俺は風呂に入り、今日一日の疲れを癒す。
月曜でこの疲れだと、金曜が怖いな。 今日もあいつに引っ張り回された。あいつの素っ頓狂な性格のせいで、疲れることには疲れるんだが、
今ではそれが学校生活の楽しみの一つになっていることは言うまでもない。

──今年も終わりか。


『気持ち』


今日は12月17日。俺にとっては縁もゆかりもない「クリスマス・イヴ」と呼ばれるイベントの丁度一週間前だ。
クリスマスというと、大事な人と一緒に過ごすというイメージが俺の中である。
俺だって夢を見ていないと言ったら、それは嘘になるだろう。可憐な女子とふたりっきりでクリスマスを過ごしてみたいさ。
生憎相手が居ないだけで。 まぁどうせSOS団クリスマスパーティーという名の鍋パーティーが今年も開かれるであろうし、
俺がイヴの夜に一人悲しく暇を持て余すことは、 まずないと考えていいだろう。


ピピピピピ

風呂の中に携帯の甲高い声が響く。ディスプレイを見ると着信はハルヒからだった。
『キョン、あんた今なにしてんの?』
「もしもしの一つぐらい言え」
『いいじゃない。あたしそういう細かいの好きじゃないのよ』
なんともハルヒらしい考え方だ。
『それで、今何してんの?』
「風呂入ってるところだ」
『・・・』
「ん、どうしたいきなり黙って」
ハルヒが受話器の向こうでどんな顔をしているか、なんとなく想像がついた。
「お前想像しただろ?」
『バ、そんな訳ないじゃないエロキョン』
「まだ何を想像したかなんて俺は言ってないんだけどな」
『う、うるさい!ったく』
中途半端に女の子だなコイツは。

「そういうお前はなにしてんだ?」
『あたしはみかん食べたり、コタツに入ってゴロゴロしてただけよ』
「お前にしては普通だな」
『あたしだってそういうことぐらいするわよ』
「似合わんな。それはそうと、一体何の用だ」
『そうよ、それなんだけど・・・』
『あのね、えっと・・・』
「ん、なんだ?言うなら早く言ってくれ。のぼせる」
『うるさいわね!・・・えっと、さ』
『その・・・クリスマスイヴなんだけどさ、あんた暇でしょ?』
コイツはたとえ俺が暇じゃなくても俺を連れ出す女だ。
これで俺がイヴに暇を持て余す可能性はゼロになった。
「まぁ暇っちゃ暇だな」
『何よその言い方』
「深い意味はない」
『いちいち面倒くさいわね』
『とにかく、暇ならあたしに付き合いなさい』
「付き合うって、また鍋パーティーでもやるのか?」
『んーん。今年は違うわ』
「じゃあ一体なんだってんだ」
『今年はあたしとキョンだけよ』
「お前とふたりで何するっていうんだ」
『そうねー。服見に行ったりとか、ご飯食べたりとか』
「普段と何ら変わりないじゃないか」
『うるさい!クリスマスイヴってだけで大いに意味あるわよ』
「そうかい」
『で、付き合ってくれるの?』
少し間を空けて言う。
「・・・。ああ、男一人でクリスマスを過ごすのも味気ないしな」
『本当!?』
電話越しでもやかましいヤツだ。
「大声出すなよ。オーケーだ。」
『じゃあイヴの日はいつもの駅前に集合!時間は12時でいいわ』
「はいはい。分かったよ。」
『そんじゃーね!おやすみキョン!』
「おう、おやすみ」

あいつが自分から「おやすみ」を言うなんて珍しいこともあるもんだ。

正直に言おう。内心かなり興奮している。
男女ふたりでクリスマスを共にするというのは、世間でいえばデートだ。
俺はデートなんてしたことがない。正直何をしたらいいのか分からない。
しかも日程がクリスマスイヴときたもんだ。


実を言うと、近頃俺の頭はアイツのことでいっぱいだ。
いつも破天荒で傍若無人ぶりを発揮している変人としか思っていなかったが、ここのところアイツのことが妙に気になる。
破天荒で傍若無人とは言っても、元気でいつも笑顔なことは確かだ。
自己中心的な考え方だけど、実は他人のこともしっかり思いやってくれる。俺が倒れた時もそうだったしな。

なによりアイツの笑顔に癒される。俺の味気ない高校生活に彩りを添えてくれたのもアイツだと言っていい。

ハルヒと出会ってもうすぐ二年。月日というのは早いものである。
SOS団に突如参加させられ、いろいろなことがあったものだ。
クラスメイトに殺されかけたり、灰色の空間に連れてかれたり、過去に飛んだり。
そんな非日常的な日常の中で俺はかけがえのないモノを手に入れた。
ハルヒ、朝比奈さん、長門、古泉も含めていいだろう。
このヘンテコ集団に拉致られてなかったら、俺はいったいどんなにつまらない高校生活を送っていたのだろうか。
こんな生活を手に入れたのもハルヒのおかげだろう。
気が付けばいつもハルヒが居た。
こういう日々を重ねるうちに俺のハルヒに対する感情は元気の源というだけでなく、恋愛感情における存在に変わっていったのかもしれない。


俺はハルヒに想いを伝える決心をした。


想いに浸るのをやめ、俺は風呂から出た。
スウェットのズボンを履き、ベットに大の字になり、天井を見つめる。

決心をしたとは言っても、一体どういう風に伝えたら分からない。
普通が嫌いなアイツのことだから、普通の告白じゃダメだろう。

何かプレゼントをあげようか。クリスマスプレゼント。
でも何をあげたらいいんだろうか・・・。

自分で考えてもいいのが思いつきそうにないし、その筋に長けている人間に聞くのが一番だ。

国木田に聞くか?いや、アイツはその線には疎そうだ。

谷口はどうだ?ダメだ、アイツはただのナンパ野郎じゃねぇか。

阪中とか佐伯はどうだろうか?なんか笑われて参考になりそうにないな。

やっぱりSOS団の連中に聞くのが妥当だろうな。

俺は考えるのをやめ、ボーっとしながら眠りにつくことにした。


第二章

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