(この作品は朝比奈みくるのブラックコーヒーの設定を継承したカオスSSです。メタネタやパロデイが苦手な方は閲覧を控えてください)

 

 

「こちらエージェントMA。こちらエージェントMA。待たせたな。ただいまよりミッションに入る」
 現在の時刻は正午前。パラシュートを使用したヘイロー降下により、北高屋上に到着した。
「なにぃ!?ターゲットの接触まで残り五分だとぉ!?すぐ目的地に向かう。何かあったら無線で連絡をくれ!」
 無線から聞こえてきた残酷な現実を理解しながらも、背負っていたパラシュートを捨て、屋上から全速力で離れていく。


 この任務は正義ではない。


 だが、絶対に遂行させなければならない。


「……おかしいです。昼休みで間違いないんですけど……やっぱりイタズラですかぁ……そうですよね。未来人のあたしなんかに、こんなリア充なラブレター来るわけが……こんちくしょー!」
 体育館裏の木かげで可愛らしく憤慨しながら地団駄を踏む美少女の名前は朝比奈みくると言います。そして、それを物陰から眺めながらほくそ笑む私も朝比奈みくる。
 どうもみなさんお久しぶりです。朝比奈みくるです。と言っても、みなさんがよく知る小さな朝比奈みくるではなく、あの姿から数年後、全身が爆発的に実った大人な朝比奈みくるです。

 


『朝比奈みくるのゴーヤチャンプルー』

 

 

「ふふふ……残念でした、わ・た・し!あなたにリア充なラブレターを送ったイケメン君は、ここで甘い夢を見てますよ」
 まさか忘れたとは言わせませんよ?私達はこの時代には、本来存在してはならない存在なのですから。恋愛なんかもってのほかです。
 だからこうやって……私は眠りこけているイケメン君の耳元に口を近付けて、
「……朝比奈みくるは黒い……朝比奈みくるは黒い……朝比奈みくるは黒い……朝比奈みくるは黒い……朝比奈みくるは黒い……」
 はい。洗脳完了。これで彼はこの時代の朝比奈みくるには接触しません。バーカ、ザマアミロ!あなたに彼氏なんて十年早いんです!私は五年遅いけど!……なに言わせてんですか!
 あ、そうこうしてる間に、ちっちゃなあたしがご立腹に地団駄踏みながら、教室に帰っていきました。
「バーカバーカ。一昨日きやがれです!ファァァァック!」
 そんなラブレターにうつつ抜かすくらいなら、とっとと仕事しやがれです!仕事なんて部室で湯沸しポット役くらいしかないですけど!バーカ!


「……なにしてんすか、朝比奈さん」


 突き上げた中指が固まります。
 とっても懐かしい声が、とっても嫌な予感しかしない時に、とっても嫌なタイミングで聞こえてきました。
「キョ、キョ、キョ、キョ、キョ、キョ、キョ、キョンくん!?」
 なんでそんな軽蔑するような眼差しで私を見るんですか。いや、分かりますけど。
 考えてみて下さい。例えばですけど、ギャルゲーを遊んでいたときに、好みのキャラから嫌われ、つい「あなたなんか、CGコンプ率を上げたいためだけに口説いてるだけなんですからね!」とツンデレったとしましょう。
 そんな時です。隣の襖から兄弟や両親の気配を感じた時、あなたはどう思いますか?
 ええ、私なら「いっそ殺してぇぇぇぇぇぇ!」と叫びます。 ええ……
「いっそ殺してぇぇぇぇぇぇ!」
 一生のお願いです!時空管理局のみなさん!TPDDを起動してください!この軽蔑の空気は、私には耐えられません!それができないなら、せめて私の頭上50メートル上に、なにか金ダライ的な物を時空転送してください!
「って!やめてください!なんで木に登ろうとするんですか!?」
「離してください!私なんか、私なんか死ねばいいんです!」
「つーか全然登れてませんから!成長しても身体能力は変わらないんですね!」
「あたりまえじゃないですか!私の戦闘力はスカウターはち切れますよ!逆に!」
「すげー!負の方向にすげー!」
「きゃー!どこ触ってるんですか!」
「……カマトトぶりやがって」
「あぁん!?」

 


