時空管理局の管理者達は、特殊な能力を持っている。
 わたし達はTPDDを用いることで特定の時間座標に移動することが出来る。時間を一冊の本のようにみることができる。
 時間平面上で座標を正確に把握できる。これは生まれつきの才能であるし、訓練で磨かれる能力。
 
 わたしはある時から思うことがあった。
 なぜわたしは自身の過去に干渉しないといけなかったのか。
 涼宮さんの「未来人に会いたい」という願望によって、わたしはあの時代で彼女と出会った。
 彼女の能力によって書き換えられる規定事項、それを守れるのは「わたし」しかいない。
 そのために彼女のそばにいる当時の「わたし」とは別のそれより未来の「わたし」が重要な場面で干渉することになった。
 でも、重要な局面でそれらを決定し実行したのはキョンくんでわたしではない。わたしは彼を導いただけ。
 わたし自身がキョンくんに言った言葉。
「彼女の一挙一動には意味がある」
 キョンくんの存在は彼女の能力についての最終決定だ。これは間違いない。では、わたしが選ばれた理由は?
 
 

 今日は土曜日、不思議探索の日。
 集合場所には長門さんがすでに待っていました。
 今日はパステルカラーのオフタートル、コクーンスカート、そして白いツイードジャケットを羽織ることですこし上品で大人っぽい雰囲気を出してみました。
 キョンくん、似合っていると言ってくれるかなぁ。
「おはよう、お待たせ」
 改札から涼宮さんが着ました。お似合いの服装で揃えてきています。
 集合時間時間20分ほど前にキョンくんが着ました。
「おはようございます」
「おそい」
「おはようございます、キョン君」
「・・・(こくり)」
 あと、来ていないのは古泉くんだけ。そういえば彼は涼宮さんと付き合ってからいつも遅刻しています。
「古泉は?」
「まだ来てないわ。全く副団長が最後とか情けないわ」
「みくる、上品な雰囲気がしてお似合いですよ。ああ、涼宮も似合っているんじゃないか。長門はいつもの制服か」
 さらっと、キョンくんが褒めてくれた。
 
 古泉くんが来て5人揃ったあと、いつもの喫茶店で班分けを行った。
 古泉くんと涼宮さん、のこり3人の組み合わせ。
 いつものことだけど、キョンくんが嬉しそうに古泉くんに伝票を渡しています。

 午前中は長門さんの希望で図書館で時間を潰しました。

 古泉くんおすすめのレストランで昼食を取って、午後の組み合わせはくじの結果男性・女性と別れることになりました。
「さあ、がんばって探すわよ。集合は16時、駅前ね!」
 そう宣言する涼宮さんはどう見ても空元気にしか見えない。やっぱり午前中になにがあったのだろう。

 普段なら涼宮さんが先導し、あたしと長門さんが付いていくという構図なのだけど今日は違った。
「話がある」
 長門さんはそう言うとすたすた歩いていき、あたし達はそれに付いて行く。
 到着した先は見たこともない喫茶店で、長門さんが立ち止まらずに入ったのでそのままあたし達も入る。
 そして、進められるままBOX席で長門さんの向かいに二人で座る。

「こんにちは。ご注文はあとでお伺いします」「おひさしぶり♪」
 二人のウエイトレスが挨拶に来ました。一人は喜緑さん、もう一人は誰と思ってたら
「なんで朝倉涼子、あんたがここにいるの?」
「長門さんから呼ばれたからよ。詳しくは彼女が説明するわ」
 あ、この人が朝倉さんか。冬のあの時間でキョンくんを刺した女性・・・・・・思い出してすこし気分が滅入ります。

「ところで、このメニュー表。値段書いていないけどどうなっているの?」
「気にしないでいい」
「そう、じゃあこれとこれとこれを。みくるちゃんはどうする?」
 二人とも、さっき昼を食べたばかりなのにいろいろ注文しているけどよく食べられるなぁ。

 一段落ついたところで長門さんは涼宮さんを見つめ口を開きました。
「まずこれは前提となる話。あなたのこと」
 涼宮さんは軽くうなずき、長門さんは話を始めました。その内容は涼宮さんにとって禁則事項でした。

