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    まさかの君誰大会続編。ていうか解決編? 構想は夏なので所々夏。受験生なので時間が……やっちまいました。



「この中に、陵辱好き、輪姦趣味、触手狂がいたら、俺のところに来い。以上!」
「何考えてんだぁーっ!」
「はっ、そのような己の欲望だけを満足させるようなものは、真のエロゲとは言えんな。リトルバスターズ○のような、壮大な背景を持つ作品こそ、真のエロゲと呼ぶに相応しいのだ!」
「仮にも生徒会長が何を語ってんだ! 大体皆彼女がいるんだから、エロゲなんてするなよ!」
「いえいえ、僕はよく園生と一緒にするのですが、それもまた乙なものですよ? ゲームのキャラと同じような状況でしてみたり、なりきってみたりね………純粋な純情モノから変態鬼畜モノまで、それはもう色々やりましたよ……」
「今ので確信した。一番危険なのはお前だ。」
「危険だとか危険じゃないとかは関係ない。大切なのは、情熱だ。」
「エロゲについて語ってなけりゃいい言葉だったんですがねぇ!」
「つまり、男の本能というやつですよ。」
「どっからどう回ってその結論に達したんだ!?」
「そういうお前は、エロゲをやったことがないのか?」
「あるわけないだろう! 何考えてんだ!」
「………まさか、そんな男が存在したとは……………。」
「え…………っていやいや、普通に考えてこっちがマジョリティ! そっちの方がマイノリティだろ!」
「少し黙れ。そろそろタイトルコールだ。」



    君誰大会    「素敵なエロゲをやった数」

「そんな題名じゃねえだろうがよ!」



………………………………………………………………………………………。



    君誰大会    「素晴らしき複数世界」

「それでもね……って、それだあぁぁーっ!」


    ◆ ◆ ◆


「すいません、取り乱しました。」
「全く、何を考えているんだか。これだから現地人は。」
「元を言えばお前らのせいだ、お前らの!」
「輪姦――それは―――嫌―――――するの?」
「大丈夫だよくーちゃん。そういうのはゲームでやるのがいいだけで、実際にやろうとは思わないよ。絶対に、僕以外の男に君は触れさせないよ。」
「―――うん――分かった―――良かった。」
「会長は純粋に恋愛ゲームが好きなんですね………普通の恋愛……そんなに私は物足りませんか?」
「いや別にそういうわけではなくなんというか恋愛小説を読む感覚でやってるというか、……ああすまない泣かないでくれ!」
「……………あなたはしてない?」
「してないしてない。だからそんな泣きそうにならないで。」
「でも、色々用語知ってるし………」
「そこはほら男の子だし………ああもう泣くな泣くな!」
「有希ちゃんを泣かせた……」
「ああっ、喜緑さんやめてー! 置いていかれた会長が悲しい顔してるし!?」
「若いって良いわよねぇ……」
「園生も十分若いじゃないですか。」
「小学生から見たら中学生がすごく大人に見えるのと似たような感じよ。」
「そういうものですかね。」
「そこの関節はそっちには曲がりませんよ! ギブギブギブ!」
「あの………やめてあげて?」
「有希ちゃんがそういうのなら。」

 どことも知れぬビルの、どことも知れぬ会議場。およそ二十人は入るそこに今いるのは、たった八名だった。

 爽やかなエセスマイル、古泉一樹。今日も微笑みというよりはニヤケに近い表情で、楽しそうに辺りを見ている。
 北高の生徒会長。今日もその怜悧な印象を崩さないまま書記といちゃついている。と、本人は思っている。
 ちょっと嫌味な金髪、藤原。今日もパンジーだのポンジーだの言われながら、それでもがんばってます。
 ツッコミ続けて早二年、本名不詳のキョン。今日もツッコミ。明日もツッコミ。もちろん、その役目は彼の人生と同義です。
 年齢不詳の凄い人、森園生。今日も古泉とは段違いな艶然とした笑みを浮かべていたものの、やや年齢の壁を感じたのか落ち込み気味である。
 北高の生徒会書記、喜緑江美里。今日も穏やかに微笑んだり、長門有希を溺愛したりと大忙しである。
 ブラックオブブラック、周防九曜。今日も真っ黒な彼女は、それでも少しは人間に近づいた模様です。
 無口無表情、長門有希。今日も、その顔には平坦な表情が写りこんでいる………かと思いきや、なんなのでしょうか、今日はやけに表情豊かです。