「……つまり、過去の自分が任務を忘れないように、活をいれていたと」
「はい!恋愛なんて朝比奈みくるには早すぎます!だからこうやって未来の私直々に諌めないといけないんです!……あんちくしょうめ、なんであいつだけモテるんだよ……」
 べ、別に嫉妬なんかしてませんよ!これは人生の先輩である、私の愛です!愛の鞭なんです!
「うわぁ……この人自分の首絞めてるよ。しかも気付いてない……残念すぎる」
「すいませーん、生中おかわりー。え、なんか言いました?」
 キョン君がとても重大なツッコミを入れてくれた気がしますが、私は生ビールを待つ気分でいっぱいでしたので、何にも聞こえませんでした。
「それよりキョン君も呑んでくださいよー」
「あの、俺、未成年なんですけど」
 そうでしたね。大体、キョン君の酒癖の悪さを考えると、一生素面で生きるべきです。あなたはお酒を飲んじゃいけない人種です。
「あー、それにしても居酒屋っていいですねー。いえ、私の未来にもあるんですけど、この空気は、この時代だけにしか無いですからね~」
「あるんですか、居酒屋。ちょっと意外ですね」
「当たり前じゃないですか。例え何百年経とうが、居酒屋は日本から消えません。仮に消える未来だとしても、私が未来を守ります!居酒屋の!」
「とてもかっこいいセリフなのに、『居酒屋』ですか」
「それは全世界のアル中に対する宣戦布告と受け取ってよろしいですか?」
「アル中って自覚はあるんですか!」
「むしろ誇りです!」
「ダメかっけぇ!ダメ人間なのにかっこいい!やっべ!ダメな大人も悪くないって気分になる!」
「酒好きに取って『アル中』って単語は勲章だと思います」
 ……そんな残念ね生物を見る目をしないでください。お酒だけが私の安らぎなんですから。子供には分からないでしょうけど、大人には泣きながら酔いたい夜もあるんです。
 北高でキョン君に見つかってしまった私は、説明ついでに雰囲気のよさそうな居酒屋に彼を連れ込みました。あれなんですよね。私ほどのアル中になると、酒が入らないと何も話にならないんですよ。
「あ、生中とつまみのゴーヤチャンプルーが来ましたね。ほら、キョン君も気にせず頼んでいいですよ。どうせ時空管理局の経費で落としますから」
「え?あ、……じゃあ、とりあえずホッケの煮付けと焼き鳥お願いします」
「あれ?なかなか渋い舌してますね」
「ええ、まあ和食派ですから」
「それじゃあたしも焼き鳥頼みまーす。あ!フワがある!美味しそう!」
「フワ?」
「フワも知らないんですか?牛の肺ですよ。食感がマシュマロみたいで美味しいですよ?」
 それじゃ、ねぎまの塩と一緒にフワも頼んでやります。

 