「要するに。有希は宇宙人、みくるちゃんは未来人、古泉くんは超能力者。そしてあたしには特殊な力がある」
「そして今まで何度不思議な出来事が身近で発生していて、みんなはそれを秘密裏に解決していた。そういうことね」
「そう」
「『情報操作』ということをやって事実を生み出したりすることも可能ってわけか。朝倉さんがここにいるのはそういうことなのね」
「そう」
 涼宮さんはかるく溜息を付いた後
「わかったわ。なんとなくだけど思い当たる節もあるし」
 あれ?キョンくんが話した時は全く相手にされなかったと聞いてたのに、なんで長門さんだとあっさり信じちゃうのだろう。
 不思議そうにしていたあたしに、涼宮さんは
「時と場合と話す人によるわ。今回は前提の話なんだから信じないと話が続かないでしょ」
 ちょうどそのタイミングで注文していた品が届き、一時休憩になりました。
 
「有希、つづけてちょうだい」
「過去の出来事には、彼からあなたに伝えるべきこともあるのでわたしからすべては話せない」
 そういえば、長門さんは4年前の七夕の話などキョンくんが関係する一部の出来事は意図的に話さなかった。
「それならキョンを締め上げてすべて吐かせることにするわ」
 そういう涼宮さんの顔は、もうさっきまでの憂鬱さなどはなくなり普段のように輝いている。
 彼女にとっては不思議なことはそれだけ魅力的なことなんだろう。
「あなたの行動は意識的・無意識的に関わらずなんらかの意味を持つ。SOS団結成に当たって彼は特殊な属性を持っているわけではなかった」
「そこでわたし達は、彼があなたにとっての『鍵』と考えた」

 それぞれの見解。能力を解析する過程で鍵の存在が必要不可欠なものであるという結論に達した。
 情報統合思念体は鍵の単独での能力を解析のための観察、涼宮ハルヒの影響を懸念。未来人は鍵は能力者を生み出す要因になりうると仮定。機関は鍵による涼宮ハルヒの制御の可否。
 しかし現状、二人は密接な関係にあり鍵単独での能力解析が厳しい状況。そのため、あなたを監視していた三者は計画を講じた。
 そして時期を見計らってそれを今回実行した。
「計画名は『スペアーキー』。鍵の能力を調査するもの」
 現実世界での計画は不可能であると判断したため、まず時間平面を切り取った。
 次に情報操作で観察の環境を整えることにした。時間の経過ごとに色々な出来事を発生させ、必要な情報をつど集めることにした。

「・・・・・・」「続けて」
 朝比奈みくるは、すでに状況について行けないのか沈黙したままであり、涼宮ハルヒは口先を尖らせる表情で不愉快・面白くないという意思表示をしている。
 彼が他人と交際をした場合には、涼宮ハルヒは不安定な精神状態になり彼女に干渉しやすくなる可能性が高い。
 話術の訓練を受けている古泉一樹にとっては、涼宮ハルヒを言葉巧みに言いくるめることは難しくない。
 そしてあなたたちの願望を取り入れた。古泉一樹は涼宮ハルヒへ、朝比奈みくるは彼へ恋心をもっていた。涼宮ハルヒは安易な企みがもたらした結果を悲観した、その結末を知りたがっていた。中心人物になる彼の周りの存在はそれぞれの願望を持っていた。
 そしてそれらを利用して彼女の能力を情報統合思念体の補助を受けて掠め取り、新しい時間平面を作成。情報を複写。
 だからあなたたちは、この世界に対してなんら違和感を感じていなかったはず。ある意味で理想の世界なのだから。
 そののち機関は涼宮ハルヒの能力発現を観察。未来人は朝比奈みくるを観察。情報統合思念体は鍵本人を観察することでそれぞれの目的を達することになる。

 一口、飲み物に手をつける。二人はわたしに問いかけてくる。
「つまり、あたしの過去は操作されていた。あたしの体験したことのほとんどは事実としてはなかったということ?」
「あたしもですかぁ・・・・・・」
 わたしは順番に答えることにした。
「涼宮ハルヒについてはその通り。あなたの記憶の一部は作られたもの。彼もあなたにそのことを告げたはず」
「あなたの記憶の大半は捏造されたもの、操られていたという表現が適切」
 予想どおり、涼宮ハルヒは驚愕の表情をしている。
「朝比奈みくるについては、わたしは誘導は行ったが操作は行っていない。あなたの組織は情報操作による恋愛関係を望まなかった」「今回、あなたへの不要な干渉は彼の気分を害するため。言うなら、この世界はあなたと彼の理想がほぼ叶うところ」
 こちらは、自分の感情をどう表現するべきかわからないようだ。
 