「………ぅ? ぅぁ……………ぁぅ。」
「喜緑さん。そんなに有希をじっと見つめないでください。」
「いえ、なにか違和感を感じたと言うか、いや別にあえてぼやかして言ってるだけで違和感を感じるも何も見れば一目瞭然なんですけど、それでも違和感を感じたと言う表現をしたことから察してほしいのですが自分でもその事実をすんなりとは受け入れられていないわけで、そこら辺諸々総合して不躾且つ率直な言葉で表すなら…………この子誰です?」
「有希ですよ。長門有希。この銀河を統括する情報統合思念体によって作られた対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース。主流派に所属しているようですが。」
「やっぱり、有希ちゃんですよね。……………なんで、恥ずかしがってるんですか?」
「ぅぅ…やめて……。」
「ほっぺをむにむにしないでください。俺もしてないんですから。」
「いくら彼氏とは言え有希ちゃんのほっぺは渡しません!」
「な、ほっぺを使えないならちょっとしたお茶目に対して『こいつぅ』とやる機会も与えられないということですか!? それは断固抗議します!」
「あの………二人とも……。」
「どうした、有希?」
「どうしました有希ちゃん?」
「ぁぅ………。喧嘩は、やめて?」
「はい喜んで。喜緑さん、これからの有希のほっぺは共用ということで。」
「ええ。かち合うような事があれば片側ずつとしましょう。」
「条約締結ですね。」
「はい、調印します。」
「………………ちょっといいか、江美里にキョン。…今更だが、どうして長門君はそんな急に性格が変わったんだ?」
「かわいいからいいじゃないですか。かわいいは正義ですよ。」
「プリティーイズジャスティス。この世の真理です。」
「ぐ………何故君らはそんなに呼吸がぴったりなんだ? 江美里の彼氏としてそれは少し傷つくんだが。」
「それを言われると弱りますね。まあそこは私も気になっていたので。どうしてですか?」
「あー、なんと説明したらいいのやら、とりあえず、今のこの状況は俺とハルヒと長門の合作みたいなもんなんですよね。」
「さんぴぃですか?」
「違います。まず、神と国と情報統合思念体に謝ってから戻ってきてください。………終わりましたね。では、説明しましょう。世界が分裂したことに気付いてる人挙手ー。はい見事に全員ですねー。つまり、そういうことです。」
「どういうことですか?」
「説明するのもちょっと恥ずかしいんですけどね。まず、あの喫茶店でのカオスの最中、俺はこう思っていたわけですよ。『いっそのこと、皆と付き合えたらいいのに。いや、それは流石にダメだろ。』と。で、丁度ハルヒも『みんな幸せにしてやるくらいの甲斐性を持ちなさいよ。』と思っていたそうで。で、そこら辺を敏感に察した長門が改変の方向を誘導して、今のような状況になったというわけです。」
「なるほど。つまり涼宮さんに『どうせなら一人と付き合ってる世界が人数分あればいいのに』という風に思わせたわけですね。」
「そんな事情で世界改変ですか……若いって、いいですね………。」
「だから園生はまだ若いって言ってるでしょうに。」
「つまりはだ、世界は人数分、それとあのなんかおかしな世界の八つに分かれたということか?」
「そういうことになりますね。」
「いいや、違う。八つじゃなくて、九つだ。この世界を忘れてる。」
「へ? でもそれでは、長門さんが二つの世界であなたと恋人関係になる、ということですか?」
「まあ、そうなるな。」
「それは、主催者特権とかそういうやつですか?」
「ま、それもあるが、土台あっちの長門とこっちの長門は性格から何から違うしな。能力的にもほぼ普通の人間くらいだし。」
「ああ、だから二つ、と。」
「まあ、一応世界改変したときの性格なんだが、お前らに言っても詮無いことだな。」
「事情は分かりました。で、今回は何をしようというのです?」
「何って………何?」
「いえ、ですから、この八人を集めて一体何をするつもりでしたので?」
「何って、有希があんまり能力とか使えなくなったからその報告と、緊急時は注意してくれってのと、あとは有希のお披露目だな。この八人なのはみんな事情を知ってるから。」
「それだけ、ですか?」
「それだけ、だな。………………………。」
「………………………………………。」
「………………………………………………。」
「……………………………………………(たらり)。」
「……………………………………………(ごくり)。」
「第一回!」
「対戦式納涼怪談大会ー!」
「ルールは簡単、二人一組になって怪談をし、より怖かったチームの勝ちです!」
「それなら一人でもいいじゃないか、と思ったそこのあなた、甘いな。このルールの肝は、一人が怪談を話している間に、もう一人がいかに恐ろしい演出をするかがポイントになるんだ。」
「つまり、話している人がより恐ろしく感じさせるために話に工夫を凝らしつつ、もう一人が舞台装置や小道具その他もろもろを使って怖さを演出する、そういうことです。より臨場感を出すため、一人がナレーター、もう一人が役者、のような形もありですね。ああ、もちろん二人ともが話すのもありですよ。」
「では、今から十分間の作戦タイムだ。なお、組み合わせは恋人同士でやることにする。以上だ。」

「………ねえ、一樹にキョン君。」
「なんですか、森さん。」
「何でいきなりこんなことはじめたの?」
「それは………なんというか、このままじゃ見事に雑談して終わりになってしまう気がしてたからですよ。ねえ、園生。」
「まあ、そんな予感はしてたけどね。だからって、怪談?」
「そこは、ほら、その場のノリで。」
「そうですよ森さん。ハルヒじゃないですけど、せっかくの夏なんだから夏らしいことをするべきでしょう。というか一番楽そうだったからなんですが。準備もほとんどなくていいですし。」
「まあいいわ。………………………この企画、後悔するんじゃないわよ?」
「おお、久々の凄みスマイル。まあ、企画したからには楽しみますよ。」

 四組それぞれ相談タイム。まずは、キョン&長門さんチームから見ていきましょう。

「じゃあ有希、なんか怪談知ってるか?」
「ううん。………怖いのは好きじゃないから……怖いし。」
「ああもう有希はかわいいなぁ………抱きしめていい?」
「あの……もう抱きしめてると思う………いいけどさ。」

 次に、古泉&森さんチーム。

「一樹、あんた主人公ね。私語り役やるから。」
「主人公って。お話の中のですよね?」
「ええ。折角の夏なんだから、大いに楽しみましょう。後、八月中には一回海行きましょう。遊びたいわ。泳ぎたいわ。」
「皆さんで行きますか? それとも二人で?」
「二人ではいつでも行けるけど、皆が都合付きそうなのは夏休み中だろうし、皆で行きましょう。他の子の水着姿も気になるし。」
「では、皆さんに聞いておきますよ。」
「頼んだわ。」

