をする心配はないと言いたいところだが、団長様のいい分では、自分より遅いものは全員遅刻らしいからな。
今日も俺の罰金は確定なんだろう。

特別急ぐこともなく、自転車を漕ぎ、駅前に着く。
「遅い!遅刻!罰金!」

例によって俺の罰金は既定事項で、これまた例によっていつもの喫茶店で俺のおごりになった。
つまようじくじ引きのペアは俺と長門、ハルヒ・朝比奈さん・古泉ペアになった。

長門とペアになったら行くところは決まっている。図書館だ。
長門は両手でしっかりハードカバーの本を抱えてる。前の探索の時に借りたものだろう。


「なぁ長門」
「・・・」
「可能性を出してほしいとかそういうんじゃないんだが、うまくいくと思うか?」
「大丈夫」
「なんか俺今になって不安になってきたんだ。断られる可能性もあるかもしれないとか考えちゃうと、怖いんだ。」
「大丈夫。あなたは自分を信じて。彼女を信じて。あなたはそれだけでいい。」
言ってることは一般的なんだが、長門に言われるとなぜか重みが違う気がする。 「そうか、ありがとうよ、長門。元気でたよ。」
「・・・いい。」

図書館に着くと長門は足早に俺には一生かかっても読めそうにない小難しい本のコーナーに向かった。

俺は雑誌のコーナーに行くことにした。目的は今流行のデートスポットを探すためだ。
それっぽい雑誌がいくつか並んでいるが、俺は「KansaiWalker」と書いてあるものを手にした。ネーミングがいかにもそれっぽかったからな。

目次を見ると、「関西の最新グルメ事情」「最新デートスポット事情」と書かれていたのでそれらのページを見る。
そこにはなんとも飯が美味そうな店やムードあふれるデートスポットがずらりずらりと並んでいた。
なんとなくよさそうな記事のQRコードを片っぱしからカメラで読み取っていくと、ひとついいお店があった。

そこは北口駅からそう遠くなく、なおかつ比較的価格設定が俺の財布にも優しいお店だった。
しかも24,25日限定の特別コースもあるときた。イエスキリスト万歳。今なら入信してやってもいいぞ。
2人分の予約をしておく。万が一混んでいてハルヒの機嫌を損ねるのだけは避けたいしな。

デートスポットまで探す必要はないだろう。ハルヒが行きたいところに行けばいい話だ。
万が一ハルヒが「あんたが考えなさいよ!」なんて理不尽なことを言われた時には、昨日のモールだって十分デートスポットとしても使える。
それに、下手にムードあふれる場所を選んで「これはデートなんかじゃないのよ!」なんて言われたら・・・。
あぁ、どうして俺はマイナスな方向に想像してしまうんだろうか。

そんなことを考えながらいろんな雑誌を読み漁ってると着信がきた。ハルヒだ。

「もしも」
「バカキョン!とっくに集合時間すぎてるわよ!お昼も奢らせるからね!分かったら早く来なさい!」

ツーツーツー

雑誌に夢中になっている間にいつのまにかこんな時間になったらしい。
本棚から生えているような長門を見つけ、手続きを済ませた後急いで駅前に向かう。

「もう、4分遅刻!とっととご飯食べに行くわよ!」
駅前に怒号が響く。周りの視線が痛い。

今、目の前では、相変わらずハルヒと長門は俺の財布を気にする様子など微塵も見せないような注文をしている。

ただでさえゲンナリしている俺の財布に追い打ちをかけるほど、俺もチャレンジャーではないので、ローストコーヒーを注文する。古泉と朝比奈さんも今日はコーヒーだけ頼むようだ。

店内での会話はいつも通りだ。「不思議はあったか?」とか、「寄り道したでしょ」とかだ。
しかし、こうも毎回同じ内容で飽きないのはどういうことなんだろうな。
いつぞやの夏休みみたいに、妙なデジャヴに駆られることもないし、なにより俺が十分に楽しめていたから気にすることは何一つないんだがな。