 計画はそれぞれの組織が情報を手に入れることで一応の成果を収めて終了する。残った切り取られたこの時間平面には多くの不要な干渉をしたため元の時間軸に戻すと異常をきたす恐れがあると判断。明日の夜に廃棄される。
「ええっ、それってみんななくなるってこと?」
「そう」
「そう、ってなんでそんなに有希は落ち着いていられるの。世界が終わるってことでしょ」
 以前古泉一樹が彼に使っていた例えをわたしも使ってみる。この世界はRPGゲームにおけるセーブデータのようなものだから、計画が終わってもメインのデータは残る。心配要らないと。
 涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、両者とも分ったけど納得できないという表情をしている。しかしこれは現実だから変えることはできない。
 いや、現実を変える手段はある。わたしが事実を告げるよう指示されたのはそのためだと思われる。
 
 

 あたしには理解できない、もしくはしたくない話が続いたあと。長門さんはひとつの封筒を差し出してきた。
「これ」
 中を開けると、それはおよそひと月ぶりの未来からの指令だった。
 
 それは時間移動の指示。
 最後に最優先コード。
 
 つまり、拒否権はない。
 
「なにこれ。ちょっと見せて」
 涼宮さんがあたしの手にあった紙を奪い取って読んでいる。

 喫茶店を出るころにはただ沈黙のみ。不安が心を占めている。あたしはただキョンくんに逢いたかった。
 


 こいつが食事中にアイコンタクトを送っていたのに気が付いてはいた。だから今回の組み合わせは長門の操作の結果であることは分っている。
 みくると二人きりにしろと贅沢いう気はないが、こんな時に俺に何の用事だ。
「午前中、涼宮さんよりお付き合いをやめたいとの申し出がありました。僕も関心が薄れてきているのを感じていましたので・・・・・・」
 目的もなく街中をぶらぶら歩きながら、古泉は世間話でもするかのようにそう切り出してきたのだが。お前は俺に同情でもしてほしいのか。
 ふと古泉の顔を見ると、俺の考えを読まれたのか
「まさか、そういう意図はありません。僕があなたと話す機会を作った理由はあなたに伝えないといけないことがあるからです」
 そういうと少しこっちに寄ってきた。寄るな、気持ち悪い。
「今頃長門さんも涼宮さんと朝比奈さんに同じことを話しています」
 ろくでもないことなんだろう、どうせ。長門と古泉、宇宙人と超能力者が絡んでいることだ。
 昔の俺なら面倒ごとは関わりあいたくないと逃げるべきだっただろうが、今はそうもいかない。俺は既に関わっていることなのだろうから。
「落ち着いて話す内容だったら、どこかで座って話さないか。ただし、お前のおごりでだ」
 古泉はうなずくとスッと手を上げ車を止める。予想はしていたがいつもの機関専用黒塗りタクシーだ。
「飲み物は車内に完備していますのでご安心を。軽い軽食が必要でしたら準備させます」

・・・・・・・・・・・・。
 
「と、これが今回の出来事の要約になります」
 俺を調べることが目的、そんなくだらないことでわざわざ世界を切り取って全員を不幸にさせたということか。
「でも、朝比奈さんとあなたには居心地のよい世界だったと思いませんか」
 古泉がどういう意図を持って発した言葉か判らない、だから俺は返事しないことにした。
 俺は他人を不幸にしてまで自分が幸せになりたいと思えるほど自己中心的考えを持てないから。