「ところでどうですか、SOS団の方は」
「やっとですか。何杯目で聞いてんですか」
「え?まだ中ジョッキ10杯目じゃないですか」
 お酒も進み、私のテンションも落ち着いてきたので聞いてみました。懐かしいですからね。
「まだ!?常人ならベロンベロンのへべれけになる量でしょ!?」
「こんなの寝酒にもなりませんよ。で、どうなんですか?」
「……まぁ、いつも通り普通ですよ。普通に不思議探索して、あ。なぜかここ三ヶ月くらいハルヒと二人っきりの組み合わせなんですよね」
 へ、へぇ~……涼宮さんの変態パワーが全快フルスロットルですね~。
「あいつの買い物って、本当に長いんですよ。やれやれ、服屋に何の不思議があるんだか」
 多分、涼宮さんの目の前にありますよ。
「そうなんですよね。試着室の鏡でも覗けば、すぐに見つかると思うんですよ。つーか一々感想言うのも、いい加減ダルい。あいつは元が良いから、何着ても似合うってのに」
 私の目の前にもあります。不思議が。
「そうそう。不思議なんて、どこにでもあるってのに」
 そうですね。もういいや。
「SOS団じゃないんですけど、最近佐々木に勉強教えてもらってるんですよ。あいつやっぱ教え方うめえな」
「へ、へぇ~……ちなみにどこで授業を?」
「え?俺の家か佐々木んちに決まってるんじゃないですか」
「き、決まってるんですか!?」
 そんなわけない!決まってるわけない!他にも選択肢があるはずです!ファミレスとか!喫茶店とか!
「でも不思議なんですよね。佐々木んちでやる時は、大抵、両親がいないときだし、うちでやる時も、家族が変な気を使って、出てくんです」
 や、や、や、やる時もですか!?何を!?
「何をって……勉強以外に何をやるんです?」
「それこそ決まってるじゃないですか!う、羨ましくなんかないんだからね!」
 私なんか、いまだに生むす……バカぁ!
「……?ああ。休憩時間にDVDとかも見てますね」
「DVD……ドメスティック・ヴァイオレンス・ディークラス……ですか!?どんな戦場ヶ原さんですか!」
「なに危険な単語をあてがってるんですか!つーか二つの意味で危険です!普通に勉強して、普通にDVD見て、普通に寝てるだけです!」
「普通に一緒に寝てるんですね!?キョン君は、いつの間にそんないやらしい男の子になったんですか!」
「一緒になんか寝てませんよ!たまに泊まる時はあいつがベッド使って、俺は床に寝てますから!」
 それでも同じ部屋で寝てるんじゃないですか!
「……そう言えば、意外にあいつ寝相悪いんだよな~。必ずと言っていいほど、同じ布団に潜り込んでくるんですよ。寝苦しいぜ」
「死ね!」
 もう我慢の限界です!私はこの美人でクールなお姉さんと言う仮面を剥ぎ、獰猛な肉食系女子の本性をさらけ出すことにします!
「死ね!マジ死ね!肺機能特化型人造人間にペーパーナイフ二刀流で立ち向かっちまえ!そんで勝ってこい!」
「その復讐は俺の物じゃねぇ!」
「ラブストーリーの主人公は殺す!」
 この復讐は私の物だ!
「落ち着いてください!握った箸を下ろしてください!何を勘違いしてるか知りませんが、俺はまだ恋愛経験0ですから!」
「私もです!いまだに処女です!」
「何いらないカミングアウトしてんすか!」
「いらないってなんですか!名刀は抜かないからこそ名刀なんです!私はきっと名器ですよ!多分!」
「年上だし朝比奈さんだから、とりあえず丁寧語で話してたけど……もうめんどくせぇ!しゃべるな!黙れ!口を閉じろ!」
「下の口ならいつでも全開です!」
「わかった。それなら黙らなくてもいい。死ね!
「大体ですね、最近のラブコメだらけのドラマ業界からして納得いかないんですよ!なんだてめーら!やることは恋愛しかねーのか!海外ドラマ見習え!ラブも確かにあるけど、サイキック捜査官とか天才検死官のミステリーとか!他にも囚人の脱走とか、日本人のスケールじゃ考えられないような魅力的な物語ばっかです!」
「あんたの例えは地味に古いな!実はあんまり興味ないだろ!」
「トゥルー・コーリングは神ドラマだ!なんで打ち切りやがったぁぁぁぁぁぁ!」
「確かに神ドラマだったけど!それ5年前!」
「ターミネーター2.5は二話で飽きた!美少女出しとけばいいって物じゃねー!」
「ばっさり切りやがった!それ言ったら元も子もねー!」
「物語にテンプレな萌えはいらねー!年下のキャラに「お兄ちゃん。大好き」って言わせればいいと思ってるんじゃねぇ!「……大好きぃ」アホか!妹萌えなんて、究極の幻想だ!地球を13周してもありえねぇよ!」
「稀代の萌えキャラの分際で、どの口が言ってるんだ!」
「これはキャラです!涼宮さんに気に入られるための演技です!前作のブラックコーヒーを読んでください!真っ黒ですよ!?」
「『あんたは』だろ!?他のSSの朝比奈さんは違う!」
「それこそ究極の幻想だ!どこの世界に「ふみゃ~」とか「ほにゃ~」とか「あへあへ」を日常会話で使う女の子がいますか!?いたら引くわ!」
「黙れ黙れ黙れ!つーか「あへあへ」なんて言ったことあったか!?」
「あへあへ~蝶が飛んでます~あへあへ~あへあ……ぐが!だ、誰か!私のカバンの底から白い粉を出してください!」
「待て待て待て!タイムリーすぎる!こんなSS投下できるか!」
「お腹が空きました……カレーうどんを……カレーうどんを食べさせてください……がくっ」
「うどん粉ぉ!?」
 うつ伏せになったまま店内の様子を伺うと、客どころか従業員も、みんながみんな、私たちに視線を送っています。
 ええ。どうせ私は道化ですよ。だったら、
「駆け抜けてやります!おい、そこのにーちゃん!私の財布くれてやるから、樽でビール持ってこんかい!」
「ちょ!朝比奈さん!少し落ち着いて!」
「知るかぁ!今日は言いたいこと言いまくってやる!一作の神長編SSなんかより、一発の伝説短編SSだ!」
「かっけぇぇ!でもそれは半裸の神芸人が言ったからこそ栄えるセリフだ!」
「――人間いつ死ぬか分からないからその時の全てを出し切りたいんだ。俺はいつ死ぬか分からないし、見てくれてる人だっていつ死ぬか分からない。視聴者が最後に見た江頭が手抜きの江頭だったら申し訳ない――これが私の座右の銘です!」
 本当は『江頭』を『SS』に変えて発言するつもりでしたが、それは神芸人への冒涜です。あえて、全文をコピペさせていただきました。
「だから今回は……このSSだけは、私の全部を晒してやります!」
 はい!「月の微笑好きだったのにな……」とか「あの谷口カッコよかったけど、変わっちまったよ職人」とか「反英雄なんて子供だましだった」くらい言わせてやります!
「あ、朝比奈さん?誰も着いて来てませんよ?多分」
「駆け抜ける!」
「危険だ!危険な予感しかしねぇ!でもかっけえ!惚れる!」
 もう言っちゃいますよ!いいですね!
「まずはこれから言ってやります!私、実はハルキョンエンドに飽きてます!」
「ええ!?超王道だから!ここに一杯あるよ!?一番のシェアを誇ってるから!」
「と言うより」
「と言うより?」
「ハルキョン職人、みんな風邪引け!インフルエンザ!」
「今度は獅子舞芸人!?」
「大体、最近投下されたハルキョンSSなんてよー、ほとんどVIPが黄金時代だった時分の神SSの五番煎じくらいだろー?」
「なに言ってるんだ!「カラフル」とか「戦友」とか最高だろ!」
「あぁん?てめー「新SSV」ディスってんのかよ?」
 ええ、もちろん王道であり、良作が目白押しなのはわかってます。ちなみに私の中での神ハルキョンSSは「軌跡」です。あれは超えられない。いつまでも私の憧れであり、目標です。
「私が気に入らないのは、涼宮さんのキャラを引き立たせるために、安易な噛ませ犬役として佐々木さんや長門さんを引き合いに出すことです!」
 私だって、たまーに、極々稀に引き合いに出されますけどね!……なに?どうでもいい?ミクルビームぶっ放しますよ?
「いや、でも、それって仕方ないことじゃ……?ハルキョンと表記されている以上、俺がハルヒを選ぶのは必然でしょ?」
「だからもう!結果はいいんです!キョン君が涼宮さんとエッチしようがどうでも!
どうせ他人事だし!
「わけがわかんねーよ。一体何がしたいんだ?」
「仕方ないですね。察しの悪いキョン君に、猿でも分かる例文短編SSを披露します」
「俺がすでに疲労だよ」
 それではキョン君風に行きたいと思います。どぞ。