午後の組み合わせは俺と古泉、ハルヒと朝比奈さんと長門となった。
「2人ともボーっとしたりしないで、しっかり不思議を見つけてちょうだい!分かったわね、キョン?」
2人とは言っても心配されてるのは俺だけってことか。

ハルヒたちがスタスタと店を出た後、会計を済ませ、店を出ることにした。
俺がSOS団の為にいくらぐらい使ったんだろうか。これだけで何か特別階級をくれてもいいと思うんだが。
まぁ貰ったところで何の特典もないのはよく分かっているが。


「どうでしたか?プレゼントは」
店を出てすぐに古泉が言った。
「どう、って言われてもどう答えたらいいんだ?」
「どのようなものを買ったか、僕も興味があります。よろしければ教えて頂けないでしょうか」
少し間を置く。
「アクセサリー、ペンダントだ。リングが2つ少し重なるように付いている。ペンダントは開けるようになっていて、プリクラ程度の写真が入るようなスペースがある。ペンダントの裏は平らになっていて、追加料金払ってそこに好きなメッセージを刻んでもらった。今日の夜に完成するそうだ。」
古泉はニヤケ度を3割ぐらい増して言った。
「クリスマスプレゼントには最適ではないでしょうか。きっと涼宮さんも喜ぶでしょう。中に入れる写真はもうあるのでしょうか?」
「いや、まだだ。明日の途中でハルヒとプリクラでも撮ることにするよ」
「それがいいでしょう」

途中自販機で飲み物を買い、近くの公園のブランコにでも座って雑談することにした。
「たまには僕が奢りましょう。」
「どういう風の吹きまわしだ?」
「明日の奨励金だと思ってください」
自嘲気味に笑いながら古泉はあったか~いエリアにあるボタンを押す。
「安い奨励金だな」
「ハハ。まぁ120円を涼宮さんのことに使えるだけいいじゃないですか」
「足しにもならない気がするが、貰わないよりマシだ」
「素直じゃないですね。あなたは。どうぞ。」
渡されたのは微糖のコーヒーだった。
「おう、センキュ」

古泉はミルクティーを買いブランコに座る。
「どこに行くとかはもう決めてあるんですか?」
「なんで俺がお前にそこまで教えなくちゃならん。これも機関への報告とかやらか?」
そう言いながら俺はコーヒーのプルタブを開ける。指が寒かったせいでプルタブが少し硬いように感じた。
勢いよく開いた飲み口から2,3滴コーヒーが飛び、指に飛び散る。
「機関は『機関という名目で手をだす必要はない。むしろ邪魔をするべきではない」という意向です。あくまで僕個人での質問です」
そいつは趣味の悪い質問だな。人のプライベートにどこまで首を突っ込んでくるんだコイツは。
プライバシーの権利というものを習わなかったのだろうか。
「おや、気に障りました?」
「いや、そういう訳じゃないが」
「俺もだな、一応恥ずかしいんだ。他人に男女二人が行くところを好んで話す奴なんかそうそう居ないだろう」
「申し訳ないです」
お前の「申し訳ない」はニヤけながら言ってるから本当に反省しているのかいつも疑わしい。

「俺も聞きたいんだが、お前はバイトがないときはなにしてるんだ?」
「趣味の悪い質問ですね。人のプライバシーに首を突っ込んでくるなんて」
「お前は俺のプライベート一から十まで全部調べてるんじゃなかったっけか」
「全部とは言いませんが、あらかたは存じております」
「だったら俺にもお前のプライベートってのを聞かせてくれてもいいんじゃないか?」
「内容によりますね」
こいつ、今日はやけに生意気に感じる。
「だから、赤いたまっころになるバイトがないときは、何をして過ごしているんだ?」
「・・・この寒い時期ですと天体観測ですね」
「お前、それはガキの頃の趣味とか言ってなかったっけか?」
「あの夏休みを機に、目覚めたといいましょうか。趣味の再発ですね」
「天体観測のどのようなところが魅力なんだ?」