 集合時間までまだ時間があり、途中軽食の差し入れを食べたりしてドライブを楽しむ。
「ところで、僕の仮説を聞いていただけますか。いえ、きっとあなたの疑問の解消の手助けになると思いますよ」
 俺が許可しないでもお前は勝手に話すじゃないか。毒を食らわば皿までか、付き合ってやろう。
「未来が複数あるとすれば、それぞれの未来はお互い分岐して並行世界になっていると考えられます」
「朝比奈さんと違った解釈をした未来人、まさしく彼は朝比奈さんから見れば異世界人といえるでしょう」
 頭のなかに、藤原と名乗った黒古泉ともいえる雰囲気を持った未来人の姿を思い出す。
「情報統合思念体はこの宇宙を統括する存在、天蓋領域はその天頂に位置する相容れない存在だと長門さんはあの時説明されました」「自身と同格の存在、それもまた異世界の存在でありお互い不干渉だったのでしょう」
 そういえば九曜は時間の流れが遅いとか、この世界のルールと違った基準を持っていた。
「だとすれば、あの時佐々木さんたちはそれぞれ本来異世界の涼宮さんや僕達の立場にあるべき存在じゃなかったのでしょうか」
「待て待て、佐々木は確かに俺の中学時代の同級生だ。いくらなんでも話が飛びすぎていないか」
 古泉の言うことは本人は正しいことを言っているつもりだろうが、突拍子な結論が多すぎる。
 
 
「あなたの存在ですが」
 少し間を置いて、言葉に力を込めて古泉は語り続けた。あいつなりにハルヒのそばにいて感じたこと。そして長門や上役との打ち合わせのなかでさりげなく引き出してきた情報。それらから導かれた古泉が考える俺の価値。
 
 言い切ってやろう。俺はそんなたいそうな存在ではない、ただの平凡などこにでもいる高校生に過ぎない。機関は俺を調べてお前は証明書を発行してくれるとまで言っていたではないか。

 しかし、古泉は真剣なまなざしで俺を見ていた。そこには笑みなんてものはない。
「どうして僕じゃなくてあなたなんだ」と言わんばかりのまっすぐな嫉みだけ。

 まったく、笑えない。俺はこんな状況なんて全く望んでいないのだ。

  


 集合時間を少し過ぎているけど、あたし達女性三人は待ち合わせ場所で待っていた。
 普段なら時間前でもまだこないとすこしご機嫌斜めな涼宮さんは今もただ黙っていた。あたしもそうで、長門さんは言うまでもなかった。
 向こうから古泉くんとキョンくんが来た。二人とも軽く手を振って遅れを涼宮さんに詫びている、そんな普段と変わらない様子にあたしはなぜかほっとした。
 解散のあと。涼宮さんは
「二人に明日話しがあるわ。10時にここで待ち合わせ」
と、長門さんと古泉くんに一方的に用件を告げ駅改札口にさっさと歩いていった。
 その二人は、挨拶のあと家路にそのままついた。
 
「自転車取って来ます。今日はすこし時間を潰しませんか」
 いつもなら、そのまま家まで二人乗りで走っていくところだけど、今日はキョンくんの提案で二人歩いて公園に向かっている。
 キョンくんは古泉くんからあたしと同じことを聞いていたみたいであたしにゆっくり自分の心情を交えながら話してくれる。
 長門さんの話を理解しきれなかったあたしには、まるで妹に勉強を教えてあげるお兄ちゃんのように見える。
 
 公園のベンチで二人座って、話を続ける。一通り話し終わってまったりとしていた時、キョンくんが話しを切り出してきた。
「明日は遊園地に行きましょう。付き合い始めてからまだ行ったことなかったし古泉からこんなものを取り上げてますから」
 そういって、彼は手に持った2枚のチケットをひらひらと振っている。
「俺には悩んでも、事態を変える力なんてありません。でも俺はみくるが落ち込んでいるのを慰める力はあると思いたい、あなたにはずっと笑っていて欲しいのですよ。どうでしょうか、世界の最後の日にデートというのも悪くはないと思っていますけど」
 そういって、キョンくんはあたしに優しく微笑んでくれる。
 あたしはキョンくんのちからになりたいって思っているのに、いつも助けてもらってばかりだなぁ。あたしもキョンくんの力になりたい。だから、涙を拭いて彼にやさしく口づけした。
 
 いつもの指定席。彼の背中はとても暖かかった。覚めない夢の中にずっと居たかった。

 


 遊園地で遊んだ後、普段なら行きそうもないようなレストランで二人食事をした。
 やはり、似合わないことはするものではない。お互いカチコチで俺は何を食べていたのか覚えてもいない。
 そして今はいつもの公園をのんびり歩いている。
 