 そして、藤原&周防九曜チーム。

「くーちゃん、どういうのが好きだい?」
「――――例えば――お化けがずずずと迫る―――的な?」
「でも、僕は怪談知らないんだよな………。くーちゃん知ってる?」
「ぉぅぃぇー。」
「その返事にそこはかとない不安を感じたけどまあ頼むよ。」
「――了解。」

 最後に、会長&喜緑さんチーム。

「江美里、どういった話にする?」
「そうですね、私的には怪談はあまり知らないので会長が話してくれませんか? 私が効果音やら何やら演出しますから。」
「じゃあ、そういうことにしようか。」
「あ、もしもし情報統合思念体ですか? 情報操作能力の使用許可をお願いします。え、今までは許可なんて取らなかったのにどうしたのかですって? もし近隣住民が異変を感じたときは対処をお願いしようかと。何をするつもりですかって? 怪談ですよ、怪談。はい、壊さないように気をつけます。では。」
「江美里、それは反則じゃないのか? あと、何を壊さないように気を付けるんだ?」
「いえ、少し………、ね。」
「俺にとってはそれが十分怖いんだが!」

 さて、全チーム作戦会議を終了したようです。一チーム大丈夫かどうかわかりませんが。むしろ全チームダメかもしれませんが。

「さて、順番はどうするつもりだ?」
「どうしますか?」
「ここはやっぱり、じゃんけんだろ。最初はグーな。」

「最初はグー………っておい。てめえらどんだけ勝ちたいんだ。会長と藤原はまだパーだからいいものの古泉。お前チョキってどこまで裏をかいてるんだ。とりあえず、あいこだからもう一回。最初はグー、じゃんけんぽんっ!」

 めきょごすどごばき。
 詳しく解説すると、キョンのチョキが藤原の顔面に刺さり(めきょ)、藤原のグーが会長の頬に当たり(ごす)、会長のパー(掌底)が古泉の額を打ち(どご)、古泉のグーでもチョキでもパーでもないただの蹴りがキョンの肋骨を強打した(ばき)音である。

「てっめぇ! それはじゃん拳の技でも何でもねえだろうがよ!」
「はっ、そんな甘いことを言っているようではこの場は勝ち残れませんよ!」
「ふん、そんな無駄口叩いていていいのか?」
「そっくりそのまま返してやるよ。」

「………ねえ、順番決めのじゃんけんでしたよね?」
「………バカだこいつら。」
「………止めないでいいの…?」
「――男には――やらねばならぬ―――時がある。一句できた。」

 少し時はたち。

「で、古泉&森さんチーム、俺&有希チーム、藤原&周防チーム、会長&喜緑さんチームの順でいいな?」
「ええ、異存はありません。」
「結局、何で殴りあったんですか?」
「きっと、不思議な衝動にでも駆られたんでしょう。」
「じゃあ、納涼怪談大会、スタートだ。」


    ◆ ◆ ◆


「むかーしむかし、あるところに、一人の古泉がいました。」
「どうも、古泉です。」
「ある穏やかな春の日のことです。彼は、突然大切なものを全てなくした姿となって発見されました。今から、その一部始終をお話したいと思います。」
「園生!? いきなり僕死んでませんか!?」
「とある夜。古泉は、園生に頼まれて出かけていました。とあるゲームの深夜販売に並ぶためです。園生が求めたそのゲームの名は、『逞しい兄貴たち』。それが、悲劇の始まりでした………。」

「……………? 意味がよく分からない。」
「有希は知らなくてもいい世界だから。ちょっと耳ふさいでようね。」
「………そんなに怖がりじゃない。」
「拗ねた顔も可愛い………。」

「深夜の秋葉原で、寒風に震える古泉。幸いなことに予約はしてあったので、店員の『逞しい兄貴たちを予約のお客様、こちらへどうぞ』という言葉にこれ幸いと店内へ。それを見つめる、たくさんの腐女子の群れ………そう、古泉は気付くべきだったのです。このときの、一人の漢からの熱い視線と、それを取り巻く腐女子の視線に。」

「あの、結末見えてるんですけど。」
「想像もしたくありませんが、僕もです。」

「甘いですね。ここからが本番です。古泉は、無事ゲームを買い終え、園生の元に戻ってきました。その後を一人の漢が追ってきているともしらずに。それから数日たったある日。古泉は街中である男性に話しかけられます。曰く、二人でナンパをしないか、と。何故自分をといぶかる古泉ですが美形がいた方がいいと言われすっかり気をよくします。そして、彼らは二人連れの女性に声を掛け、見事に成功。そのままホテルに連れ込むまでにいたりました。」

「有希、これは分かる?」
「………………うん。………恥ずかしい。」
「恥ずかしがる必要はないさ。どうせ作り話なんだから。」

「そこからが古泉にとっての地獄でした。漢はなんとあの深夜販売の日に並んでいたハードなゲイで、女二人は周りで騒いでいた腐女子だったのです。漢は女二人に撮影許可を出すと、おもむろに古泉に近づいてきました。古泉は必死で逃げようとしますが、相手は自分よりも更に大きく、逞しい正に『兄貴』。到底敵いそうにありません。しかも漢は、古泉の逃げを場を盛り上げるための行動だと勘違いしたようです。そうして古泉は哀れ手篭めにされました………………。三日三晩攻め立てられ続け、とうとう命よりも大事なものをを落としてしまうのです。」