古泉は少し間を空けた後、口を開いた。
「怖くなり、哲学的な気持ちになれるところです」
「まったくもって理解できん」
「ほら、宇宙ってとにかく大きくて、果てしなく広がっていますよね」
「それに比べてこの地球上にポツンといる自分の小ささに怖くなるんです」
こいつ、規模が違うが、ハルヒのガキの頃の野球場の話に似た話をしているな。
「無限に広がる宇宙。地球が何個あっても足りない大きさの宇宙に、人類は興味を抱いた。
それにも関らず、まだ人類が到達しているのは地球の衛星、月だけです。まだ地球という範囲の中から一歩も出ていないのです。
もちろん、無人探査機などは例外と考えた場合ですが」
「さまざまな可能性がそこらじゅうに落ちていそうな宇宙に行ってみたいと思うんです。
でもそんなのは叶うことがない。そう考えると、自分という存在の可能性の低さに絶望し、怖くなるんです」
「・・・なるほどね」
正直、2割理解できたかできないかだった。

「僕の趣味は話したことですし、あなたの趣味も聞きたいものですが、どうでしょう?」
趣味ぐらいなら話してやらんことでもない。だが、俺の趣味っていったい何なんだろうか。
「俺の趣味か・・・」

「僕の想像のあなたはベットの上で漫画などを読み漁り、ぼーっと時間を過ごすこと、と認識していますが」
8割合っている。2割はなんだ?、だと?そういう自分を認めたくないのが2割の成分だ。
「おや、もしかして正解でしょうか?」
「いや・・・」

考えた挙句俺の趣味という問いの答えは一つに絞られた。
「俺の趣味は、非日常的な日常を過ごす、つまりSOS団の団員で居られる時間、かな」
沈黙が訪れる。

プッ・・・ハハハッ!

「なんだ、何がおかしい」
「ハハ、いやぁ。あなたってそんなキャラでしたっけ?」
昨日朝比奈さんにも言われたな。
「俺の何が変わったってんだ」
「あなたって、そんなクサいこと言うような人でしたっけ?」
「自覚がないから分からないわ」
「でも、今のあなたの言葉に嘘偽りは見られなかったですね。あなたの本当の気持ちだということがとてもよく分かりました」
「・・・」
「とてもいい趣味です。同じ趣味をもつ友人が居て何よりです」
「そりゃどうも」
そろそろ集合場所に行ったほうがいい時間まで、こんなくだらない話をしていた。

集合場所に行く途中だ。俺は前から気がかりなことがあった。

「なぁ古泉、ちょっと真面目な話だ」
「なんでしょう」
「明日のことで懸案事項がある」
「というと?」
ここ数日、古泉がバイトに行く様子が見られない。それはつまりハルヒの気分が安定していることを表す。
明日する俺からの告白があいつにとってプラスだったら、もしかしたらアイツの力が消えるかもしれないと思ったからだ。
「あなたにしては鋭いですね」


「僕も、あなたと同じ考えです。あなたの告白が成功すれば、涼宮ハルヒの力は消える。僕も機関もそのような考えがあります」
「それってよ、好都合って言っていいのか?」
「といいますと?」
「アイツの力が消えるっていうことは、お前の力もなくなるっていうことじゃないか?」
「恐らくは、そうでしょうね」
「・・・俺はお前のことを親友だと思っている。お前の力がなくなった瞬間、俺の前から消える、っていうことはできれば考えたくない。そんなことはないよな?古泉」



「神のみぞ知る、ですかね。正直なところ分かりません。涼宮さんがこれ以上不思議は必要ない、と望んだとしたら、 それは僕らの存在に飽きたという風に捉えることもできます。もしそのような捉え方をした日には・・・」
「おいまさか・・・」
「居なくなる、なんて言わないよな?なあ?」
数秒の沈黙の後、古泉が口を開く。
「・・・冗談です」
「・・・」
「僕は元はと言えば普通の男です。そのような可能性はほとんどな・・・」