 もはや俺らの指定席になっているベンチについた。みくるは俺の右側に腰掛け、お互いに手を握り・・・・・・。
 
「この世界では禁則が緩やかになっていると長門さんから聞きました。だから、今まで話したくても話せなかったことを聞いてもらえませんか」
 
 みくるは空をそっと見上げて話し始めた。
 
 
 あたしはある学者夫婦の一人娘として生まれたと聞いています。でも物心付いた頃には施設にいました。
 未来では生まれた時に遺伝子を調べて、特殊な能力者であった場合には政府の管理下におかれます。
 時間平面を移動するには自分のいる座標を把握する能力が必要なの。
 時空機完成後は、移動中にそのまま戻って来れなくなる。そういう事故が多かったそうです。

 研修生になって、あたしは当時発見された時空断層を調査するチームの一人に選ばれました。
 そしてその調査途中でその2年後の北高に入学して、翌年に入学してくるであろう涼宮さんの観察するよう命令されました。

 1年間はこの時空になれるための訓練期間、いろいろ大変で鶴屋さんと知り合えていなかったら挫けていたかもしれなかったです。
 そして翌年。放課後の教室でいきなり観察対象である涼宮さんに捕まって・・・・・・そのあとはキョンくんも知っているとおりです。
 これまでいろいろなことがあって、凄く充実した時間を過ごせました。
 付き合い始めてからのあなたの一挙一動に喜んだり不安になったりと、恋愛をすることもできました。
 
 
 でもね。あたしはこの時空平面を調整するためにここにいる。それが終わったら自分の世界に戻らないといけないの。
 ここで恋をしても必ず別れるのが規定事項、だからそれは無理なこと。まして、キョンくんを好きになったらだめだったの。
 あなたは涼宮さんに選ばれた人、この時空平面上でとても重要な人。
 
 でも、知っていてもあたしは。ドジなあたしを助けてくれるあなたを好きになってしまった。
 キョンくんが涼宮さんのことを好きなのはなんとなくわかっていた。ほかのみんなも、当事者以外はわかっていたわ。
 だからあたしの気持ちは心の奥底にずっと秘めておくつもりだった。
 
 でもあの時、あの場面であたしが告白すればあなたは必ずあたしを選んでくれる。
 涼宮ハルヒじゃなくて朝比奈みくるを選んでくれる、そんな誘惑に負けて禁則を破ってしまった。
 
 こんな不安定な世界ができてしまって、みんなが不幸になってしまったのは全部あたしのせい。ごめんなさい・・・・・・。
 
 
 
 話しを聞き終え、俺はどう感想を言うべきだったのだろうか。
 隣で涙ぐんでいるみくるをじっと見ていて見ていて、さっきまで聞こえていた夜の街の喧騒すら聞こえなくなっていた。
「俺は・・・・・・」
「ねぇ、キョンくん」
 やっと何か言おうと決心した俺の言葉にかぶせるように
「あたしはこの世界のお姫様。この世界はあたしの夢、現実では叶えることができない願い事を叶えるために見ている夢」
「だから、起こしてもらってもいいかな」
 出会ったときから、彼女の声に俺は魅了されていた。それは美しき魔女が使う呪文、天使のささやき、妖精の歌声、ほか思いつく限りの美辞麗句をもってしても表現できないもの。逆らえるはずがない。
 
 
  ねむりひめはおうじさまのくちづけでめをさまします
  おひめさまがめざめておうじはよろこび
  おひめさまとこれからもいっしょに
  いられると・・・・
  おひめさまはおうじさまにいいました
  わたしのことわすれないでね
  おうじさまはおひめさまのまほうでねむりにおちてしまいました
  おひめさまはなきながらおうじさまにそっとくちづけをして
  おうじさまのもとからきえてしまいました。
 
 
「いつもたのしかった。今もあなたのことが好き。だから、さようなら」
 耳元で甘いささやきが聞こえて俺はそのまま眠りに落ちた。

 俺は結局何も言わせてもらえなかった。みくるは・・・・・・彼女は問題を全部自分で抱え込んで自己完結してしまった。
 
 