 

 

 俺は一ヶ月前、ハルヒ達と喧嘩し、SOS団を脱退した。
 理由なんか、もう覚えていない。
 覚えてないと言うことは大したことじゃないだろうが、それでもあの時は許せなかった。
 あの日、俺は本気でハルヒをしばこうと思ったくらいだ。いや、古泉がいなきゃ、間違いなくブッ飛ばしていた。
 俺は自分の中に眠る暴力が恐い。
 ハルヒとはあれから口を聞いていない。顔も合わせていない。……もしも、もう一度ハルヒに話しかけられたら、俺は自分を制することはできるのか?
「……どうしたんだいキョン?恐い顔をしているよ?」
 佐々木が、頭が痛くなりそうなくらいの文字数を誇る参考書の上から声をかけてきた。
「……いや、なんでもない」
 本当はなんでもなくは無いのだが。これは俺の問題だからな。
 ハルヒと連まなくなって数日後、俺は町で佐々木と偶々出会った。
 ハルヒと喧嘩した旨を話すと、佐々木は何も言わず、俺を抱きしめてくれた。
 嬉しかった。俺の中で枯渇していた充足感が、確かに埋まっていった気がした。
――時間が癒してくれる傷みだってあるよ――
 それからずっと、放課後になると、俺はすぐに帰宅し、駅前の喫茶店で佐々木と一緒に時間を共にしている。
 何をするわけでもない。佐々木は参考書を見ながら勉強をし、俺はそれを眺めるだけだ。そして日が落ちる頃、俺達は中学時代のように一緒に帰宅するだけの生活だ。
 苦痛なわけがない。こうやって佐々木と一緒に過ごすだけで、俺は満たされている。
「ふう。今日はここまでにしよう。待たせたね。じゃあ帰ろうか」
 参考書を閉じ、佐々木が席を立った。俺もそれに習い、テーブルの上を簡単に整えてから、店内を後にした。