俺は古泉を無言で殴った。

「・・・痛いじゃないですか」
「てめぇ、言っていい冗談と悪い冗談があるだろ」
「・・・」
「真面目な話って言ったじゃねぇか。俺は本気で嫌なんだ。この日常を失うのが。ハルヒ、朝比奈さん、長門もそうだ。あいつらが居てこそのSOS団で、俺の日常なんだ。
なんの音沙汰もなくいきなりお前らが消えるなんて俺は認めねぇ・・・。」
「・・・僕としたことが・・・すいませんでした」
俺はたぶん今涙目だろう。古泉も少し涙目な気がする。
「お前はそんなことしないよな?いきなり俺の前から消えたりしないよな?」
「・・・誓います。僕もあなたとそんな形でお別れしたくない」
「そうか、ならいいんだ・・・。すまん、いきなり殴ったりして」
「いえ、僕が悪いです。あなたが僕のことをそこまで考えてくれてるなんて、正直感激ですよ」
「・・・ほら、立て」
俺は古泉に右手を差し伸べる。古泉は俺の手を無言で取る。
「先ほども言いかけましたが、僕はある日突然超能力者になった人間です。僕が消えるという可能性はまず考えなくて大丈夫です。」
「そうか・・・」

微妙な空気のまま集合場所が見えてくる。既に3人とも着いている。

古泉が消える心配はないと言っていたが、長門、朝比奈さんはどうなのだろうか。

俺は分かっていた。ハルヒの力が消えたら、近いうちにいなくなる人物が。

朝比奈さんだ。彼女は現在三年生であり、未来人だ。仮にハルヒが力を失わなければ、ハルヒが朝比奈さんと一緒に過ごしたいと願えば、朝比奈さんは居なくならず、この時間にとどまるだろう。
だがハルヒの力が消えたとすれば、朝比奈さんはハルヒの監視という任務を終えることになる。
朝比奈さんは未来に戻ることを余儀なくされるであろう。
さらに俺は何度も朝比奈さん(大)に会っている。彼女と初めて会ったときに「久しぶり」という言葉を聞いた。
それは朝比奈さん(小)が近いうちに居なくなることを裏付けていた。認めたくないがこれが現実なのだろう。

俺が告白をしなければ、ハルヒの力が消えないかもしれない。朝比奈さんもこの時間に居ることになるかもしれない。
だが、俺にはそんな選択肢は選べなかった。

俺はハルヒに想いを伝えたい。それが俺の正直な気持ちだ。なにかを失ってでも俺はハルヒに想いを伝えるんだ。

『やらないで後悔するよりも、やって後悔するほうが良い』

俺は朝倉の言葉を思い出した。
朝倉にいい印象は今も持っていないが、今はこの言葉はあながち間違っていないと思える。

俺はそんなことを考えながらハルヒ達が居る場所に向かった。



「じゃあ今日はこれにて解散!また月曜日、部室で会いましょ」
もはや定型文になりつつあるハルヒのこの言葉で市内探索はお開きになった。俺は銀行前の自転車を取りに行く。

ふと後ろを振り返ると、ハルヒがさっきの場所に突っ立っている。
あいつ先に帰ってなかったっけか?

なんとなくこっちを見ている気がしてハルヒを見るとすぐに目をそらす。
どうしたものか。後で行ってやろうか。

自転車の後輪に鍵穴に鍵をさし、ハルヒの元へ向かう。

「よぉ。お前帰ったんじゃなかったのか?」
「ううん。あんたに用があったのよ」
「なんだ、用って?」
「明日のことなんだけど、明日やっぱ9時集合ね」
「ん、なんか理由があるのか?」
「い、いや、特にはないけど。気分よ気分!」
「そうかい」
「じゃあまた明日ね!遅刻するんじゃないわよ!探索じゃないからっていって、罰金なしと思ったら大間違いよ!」
「おう」