「いやぁぁっ! 僕をそんなに貶めないで!」
「まあ、予定通りだな。」
「規定事項どおりの事象になど興味はない。」

「という、同人誌を書きました。」
「本当ですか!?」
「むう………これは、なかなかのものだ。」
「―――彼氏で――BL――勇者?」
「今の台詞で一気に凄いことになったな。」
「………同人誌って何?」
「純真っていいですね。ねえ、喜緑さん?」
「そうですねえ。」
「夏コミで売ってきました。」
「受かったんですか? そしてマンガを描けることにびっくりです。小説という可能性もありますが。」
「いま、委託販売用の第二版印刷中です。」
「結構売れてますね。いやどれくらいなのかは分かりませんけど。」
「まあそれなりってとこですよ。」
「………それなりの人数が僕が漢に掘られる本を買った……死のう。」
「大丈夫よ一樹。名前は………一樹にしといたから!」
「慰めになってねぇーーーーー!」
「読み仮名はかずきだから!」
「そっちでも大してかわらねぇし!」
「お、古泉が壊れた。」
「今の話、点数をつけるなら?」
「まあ、基準として扱うから八十点が妥当じゃないか?」
「じゃあそれで。」
「じゃあ、次は俺と有希だな。じゃ、スタート。」


    ◆ ◆ ◆


「まあ、これは実際にあった話なんだ。」

「よくある語り口ですね。」
「――ベッタベタ。」

「とある高級住宅街の、少し下にある家族が住んでいたんだ。家族は皆仲が良く、特に父母は結婚後二十年近くたってもまだラブラブだった。そして二人は、結婚二十周年の旅行に行ったんだ。高校生になっていた一人娘は――仮に有希としておこう――快く二人を送り出した後、束の間の擬似一人暮らしを楽しんだ。」

「どこかで聞いたことがあるような話ですね。」
「名前が一緒だと、なんかこわい………。」

「二人が帰ってくるという予定のある日。なかなか帰ってこない両親を心配して、有希がメールを送ったんだ。それによると、少し遅れて帰るとのこと。安心して、有希は布団に入った。それからしばらくして、玄関が開く気配がした。有希は、玄関で出迎えようかと思ったものの、眠気には勝てず、それに両親が自分の顔を見に来るだろうと思ってそのまま寝転がっていた。そうしている内に、リビングからは、荷解きをするようにどすん、がたんと音がするようになった。ああ、旅行のお土産とかを整理してるのか、と有希は納得した。」

「なんだかそれらしい話になってきましたね。」
「やばいな。俺は何を話すべきなんだ? 全く話を考えてない。」

「しかし、結構な時間が流れても、荷解きの音は止まない。手伝った方がいいかな………と思った有希だったが、不意に一つの可能性に気が付いた。もしかしたら、泥棒が入ったんじゃないか? そうだとしたら、今家にいる私が追い払わなきゃ。そう思って、有希はお父さんの木刀を抱えて玄関に向かった。何もないよりましだろうと思ったからだ。しかし、その懸念は無駄だった。『有希……』と、母親の声がしたからだ。『お母さん!』と、安堵して有希は歩き出した。居間の電気がついていて、そこから有希の足元の方に影が伸びていた。そうか、お土産とかいっぱい買って荷解きが大変なんだ、と安心して有希は居間に入り、硬直した。………中に誰もいなかったからだ。じゃあ、さっきの人影はなんだったというんだ? それに、さっきの声は?」

「一応怪談らしい体裁は保っているようね。」
「園生、足震えてますよ。」
「武者震いよ。」
「それはまた典型的な言い逃れを………。」

「しかして有希を呼ぶ声は止まない、そのときだ。『有希………助けて…』と、お母さんの呼びかける内容が変わった。助けて? いったい何から? ふと、さっき見た人影が居間の入り口への廊下に続いているのが見えた。それは、自分の影ではありえなかった。その隣のが自分の影だ。じゃあ、この影の持ち主は? 隣を見ても誰もいない。一体どうなっているというんだ!?」

「本格的に名前が有希なのが嫌になってきた………」
「結末は酔っていたに百円。」
「じゃあ、お母さんのドッキリに百円。」

「ふと、嫌な予感がした。原因は、さっきの『助けて』と、実体のない影。影は、物体に光が当たると地面に出来るが、さっきの影は、それだけで存在しているとしたら? 恐る恐る有希は視線を下げていく。食器棚、何もない。テーブル、何もない。椅子、何もない。床、何も………ない。何も、無い? ふと、見間違いだったのかと思って部屋の入り口の方の影を確認してみた。あれ? 影は、有希のものだけになっていた。ああ、やっぱり見間違いだったのか。そう思って安堵した有希は、寝室へと帰ろうとして一歩踏み出して、崩れ落ちた。あれ? なんで………ナンデ…………ワタシノアシガナイノ?」

「私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない私は何も聞いてない。」
「有希ちゃん、しっかり!」

「静かな住宅街のある一軒の家に、まるで荷解きをするような、まるで何かから必死に逃げようとするかのようなどすん、がたんという音が響く。しかし、家の中でもがくその人影も、どんどんと床に飲み込まれて行き、最後に助けて、という声を残して人の声はしなくなった。ただ、ぐちゃり、めきょ、と、肉を咀嚼するような音だけを残して……。」

「本格的に怪談でしたね………一点の遊びも無く。」
「終わった………?」
「終わった終わった。だからそう怯えるな。」
「点数的にはどの辺りでしょうか………」
「まあ、園生のあれがあれだったことを含めると、八十五点でいいんじゃないですか?」
「妥当な所だろうな。」
「ありがとう。」