「キョン!」
 店を一歩出た瞬間、この一ヶ月全く聞いていなかった、懐かしい声が聞こえた。
「……ハルヒ」
 店の外にはハルヒがいた。
 だが、いつもとは違い、ハルヒは無理に髪を上げて不自然なポニーテールをしている。熱いのだろうか?
「なんの用だよ。悪いがお前の顔は見たくない。失せろ」
 自分の暴力を制すことはできたが、代わりに言葉の穏やかさは消えうせている。自分でも分かるくらいに刺々しい。
 ハルヒはなにも答えない。ただ、泣き出しそうな瞳を諌め、俺を睨みつけている。
「……行くぞ佐々木」
「……でも」
 いいから、ほっといてやれ。俺にはもう関係の無い奴だ。
「ま、待ちなさいよ!」
 ブレザーの袖を引く弱弱しい力を感じた。
「……ごめん……なさい……。私が悪かったから……許してください。キョン、あんたと話せないのはイヤ……なの」
 その姿は、いつもの傲慢不遜な態度とはかけ離れた、とても弱くて、とても儚い、一人の少女だった。
「離せ。歩き辛い」
 ハルヒの顔に絶望が宿る。
 ここでハルヒを許すなければ、俺は永久にこいつとは和解できないのかもしれない。
 それでも俺はこいつを許したくなかった。いや、許せる許せないなんて、どうでもいい。
「……」
 隣には佐々木がいる。何故だかわからないが、こいつの横で、俺はハルヒに頭を下げたくなかった。
「……もういいよ。キョン」
「佐々木?」
「ありがとうキョン。この一ヶ月、僕はとても楽しかった。でもね、鈍感な君は分からないだろうが、君はいつだって僕を見ていなかっただろ?」
 図星。ああ、認めるさ。俺はいつだってハルヒと仲直りすることを考えていた。でも、そんな小さい自分を認めるのが嫌で、ずっと佐々木と一緒にいた。
「君の居場所は僕じゃない。SOS団だ。もう傷みは癒えただろ?さぁ、自分の居場所に帰りたまえ」
 佐々木はそれだけ言って、俺の前から去っていった。
 一度も振り返らずに。ただ真っ直ぐ。ひたすら走り去っていった。
 すまん佐々木。俺はいつだってお前に背中を押されるだけだ。ありがとう。
「……帰るぞ。ハルヒ」
「……うん!」

 


「ではキョン君。この即興SSを読んで、どう思いましたか?」
「少しテンプレ気味ではありますが、いいハッピーエンドじゃないですか」
 ビールジョッキ(大)が砕け散ります。当然です。この鈍感最低阿呆男のド頭に振り下ろしましたからね。
「死ねェっ!この野グソ!」
「なにするんですか!?これがコメディSSじゃなかったら、マジで死んでますよ!」
「知るかよ!てめェみたいな主人公がいるから、私たちのように報われないヒドインが生まれるんだよ!」
「だって!これはハルキョンエンドでしょ!?仕方ないから!佐々木が涙を飲んでも!」
「誰かぁ!チェーンソー持って来い!この野グソをバラバラにできるほどの、でかいチェーンソーを!」
「あんたはどんだけキャラ崩壊すれば気が済むんだ!?」
「うっせー!これは私だけの憎悪じゃねー!佐々木さんの悔恨もプラスしてんだよ!ぜってー佐々木さん、この後家で泣き寝入りだよ!泣いて呑んで泣いて呑んで吐いて泣いて呑んで泣いて呑んで吐いて泣いて呑んで吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いて吐いてアル中決定コースだよ!私みたいな!」
「それはあんただけだ!佐々木がそんな泥沼人生送るほどバカじゃねぇ!」
「そんなの分かるわけないじゃないですか!あなたはキョン君であって佐々木さんじゃないんですからね!」
 するとキョン君の呻き声が聞こえてきましたが、私は止まりません。止まらせません。