たとえ罰金がなかったにしても俺はハルヒに奢るつもりだ。デートで女に払わせるってそうそうないだろ。
もっとも、女の子とデートなんてしたことない俺がデートの何を知るんだっていう話だがな。


傾いた太陽を背中に自転車を漕ぐ。
俺は集合するまでに考えていたことをもう一度考えていた。
長門はどうなのだろうか。こればっかりは正直俺には分からなかった。
普通の男子高校生に、宇宙人もどきの何が分かるって聞かれたら、一ミリも理解していないような俺が、
「ハルヒの力が消えたら宇宙人はどうなる」という問いに答えられるわけがない。
俺は帰ってから長門に電話することにした。長門は長話が好きじゃなさそうだし、手短に済ませよう。


「あ、お母さん!キョン君が帰ってきた!!」
「だから大声出すんじゃありません」
「はーい!!!」
妹は反抗期なのだろうか。
部屋の香りからにして今日は昨日の残りのカレーだ。
カレーは一晩寝かせると旨みが増すというが、正直俺の舌では分からない。
完璧手抜きというわけではないみたいで、オムライス風のカレーにアレンジされていた。
もっとも、卵焼きを作って乗っけたというものだ。おいしいからなんら問題はないのだがな。

俺は足早に飯を済ませ、再び自転車をまたいだ。ペンダントを受け取りにいく為だ。
さっき電話があり、「既に完成しているので取りに来てください」とのことだった。

少し急ぎ足で自転車を漕ぐ。
駅前に着き、いつもの銀行の前に止めさせていただく。
カードをピピっと改札にタッチし、ちょうどいい具合に電車が来る。
歩く足まで速いのはきっとペンダントの出来上がり具合が楽しみなのだろうな。単純だ。

ショッピングモールに着き、入口の比較的近くにある昨日のファッションインテリア店に入る。
昨日の女性店主ではなくパーマ頭の男性店員が迎えた。
「あのー。ペンダントの刻印を依頼していた者ですが、ペンダントを受け取りに来ました」
「あぁ、君ね。ちょっと待っててね」
「あ、はい」
万が一俺が違う人だったらどうするんだ。名前の確認もしないなんて不用心にも程がある。

数分とかからないうちに店の奥からさっきの男性店員が出てきた。
「えっと、これだね。この品物でいいかな?」
「はい。間違いないです」
「ではメッセージの内容確認をお願いしますね」
「はい」
不思議な丸みを帯びたペンダントの裏には俺が想像したような綺麗な文字が刻まれていた。
「問題ないですかね」
正直すごかった。これは値段以上の価値があると思えるくらいだ。メッセージひとつでこんなにも見違えるんだな。
「問題ないどころかすごいですよ、コレ」
「そういっていただけるとうれしいね。やりがいがあるってもんだ。そんじゃあ梱包してくるからちょっと待っててね」
「はい」

「お待たせしましたー。こんな感じで大丈夫?2つってことだしペアペンダントだと思ったから、ちゃんとクリスマス仕様の梱包にしておいたよ。」
「ありがとうございます。」
「じゃあこれ、お品物ね。落っこどさないようにな。ハハ」
「さすがに俺もそこまでバカじゃないですよ。ありがとうございました。」
「どうもありがとねー。またよろしくー!」
気さくな男性店員だった。世間的な目で見れば客に敬語一つも使えないようなダメ店員と思われるだろうが、俺はそういうゆるい雰囲気のほうが接しやすい。
バックの中に紙袋を入れる。傷つかないといいが。なんだか興奮したまま帰路についた。


家に帰るとまだ8時30分だった。いつも見ているバラエティーの番組でも見ようかと思ったが、
生憎緊急特別報道番組なるもので潰れていた。特にやることもないので風呂に入ってとっとと寝ることにした。
明日に備えるという意味も兼ねて。

風呂に入り、寝巻代わりのスウェットに着替え、ベッドに寝ころぶ。時計の針は9時40分を指している。
長門に電話することを思い出し、携帯を手に取るとチカチカと未読メールを伝えるランプが光っていた。
やっぱりハルヒからだ。

─────────────────
   メール0001
From 涼宮ハルヒ
To ****@docomo.ne.jp
Sub 明日は!
─────────────────
あんた明日遅れるんじゃ
ないわよ!9時だからね

遅れたら罰金だから!!