    ◆ ◆ ◆


「次は………藤原組だな。」
「喋るのはくーちゃんだ。僕は、ほとんど何もしない。」
「―――では、スタート。」
­­「出来れば、耳を傾けてやってくれ。」
「むかぁし――むかし―――あるところに――って、もういいや。本気だそう。」
「ええ! 力抜いてただけなの!」
「あるところに、一人の理樹がいました。」
「まさかのクロスオーバー!」
「少し静かに。…理樹は、ずっとこの日常が続けばいいのにと思っていましたが、現実とは非情なもので、諸行無常の理の通りに全ては緩やかに、あるいは激しく変転していきました。幼馴染の集団はそれぞれが秘密を抱えたり、成長したりと。決して悪いものではないはずのその変化も、彼は恐れていました。そう、恐れていたのです。」

「そんなお話だっけ…?」
「テーマは友情、のはずでしたけどね。」

「誰かを愛すれば、失うことを恐れ。何かを欲すれば、手に入らないことを恐れ何時しか彼は、いつでも怖がって過ごすようになりました。表面上は、今までどおりに。四人の幼馴染は隠していても気付いてしまいましたが、理樹が首を振るともう何も聞かないでいてくれました。言える筈もありません。自分が感じているこの不安や恐れは、言い換えると友人たちの成長を怖がり、誰ともかかわらないように生きていくようなものだからです。今まで培ってきたこの関係を壊したくない。今まで仲良くしてきた人たちと離れるのが怖い。でも、どうしたら良いのか分からない。そんなときでした。」

「どんな展開になるのやら、全く想像がつきませんね。」
「奇遇だな、俺もだ。」

「理樹は、彼女と出会いました。彼女は半端で、弱く、間違いだらけで、そして何より一生懸命に生きていました。周りと違う自分を、奇異に思われることを受け入れて、それでも笑って。彼は、何時しかそんな彼女に魅せられていました。自分は全てに恐れているのに、彼女は何故そんなにも笑っていられるのか? 何故押しつぶされないのか? 彼女に問いました。彼女は笑って、言いました。『そんなに悩まなくてもいいんですよ、リキ。』そうして、理樹は救われました。理樹は彼女に縋りつきました。彼女は黙って受け入れてくれました。それだけで、全てはうまくいったように見えたのです。」
「けれど、それはただの幻想でした。彼女は、ただ優しかっただけだったのです。そんな彼女自身に、悪意も何もありませんでした。だから、私たちはこういうしかないのです。ご愁傷様でした、と。」
「彼女は、どんどん削れていきました。彼女自身の重荷を背負い、更に理樹のことまで考えていたのです。一人で抱え込むには多すぎる量でした。けれど彼女はそれを隠し続け、そしてついに壊れてしまいました。理樹がそれに気付いたのは、数日後のことです。何故か、彼女が痛みを抱えているように見えて。嫌がる彼女を押さえつけ、彼女の服をたくし上げた理樹が見たのは、無数の傷跡でした。彼女は、何かを壊さずにはいられずに、けれど周りに迷惑を掛けることを厭う彼女は自分以外の何も傷付けることが出来なかったのです。そのことに気付いた理樹は後悔しました。何故自分がこんなにも彼女に負担をかけていたことに気付けなかったのか。どうして。どうして。」
「そんな中、彼の心の中で何かがささやきました。ほら、やっぱり人を好きになるんじゃなかった。お陰でまた傷ついて、傷付けてしまったじゃないか。」
「だけど、少しの間だとしても彼女に触れていた理樹は、もう一つの思いも持っていました。こんなにも傷ついてしまった彼女を助けたい。せめて自分の手で癒せるところだけでも癒してあげたい。それは、理樹の贖罪でもあり、恩返しでもありました。丁度よく、長期休暇に入るころでもあり、理樹と彼女は文字通りおはようからお休みまでを共にしました。日々、理樹は彼女がしてくれたように笑って話し、黙って受け入れました。理樹の幼馴染たちも、彼女らに会いにきました。こうして、全ては元通りではないけれど、きちんと上手くいくようになりました。」