 

 

「だってこれ、佐々木さんの気持ち、まったく考えてないですよ」

 

 

 佐々木さんがどんな気持ちでキョン君の背中を押したか分かりますか?
「こんなの酷すぎますよ。このキョン君、結局、自分の事しか考えてないじゃないですか。「ありがとう」って感謝する前に、まずすることがあるでしょう?」
 何度も言いますが、結果はどうでもいいんです。それは作者の趣味であり、私たち読者が言及することではありません。
 それでも。そうだとしても。キョン君と涼宮さんがハッピーエンドを迎えるってことは、佐々木さんにとっては、この上ないバッドエンドになるんです。
「別に二股かけろとも、それこそチェーンソーで分裂して二人を愛しろなんて言いません。でも、このキョン君は佐々木さんを追いかけるべきなんです。追いかけて、話し合って、その時初めて決断しなきゃならないんです」
 どちらの世界を選ぶのか。辛い選択でしょうが、二人に愛された以上、キョン君には選択する責務があります。
「だから……」
「……朝比奈さん。すいません、俺が間違っ」
「この超絶フラクラリア充野朗がぁぁぁ!死ね!マジ死ね!輪廻転生して血と錆の裏世界をさまよって死ね!」
「やっぱりそっちがあんたの本音か!つーかどんだけサイレントヒルが好きなんだ!」
「涼宮さんが主人公で、朝倉さんに追い掛け回されるSSを執筆するくらい大好きだぁ!楽しかったぁ!」
 私も出たし!妹ちゃん役で!
「最低だ!あんた最低だ!」
「UFOエンドこそがトゥルーエンドだと信じている。3は最高傑作。サイレントヒルの歌、みんなで歌おう!」
「伏せ字くらい使えよな!」
「それは『絵文字くらい使えよな』という隠れた名作SSへの挑戦と受け取ってよろしいですか?」
「知らねぇよ!つーか黙ってろよ!言わなきゃ伝わんなかったでしょーが!」
「あの無意味にリアルな大学生雑談は素晴らしかった」
「もういいから未来帰れ!つーか死ね!
「帰りませんよ!私が帰ったら、誰が私の後釜と言う名のイスに座るか分からないじゃないですか!」
「心配しなくても、あんたの代わりなんて誰にもできねーよ」
「そりゃそうですよね。私以上の熱い魂を持つ女キャラなんていませんからね」
「違う。あんた以上の汚れ役は、いないって意味だ」
「なら私、「汚萌え」という新ジャンルを築きます」
「萌えねーよ!つーか燃えちまえ!汚れだけに!」
「何言ってんですか。この萌えが群雄割拠する戦国時代、ただの萌えじゃ天下取れません」
 『萌える戦国武将』なんて本もあるくらいです。何でも萌えキャラにすれば良いってわけないでしょう。
「その通り!萌えるからなんだ!ネコミミなんてあざといんだよ!」
「そうです!本当の萌えキャラってのは、学校でゲロ吐こうが萌えるんですよ!」
「それはわからない」
「ええ!?闇鍋してメインヒロインとサブヒロインがゲロ吐くライトノベルだってあるくらいですよ!?」
「待て!なんの話をしてるんだ!」
「まあ、それは極論ですけど。いいですか?私は真に萌えるキャラというのは、何事にも全力で取り組むキャラクターだと思います」
「……なるほど。まあハルヒだって、あんだけ自分勝手にはっちゃけてるが、エンジンになってるのは、不思議への真摯な情熱だしな」
「それが涼宮さんの魅力です」
 私が部室の湯飲みポットを嫌がらないのは、まあ、単純に涼宮さんが大好きなだけですからね。仕事よりも、私がそばにいたかったからです。その点に関しては、この時空の朝比奈みくるが羨ましいです。
 戻れるなら、あの文芸部室に戻りたいです。笑っちゃいますよね。未来人のくせに過去を懐かしむなんて。
 いえ、過去に戻ることができる未来人だからこそ、過去を過剰に懐かしむのだと思います。

