ハルヒは幸いにも掃除当番だ。これならある程度は相談できる時間があるだろう。

朝比奈さんのお宝映像を目に焼き付けない為に、ノックをし返事を待つ。
「はーい、どうぞー」
ドアを開けるとメイド服の朝比奈さんと長門が居た。
「あ、キョンくんこんにちは。今お茶居れますねー」
「こんにちは、ありがとうございます」
鞄をその辺に置き、指定席に着く。
「よう、長門」
「・・・」
この三点リーダも今では長門なりのあいさつだということが分かるまでになった。

「はい、どうぞ。今日はとっても寒いですねぇー。だから体の芯まで暖まるお茶にしてみました。
漢方に似たような効用があるみたいなんです。」
「へー。頂きます」
漢方というワードがあったからものすごく苦いお茶だと思って飲んだが、
まったくもってそんなことはなく、とても旨いお茶だった。
「どう・・・ですか?」
「とってもおいしいですよ。暖まります。」
「そう、よかったぁ」
まあもっとも、朝比奈さんの入れたお茶ならなんでも暖まりそうだが。

コンコン
「失礼します。おや、涼宮さんはまだのようで」
ニヤケスマイル古泉だ。
「ハルヒなら掃除当番だ」
「古泉くん、こんにちは。お茶入れますねー」
「ありがとうございます」

ピロリーロリーロ

この音は俺の携帯のメール受信音だ。
送信相手はハルヒだった。
─────────────────
   メール0001
From 涼宮ハルヒ
To ****@docomo.ne.jp
Sub ちょっとだけ
─────────────────
岡部に進路のことで呼び
出されたから遅れるわ。
みんなに言っておいて。



─────────────────

『おっけ、了解。』と書いて返信する。

「ハルヒからメールが来た。ちょっと遅れるみたいだ」
三人なりの返事を聞いた後、俺は誰に相談するか考えた。

しかし案の定考えても「こいつだ!」というような的確な人物が思い浮ばないし、俺は三人全員に相談することに決めた。

「みんなちょっと聞いてくれ。」
「なんでしょうか?」
口を開いたのは古泉だ。結構おしゃべりなんだよなコイツ。
朝比奈さんと長門は無言でこっちを見ている。

俺は昨日の出来事を話した。

「なるほど。あなたもやっと自分の気持ちに気付いたんですね。我々としてもうれしい限りです」
「そこでだ・・・。ハルヒにクリスマスプレゼントを贈ってやろうと思うんだ。でも、あいつのことだし、普通なものじゃ喜んでくれそうにないから何を贈ろうかって悩んでたんだ。
クラスメイトにも相談したんだが、一応確定要素として、『お揃いのもの』と『形に残るもの』っていうのは俺の中で確定的なんだ。みんなはどんな贈り物をしたらハルヒは喜んでくれると思う?」

「なかなか難しいですね。」
古泉だ。
数秒の沈黙の後口を開いたのは意外にも長門だった。
「私の情報処理能力を使えば、涼宮ハルヒが何を贈られたいが知ることが可能。」
そうか、確かにそうだな。長門の能力を使えば少なくともハルヒが喜ぶことは確実だ。
だが、その選択肢は二秒とかからないうちに消えた。
「長門、ありがたいんだが、それだと俺の気持ちがちゃんと伝わらない気がするんだ。
あくまで、意見を聞くだけで、買うものは俺の気持ちで決めたいんだ」
「私もそのつもりだった。この選択肢を推奨するつもりは毛頭ない。・・・私はあなたを試してしまった。謝罪する。」
「いや、長門。全然気にしてないし、謝る必要なんてないさ」
「そう。」

「あのー」
朝比奈さんだ。
「私の考えなんですが、涼宮さんに贈るものは別に特別変わったものじゃなくていいと思います」
「というと、どういうことでしょうか?」
「涼宮さんはたぶんこういうことまで変わったものを求めてはいないと思います。もし求めているなら、
キョンくんとイヴにデートなんて普通のことは考えないでしょうし、涼宮さんはたぶん少なくともイヴの日は普通の女の子として過ごしたいんだと思います。」
なるほど、さすが女の子だ。すごく納得できる。
「僕も彼女の意見に同じですね。あなたの話によれば、彼女はあなたに用件を伝える時にとても緊張していたようですね。
彼女が『SOS団団長』としてでなく、『女の子』として話しかけたから緊張してしまったのでしょう。
彼女が『SOS団団長』の時にはこんな態度は見せませんからね。」
ほう、古泉にしては随分まともじゃないか。
「あなたも『SOS団雑用係』ではなく『男』として彼女に接してあげてください」
「もちろんそのつもりだ。そうじゃなきゃ俺はこんな決心しない」
「失礼、これは不要な心配をしてしまったようで」
数秒の沈黙が訪れる。ハルヒは『女の子』として接されたい、か。あいつらしくないな。
「僕だったら、プレゼントはお揃いのマフラーとか贈りますかね」
「古泉、それは普通女の子からのプレゼントじゃないか?」
「そうですか?僕としては男からでも問題ないとは思いますが」
「マフラーは女の子から男の人にプレゼントしたいですぅ。手編みのマフラーなんて、いかにもっていう感じでいいなぁ・・・。」

「とりあえず、僕からは『プレゼントはこれ』とは言いません。あなたは事前にお店などに行って、ご自分でプレゼントを選ぶのがよろしいかと」
「私もそれがいいかと思います」
「・・・」
「みんなありがとう。行ける日を見つけてプレゼントを探しに行ってみようと思う。ごめんな、わざわざ時間とってもらって」

バーン!

「あーもううんざり!みくるちゃん、お茶!」
「あ、は、はーい!」
なんていいタイミングなんだろうか。もしかしたら聞かれていたっていう可能性もあるが。
聞かれていないことを願いたい。ハルヒには驚いてもらいたいし、喜んでもらいたいからな。

「どうした?うんざりだなんて。なにかあったのか?」
「特にはないわ。ただ話が長いのよ!ただでさえ寒いのに教室でずっと座りっぱなしで話を聞いてるだけなんて耐えられるわけないじゃない!」
「お茶どうぞー」
「あっ、ありがとう」

ゴクゴク
プッハー!
「暖まるわ、みくるちゃんのお茶はやっぱり美味しいわね」
「あ、ありがとうございますぅ」
昨日の電話での『女の子』らしさはどこへ行ったのだろうか。

それからは特に変わったことはなく、古泉をバックギャモンでぶちのめした後、長門の本を閉じる音で団活は終了した。


第四章

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最終更新:2010年01月05日 09:26