「頼むからハッピーエンドで終わらせてほしい。」
「怪談でそれを望んでも詮無いことでしょう。」

「青天の霹靂というものは、突然現れるもののことです。しかし、この場合それは必然でした。彼女の具合が悪くなり病院に行き。医師に告げられました。『妊娠しています。』と。理樹と彼女は大きな衝撃を受けましたが、けれど二人で育てていこうという決断を下しました。そうして、未来の明るい展望は無くてもまだ希望は失っていなかったというのに。世界は、運命は非情でした。彼女の母親の住む国が、内乱状態にあるというのです。しかも、その内乱により発生した暴動は、外国人や移住者などその国に関係の薄い人間を狙っているというのです。そうして彼女は、理樹と母親という二択を迫られました。このままでは母親は国から逃げることも出来ずに殺されてしまうかもしれない。彼女は悩みました。母親はもちろん大切です。しかし理樹は、今の自分にとって無くてはならない存在です。そんな彼を置いていく、いや、彼と離れることすら今の彼女には苦しいことでした。だから、彼女はわがままを言いました。『一緒に来てくれませんか』と。」
「当然理樹だって、身重の彼女をそんな危険な所にやりたくはありません。ですが、無理に引き止めても彼女は心配して気が気でなくなってしまうでしょう。仕方なく、それ以上の最善の策も浮かばないので、理樹は了承し、同行しました。平和で善良で、根本的なところで『世界』を理解していなかった彼らは、ある意味では自業自得でした。ニューヨークの裏路地に無警戒で入っていけば、よくて財布、悪くて命をとられるようなものです。そんなことをしても、悪いのは警戒しなかった被害者でしょう。つまりは、そういうことでした。」
「アジアのそのある国では、黄色人種が多く、理樹はほとんど目立たないようでした。しかし、彼女の髪は亜麻色で、顔立ちも純粋な黄色人種とはかけ離れています。せめて髪を染めてさえいれば、彼女は無事だったのでしょうか。今となっては意味のない仮定ですが。彼女が家で息を潜め、理樹が生活用品を買出しに行ったある日のことでした。彼女らが暮らしている家の三つ隣の通りで、暴動が起こりました。原因は些細な値段交渉が殴りあいになり、それが周りに燃え広がったということです。運良く、理樹が買い出しに行ったのは逆方向。理樹が危険な目にあうことはないだろうと、彼女はほっとため息をつきました。」
「帰ってきた理樹が見たものは、荒らされ倒された家具と、壊されていった窓や戸、そして、踏み躙られた彼女でした。かわいそうに、彼女の手はそれでも何かを求めて伸ばされていました。愛する人の助けを。理樹は彼女の手をとって泣きました。理樹は決断しました。あるいは遅すぎるくらいに。」
「帰ろう。彼女の母親を探すのは諦めて。身勝手でも何でも、もう既に彼女を傷付けてしまったのだから。これ以上は、僕が耐えられない。来たときと同じように、彼らは帰りました。来た時と違い、彼女の瞳には生気が宿ってはいませんでしたが。理樹は昔馴染みたちに事情を説明し、しばらくそっとしておいてくれと頼みました。今はただ、彼女にゆっくりとしたときを過ごさせてあげたかったからです。理樹は、気付いていました。恐らく、もう自分たちの子は生まれてはこないだろう、と。もしかすると、彼女も気付いていたかもしれません。」
「それから彼らは、ゆっくりと暮らしていきました。彼女はまた少しずつ明るさを取り戻していきました。幼馴染ともまた交流を深めていきました。彼女の母親は数年後無事が分かりました。二人に二人目の子供が出来ました。その子は生まれてこれなかった子の分も幸せになってほしいという願いから名付けられました。そう、彼らは幸せになりました。彼らは。」
「そのころから、ある都市伝説のようなものが流れ始めました。いえ、実際にはもう少し前からあったのですが、それが顕著になりだしたそうです。それは妊婦や乳幼児を育てている親の元にしか現れない都市伝説で、とりわけ危険な行為や子供に害のある行動を取る親の元へ現れるといいます。タバコを吸っている両親の元へ行っては『副流煙で殺されるのか、可哀想に』働こうとしない親の元へ『そうやって、真っ先に餓死させられるのは弱い僕らだよね』そして妊婦が危険のあるところへいこうとすると決まってこう言うのだそうです。『ああ、また一人、仲間が増えるね』と。」

「―――――以上。」
「理樹君たちがハッピーエンドだったからそこで救われた。」
「と思ったら落とされて落差で絶望した。」
「――元々は『彼女』は殺されて―――彼女は霊にならないものの子供が霊になって理樹君とその新しい妻子を呪う――というお話。」
「救いのある話にしてくれてありがとう。」
「ちょっと物足りなかったですね。陵辱されるならそこの所の描写をもう少し………」
「変態は黙ってろ。」
「ええと、怪談かどうか微妙な気もしますが、お話としてはなかなかに都市伝説だったので………さて一樹、点をつけるなら?」
「陵辱描写如何によって決まりませぶるちっ!」
「九十点で如何でしょう。」
「どんどん上がっていってますね。最後のチームに期待大です。」
「最後は会長&喜緑さんチームか。」
「あの、さっき情報操作とかいってたけど、あまり無茶はしないでね。」
「ええ。きっと世界は無事明日を迎えます。」
「そこまでの規模なの!?」
「見栄はっただけです。では、スタート。」


    ◆ ◆ ◆


「じゃあ、会長、お願いします。」
「あ………あ、ああ………。」
「大丈夫でしょうか?」
「きっと。多分。そのはず。」
「あー、あるところに、おじいさんとおばあさんがいましt………」

 その台詞は最後まで言わせてもらえなかった。
 会長の口の部分に喜緑さんの掌底がぶちあたり、そのままの勢いで壁に後頭部をぶつけさせたからだ。………きつすぎるでしょ。