 手を伸ばせば届くのに。

 でも触れてはならないから。

 だって過去は過去なんです。
「私はいつだって未来の操り人形。だから少しだけ羨ましいんですよね」
「朝比奈さん……」
「自由に設定を組めるオリキャラが!」
「なんでそこでメタネタに走るかなぁ!そのままシリアスに突っ走ってくれよ!」
「嫌です!むしろここからが本領発揮です!」
 実は、このとんでも展開になった以上、絶対にこれを言うと決めていたんです!
「ぶっちゃけ、私、オリキャラ肯定派ですよ?」
「知ってるよ!この創造主が執筆しているるSSって、実は結構オリキャラ出てるし!」
「『月の微笑』には岡本さん、『憂鬱にいたるまでの物語』には古泉君の元彼女や長門さんの友達、『反英雄』にいたっては、主人公がオリキャラですから」
「俺、二次創作のオリキャラって、あまり好きなジャンルじゃないんだよな。なんか作者の自己満足度強い気がして」
「てめぇ!そのセリフ、オリキャラがどんだけ難しいか分かって言ってんのか!?」
「それも知ってるよ!『反英雄』がどんだけ大変だったと思ってるんだ!時間軸整理に始まり、原作消失への皮肉、長門への痛烈な批判、これらを考えるのに偉い時間喰ったわ!
「それだけじゃないです!主人公を万能にしたくなかったから、いろんなシーンで嫌な奴にしたり、それでも真摯に世界と向き合う姿を描写することが一番大変でした!」
「暴力描写だって半端な物を描きたくなかったから『龍が如く3』で遊んでり、『GTO』や『BOY』読んだりして勉強したくらいですよ!?」
「みんながみんな、キョン君みたいなヒーローになれるわけがないんですからね!」
「その通りです!あいつは言わば『主人公になれなかった主人公』がコンセプトであり……って、何言わせてんですか!」
 『反英雄』を通して言いたかったのは、そういうことです。
 キョン君のように陽光の下を歩める英雄もいれば、その影で、決して表には出せられない影の英雄もいるということです。……まあ『彼』なら自分を英雄呼ばわりすることを気嫌いするでしょうが。
 先ほどの佐々木さんがキョンくんにフラれる即興SSだって、佐々木さん視点で言えば、彼女は影です。
 光に照らされて影ができる。逆を言えば、影があるからこそ光も存在しているわけです。


 それと『月の微笑』みたく岡本さんのように、名前だけ紹介されているキャラを使用するって案も考えました。
 やろうと思えば谷口君や国木田君を『反英雄』の主人公に置き換えることもできます。
 でもそれをするくらいなら、私は一からオリジナルキャラクターを作ることを選びました。
 なぜならそれは、『反英雄』のテーマの一つに「逃げられない選択肢」があったからです。
 あの世界観を描くため、最も力を入れた、「ハードでダークな消失世界」を表現するためです。だから既存のキャラでお茶を濁すなんてことはできませんでした。
 やるからには徹底的に。『彼』の周囲でドンドン絶望的な状況に見舞われるのは、そういう意図があったからです。
「オリキャラが二次創作で避けられがちなのは認めます。さっきキョン君が言った通り、自己満足の上に自己陶酔に陥りやすいですしね」
 キョン君が素直に頷きます。あ、キョン君って、たまに素直な反応すると可愛いですね。
「でも、私はそれでいいと思います。二次創作の原点は、あくまで自分が楽しむためですから」
 別にこれで金を取ってるわけではないので。好きにやりましょうよ。
「確かに誰かを貶めたり、他の作品を虐げるような作品は不快感を覚えるどころか、それこそ殺意が沸きますけどね」
「……さっき確か『ハルキョン職人、みんな風邪引け!インフルエンザ!』って言ったよな」

 

 

 

「………………………………………………ふみゃ~」
「汚ねぇ!ごまかしやがった!」
「ほら、私「汚萌え」だから」
「そんな属性ねぇよ!」
「おい、にーちゃん!次はツマミだ!鳥軟骨持ってこいや!」
「つーかあんた、ほんと何しに来たんだよ!ぶっちゃけ、ただのアル中としか映ってねーぞ!」
「禁則事項です」
「思い出したように決めゼリフ言っても手遅れだよ!」
「お前はもう死んでいる」
「あんたのキャラが死んでるわ!」
 そんなこんなで、私は日頃のストレスを発散し、いつしか泥のように眠ってしまいました。あ~楽しかったですう~……。

 