─────────────────

コイツは絵文字とか使わないんだな。まぁなんとなく俺のイメージ通りだが。
『分かってる。お前こそ遅れるなよ』と返信し、アドレス帳を開き、長門の家電に電話した。

3コールぐらい待つかと思ったが、1コール終わらないうちに長門は出た。さすが長門といったところか。
「もしもし、長門」
『・・・』
「あー、その、なんだ。寝てたか?」
『まだ』
「そうか、よかった。」
『・・・』
「あのちょっと真面目な話になるんだがいいか?長い時間取るつもりはない。」
『いい』
「そうか。ありがとよ」
『・・・』
「・・・ハルヒのことなんだが、お前に聞きたいことがあるんだ。」
『なに』
「俺は明日ハルヒに告白するって話したよな?」
『・・・』
「・・・まぁいい。そのことなんだが、気になることがあるんだ。古泉にはもう話したんだが」
「俺の告白がハルヒにとってプラスだったとして、ハルヒの力はどうなるんだ?あぁ、何パーセントとか具体的な数字じゃなくて、言葉だけで頼む」
『あなたの告白が涼宮ハルヒにとってプラスだと仮定した場合、涼宮ハルヒの力が消失する可能性は比較的高いと思われる。もちろん絶対にそうなるとは言えない。これは、告白をする側のあなたがごく一般の人類であり、不確定要素であることが理由に挙げられる』
「んまぁ、要するに消える可能性が高いってことなんだろ?」
『そう』
「そうか。ここからもっとマジな話だ。答えられなかったら答えなくていい」
『わかった』
「・・・ハルヒの力が消えたとして、お前はどうなるんだ?古泉や朝比奈さんのことまで答えなくていい。長門がどうなるのか知りたい」
『・・・私には分からない』
「・・・どういうことだ?」
『涼宮ハルヒの力が消失した場合、情報統合思念体の指示があるまで単独行動は許されない。情報統合思念体がどのような判断を下すかによって、私の運命は左右される』

「それってつまり・・・」
『そう。私という個体が消失するという可能性も否定はできない』
「そうか・・・」
『今私に分かるのはこれが精一杯』
「・・・」
「そうか・・・。なんか・・・夜にありがとうな。電話で」
『あなたがそのような疑問を持つことは当然。気にする必要はない。』
「・・・ありがとうよ、長門。夜遅くにすまない」
『いい』
普段から感情の起伏が大きくはない長門だが、心なしか寂しい感じがした。長門も居なくなる可能性はあるのか・・・。現実ってのは残酷なもんだな。
「それじゃあな。長門。また月曜日」
『キョン』
俺は耳を疑った。今まで長門は俺のことを『あなた』としか呼ばなかったが、
まさかこの名で呼ばれるとは思ってもみなかった。思わず間抜けな声が出る。
「えっ?」
『頑張って』
「・・・おう。ありがとう、長門」
『・・・』
「おやすみ」
『おやすみ』


俺は幸せ者だな。つくづくそう感じた。
朝比奈さんに古泉、長門、谷口や国木田にまで応援されちまった。
俺はヘタレだって自覚がある。ひょっとしたらこの想いをハルヒに伝えることができずに高校を卒業していたかもしれない。
でもみんなに応援されて勇気と踏ん張りがついた。
俺はさっきまで告白の練習とかでもしてみるかと思っていたが、しないことに決めた。
その場の言葉で、思っているがままの想いを伝えたいからだ。真っ白な天井を見つめながら俺は決意した。

明日はどんな服を着るかとか、歯もいつも以上に磨かなきゃとか思いながら眠りについた。


第六章

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2010年01月05日 09:29