「それのどこが怪談ですか。」
「喜緑さん。その状況反論できない。」
「失礼。………で、どこがですか?」
「こ、ここからで! ここからが本番って言うか!」
「それなりのクオリティがなければ搾りますよ。」
「イエス! ユアマジェスティ!」
「オーケー。ゴー。」
「サー! ……では。おじいさんは山へ芝刈りに。おばあさんは川で洗濯をしていると、下流の方から、えんやーこらやえんやーこらやと屋形船が登ってきました。あんまりにも大きいのでおばあさんは屋形船を持ち帰り、おじいさんと二人で屋形船を解体すると、中からさくらんぼが出てきました。おじいさんとおばあさんが二人でそのさくらんぼを食べると、二人の体からまるで魂のような物質が抜け出て、なんということでしょう。未確認飛行物体略してUFOにアブダクトされてしまったのです。魂のような状態のまま二人は自分の体がヤクルトにされてしまうのを呆然と眺めていました。そうするうちに我に返ったおじいさんが言いました。『なんて……なんてスタイリッシュなんじゃ。』と。そう、ヤクルトにされた二人はそれでも人の形を保っており、その様はまるでグリークミスズ。無くなりかけの頭髪はイーリス。手入れされたひげはタルタロス。ああ、そこに、コスモを見た………」
「遺言はありますか。」
「大好きdッッぐはァッ!!!」
「見ろ………なんて美しい雷なんだ………。」
「まさか、屋内で雷が見られるだなんて………。」
「さっきまで晴れていた外もいきなり雷雨になってますよ!」
「まさに青天の霹靂、ですね。」
「室内が光ったの、不審がられてないかな………?」
「――恐らく―――雷の反射扱い――大丈夫。」
「しかし、微妙に会長の話の続きが気になるんだが。ああ、無理か。」
「ええ。あんな状況の半液体から意思を聞きだすなんてそれこそ情報生命体でもない限り無理です。」
「仕方ない。採点するなら?」
「点の付けようがない気もしますが。まあ途中で終わったことと内容を加味して………園生?」
「さっきの意趣返しかしら、一樹? まあ、私的に七十点ね。」
「では、出揃いました。」
「会長&喜緑さんチーム、七十点。古泉&森さんチーム、八十点。俺&有希チーム、八十五点。藤原&周防チーム、九十点で、藤原&周防チーム……いや、周防九曜の一人勝ちだ!」
「―――ブイ。」
「俺は!? 確かに何もしてないけどさ!」
「藤原………、正直、いたのか?」
「いたさ!」
「じゃあ、勝者の周防には空気をプレゼント! 存分に使ってくれ!」
「―――――合点承知。」
「っちょっとくーちゃん? 襟を引っ張るとこっち辛いよ!?」
「レッツゴートゥーベッド。アズスーンアズウィーキャン。」
「ワイアーユースピーキニングリッシュ!?」
「おやおや、昼間っからお盛んですねえ。」
「少なくともエロゲのシチュにあわせてやるお前らにだけは言われたくないだろうな。」
「あなたも一回如何です?」
「………ゲームだけは、借りておく。」
「……………あなたもなかなかですね。」
「言っておくが、ハードなのは性に合わん。有希でも見れるようなソフト且つ感動できる系が好ましい。」
「そして二人でプレイすると! ほほうほうほうほうほう! いいでしょう、この不肖古泉一樹、全力で任務に当たらせていただきます! 園生ー! うちにある泣きゲーって何でしたっけー!」
「なんだったっけー。まあ、それよりこの有希ちゃんが問題なわけだけど。」
「エッチなゲーム…二人で…膝の上…後ろから……………………………うなぁーーっ!」
「有希!? 妄想が暴走してショート寸前!?」
「ほら一樹、今日の話題に上ったリトバスとかどうよ。EXの方。」
「いいですね。では、また学校で渡しますよ。」
「すまんな。そしてほらほら、真っ赤になって泣かないの。大丈夫大丈夫。………優しくするから。」
「はひゃっ!? おいしく頂かれちゃう!?」
「あはははじゃあ帰ろうか有希送っていくよじゅるり。」
「狼さん!?」
「では、私達も帰りますね。」
「一個聞いていいっすか………会長大丈夫ですか? そのカバンに入ってますよね?」
「ええ。おうちできちんと回復させてあげます。」
「では、それでは。」
「さよならー。」
「んじゃ、またな。」
「さようなら。」


    ◆ ◆ ◆


「………さて、園生、どうしますか?」
「何が?」
「これからですよ。涼宮さんの鍵であった彼は今や長門さんと恋仲。しかして今彼女の周りに彼以上に涼宮さんに影響を与えられる人物はいない。これは、危険じゃないですか?」
「ああ、あれね。涼宮さんを都合よく動かすために篭絡せよーとかいうやつ。馬鹿なやつらもいたものよねー。恋する乙女なめんなっての。もう終わっちゃったけどさ。」
「あの計画には、かなり危険な内容まで含まれていたはずです。対策を練るべきかと。」
「そんなんしなくても大丈夫よ。あの計画が一応企画として通ったのは、最悪敵対組織に力を奪われないようにするためって建前があったでしょ? 政治的な都合かどうか知らないけど、いま橘さんのとことも仲いいし、これ以上人類から直接的な敵対組織は現れそうにないでしょ? だから大丈夫。」
「いえ………しかし、純粋に自分たちの欲望で動く者たちがいるかもしれないじゃないですか。」
「それこそ大丈夫よ。さっき、建前、って言ったでしょ? つまり、そういう建前を持たないと行動できない………正確に言えば行動しても反対者から潰されるってわけよ。それこそ他人が力を持つことを厭う輩は多いしね。………ま、なんにせよ。」
「なんです………んんっ!?」
「あんたはいちいち悩みすぎなのよ。悪いこととは言わないけどさ、あんたが疲れきったら意味ないじゃん。もうちょっと私を頼りなさい。………一応、年齢的にもお姉さんなんだし。」
「では、お言葉に甘えて。」
「あ、えっちぃことしちゃだめよ?」
「分かってますよ。」

「まあね、分かってるんです、自分でも。今の関係が変わってしまうのが怖いといったところで、変わらないままとはいかないということに。でも、怖いんです。長門さんが力を失ってしまったということは、SOS団に突発的な脅威が発生したときに対応できなくなるかもしれないじゃないですか。」
「そうねー。でも、あんたはそれに対応できると踏んだからキョン君は今日のこれを開いたんでしょう?」
「期待が重いです。」
「今日のあんたはとことん弱気ね。大丈夫よ。世界崩壊の危機や終わらない夏を越えてきたんでしょう? 次なんかあったとしても対応できるわよ。」
「あれに対応したのは彼ですよ………」
「よし決めた。あんた、これからキョン君をきちんとあだ名で呼んであげなさい。」
「いきなりなんですか。」
「いくら信頼してるって言っても、あだ名で呼べないようならやっぱどこか距離が残るはずよ! 信頼してたらそんなん悩まない! はず!」
「………まあ、頑張ってみますね。」
「よし、少しは元気でたかー!」
「まあまあですね。」