「……ふみゃぁ……ここはどこですか?」
 気が付くと、私は狭い個室の中、毛布に包まれ上品なソファに身を委ねていました。
「……ピーン。今日も私は冴え渡る」
 私の亜麻色の髪に隠れる頭脳が、明確に状況を把握します。
 3メートル四方くらいの狭い個室。
 毛布とソファ。
 この時代では最新型である大画面液晶テレビ。
 そして乱れた着衣と、一緒に寝ているキョン君。
「よっしゃぁ!処女喪失!」
「んなわけあるか!」
 そんなの分かってますよ。言ってみたかっただけです。
 見た感じ、ここはネットカフェですね。
「まさか!初めてをここで!?」
 今度は躊躇なく頭をしばかれました。それもグーで。これ以上バカになったら責任とってくださいよ?
「バカって自覚はあったんだ。そこに驚くわ」
「こんな自分をまともに思えるわけないでしょう」
 そりゃそうだ。とキョン君は納得した様子で頷きました。
「ここまで運んできてくれたんですか?」
「さすがにおんぶってわけじゃないけどな。居酒屋出て、そのあとはタクシーでここまで来た」
「ふふふ。やっぱりキョン君は優しいですね」
 ありがとうございます。私、キョン君のそういう無償の優しさ、大好きです。
「……なんで目を逸らすんですか?こっち見てくださいよ」
 なんか急にキョン君が私から目線を外しています。
「ん?さてはこの、前が開いちゃってるシャツが恥ずかしいんですか?」
 このHカップの胸が目に毒なのかな?
「でもねキョン君。実際、巨乳って百害あって一利も無いんですよ?すっごく邪魔なんですよ。これ」
 私の運動神経の悪さだって、きっとこれが原因に決まってます。
「……んしょ、んしょ。別にキョン君とかだったら恥ずかしくないんですけど。変な所で純情なんだから……はい。これでバッチシです。だからこっち向いてくださいよ」
「い、いえ。別にそういうわけじゃ……ないんですけど」
「あ!」
 はい。もう一度私の頭が冴え渡ります。
「んあ!?」
 私の人差し指が、キョン君の唇の上をなぞりました。
「口調、元に戻ってます!」
「……ああ、そう言えばそうですね。……そういやなんでタメ口聞いてたんだろ。すいません朝比奈さん」
「ダメです!元のタメ口に戻してください!」
「ええ!?」
 驚くキョン君を無視し、私はさらに続けます。
「キョン君、私、本当は知ってるんですよ?キョン君が私と一線を引いて付き合ってるってことくらい」
 キョン君にとって、私は先輩だから敬ってるだけでしょうけど。私、本当はそれが凄く嫌だった。
「本当はもっと、キョン君には近付いて来て欲しかったんです。でもキョン君は優しいから……ね?」
 優しさは相手を癒すこともあるけど。時には傷つけることだってあります。
 キョン君の唯一の短所は、それに気付いていないことです。本当に鈍感さんなんだから。
「昨日、すっごく嬉しかったんですよ?バカみたいに騒いだだけですけど、キョン君が、とっても近くに感じられたんです」
 だからこれからも、

 


「だからこれからも、私にタメ口使ってくれると嬉しいです」

 


 そう言っただけなのに。あれれ?
「あの……キョンくん?なんで固まってるんですか?」
 キョン君の機能が停止してます。なんか反応してくださいよ~つまんないじゃないですか~。
 私は固まったキョン君の目を覚まそうと、とりあえずマジックペンを取り出しました。
「定番の落書きと言えば、やっぱり鼻毛でふぎゃあ!」
「そのマジック、どこから取り出した!」
「にゃにっへ……ヒーヒービービーきゃりゃ」
 キョン君がいきなり起動したかと思ったら、二本の指が私の可愛い鼻孔を穿ちます。痛いです!ブタさんかサブちゃんになります!
「あんた本当に未来人か!?なんでサブちゃん知ってるんだよ!」
「サブちゃんの演歌は、未来では国歌に指定されてますから。幼稚園児は「おむすびころりん」を習う前に、「祭り」を習います」
「すげー!未来すげー!むしろ未来の保育制度がすげー!」
 キョン君は私のやったこと全てを許してくれたわけではないはずです。おそらく、こうやって話しているときでも、腹に据えかねるている事項はたくさんあるでしょう。
 ごめんなさいキョン君。私はこれからも、あなたに嘘を吐き続けます。
 こんな私を許してくださいなんて言いません。もう許してもらえないほどに、私は汚れきってます。

 


 でも私は、絶対にあなた達を憎みません。

 


 絶対に。

 


『朝比奈みくるのゴーヤチャンプルー』


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