 それからどれだけ時間が経ったのだろうか。
「はぁ・・・・・いつまで寝てるつもりかしら。たたき起こしたほうが良いかなぁ」

 聞き覚えのある声で目を覚ますと、見覚えのある顔が俺を覗き込んでいた。
「なんで涼宮が。というか、ん?膝枕?」
「えっとさ。『涼宮』と呼ばれるのはどうも違和感あるから『ハルヒ』でいいわ」
「で、なんで膝枕をしているんだ?」
「いや、その、えっと・・・・・・」
 俺が頭を上げようとするのをそっと手で制して、ハルヒは話を続ける。
「みくるちゃんから聞いていると思うけど、さっきまで有希と古泉くんから話を聞いていたわ」
 そこでいったん話を区切って、頭を軽くこづいてきた。
「でも、それ以上はあんたに聞けって言われたから来たのよ。説明しなさい」
「聞きたいのは宇宙人、未来人、超能力者のことか?」
「それもあるけどこれまでにあんたがなにをしてきたのかもね。あんたはいろいろ不思議な体験してきたそうじゃない」
 そう言って俺の顔をつっつくこのお嬢様は目をきらきらと輝かせていた。
 俺の話を待つその様子は御伽噺をせがむ子供のようで、頭を抑えて『やれやれ』と呟くしかなかった。
 
 
 ハルヒは俺の話が終わるまで一言も口を挟まず、終了を告げたあとに感想を述べた。
「へぇ。そんなことがあったんだ。じゃあ、あんたがあの時出会ったジョン・スミスだったの」
 そういうことになるな。
「多くの不思議なことを団長に隠して自分達だけで楽しむなんて規律違反よ。団長として悲しいわ」
「俺は一度はお前に真実を話したぜ。でもお前は信じなかっただろ」
「それはそうだけどさ。やっぱり隠し事をされていたというのは悲しいかな」
 口ではそう言っていたが、ハルヒはあまり悲しそうには見えなかった。すでに説明を聞いていたために自身の気持ちの整理が付いていたんだろう。
 ただ、口を開くたびに俺の顔をつつくのは遠慮して欲しいとだけ思ったのだが。
 その後は何を話していたか今はほとんど覚えていない。あいつの独白を聞いていたような気がする。
 
 そして、公園の時計が23時を過ぎた頃。世界の終わりの一時間前と言ったほうがよかったか。
「そうそう、あたしが望めばなんでも叶うらしいからあんたの願いを言ってみなさい。いつも雑用とか押し付けているから、たまには団長として労ってあげるわ」
 ハルヒはそれまで話していた内容を打ち切り、そう宣言した。
 
 すこしだけ考える。いや、願いはすでに決まっていた。
 俺の願い・・・・・・今は・・・・・・みくるに会いたい。会ってはっきり自分の思いを言葉にして伝えたい。
 やっと、わかったんだ。みくるがなぜ俺に直接別れをいえなかったのか。
 
 言葉を使わないでも、伝わるものはある。
「キョンくんが涼宮さんのことを好きなのはなんとなくわかっていた。ほかのみんなも、当事者以外はわかっていたわ」
 今までの俺のハルヒへの態度にあって、みくるへのそれにはなかったもの。
 俺はみくるが何をしても怒ることはなかった。喧嘩なんてしたことなかった。
 意見をぶつけ合うことをしたことがなかった。
  結果「ちゃんとあたしを見てくれているのかなぁ」とみくるを不安にさせ続けていたんだ。
 誤解されたままで終わるのはごめんだ。
 
「ハルヒ。俺、もう一度会いたい。謝らないといけないんだ」

 ハルヒの予想していた答えだったのだろう。あいつは少し苦笑いして
「そう。わかった。目をとじて体を楽にしなさい」
と告げた。

 体がふっと軽くなった。平衡感覚がなくなっている。そんななかハルヒの声が聞こえてきた。
「みくるちゃんを泣かせたままじゃ許さないんだからね」
 意識が遠くなり眠りにつくかのように楽になっていく。
 薄れ行く意識の中でハルヒの涙を見たような気がした。

 

 


「終わりましたね」
「・・・・・・」
 涼宮さんの帰ったあと、僕と長門さんはそのまま部屋でぼっとしている。
 
 神様は孤独である。
 だから、信者の信仰心を欲してその篤さに対して奇跡を行う。
 
 ただぼーとしている。携帯がなったので取る。
「古泉、今どこにいるの」
 酔っ払いの声、後ろで大騒ぎしているのがわかる。
「長門さんのマンションです」
「了解!新川を迎えにやるから二人とも降りてきなさい」
「わかりました」

「長門さん、機関主催の宴会ですが一緒にどうですか」
「・・・・・・」
 彼女は黙ったまま支度を始める。
 

 

その4につづく

 


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