    ◆ ◆ ◆


「ああ、だから有希、泣くな泣くな。そんなに抱きしめられながら泣かれると襲いたくなる上にお前の顔が見えなくて寂しい。」
「うぇっ、ふぇぇ……ひぐっ、ぐしゅっ、うぁぁ……んんぅ~。」
「あー、そろそろ泣いてる理由を言ってくれやしないか?」
「あの、あ、あのね、ひ、ふぇ、うぇえ~、ぐしっ、ひぅっ。」

「落ち着いた?」
「この世界ね、作るときに、能力、が、なくなったし。こわくなって、で、それで、その……すぐにでも、襲ってくる、可能性のね、ある人たちを、その!」
「消した………いや、殺したんだな。改変と同時に。」
「ん、ん……ぅん。」
「それで泣いてるのか………有希らしいといえば有希らしいが、あまり悩むな。そいつらを残しておくと、俺らの身に危険が及ぶようなやつらだったんだろ?」
「うん。………でも、」
「いいから悩むな。少なくとも、俺は間違いだとは思わない。そいつらにも人生があって、そいつらなりにだした結論がそれだったんだろうが、俺たちの平穏を邪魔する限り、そいつらは完全に敵だ。誰かが傷付けられてその後に戦いが始まるよりも、最初から起こらない方がいいに決まってる。だから泣くな。なくなって。」
「ん………。」
「そんなに泣いてると、………たべちゃうぞ?」
「別にいいよ………。………………………………どうぞ………召し上がれ?」
「………鼻血出そう。ごめん有希。俺が悪かった。」


    ◆ ◆ ◆


「未来を僕達が動かしやすいように修正を施し、他勢力に対して主導権を握る………それが僕の役割でもあり、存在意義でもあった。だけど、その任務を果たしたら、恐らくは、いやほとんど確実に、天蓋領域そのものか、少なくともくーちゃんは消されてしまうだろう。そんな未来はごめんだ。だから、頼みがあるんだ。」
「――――なに?」
「僕にかけられた未来からの制約、全ての禁則事項を解いてほしい。」
「―――私の、ために――そこまでする―――必要は――ない。」
「僕がしたいだけだ。君は、朝比奈みくるが役割を果たしても、僕が役割を果たしても恐らくその途中で消されてしまう。そんなのは嫌なんだ。例え一生この過去の世界で暮らそうとも、君と居たいんだよ。」
「―――天蓋領域は、私を―――娘? ―――のような存在として――みている、らしい。―――実際に通信した――ことはないけど――だから、行動の制限も――――ないし、情報統合――思念体に消されることの――ないようにと―――能力も与えた。」
「そうだったのか。挨拶には行くべきかい?」
「―――一応――行っとく?」
「まあ、そのうちね。」


    ◆ ◆ ◆


「結局、皆悩みすぎなんですよね。」
「どうしてだ? 悩むということは――結論がどうあれ――先のことを考えるという点において重要だろう?」
「悩みすぎは心にもお肌にもよくないですよ。」
「まあ、確かにそうだが、悩むだけの理由があるから悩んでいるのではないのか?」
「ですから、そもそもの悩みが杞憂だといっているんです。」
「…………覗いたのか。」
「見えただけです。古泉君の悩みは、そうですね、ほとんど森さんが言ってくれてましたけど、基本的に情報統合思念体が機関と敵対でもしない限り大丈夫でしょう。一応フルタイムで監視してますし。」
「プライベートは?」
「認識しなければそれは存在しないのと同義です。関係が変わることなんてねえ。変わらないものの方が珍しいですよ。例えば愛とか。」
「そういうことを真顔で言うのはやめてくれないか。恥ずかしいから。」
「私から会長への愛はほぼ毎日変化していきますけどね。」
「プラス方向であることを祈るよ。」
「む………可愛げがなくなりましたね。」
「そりゃあ慣れもするさ。」
「まあいいです。………有希ちゃんの後悔についてはそれこそ時間が癒してくれます。どうにかしてあげたいのは山々ですが、それは彼氏さんの仕事ですからね。」
「まあ、本当にアレっぽいときにはきちんと助けてやれよ。」
「上からですねー。………一回、犬になってみませんか?」
「何のことを言っているのか分からないが、だが断わっておこう。」
「分かってるくせにぃ。ま、面白かったのは藤原組ですかねー。どうやら、天蓋領域は我々よりも人に近いというか、潔かったのでしょうね。だから、無理に人の表層の行動原理をコピーせず、自分らしさをそのまま表したのでしょうね。まあ、どっちが賢いとか言う話でもないんですが。」
「まあ、あれくらいのアブノーマルなら人間にもいないこともないしな。」
「箱庭学園で作られてそうですよね。」
「危険だからやめような。」
「まあ、いいですよ。帰ったら読みますよ。ああ、そういえば、あんな言いかたしてたのなら未来には天蓋領域はいないんでしょうね。それもまた面白そうです。」
「どっちがいい?」
「こっちの方に決まってます。なにせ。」
「なにせ?」







「有希ちゃんが可愛いですから。」

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